JAPAN MICS SUMMIT2015 に参加して

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発展途上にあるMICSの研究会、第二回の学術集会がこの7月4日に東京で開催されたため、参加いたしました。

この前身の会のから毎回盛況で、近いうちに学会に昇格する見込みです。私は大学病院を離れているにもかかわらず世話人にも加えていただき何か貢献したいと考えて行ってまいりました。

今回は榊原記念病院の高梨IMG_1629秀一郎先生が会長をされ、なかなか面白いプログラムでした。

参加者もざっと見て400数十名で、若い先生が多数おられ、関心の高さを実感できました。

 

まずはじめにビデオライブとして4つの発表がなされました。

 

田端実先生が右開胸MICS-TAPASD閉鎖について概説されました。ASD(心房中隔欠損症)やTAP(三尖弁輪形成術)は心臓手術の中では入門編といいますか、比較的簡単な操作になるのですが、それは正中の大きな切開での話で、MICSでは術野の広さや角度が限定されるため注意が必要です。ASDの閉じ方も通常とは少々異なる工夫がなされ、若い先生方には参考になったのではと思います。大動脈遮断せずに心室細動でやったらというご意見もあり、一理ありお気持ちはよくわかるのですが、やはり正中アプローチとは異なる手術であるという認識が必要と感じました。十分な勉強と準備ののちこの手術に取り組むことが安全上必要です。

 

ついで私、米田正始が右開胸MICS-MV Repair(僧帽弁形成術)とMazeの併用の手術をご紹介しました。MICSでメイズ手術をやっている施設はかなり少ないようですが弁膜症の治療のなかで心房細動の解決は重要です。これまでも日本胸部外科学会シンポジウムその他で発表して参りました。ふつうの正中アプローチとは違う注意点を含めて、そのノウハウをご紹介しました。私はお金がかかり効果に疑問のあるラジオ波焼灼・RFアブレーションよりも安価で確実な冷凍凝固を長年提唱して参りましたが、MICSでは冷凍凝固はさらに役立つことをお示ししました。

 

というのは冷凍凝固ではプローブつまり器械の先端が凍って心房壁にくっつくため安定度が良く、狭い視野での取り回しが楽で確実なのです。従来の正中切開アプローチの成績に遜色ないことをお示ししました。

ただし現在この冷凍凝固の器械が国内では入手できず、早く解決して欲しいという状況も再確認されました。

いろんなご質問やご意見をいただき、内容のあるディスカッションとなったこと、皆様に感謝申し上げます。

 

ついで岡本一真先生が慶応大学の長年の経験にもとづいて右小開胸僧帽弁置換術のお話をされました。弁形成と比べて地味な印象の弁置換術ですが、状況によっては、たとえば弁形成が極めて複雑で時間がかかり、かつ患者さんが長時間の手術に耐える体力が乏しいときなどには絶大な威力を発揮します。いざというときの切り札とも言えるでしょう。実際慶応大学でのMICSの死亡例の大半が僧帽弁置換術であったことをそれを物語っています。これは弁形成を頑張ったが結局仕上がらず、それから弁置換へと進んだために患者さんの体力が消耗したためと拝察いたします。つまり一歩早く方針を切り替えれば弁置換は悪くないわけです。こうしたことを皆で確認しました。

 

最後に坂口太一先生が左開胸MICS-CABGにおける視野展開の工夫についてお話されました。近年注目を集めるこの領域ですが、まだ課題がいくつもあります。それらへの対策を整理して解説されました。たとえばどの肋間を開けるのが良いか、上行大動脈に中枢吻合をつけるときに安全に部分クランプを使う工夫、狭い視野の中でオフポンプの条件で吻合部をうまく出すテクニック、左側から右ITAを採取する工夫など、盛りだくさんでした。1-2年あまり前までは、傷跡の小さいMICSのために、内容的には一昔前のバイパス手術に逆戻りするような感がありましたが、かなり解決されており、これからこの領域は大きく発展するでしょう。

 

ビデオライブのつぎには合併症とくに再膨張性肺水腫(略してRPE)のセッションがありました。

 

まず外科の立場から岡本先生が長い間の経験をもとに、実例をもとに解説をされました。体外循環が長時間になってしまったケースで起こりがちで、原因として長時間の体外循環と肺の機会的損傷を挙げられました。文献では多量のステロイドが有効とか、FFP新鮮凍結血漿の使用が関連しているとか、術前からのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や右心不全あるいは右室圧が40mmHgを超える肺高血圧の存在もリスクファクターと報告されています。その他に心不全状態から十分な時間をおかずに短期間に手術せざるを得なかったケース、メイズ手術が必要で時間がかかったケース、分離換気を徹底しすぎたケース、なども検討されました。

 

予防策としてクランプ解除前によく肺を膨らます、クランプ中にもこまめに両肺換気を行う、ステロイドを使用する、などが提案され、いったん起これば重症ではVV ECMOつまり脱血も送血も静脈をもちいる方法を考慮することなどが論じられました。

 

私たちもこの問題に取り組み、予防策やいったん起こった時の対応策などを磨いて参りましたが、参考になりました。これから実験研究なども併用してより科学的な解明と対策の確立へ持っていければと思いました。

 

ついで清水淳先生が心臓麻酔の立場から考察を加えられました。この病態はやはりARDSであり、1994年のAECCの記事にも矛盾しないとのことでした。数時間の肺虚血でもサイトカインは増加しますし、ましてそこへ2度目の体外循環使用などが加わる難手術例では起こる条件がそろっているというわけです。再膨張性肺水腫の治療にはまず疑うこと!、疑えばX線写真を撮り、RPEがあるなら分離換気で治療することを提唱されました。まったく同感でした。

 

治療はARDSとしてのそれが必要で、肺血管外水分量の計測が役立つ、そして患側肺にPEEPつまり陽圧をかけることが有用とのことでした。ステロイドや適宜エラスポールなども使って良い印象とのご意見でした。

 

麻酔科からの貴重なお話に続いて呼吸器内科から緒方嘉隆先生が解説を加えられました。

 

RPEは呼吸器内科領域ではよくある病態で、気胸とくに大きなもののあとには16%とも言われる頻度で起こること、胸水があるときや気道内圧が高いときや糖尿病患者もリスクが高いこと、おそらく肺毛細血管の透過性が上がっていることなどを示されました。心拍出量が多いときに起こりやすいというご意見は興味深いと感じました。

 

血管内容量の移動があるため、PEEPは有用で、利尿剤の使用には血管内容量不足に注意が必要とのことでした。

 

体外循環の使用の有無という背景の違いはあっても、平素多数の再膨張性肺水腫の治療をこなしておられる同先生のお話は大変参考になりました。

 

 

ひきつづいて完全内視鏡セッションがありました。

 

宮地鑑先生はこどものPDAを手術支援ロボットAESOP3000を使用して内視鏡下にクリップにて長年にわたり治療して来られました。その成果を発表されました。

 

乳幼児の手術でもさまざまな注意が必要であることは理解できましたが、新生児、未熟児の手術は高度なものと感心いたしました。こうしたご経験、ノウハウを成人の手術にも活かせればと思いながら拝聴しました。

かつてAESOPが注目を集めたころ、今から10年以上昔ですが、当時アメリカまで行ってこの器械を使って内胸動脈を採取する研修を受けたころを懐かしく思いだしました。

 

伊藤敏明先生は内視鏡による右腋窩切開AVR大動脈弁置換術を供覧されました。名古屋で一緒に勉強して来た先生ですので、実感をもって拝聴しました。私も同様のMICSでのAVR手術を行っているため大いに参考になりました。

 

MICS手術にもいろいろありますが、この手術を行う施設は少なく、今後さらに完成度を上げてより有用なものにしていきたく思いました。お昼のセッションに出てくるSutuless Valveつまり無縫合弁が日本に入ってくれば、この手術はより有効でより安全なものになるでしょう。今後の展開が楽しみになりました。

 

このセッションのトリは大塚俊哉先生で、これまで取り組んでこられた非弁膜症性心房細動に対する完全内視鏡手術を供覧されました。

 

患者さんの病気や状態に合わせて、左心耳を切除するだけにとどめるか、左心耳切除+メイズ手術を行うかを選択して来られました。一過性の心房細動AFや短期持続性のAFには極めて有効という結果でした。

 

今後展開が期待できる治療法だけに早く保険適応になることを祈りながら拝聴しました。

 

 

ここで海外招請講演があり、イタリアはボローニア大学のMarco Di Eusanio先生が、上記のSuturelss Valveについて講演されました。

 

MICSの大動脈弁置換術AVRは現在すでに成果を上げていますが、これをこの弁を用いることでより短時間により安全に手術できることが示されつつあります。

 

現在ハイリスク患者さんを中心にカテーテルで入れるTAVIが話題になっていますが、より確実に、より脳梗塞を避けやすいこの弁は外科の新たな魅力になるかも知れないと思いました。ということを先日の関西胸部外科学会のシンポジウムでもお話しましたが、その期待をさらに膨らませてくれるご講演でした。

 

せっかくの海外招請講演ですので私も一つご質問しました。TAVIで入れる生体弁の耐久性が現在議論になり始めていますが、このSutuless Valveではどうですかと。Eusanio先生のここまでの7-8年のデータでは良い印象で、ブラインドで入れるTAVIよりも良い可能性があるとのことで意を強くしました。

 

そこでお昼休みとなり、私は世話人会に少し顔を出してから大阪の別研究会の講演会場へと急ぎました。

 

MICS SUMMITとしては午後は弁のQuality評価、チューリッヒ大学のFrancesco Maisano先生の僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療への外科医の役割というご講演、コメディカルセッション、最後にイブニングセミナーとしておじさんが始めるMICSセッションと盛りだくさんでした。

 

残念ながら私はこれら午後のセッションには参加できませんでした。

しかし内容ある素晴らしい会であったことは間違いなく、会長の高梨秀一郎先生、代表の澤芳樹先生はじめ関係の先生方に厚く御礼申し上げます。

 

平成27年7月5日

 

米田正始

 

 

 

 

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