事例 3 セーブ手術

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患者さんは12歳女子、5年前の僧帽弁手術の際に発症した虚血性心筋症が悪化し心停止を来たし心肺蘇生ののち緊急手術となりました。虚血以外の理由で悪くなった可能性がある部位(拡張型心筋症の疑い)もあり慎重に対処しました。

311.薄くなった左室前壁(矢印)を切開して左室内に入ります。心臓は動かしたままで手術を進めています。

術前に心臓が一度停止していた重症例では、

術中に一度心臓を止めると動きが再開しない心配があったためです。

またこうすることで、左室の悪い部分と良い部分がより明瞭にわかるためもあります。

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322.セーブ手術のパッチの糸をかけているところです。

ドール手術ではこれだけ心室中隔の基部までやられているケースでは左室が術後、丸くなり心機能がより低下する心配があります。

そこで形を歪めないセーブ手術を施行しました。

最近はこうしたケースでも安心して使えるドール手術を開発し、

術後の左室の形の良さと左室機能の改善を確認できています。

333.昔のオペで取り付けられた弁が血栓弁になっていたため、これを再弁置換中(矢印)です。

通常は左心房から行う操作ですが、

この場合は時間の節約(つまり患者さんの体力の保護)のため左室経由で行いました。

通常と逆の位置から人工弁を入れるため、その向きに注意して入れます。

当然とはいえ、重要なチェックポイントです。

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344.セーブ手術のパッチが左室内に入ったところです。

左室はうんと小さくなりました。

新しい左室はパッチ(矢印)の奥にあり、

パッチの手前のスペース分だけ左室が小さくなりました。

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35_25.左室を閉鎖しつつあるところです。

長い心不全と入院生活のため回復には時間がかかりましたが、着実に回復し、学校生活にもどりました。

その後も順調に回復し、普通の生活を取り戻しておられます。

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361_26.セーブ手術前後の左室短軸エコーを示します。大きさが比較できるようスケールを合わせました。矢印が5cmです。

術後どれほど心臓が小さく、また動きが改善したかが見て戴ければ幸いです。

重い心不全でもあきらめてはいけないことを教えてくれたケースです。

手術から7年以上たちました。現在も元気に、かつ前向きに暮らしておられます。

世の中の人たちの役に立ちたいと、勉強し、ボランティア活動などもやっておられる姿を見て、私は感動を禁じ得ませんでした。

この患者さんの治療成功は、左室形成術と小児科・内科・外科・麻酔科・ICU・病棟・関連チームの協力で行う集学的治療の威力を示すもので、京大小児科の馬場先生・土井先生らが海外のジャーナルで発表して下さいました(英語論文244番)。

 

手術前に手術の説明をしたときに、手術を受けますとみずから言ってくれた少女の勇気が今も忘れられません。

こうした心臓外科医あるいは臨床医として患者さんやチームから戴く感動は何物にも代えがたい大切なものです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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