事例: IHSS

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患者さんは71歳女性。特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症IHSS, 僧帽弁閉鎖不全症MR, 僧帽弁前尖収縮期前方移動SAM)のため手術を行いました。明らかな心不全症状がでて苦しくなっておられました。

IHSSの治療にはお薬で状態を安定させたり、カテーテルで心筋を焼いたりペースメーカーで左室内圧較差を減らすなどの方法がありますが、それらが十分な成果をださなかったため手術になりました。実際こうしたケースが多くあります。

またIHSSはもともとは先天性心疾患つまり生まれた時からの心臓病とされていますが、最近は成人になってから発生したと思われるケースがみられるようになりました。私の経験では大動脈弁狭窄症などに合併して発生したと考えられるケースが20例近くあります。

ともあれ手術でしっかり治すことになりました。

体外循環のもと、大動脈を遮断し(心臓を安全に止めて)上行大動脈を横切開しました。

Ihss大動脈弁直下の異常心筋の張り出しは顕著で、心停止の状態では左室内がほとんど見えないほどでした。異常心筋がもっとも張り出している部位では繊維性組織が増成していました。

心室中隔の異常心筋を刺激伝導系から十分離れたところで切除しました。最終的に2x4x1cm程度の心筋を切除できました。異常心筋切除のあとは、大動脈弁越しに両乳頭筋の先端から本体の一部までが見え、血液の通路として成り立つだけの空間が確認できました。

写真(上)では肝心の奥の方のピントと露出が合わず申し訳ないのですが、奥の方の白っぽいものが心室中隔上の繊維組織でその左側の欠損部が切除部の一部が見えているものです。写真(下)はその時点での切除心筋の一部です。

左心室の出口をせまくしていた異常心筋はきれいに取れました上行大動脈を閉じて、50分で大動脈遮断を解除しました。79分で体外循環を離脱しました。離脱は容易でした。

経食エコーにて、術前のSAMは消失し、MRも術前の高度からほぼゼロとなりました。

また異常心筋も切除した平面ではほぼ消失し、幅広い血液のルートができていました。左心室内の圧較差は術前約90mmHgでしたが、術後は測定不能なほど、とくに狭窄部が見られない状態になりました。

術後経過は順調で、手術当夜抜管し、2週間で元気に退院されました。

この手術はモロー手術と呼ばれ、メスとハサミで心臓の奥にある、見えにくい異常心筋を切除するため、経験を要する、直観に頼る手術という印象はあります。学会発表などでも十分に切除できずに病気を残しているケースを見ることがあります。

しかし、確実に異常心筋を切除できればほぼ100%の患者さんで左室内の圧較差を解消でき、僧帽弁には手をつけなくても僧帽弁も正常化します。それだけに症状がより改善できますので患者さんに喜ばれ、やりがいがあります。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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