事例:三度目の手術、僧帽弁置換術を乗り切り元気に

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若いころにリウマチ性弁膜症で僧帽弁などをやられた方は長期的なケアが大切となります。

リウマチで弁が強く壊れた場合はもちろん、軽く壊れた場合でもそのあと何十年の間に弁破壊が進行し、重症化することが多々あるからです。

患者さんは76歳男性で、35年前に関西の大きな病院でリウマチ性の僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁交連部切開術を受けられました。

その後年月を経て、僧帽弁がまだ悪くなり、心不全症状が出たため、12年前、上記と同じ総合病院で僧帽弁置換術を受けられました。このとき、金属製の機械弁を使用されています。

その後まずまずお元気にしておられましたが、3年ほど前から次第に息切れなどの心不全症状が再発しました。

2か月前、地元の病院で中等度の僧帽弁閉鎖不全症と、溶血つまり赤血球が壊れる病気を指摘されました。

右図はその僧帽弁閉鎖不全症を示します。

術前ドップラー実際、血液検査でLDH1800台は異常高値で強い溶血の所見で、総ビリルビン4.7とかなりの黄疸が出ていることと合致する所見でした。

しかもその溶血のために腎機能が低下しつつあり、クレアチニンCrは1.14と低下傾向がみられ、コリンエステラーゼ143、総コレステロール155と肝機能の低下も見られました。

僧帽弁閉鎖不全症つまり逆流はひどくはないものの、溶血が強く、このままでは輸血が延々とひつようとなり、次第に腎不全が合併して永くは生きられないという状態でした。しかも機械弁のためワーファリンが必要で、ご高齢で血管が弱いこともあって鼻血がよく出て、大変つらいということでした。

しかし地元の大病院でも3度目の手術で全身の状態が悪すぎるとして、再手術を拒否され、米田正始の外来へ来られました。

手術はややリスクが高いものの、このままでは死を待つだけという状態で、しかもこれまで同様の再手術の患者さんを多数お助けしてきた経験から、直ちに再手術を決定しました。

しかし全身の状態が悪く、このまま手術すると体力が持たず、そのためにいのちを落とす懸念があったため、まず入院していただき、1か月近い時間をかけてさまざまな治療で状態を改善し、そこで勝負をかける、つまり手術することにしました。

人工弁のすぐ上に見える黒いところに穴が開いており、そこから血液が漏れていました。昔の手術で弁を縫い付けたところが裂けたものと考えられます手術では以前の2回の手術のため癒着が高度で、これを丁寧にはがして行きました。

心臓の中に入ると、僧帽弁は人工弁の頭側が外れており、そこから血液が逆流し、またそのときに人工弁に擦れることで溶血しているという所見でした。人工弁の動きにも問題があり、パンヌスと呼ばれる自己組織が弁の動きを妨げている様子から、この人工弁(機械弁)を切除しました。パンヌスが弁の下に確認され、弁を切除して正解という所見でした。

上図は古い機械弁をほぼ外しつつあるところで、弁の上方の黒い穴のところが逆流口です。

生体弁MVR完了そして生体弁を植え込み、きちんと乗って、組織の裂け目もないことを確認しました。

右図は生体弁がきれいに入ったところを示します。

入念な止血ののち手術を終えました。

重症のわりには術後経過は良好で、術翌日には集中治療室を退室し、病棟にて運動を開始しました。

術後ドップラー遠方のためゆっくり回復に時間をかけて術後3週間で元気に退院されました。

左図は術後のエコー・ドップラーです。僧帽弁閉鎖不全症は消失しました。

あれから丸4年が経ちますがお元気にしておられます。あれほど悩んでおられた鼻血もなく、腎臓も回復し、普通の生活を楽しんでおられます。ご高齢の患者さんにとって生体弁がどれほどありがたいか良くわかる事例です。

勇気を出して決断し、手術を乗り切って下さったからこそ、以後の平和な生活があることをしみじみ感じます。また定期健診の外来でお会いしましょう。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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