⑥b 心房縮小メイズ手術―より確実に治すために 【2020年最新版】

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図 心房縮小メイズの方法最終変更日 2020年2月13日

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◾️心房縮小メイズ手術とは?

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大きくなった心房を小さくしてからメイズ手術を行う手術です。ふつうのメイズ手術では治せないような心房細動を治すために私が考案しました(英語論文 169番 2006年JTCVS をご参照ください)。

以下、もう少し詳しく解説します。

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難治性の心房細動を治すために開発した心房縮小メイズ手術(左図)によって治療成績の向上が見られます。

通常のメイズ手術やカテーテルアブレーションができないような重症例、たとえば巨大左房や心房細動が10年あるいは20年を超える患者さんでも大半のケースで不整脈を治すことができています。

心電図などこれまでの基準では適応外になるような重症例でも多くの場合除細動できることがわかりました。

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◾️心房縮小メイズの開発

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この方法の開発にあた 左房縮小のシェーマってはオーストラリアの Farnsworth先生の心房縮小法や日本の川副浩平先生の心房縫縮法をもとに改良を加え、アメリカのCox先生のメイズIII手術を左房縮小のコンセプトと合体させました。

不整脈外科先輩の小坂井先生、末田先生、新田先生らにもお世話になりました。

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右図は左房を小さくする方法を分かりやすく示したもので、ヨーロッパ心臓胸部外科学会でのスライドの邦訳です。

要するに左心房を折りたたむことで小さくし、そのおりたたみ線を冷凍凝固で処理して、悪い信号が通らないようにするのです。

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折りたたんだ左房壁には信号が通らず、この部位が悪いことをしなくなります。

折りたたむだけなので出血もありません。時間も節約でき、それだけ患者さんへの負担が軽くなります。

この方法を開発・発表してから15年が経ちますが、その間、細部の改良を重ねてきました。

今後の治療成績の向上が楽しみです。

参考:いい心臓・いい人生 【第九十七号】江東豊洲心臓血管外科カンファランス

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心房縮小メイズ 事例
巨大左房の心房細動にも効く、事例

僧帽弁の複雑形成術と心房縮小メイズ手術を施行した事例

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◾️心房縮小メイズが効果的なわけ

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fotosearch_ccp01019心房縮小メイズ手術はなぜこれほどよく効くのですかというご質問を戴くことがあります。理由はつぎのとおりと考えています。

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心房が大きいと心房細動になりやすく、治し難いことが患者さんのEBM (証拠に基づく医学) データから知られています。それは大きい心房では悪い電気信号がぐるぐると回るスペースができてしまうからで、小さくすれば回れなくなるため心房細動が消えやすくなるのです。

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この意味で心房を縮小して正常化させる私達の方法は自然の摂理に合っているとよく言われます。

左図の黄色いところは正常の心臓神経で、電気信号もこの神経に沿って整然と流れます。この整然とした流れを回復することが心房細動の治療となるのです。

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◾️より効果を上げるために

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さらに本家本元のCox先生のご指導とデータで肺静脈隔離のみならず僧帽弁峡部や右房峡部を含めた両心房フルメイズのコンセプトは確実に踏襲しています

(トップの図はアメリカ心臓病学会で発表した内容の和訳です)。

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心房細動が解決すると長期間の生存率や合併症が改善します。

Apf1107-s心房細動が治らないと、ワーファリンが切れないため、せっかくの弁形成手術生体弁のメリットが少なくなってしまいます。

心房細動はある種のがんと同じほど長期の死亡率を上げる、怖い病気です。

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私たちが最近はやりの肺静脈隔離術や通常のメイズ手術やカテーテルアブレーション治療では治らないタイプの心房細動を治すことにこだわる理由はここにあります。

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◾️心房縮小メイズ、もう一つの利点

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心房縮小メイズ手術の利点は心房細動を治すだけではないことが次第にわかって来ました。

巨大左房を正常サイズに戻すこと自体が重要なのです。これは巨大左房の患者さんの寿命が短いことや、心房縮小メイズ術後の患者さんが心不全になったり死亡されることが極めて少ないことから証明されつつあります。

医学常識では治せない心房細動が良く治ることがこの手術の利点なのですが、たとえ心房細動が治せなかった場合でも患者さんの予後改善に役立つことから、今後も積極的に使っていく予定です。

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欧米のメジャージャーナルにて合計 3回発表し、学会などでも紹介して以来、メイズ手術の先進国であるアメリカへ逆輸出するほどになりました。また近年はタイ、フィリピン、カンボジアなどのアジア諸国からも引き合いがあり、次第に標準手術への進化を見せつつあります。

世界中の心房細動の患者さんのお役に立てれば幸いです。

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◾️心房縮小メイズ、最近の進歩

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MICS3また僧帽弁輪周囲部の冷凍凝固に工夫を加え、冠静脈洞の表面にある薄い心房心筋をアブレーションするように適宜工夫し、除細動率をより高めるようにしています。

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さらに小切開手術(MICS)でも積極的にメイズ手術を行い、いくらMICSでも手術内容を妥協しないように努めています。

左図の左段が世間一般で広く行われている正中切開で、右段は私たちのポートアクセス法での皮膚切開です。

経験とノウハウの蓄積によって、ミックス手術でもいちばん患者さんへの負担が少ないポートアクセス法でもこの心房縮小メイズ手術が安全にできるようになりました。

カテーテルアブレーションで心房細動が治らずお困りのかたも、心房細動が治せる可能性が高いです。いちどご相談ください。

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また近年循環器関係医の間で話題の心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症の治療でもこの心房縮小メイズが注目されています。何しろ心房細動のため左房が拡張して起こる病気ですから、左房を小さくする意義は大きいのです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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