⑦大動脈炎症候群では?―土台が壊れないように注意が必要【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月23日

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◾️大動脈炎症候群(高安病)で大動脈弁閉鎖不全症等になっているときも手術できるのですか?

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十分できます。

ただし大動脈炎症候群の患者さんでは大動脈だけでなく、大動脈弁の弁輪(べんりん、もとの弁の付け根のところです)も炎症によって壊れる傾向が大動脈炎の手術では大動脈壁の組織が弱いため、補強しながら再建する必要がありますあります。

家に例えれば土台が壊れてしまったらその上の建物が何であっても全体が崩れてしまう、そういう状態です。

弁置換手術ひとつを例にとっても、通常どおりの形で人工弁を弁輪に縫いつけるだけでは、後日、手術で縫った場所がちぎれるなどの可能性があります。

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(参考ー文献46.米田正始、他。大動脈弁の再弁置換術と左冠状動脈入口部拡大術を要した大動脈炎の一例。日本胸部外科学会雑誌 1987;35:118-123)

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◾️大動脈炎、様々な対策

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そこでさまざまな補強法が内外で報告されてきました。

たとえば人工弁を縫い付けるときに、通常のように大動脈弁輪に糸をかけるのではなく、大動脈の外から内側へ糸をかけ、それだけ強度が保たれるようにするなどがあります。

私たちもこの問題に取り組み、こうしたケースでは人工弁を二重に縫いつけたり、人工弁と患者さんの弁輪の間に心膜フェルトを介在させています。

こうすることでたとえ大動脈炎症候群で弁輪が少々壊れても、心膜が全体の崩壊を防ぐようにしているのです。

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david-opまた炎症を起こしている大動脈をなるべく残さないように、ベンタール手術のような大動脈基部置換術や、場合によっては大動脈弁輪再建術なども加えます。

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大動脈炎症候群は大動脈やその枝の動脈を襲いますが、弁尖は襲わないというデータが多くあります。

そこで手術中に弁尖がきれいなケースでは、とくに弁形成が大きなメリットとなる状況のときには、自己弁温存式の大動脈基部置換術(デービッド手術)を考慮することもあります(事例:大動脈炎へのデービッド手術)。左図はデービッド手術の様子です。

デービッド手術では通常の弁置換やベントール手術よりも、広い面で人工血管と大動脈壁が圧着されるため、強度では有利と考えます。

また炎症がおこらない心膜な どを活用し、組織を補強することもあります。

(大動脈炎症候群 事例1)

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◾️冠動脈バイパスでも

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このことは大動脈炎症候群に冠動脈バイパス手術などを行うときも同様です。
つまり上行大動脈に直径1-2cmの穴を開けてそこへ自己心膜パッチを縫い付け、そこへバイパスグラフトを縫着するのです。

これによって大動脈炎はバイパスグラフトに悪い影響は与えなくなります。

末梢吻合つまり冠動脈との吻合は通常どおりで問題ありません。そこまで炎症が及んでいないからです。

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さらに頸動脈その他の血管の病変があるときには、その状態に応じて内科と相談して治療方針を立てるようにしています。

弁尖が二次的に壊れているときには大動脈基部置換手術つまりベントール手術を行います。

(事例:大動脈炎へのベントール手術)

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◾️大動脈炎症候群ではアフターケアも大切

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Bousai08こうした手術のくふうは大切ですが、同時に大動脈炎症候群つまり血管の炎症を長期間抑えることは極めて重要です。

火事になるまでにきちんと火を消すようなものです。

そうすることで、手術で縫った部位を守ることができ、大動脈の他部分を瘤化から守りやすくなります。

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なお術直前まで大動脈炎を抑えるためにステロイドを服用しておられる患者さんでは感染に弱く治りも遅いため、術後元気になるまでは一層の注意が必要です。

私たちはかかりつけ医の先生はじめ、内科、循環器内科、そして膠原病内科の先生方とも協力してこうした全身管理の一翼をになっています。

心臓や血管しか診ないというのでは患者さんはいくら手術がうまく行っても長期的には救われないからです。
 

大動脈炎があっても慎重にかつ全身的に治療計画を立てれば有効な手術は可能です。関連科の専門家の協力を得てバランスをとるようにします。

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◾️Q: 大動脈炎症候群の患者さんの大動脈は縫うことができるのですか?

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できます。

ただし縫った大動脈部分が通常より弱いことを 念頭においたアプローチが必要です。

補強をしたり通常より強度を高めた縫い方をします。

私たちは大動脈炎のときの大動脈には通常以上に強度を持たせるべく、テフロンフェルトを全周性にもちいて、2層の連続縫合を行い、必要に応じて外から補強を加えます。

さらに上述の工夫を加えて、少々のことでは縫合線が壊れないようにしています。

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◾️アフターケアは?

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とくにステ A315_049ロイドのお薬を、中でも一日10mgを超えるほど多量に服用中の患者さんの場合は、組織の治りがゆっくりですので、それに対応できる手術をする必要がありますし、できればステロイドの量をうまく減らしてから手術するなどの工夫も有用です。

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手術のあとも大動脈炎症候群そのものの進行を長期間抑えるよう、お薬でコントロールする必要があります。

プレドニンなどのステロイド剤では不十分なときには免疫抑制剤を使ってでも炎症を抑えます。もちろん落ち着き次第、これらのお薬は減量して行きます。

この点でも内科、循環器内科、膠原病内科の先生方とのチームプレーを大切にします。

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メモ: 大動脈炎は日本はじめアジアで多い病気です。

Ilm01_bb02033-s診断は大動脈造影で大動脈やその枝に拡張や狭窄があり、かつ炎症反応があればほぼ確定します。

また若い女性によく起こる傾向があり、治療に際してさまざまな注意が必要となります

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たとえば将来、妊娠出産できるような手術法を選ぶなどですね。

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炎症はCRPや白血球、血沈などを指標とし、ステロイドをもちいて抑えます。

それで不十分あるいはステロイドが使えないときにはサイクロスポリン、サイクロフォスファマイド、メソトレキセートなどの免疫抑制剤をもちいます。

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大動脈の枝が細くなっているときには抗血小板剤や血管拡張剤を使い、血流を改善します。

高血圧が合併するときには降圧剤を併用して血圧を正常化します。

弁膜症や心不全、高血圧やそこから合併する脳出血などを予防することが大切です。

(弁膜症の 大動脈弁のページ をご参照ください)

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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