3) 薬剤溶出性ステント(DES)は万能なのですか?―落とし穴も

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DES ◾️薬剤溶出性ステント(DES)とは

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薬剤溶出性ステント(DES)(写真左)とは、抗がん剤などをステント表面にコーティングし血管内皮細胞等が増えないようにしたステントです。それまでのPCIのステントと比べて再狭窄つまりせっかく広げた冠動脈がまた狭くなるという合併症をうんと減らした素晴らしいデバイスです。

当時はこれで冠動脈の治療は完成したという人も少なからずありました。

ましてPCIですから皮膚を切る必要もなく、患者さんにやさしいという特長はこれまでどおりですから大いに期待されました。

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◾️薬剤溶出性ステントの盲点

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A316_012ところがこの素晴らしい薬剤溶出ステント(DES)に意外な弱点があることがまもなくわかりました。

強い抗血小板薬を長期間飲む必要があり、飲まなければ突然死するケースが少なくないことが判明したのです。

患者さんも必ずしも元気にはなりきれない心配があります。

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実際、薬剤溶出性ステントで患者さんの生命予後が改善しないこともわかりました。

つまりせっかく治療を受けてもそれで長生きできるほどには効かないわけです。

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健康な胃です病気の胃です。薬剤溶出性ステントが入った患者さんでは内視鏡で組織を一部切りとるなどの操作が難しくなることがあります。欧米では薬剤溶出性ステントDESは従来のステントより長期の死亡率が高いことが報告され、すでにDESは反 省期に入っています。

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◾️さらに問題が

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さらに薬剤溶出性ステントDES治療を受けたあと、たまたま胃腸や肺のがんが発見され、抗血小板剤のために手術ができずに困ったというケースを聞くことがあります。

大腸ファイバーによるポリープ切除も危険 A313_042になりますし、大腸憩室や潰瘍性大腸炎などの疾患がある方にも危険性が増えるという問題があります。

脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなど脊椎(つまり背骨)に病気がある方の場合も同様です。手術すれば治るのにその手術ができなくなるのです。

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◾️冠動脈バイパスでは

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その一方、冠動脈バイパス術後の患者さんは、他に病気がなければ普通の生活ができる人が多いです。

なにしろ術後はいったん安定すればせいぜいアスピリン程度の抗血小板剤しか必要ありませんし、それさえ何か必要があれば止めることができるからです。

将来もしもの場合のがんやその他の手術も比較的安全です。

薬を飲めなくなっても安全性は薬剤溶出性ステントDESの場合ほど損なわれません。

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◾️そこで両者のうまい使い分けを

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冠動脈バイパス手術は内臓には意外なほどやさしい治療法なのです。

ステントは創は小さいですが将来の出血リスクを抱える一面があり、必ずしも患者さんにやさしい治療ということにはなりません。

そこでステントとバイパス手術のそれぞれの長所・短所を踏まえた、うまい使い分けが大切と考えます。

 

メモ: Best_practices なぜ薬剤溶出ステントDESは強い抗血小板剤を永く飲む必要があるのでしょうか?

それはDESが患者さんの自己組織をよせつけず、長い間、金属がむき出しになることが多いためです。

むき出しの金属ではかなりの薬を使わないと血栓が生じ、いったん血栓が生じるとその冠動脈はつぶれてしまい、心筋梗塞になってしまいます。

右図の左段はDESに血栓がついたときの姿を示します。右段の従来型金属ステントでは内膜が張るため再狭窄は起こっても血栓ができにくいのです。

 

メモ: そうはいってもステントには体にメスを入れずにすむという大きなメリットがあります。

そのためそのメリットとデメリットを考え、バイパス手術と比較して、その患者さんにどちらが有利かを判断するのが良いわけです。

なので内科と外科さらに他職種もまじえたハートチームで治療法を検討することが望ましいのです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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