事例 がん患者さんに対するオフポンプバイパス手術

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患者さんは 79歳男性です。

前立腺癌の治療中で、閉塞性動脈硬化症ASOもあり、右上腕骨折されています。

そこに狭心症が発生し、冠動脈2枝病変と診断されました。

今後のがん治療のさまざまな局面を考えて、手術(オフポンプCABG)のため紹介されてハートセンターへ来院されました。

カテーテル治療で薬剤溶出ステントを使うと、強力な抗血小板剤が必要となり、

その後がん手術などが必要になっても抗血小板剤のため出血が止まらず手術ができないことがあるからです。

 

右腕がギプス固定をまだ外せない状態のため、右前腕を腹部に乗せる形で体位を整え手術を開始しました。

胸骨正中切開ののち左内胸動脈を採取しました。

同時に左大伏在静脈を採取しました。

 

心膜を切開し、まず心臓を軽く脱転し血管を確認しました。


この患者さんの前下降枝は心尖部を回って下壁まで灌流していたため、最初に前下降枝を遮断吻合することは若干危険と判断したため、中間枝から始めることにしました。

まずデバイスを用いて静脈グラフトを上行大動脈に吻合しました。

ついでそれを中間枝に吻合しました。


その上で左内胸動脈を前下降枝中央部に吻合し、操作を終えました。

 

Photo写真は2本のグラフトの完成図を示します。

手前が前下降枝への内胸動脈グラフト、向こう側が中間枝への静脈グラフトです。

なおグラフトの選択につきまして、前立腺癌の存在を考えますとグラフトはすべて静脈をということも考えましたが、

上行大動脈が硬化著明であまり操作しない方が良いことと、がんの長期予後が改善する場合に対応するため、内胸動脈を用いることにしました。

グラフトのフローは両方とも好ましい拡張期パタンでした。

経食エコーに 00027508_20090216_CT_504_4_4て心機能は良好でした。

術後のMDCTでバイパスはいずれもきれいに開存し良く流れていました。


術後経過は順調で、術翌日、一般病室へ戻られ、2週間で退院されました。

冠動脈バイパス手術DES(薬剤溶出ステント)の使い分けについて、議論がまだまだ多いようですが、冠動脈バイパス手術のあとは強力な抗血小板剤(副作用も強い)を使わなくて済むため、さまざまながん治療を支援します。

心臓が薬なしで安定するためがん治療がやりやすくなるからです。

大腸ファイバーや胃カメラ、それらを使った生検などもやりやすいです。

国際的な大規模研究であるシンタックストライアルでもこうした複雑病変ではバイパス手術のほうが患者さんの長生きに役立つことが示されています。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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