スタンフォード大学心臓外科―アメリカ屈指のアカデミック心臓外科

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スタンフォード大学はアメリカ合衆国でもトップレベルにランクされる有力大学である。

心臓外科、心臓血管外科の領域においてもスタンフォード大学は同様の実績と評価を得ている。

ここでは一留学生(筆者)としての目からみたスタンフォード大学心臓外科を論じてみたい。

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Norman E. Shumway先生。世界の心臓移植のパイオニアです。スタンフォード大学心臓外科(肺でも有名なため心臓胸部外科)の名を世界にとどろかせたのはNorman E. Shumway (写真左)であった。

彼は心臓移植の草創期、まだ拒絶反応を克服できなかった時代に多くの仕事を行った。

あまりに慎重なスタンスから心臓移植一番乗りには縁がなかった。

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しかし、大動物での実験研究のノウハウ蓄積は抜群で、その後臨床での心移植の実績を着実に上げ、拒絶反応のために多くの施設が心移植を断念した時代にも生き残り、サイクロスポリン等の実用化の道を拓き、現在の標準治療としての心臓移植の確立に貢献した。

彼こそ心移植のパイオニアと評価する方が多いのはそうした良心をもつ実力派だからであろう。

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Miller研究室での集まり。ここから全米に教授を輩出して行きました

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著者が留学した1993-1996年ごろもDr. Shumwayは健在で、多くの後進の指導に力を入れ、彼と仕事をすること自体が dream come trueと言う若手が多かった。

底抜けに明るく、不撓不屈の信念をもつShumwayを慕って集まったのがスタンフォード大学心臓グループと言っても過言ではなかった。

当時Shumwayのもと、Dr. Bruce A Reitz、Dr. D Craig Miller、Dr. Ed Stinson、Dr. P. Oyer、Dr. Scott Mitchell、Dr. Bobby Robbinsはじめ多数の優れた心臓胸部外科医が育ち、活躍していた。

Dr. Shumwayは暇さえあればジョークを飛ばしていたのが印象的だった。

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Bruce_ReitzDr. Bruce A. Reitz (写真左)はこれ以上紳士的な指導者はいないと思えるほどの人格者で、手術の腕もさることながら教育マインドでもとびぬけたものがあった。

著者が当時、日本の医学生の夏季実習のお世話をしていたときも、Dr. Reitzは忙しい時間を割いて

図6

スタンフォードから世界に多くを発信できました。当時最強の心臓外科生理学チームと言われました

自らその学生たちに胸部X線の読影法を教えたり、多数のレジデントや元レジデントの指導から就職の世話までいつも笑顔でこなす姿はある種の神のようであった。

お掃除のおばさん達までがDr. Reitzは立派な人だと言っていたのが印象的であった。

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D Craig Miller先生。アメリカ胸部外科学会にて。Dr. Miller (写真左)は大動脈手術の臨床と心臓生理学の実験研究で有名な外科医だが、院内ポストには頓着なく、Dr. Reitzと何ら競合することなく、自分の道を淡々と歩む、どちらかと言えば哲学者のような心臓血管外科医であった。

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Dr. Millerの心臓生理学ラボ(研究室)は生理学にもとづく心臓のねじれ運動の解析を行っていた。

その方法論は虚血性僧帽弁閉鎖不全症の外科治療に最適と見た著者が、ス 図24タンフォードのMillerラボへ留学し、虚血性僧帽弁閉鎖不全症への弁形成術に役立つジオメトリーの研究を始めて以来、このテーマがお家芸となり、現在に至るのは光栄な限りである。

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臨床ではとくに大動脈手術基部再建などに力を入れていた。

Dr. Millerに究極のアカデミック外科医の姿を見るのは著者だけではないと思われる。

さらにその時代つまり1990年ごろからDr. Mitchellや放射線科Dr. DakeのステントグラフトEVAR)が大きな業績を上げ、日本を含めた世界とのコラボの中で育って行ったことは記憶に新しい。

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ハートポートポートアクセス法手術、MICS手術の代表例です)を開発したのもスタンフォードチームであった。

図7

誰もが感心する優れた環境、それがスタンフォードでした。

初めて大動物実験に成功したときの喜びと感動はアメリカという国にまだフロンティア精神が残っていることを示すものと著者には思われた。

これだけのことを今から20年も前にすでに臨床の場で患者さんに役立てていたというのは、今振り返っても感嘆すべき先進性である。

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こうした優れた心臓血管外科医、心臓胸部外科医を擁するスタンフォード大学心臓胸部外科の大所高所からの特長は、Dr. Shumway以来の心臓移植、心肺移植と臨床教育システム、研究教育システムであろう。

すべての症例をレジデントに執刀させる、これは重症例が多く、社会的責任が重い現代、容易なことではない。

図25

学内でサッカーのワールドカップを開催するようなパワフルな大学でした

そこにひとつのAmerican spirit、Stanford spiritのようなものを感じ、強い憧れを覚える。

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またスタンフォードのレジデントたちは忙しく充実した臨床の中を、夜中には研究室に来てひたすら書き、多数の論文をメジャージャーナルに出し続ける、これを実行し続けて、全米各地あるいは世界各地へ戻って教授になっている。

この姿にももうひとつの Stanford spirit を感じずにはいられなかった。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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