4)Q: PCIと比べて心臓手術(冠動脈バイパス手術)の利点は?

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オフポンプ冠動脈バイパス手術の一例を示しますA: 分かりやすく言えば、心臓手術・冠動脈バイパス手術(CABG)のほうが長期成績つまり安定度が良いということです。

血管内に ステントを埋め込むPCIバイパス手術に比べて傷も小さくやさしい治療に見えるでしょうが、

長期的には、生存率などで外科手術のほうが良い成績を収めているのです。つまり、より長生きできるわけです。

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2008年1月には多数の血管に病変がある重症例について、バイパス手術の優位性を示すデータが米国の超一流誌 で発表されました。

使用する部位にもよりますが、人間の体にとって「異物」であるステントの埋め込みは一 時的に良くなっても、長期的には厳しいことを心臓血管外科医は経験的に学んでいます。

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2011年には有名な大規模比較研究であるシンタックス研究の4年のデータがでました。

予想どおり、冠動脈バイパス手術の患者さんはカテーテル治療PCIの患者さんより長生きできるという結果が出ました。

たったの4年でこれだけの差がでたのですから、5年ー10年ではもっと大きな差となるでしょう。(シンタックス研究、5年のデータ

冠動脈病変が複雑な方は、長生きしたければ冠動脈バイパス手術(CABG)を受けるべきという方向がすでに欧米のガイドラインに出ています。

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冠動脈ステント例えば、弁膜症の外科手術で用い る機械弁(金属)には40年以上の歴史がありますが、どん なに丁寧に長期ケアをしても脳梗塞が毎年1~2%の割合で起こります。

だから体になじむ弁形成手術生体弁での弁置換を行うことが増えたわけです。

同じ観点から、血行再建療法では、体となじまない異 物であるステント(金属)よりも、自らの生きた血管を用 いる冠動脈バイパス手術のほうが予後や安全性の点で優 れているのです。

まして将来もしものがん手術やけがの場合、出血を増やす薬を飲まずにすむバイパス手術後のほうが安全性は高いのです。

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たとえばPCIでこの5年間で主流になった薬剤溶出性ステントでは、その治療後は強力な血栓予防のお薬(抗血小板剤と言います)を延々と使う必要があります。

当初は6カ月間だけと言われていましたが、薬を止めると血栓ができて心筋梗塞で急死する患者さんが出現しました。

そのため薬使用は1年とか2年と言いながら現在は無期限にこの薬を使う方向にあります。

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するとさまざまな二次的問題が Ilm09_dd04001-s明らかになってきています。たとえば大腸ファイバーでせっかくポリープ(将来がんになります)を見つけてもそれを大腸ファイバーで他の患者さんのように簡単な切除はしづらいです。

切除のあと出血が止まらなければ命にかかわる大問題になるからです。

大腸ファイバーの先生は薬剤ステントの責任は取りたくありませんし、薬剤ステントを入れた先生は大腸ファイバー治療での責任は取れません。

かといって抗血小板剤を切ってヘパリン点滴などに切り替える場合の安全性は不明です。

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こうした問題が発生し相談を受けるようになりました。冠動脈バイパス手術ではこうした問題はほとんどありません。

2012年1月18日の天皇陛下のオフポンプ冠動脈バイパス手術は主治医団の方々がこうした諸点を十分勘案された結果と聞いています。

良い長期結果が期待されています。長生きや長期の安全性、また平素のご多忙な毎日を考えると冠動脈バイパス手術は正解であったと言われています。

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ただし、誤解のないように言えば、PCIをはじめとする内科的治療の利点はたくさんあります。

同じPCIで も超一流のセンターや内科医がやれば結果も違ってくる場合もあるかも知れません。

黒か白かではなく、その患者さんにとって最善の策は何かを一緒に考えて決める姿勢が大切と思います。

薬剤ステントは入れた分だけ患者さんが得をするわけではないことや、たとえばがんの心配のある方や将来何かの手術や怪我の心配のある方、のびのび生活や仕事に打ち込みたいひとなどには冠動脈バイパス術が有利なケースもあり得るわけです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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