腹部大動脈瘤の治療のなかで、外科手術またはEVAR(ステントグラフト)か、あるいは待つのが良いかを迷う方がおられます。
大切なことはその患者さんの腹部大動脈瘤が破れるかどうか、です。いったん破れてしまえば治療は間に合わず死亡することが多いからです。
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瘤が小さい患者さんつまり直径 4.5 cm未満では手術のリスクより瘤破裂のリスクが小さいのですが、そうした患者さんでも瘤が大きくなる危険性があることは忘れてはなりません。
そこで瘤のサイズや形に応じたきめ細かい対応がいのちを救うともいえるでしょう。
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無症状の小さい瘤、つまり直径3cmから4.5cm未満では判断が微妙です。
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1.小さい腹部大動脈瘤の患者さんは、それが破れるまでに関連した病気で死亡することが少なくありません
2.直径4-5cmの瘤では、5年以内に手術またはEVAR(ステントグラフト)が必要となる確率は60-65%で、8年では70-75%にもなります
3.手術(またはEVAR)のメリットと手術の死亡リスクとどちらが大きいか、よく検討することが勧められます。
4.無作為割り付けによる臨床研究の結果(アメリカ):無症状の中サイズの腹部大動脈瘤(直径4.0-5.5cm、日本人サイズなら3.5-5.0cm相当でしょう)で、手術してもしなくても5-8年の死亡率は差がありませんでした。
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イギリスの小型瘤研究では、直径4.0ー5.5cmの腹部大動脈瘤をもつ1090名の患者さんで、8年間のフォローでは、当初は手術群のほうが死亡率が高いのですが、3年で並び、8年では手術群のほうが低死亡率(4.3%対4.8%)となります。
フォロー中、瘤は年間0.33cmずつ大きくなり、破裂の確率は当初は毎年1.6%、のち毎年3.2%に上がりました。女性のほうが破裂する恐れが男性の4倍もありました。
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こうした大規模臨床研究にもとづいて、2005年にアメリカ循環器学会ACCとアメリカ心臓学会AHAが出した腹部大動脈瘤のガイドラインはつぎのようです。
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■ 直径4.0-5.4cm(日本人サイズなら3.5-4.9cmに相当でしょう)の腹部大動脈瘤では6-12か月ごとにエコーかCTでフォローすべき
■ 直径3.0-4.0cm(日本人サイズなら2.5-3.5cmに相当でしょう)の腹部大動脈瘤では2-3年ごとにエコーでフォローすべき
■ そして直径5.5cm以上(日本人サイズなら5cm以上に相当でしょう)では外科手術(あるいはEVAR)が勧められています。
■ これらのガイドラインは平均的アメリカ人男性の場合であり、日本人とくに女性ではそれより一回りあるいは二回り小さい瘤でも注意が必要です。
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なお一般的に正常の大動脈または動脈の直径の2倍を超えるか、6か月で直径が0.5cm以上大きくなれば手術(あるいはEVAR)すべきとも言われています。
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メモ: 一般に、症状が強い病気の場合は患者さんも油断なく病院へ来られることが多いため、ある意味むしろ安全なのですが、症状が弱いあるいは無い病気の場合はどうしても油断が生じてしまいます。
腹部大動脈瘤もそのひとつです。
しかしこれまでのデータつまり教訓の蓄積を活かさない手はありません。
どうか油断なきようにお願いします。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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