大動脈基部拡張症 【2020年最新版】

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AoRootCrossSection最終更新日 2020年2月22日

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◾️大動脈基部拡張症とは?

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大動脈基部、つまり心臓と大動脈の境目の部分が大きく膨らむ病気です。そのままではそこが破れたり、大動脈弁が壊れるという怖い病気です。

症状は運動時の息切れや動悸が発生し、重症になると胸痛や失神発作なども起こります。基部がもし破れたら、ショック状態で倒れ、いのちに関わる恐れが大きいです。

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そもそも大動脈基部というのは文字通り大動脈のいちばん根っこの部分、心臓(左室)から出る部位を示します。

ここは前後左右に重要なものがあり、かつ深い場所にあってかつては心臓外科医泣かせの難所といわれたものです。

右図はその断面図です。断面では少しはシンプルで分かり易くなります。

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大動脈基部をビルの構造になぞらえてたとえますと次のようになります。

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◾️大動脈基部の地下1階は

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右上図の1より少し下のレベルです。

前に心室中隔があり脆弱な筋肉ですのでなるべく手を加えないのが賢明です。もちろんここがばい菌にやられるなど、いざとなれば左室形成術の要領で、これも修復することはあります。

その少し右側に刺激伝導系という心臓の信号をおくるケーブルのようなものがあり、これに傷をつけると信号が通らないブロックという状態になりやすく、悪くなると永久ペースメーカーが必要となります。このケーブルは眼に見えないため、経験・知識と方向感覚でうまくかわすことが大切です。

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真右側は奥まっていても心臓の外となり、その隣に右房や左房などがあります。ここを活用する手術はいくつもあります。

後ろ側は僧帽弁前尖や僧帽弁弁輪があり、ここをうまく切り込んで大動脈弁輪を拡大して大きな人工弁を入れたりすることもあります。左側は左室の筋肉さらには肺動脈弁やその周辺組織などがあります。

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◾️大動脈基部の地上1階では

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大動脈弁輪を地上1階として解説します。ここが左室と大動脈の境目です。上図の1.のレベルです。

しかしこの弁輪は平たい形ではなく、吊り橋のように上下しており、この構造に自然の大動脈弁が長持ちする秘密が隠されているのです。大動脈弁が自動ドアのように開くという絶妙の構造の一部がここにあります。

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◾️大動脈基部、地上2−3階は

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大動脈弁輪から上の部分を地上2-3階にたとえますと、そこにも絶妙の構造物があります。バルサルバ洞と呼ばれる大動脈壁の膨らみです。 上図で2.のレベルですね。これが毎日10万回以上開閉する大動脈弁が閉じるときにショックアブソーバーのようなやわらかな閉じ方をするのに役立ちます。

またそのふくらみの中ほどに左と右の冠動脈の入口があり、ここから心臓を養う重要血管・冠動脈がスタートします。

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このふくらみの上、いわば地上3階付近には、そのふくらみを束ねて、通常の大動脈に移行する場所、STジャンクションがあります。上図の3.のレベルです。このおかげで大動脈弁はきちんとした作動が約束されるのです。

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◾️大動脈基部の構造が壊れると?

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これらのさまざまな、しかも絶妙な構造のうえに成り立つ大動脈基部ですので、いったんこれらが壊れると、上記のすべてを考えた手術が必要となります。
大動脈基部拡張症に対するデービッド手術やヤクー(ヤコブ)手術、大動脈弁輪狭窄症に対するマノージャン手術あるいはコンノ手術などはその例です。弁が壊れすぎのときにはベントール手術やロス手術などが活躍します。

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自然がいちばんです

マルファン症候群や二尖弁さらに大動脈炎の患者さん、あるいは感染性心内膜炎IEの患者さんなどがこの病気になりやすく、予防策や早期発見をふくめた丁寧な定期健診が勧められます。

こうした自然な構造を活かした手術、それが患者さんの健康で長生きにつながる良い手術になるのです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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