事例: 右室二腔症をミックス手術で根治

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右室二腔症は生まれた時からの病気で、右室の中にくびれがあり、血液の流れが悪くなります。

大人になってそのくびれがきつくなり、次第に悪化することがあります。

あまり進むと心不全や不整脈、突然死などの原因にもなります。

患者さんは53歳の女性で、関西の大病院から紹介を受けて来院されました。

5年前に不整脈のためカテーテルアブレーションつまりカテーテルで悪い心臓神経を焼く治療を受けておられます。

右室内のくびれが強くなり、くびれの手前側の圧が血圧を大きく超えるという危険な状態で手術を希望して来られました。くびれの部分での圧較差は126mmHgにも達していました。

実際、運動時などに息切れや動悸が強くなるなどの症状がでていました。

また右室圧が上がり過ぎて、右室から左室へ血液が流れる、右―左シャントと言われる状態ではちょっとした足の静脈の血栓でも脳梗塞などが起こりやすくなります。

患者さんが仕事で忙しいこともあり、心臓手術後の痛みが少なく、社会復帰・仕事復帰が早いミックス手術にて右室二腔症と心室中隔欠損症VSDを治すことになりました。結果的に創も小さく、夏服でもあまり見えず、術後の心臓リハビリなどもやりやすいため、前向きに検討するようになられました。

RVOT心筋切除前手術では長さ10㎝あまりの小さい創で、胸骨も部分的にしか切らないようにしました。

人工心肺のもと、心臓を一時止めて右房と右室流出路を切開して、中へ入りました。

まず右房から三尖弁ごしに右室の中を調べました。VSDは右房からは見えない位置にありました。

そこで右室流出路から右室を見ますと、右室心筋が高度に肥大し右室の中がほとんど見えないほどになっていました

(左上図、この向こうに狭窄があり右室の中がほとんど見えません)。

RVOT心筋切除後そこで右室の異常心筋を順々に切除し、しかし三尖弁の乳頭筋には影響を与えないように注意しつつ、狭窄を完全に取り去りました

(右図、異常心筋を多量に切除し、右室の入口にある三尖弁乳頭筋まで見えています、広々としました)。

狭窄をある程度以上残せば、狭窄が狭窄を呼び、将来また同じ二腔症が再発する恐れがあるため、完全に狭窄を解除したわけです。

VSD1+2閉鎖中VSDは右室のやや肺動脈弁に近い、しかし肺動脈弁から少し離れたの筋肉にぽっかり空いており、これを直接閉鎖しました。

右室の切開部にはドーム状の天井のようなパッチで閉鎖しました。

この結果、右室内の狭窄は完全に取れ、直接圧測定しても圧較差はゼロという良好な結果でした。

RVOTパッチVSDもきれいに閉鎖していることが心エコー・ドップラーで確認できました。

術後経過順調で、ミックス手術のおかげで痛みも軽く、運動も順調に進み10日と経たず元気に退院されました。

ミックス手術すなわち小切開低侵襲手術は美容上の目的で行われるような印象がありますが、それだけではなく、痛みの軽減や早い社会復帰、そして合併症の防止にも役立ち、安全性の向上にもつながるのです。

もちろんミックス手術の創の小ささから、「夏服が着れる」というのは術後の楽しみが増えるというものです。

患者さんは遠方からまた外来へ定期健診にお越し下さるとのことで、再会を楽しみにしています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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