心タンポナーデ

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心臓の周りには心膜という袋状の組織があります。

.心嚢水

この心膜と心臓の間の空間(心嚢(しんのう)と呼びます)に血液や水などが貯まり、心臓を圧迫してその動きが悪くなる状態を心タンポナーデと呼びます。

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右図は心膜と心嚢水を示します。この水(または液体・血液など)が増えすぎるとタンポナーデになってしまいます。

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心タンポナーデは軽症ではあまり自覚症状はありませんが、中等度になると息切れや倦怠感、むくみなどが発生し、重症になると血圧低下や意識障害さらには死に至る怖い病気です。

心臓そのものが悪くない場合でも、心臓が圧迫され、これから送り出す血液を心臓内に取り入れることができなくなるため、血圧が下がり、重症になると命にかかわる事態になるのです。

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●原因は?

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心タンポナーデはさまざまな状況で起AortaAndTamponadeこります。

たとえば急性大動脈解離で大動脈の壁が内外に裂け、破裂寸前の状態で血液が薄くなった大動脈壁からしみだして心嚢内に貯まり、まもなく心タンポナーデになります(右図)。

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あるいは腎臓の悪い患者さんでは水が心嚢内に貯まり、これが高じるとタンポナーデになることがあります。

心臓手術の後で、出血あるいは刺激で水が心嚢内に貯まって起こることもあります。

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感染などで心嚢内に膿や水が貯まる場合も同様です。

肺がんその他のがんが心膜に達して、あるいは転移して心嚢内に水がたまり、タンポナーデになることもあります。

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そして外傷(けがのことです)も見逃せない大きな原因です。今年初めのスキー場衝突事故で女子学生が亡くなったのも外傷による心タンポナーデが原因でした。この経過はオールアバウトの米田正始のページをご参照ください。心臓・血管・血液の病気のコーナーです。

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さらに病気としては稀ですが、心臓腫瘍で起こることもあります。なかでも心臓悪性腫瘍の場合に見られます。

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●治療は?

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いずれにせよ、タンポナーデが重症化し、血圧がでにくい、いのちの危険が出てくれば、これを解除する必要があります。

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タンポナーデじたいは治せることが多いのですが、その原因となった病気の治療が大切です

タンポナーデそのものは心嚢内に管(くだ)をいれ、水や液を抜けばとりあえず軽快します。

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慢性的に起こっている場合は心膜開窓術(しんまくかいそうじゅつ)という、心膜に一部窓を開けて、水や液体などを胸やお腹へ逃がすという方法もあります。

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ただしその原因を取り除かねばまた再発しかねません。

たとえば大動脈解離では上行大動脈などを人工血管で取り替えて初めて治ります。

それぞれの原因療法ですね。

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逆に進行がんなどの難しい状況のときは、もう何をしてもダメと放置される場合もあるようです。しかしがんの種類によっては、たとえば進行がゆっくりのがんなら、タンポナーデを解除して、あとは終末期医療で患者さんがなるべく快適に暮らせる工夫をすることで、結果的に年単位の生存を得たという経験を何例も私はもっています。

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心臓悪性腫瘍ではときどきそうしたタイプが見られます。あのとき諦めずによかったね、不治の病といってもいろいろだね、と語り合った想い出があります。

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●まとめ

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このように心タンポナーデは油断ならない状態ですが、それ自体は解除できますし、その原疾患によっては予後を改善できる可能性があります。

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まず主治医と相談し、専門家の意見ももらって、適切な治療を探ることが勧められます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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