左室形成術、、患者さんの想い出

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Aさんは60代後半の男性で、虚血性心筋症のため心不全になって来院されました。

駆出率23%というのは健康人の心臓の半分-3分の1程度のパワーしかない状態で、冠動脈バイパスだけでどれほど良くなるか、これまでの日本あるいは海外のデータを見ても心配な状態でした。それは以前の心筋梗塞のため生きて仕事ができる心筋(心臓の筋肉)があまり残っていないという恐れでもありました。

このままでは予後不良のため、バイパスに加えて左室形成を検討しました。

しかし左室全体が力を落としており、とくにここが悪いとか、ここを切除すれば良くなるという部位がない、そうした状態でした。

そこで近年私たちが試みている方法で左室の形を整え、一番悪いところを中心に正常のサイズと形にもどすという手術を行いました。

特に悪い部分はない(全体に悪い)ため、左室壁は切除しませんでした。

冠動脈バイパスは2本つけ(ca010a-s左前下降枝と回旋枝)、計測しますとバイパスグラフトに良く血液が流れており、まずバイパスとして成功でした。

手術を終えてみると心臓はかなり元気です。

リハビリもどんどん進み、まもなく普通の運動さえできるようになり、笑顔で退院して行かれました。

退院直前の心エコーでは駆出率は手術前の23%から48%まで増えていました。正常値は55-65%ですので、正常の近くまで回復したことになります。

循環器内科の先生方も驚かれ、左室形成術ってこんなに心臓を元気にしてくれるのですか!と言って下さいました。

長年左室形成術の開発・改良を続けて来た私にとっては、この程度の改善はそう驚くほどではないのですが、大切な仲間である循環器内科の先生方にこの新しい左室形成術の真価を認めて戴けたことは大変うれしいことでした。

患者さんはその後も回復を続けられ、外来では駆出率50%台をキープし、元気に普通の生活を楽しんでおられます。

この成果は学会でも発表し、評価を頂きました。

自分たちの経験だけでなく、全国の実績ある心臓外科医と協力して重症心不全研究会を立ち上げ、左室形成術の特徴や利点、有用性を証明すべく全国データを集めて発信する努力を続けています。実際、左室形成術のおかげで命拾いした方、移植が受けられない年齢でも左室形成で元気になられた、などうれしい知らせが結構あります。

昔、テレビで左室形成術を「奇跡の心臓手術」と形容されたことがあります。それほどではなくても、着実に、左室のどこがどう悪くてパワーダウンしているかを今後も研究し、より短時間で、より負担少なく、より効果的な左室形成術を開発して行きたく思います。

Aさん、また外来でお元気なお顔を見せてください。今年は山登りか海外旅行でも如何ですか。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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