【テスト】2) 虚血性心筋症とは?―多くは心筋梗塞で心筋がやられた状態ですが【2023年最新版】

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最終更新日 2020年2月29日

1.虚血性心筋症とは

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心臓に血液を送る冠動脈 (左図の赤く細い血管) が狭窄 (狭くなる) したり閉塞して心筋がやられる状態を虚血と言います。

虚血が悪化し心筋梗塞になった後、左室(ポンプの部屋)心筋が壊れて動きが悪くなり、血液が十分送れなくなる状態を虚血性心筋症と呼びます。

虚血によって起こった心筋症という意味です。通常の心筋梗塞以外でも、カテーテル治療PCI
を繰り返した後にも見られることがあり、これは細い枝がつぶれたり、組織片が詰まったりして心筋梗塞を何度か起こしたためと考えられています。
川崎病のために冠動脈瘤(こぶのように大きくなり、その中に血栓ができます)ができ、そこでできた血栓が心筋梗塞を繰りかえして起こることもあります。

2.虚血性心筋症では左室のどこがどう壊れるの?

虚血性心筋症は心筋梗塞のため左室心筋の一部が失われ、動きが悪くなったため、それを補うべく左室全体が大きくなったり形がくずれてしまい、梗塞にやられていない部分まで動きが損なわれる状態です。

図 梗塞後リモデリング

さらに左室全体の形が崩れて丸くなるために、僧帽弁という左室入り口にある弁もゆがみ、弁が逆流することがよくあります。これを虚血性僧帽弁閉鎖不全症といい、これによって状態が大きく悪化します。

このように虚血性心筋症が悪くなると命にかかわる状態になってしまいます。この状態では胸痛がないことも多く、患者さんご自身では状態がわかりにくいため油断は禁物です。

3.症状は?

体を動かすときの息切れや動悸などがよく見られます。虚血が進行中の場合は胸痛も起こります。心不全が進めば、息切れが強くなり横になって寝られなくなったり(これを起坐呼吸と呼びます)下肢がむくんだりします。

4.虚血性心筋症の治療は?

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しかしこの病気はかなりの部分、治せる病気です。一般的には心不全の治療をお薬やリハビリ、あるいはASVという空気マスクなどの内科的治療が行われます。

外科手術は現在あまり一般的ではありませんが、心不全や心不全治療の経験が豊富なエキスパート心臓外科医にご相談頂ければ、これは薬が良いとか、このタイプは心臓手術で治せる、などの方針が立ちます。
心筋梗塞のために失われた心筋はもどりませんが、梗塞の周囲にある心筋を回復させることはある程度可能ですし、梗塞でやられなかった心筋を守ることはかなりの程度までできるのです。
そうすることで虚血性心筋症といえども寿命を延ばせる可能性が出て来ます。
もっと読む
あきらめるとそれまでですが、粘り強く、心筋や心臓を守ることが生きることにつながるわけです。

メモ: もうひとつの視点として虚血にはマクロとミクロがあります。
マクロとは冠動脈のどこかが詰まったり狭くなったりしている状態で、大きなものはカテーテル治療バイパス手術でほぼ治せます。
ミクロとはもっと細い血管が詰まった状態で、従来治療では治せませんが、お薬も必ずしも十分には効きません。

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こうした状態に対して私たちは再生医療とくに血管新生治療を行っています。日本では認可をとるのに時間がかかるため、とりあえずタイの国際心臓病院で行っています。そこでは再生医療患者さんの大半はアメリカから来ておられます。はやく日本でもこれを実現したいものです。虚血性心筋症を治す切り口がさらに増えれば幸いです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【テスト】乳頭筋最適化術(Papillary Head Optimization)とは 【2023年最新版】

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最終更新日 2023年2月15日

1.乳頭筋ヘッド最適化手術とは?

乳頭筋のヘッドを糸で束ねて前方に吊り上げ、僧帽弁の逆流を止める手術です。略称はPHOです。
アメリカのKron先生の方法をもとにして、私たちが世界に先駆けて開発した術式です。虚血性僧帽弁閉鎖不全症などの機能性僧帽弁閉鎖不全症に対して威力を発揮します。
この領域の権威であられる産業医大循環器内科教授・学長の畏友・尾辻豊先生のご意見で命名しました。 以下もう少し詳しくご説明します。

2.虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症の手術で大切なことは

心筋梗塞後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や特発性拡張型心筋症の機能性僧帽弁閉鎖不全症では前尖だけでなく後尖のテザリングつまり弁尖が左室側に引き込まれる現象をいかに治すかがカギとなります。

そのため前尖だけでなく後尖も治せるこのPHO法は当初、両尖最適化(Bileaflet Optimization)という名前で、より多くの患者さんたちにお役にたつものとして発表しました。しかし直接的には乳頭筋に手を加えて治すため、このPHOという名前が分かり易いと言われたのです。

PHOシェーマ

なるほど鋭いご指摘、さすがは尾辻先生と感心し、以後このPHO法という名前を発表のときには使っています(開発の歴史のページをご参照ください)。

3.従来の手術との成績の比較

これまでの手術法とくらべてこの乳頭筋最適化術(PHO法)はどのくらい良い結果を出せるのでしょうか。

まず現在まで標準術式と言われている僧帽弁輪形成術、つまりリングをもちいて僧帽弁の弁輪を締める方法(略称MAP)と比べてみると、
前尖のテザリングについてはMAPもそこそこは行けるもののPHO法が有利、とくに重症の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や重症の機能性僧帽弁閉鎖不全症でテザリングが高度なものではPHO法が断然有利です。

後尖については、MAPでは手術後は術前より悪化します。しかしPHO法をMAPに併用すれば悪化しません。有意に改善とまでは行きませんが良くなる傾向があります。つまりここでMAPだけの従来法にはない、大きなメリットが発生するわけです。

これらを合わせると、これまでのMAP法で治せなかった虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症をこの乳頭筋最適化術PHO法では治せる、その限界線が高くなったと言えそうです。

4.もう一つの手術法との比較では

PHOとPMA

この乳頭筋最適化術PHO法と、近年ある程度使われている乳頭筋接合術(PMA法)を比較しました。
PHOは乳頭筋先端を前方へ吊り上げるのに対してPMAでは両乳頭筋を寄せるのです(左図)。簡便な良い方法と思います。
すると前尖についてはどちらも善戦健闘するものの、PHO法のほうが有効性が高いという結果でした。

後尖についてはPMA乳頭筋接合術では悪化したのに対してPHO法では悪化しませんでした。

心臓とくに大切なポンプである左室のサイズや動きパワーについてはPMAよりPHO法のほうが有利という結果でした。PMAも悪くはないのですが、PHOでは明らかに改善する項目が多かったのです。

総合的に判断すると、乳頭筋接合術PMAより乳頭筋最適化術PHO法のほうが有利という結果でした。ただしその差は前述のMAP法との差よりは小さく、PMAはかなりつけているとも言えましょう。後尖のテザリングがそうひどくなければどちらも使える方法だと思います。

こうした結果を、2012年のヨーロッパ心臓胸部外科EACTSと、2013年のアメリカ胸部外科学会AATSの僧帽弁セッションともいえるMitral Conclaveなどで発表し、多くのご質問や前向きのコメントを頂きました。2017年にはアメリカ胸部外科学会の本会で発表でき、その効果が世界に知られるようになりました。

内外の学会でぜひ使いたいと言って下さった先生方も増え、光栄なことです。

5.乳頭筋最適化術(PHO)の限界は

ただしいかなる術式もそうであるように、このPHO法にも限界はあると思います。

そもそも左心室があまりにも壊れているケースでは、僧帽弁閉鎖不全症がきれいに消えても、それだけではパワー不足という大きな、かつ根底的問題が残ります。
何しろ、これらの手術が対象とする患者さんは、心臓の筋肉が大きく壊れたり失われた方々ですから、もとの出発点が厳しいのです。

しかし、だからこそ、少しでもパワーアップをという努力は大切と思います。PHO法が患者さんにとって有利で、かつ威力を発揮できるような使い方をすることが大切です。

パワーに関しては、ここまでの研究で、PHO法と同じ前方吊り上げによって、左室収縮機能が改善することが心不全の動物モデルで証明できています。これは手術前に僧帽弁閉鎖不全症をもたないモデルですので、弁の逆流を消したため左室機能が良くなったのではなく、PHOという操作自体が左室機能を良くしたことになります。
これは人間ではなかなか証明できない、実験研究ならではのメリットと考えています。

というのは人間の患者さんで、僧帽弁閉鎖不全症のないひとにこうした術式を行うことは倫理的に許されないからです。

それ以外にもPHO法が左室のパワーアップに役立つという傍証があります。それはコアプシスCoapsysという左室を前後に圧迫するデバイスで左室機能がある程度改善するというデータが実験でも患者さんの臨床データでも報告されています。PHO法で左心室を前後に圧迫するちからとかなり近いちからのかかり方です。そのため同法でも同様のパワーアップが期待しやすいのです。

6.限界を打ち破る、最近の展開は

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そうこうしながら、60名を超える患者さんにこのPHO法を行い、その前のバージョンである腱索転位法(トランスロケーション法)と併せると100例近い数になりました。

なかでも新しいPHO法で予想以上に活発な生活を送っておられる方が多いことが、実感のあるよろこびです。

こうした最近の成果を内外の主要学会のシンポジウムなどで発表し啓蒙に努めています。

参考:
いい心臓いい人生99号 第31回日本冠疾患学会(2017)にて。
いい心臓いい人生98号 日本胸部外科学会総会(2017)にて。
いい心臓・いい人生96号 ソウルに行って参りました(第19回国際弁膜症シンポジウム
いい心臓・いい人生92号 アメリカでちょっと頑張りました(アメリカ胸部外科学会)

それともうひとつ、この方法にいったん慣れるとかなり短時間で手術操作が完了します。上記のように大きなメリットを患者さんに提供できるだけでなく、それがたかだかプラス10分あまりの時間でできてしまうという利点は今後に期待ができると考えています。短時間でできるということは、患者さんの体力を消耗せずにすむことであり、体力が落ちた重症患者さんにとって大きな利点となります。

PHO and others

私たちが開発したPHO手術(図の左)は、その効果の高さからご活用くださる施設が増え始め(図の右)、光栄なことです。医学研究のオリジナリティを守るため、私たちの原著を引用頂けると良いのですが、、、、

さらに新しい左室形成術(心尖部凍結型左室形成術と言います→もっと見る)で短時間で左室の修復が行えるようになり、アメリカのメジャージャーナルの表紙を飾りました(右図の赤矢印)。

Seminar

これまでPHOが使えなかった巨大な左室にも使えるようになり、盛り上がりを見せています。PHOと新しい左室形成術の併用効果は大きく(デュアル形成術)、2019年のアメリカ胸部外科学会・僧帽弁シンポジウムで発表し反響がありました。→→デュアル形成をもっと知る

それやこれや、こうした努力のメリットと限界とを常に考え、患者さんが損しないようにバランス感覚を磨きつつ、日々精進しています。またこれからこのPHO法を海外や国内の先生方にも安心して使って頂けるよう、啓蒙活動を行う予定です。

7.カテーテル治療・Mクリップとの比較では

近年循環器内科で話題のMクリップは、心臓外科手術のアルフィエリ法をカテーテルで行うものです。アルフィエリ法では僧帽弁前尖と後尖を真ん中にてつなぎ、僧帽弁を2つに分けて閉じやすくするものです。
良い方法なのですが、本質的に僧帽弁を治すものではなく、まして原因である左室を直せないため効果は限定しています。ただMクリップはカテーテルでからだへの負担が少ないため試みる価値があるケースは存在すると思います。
これをやってみてダメなら上記の乳頭筋最適化手術(PHO)というのは一つの方法と思います。
Mクリップについて、さらに見るのはこちら
Mクリップが効かないときはこちら

ニュース(2016.9)

機能性僧帽弁閉鎖不全症はさまざまな原因で起こり、患者さんの予後を悪くします。
機能性僧帽弁閉鎖不全症のなかで、心筋梗塞などによる虚血性僧帽弁閉鎖不全症や、拡張型心筋症にもとづくタイプには上記の左房アプローチによるPHO術式が威力を発揮することを発表して参りました。

このたび、大動脈弁からのアプローチによるPHO手術を世界の心臓外科トップジャーナルと言われる Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery誌 から発表することになりました。

この新術式は上記のどのタイプの機能性僧帽弁閉鎖不全症にも使えますが、中でも大動脈弁疾患に合併するタイプに特に有用です。というのはこの病気の患者さんの多くは大動脈弁置換術または大動脈弁形成術が必要なため上行大動脈を一度開ける必要があります。そのときにこの上行大動脈からPHOを行えば5-10分ほどで僧帽弁もきれいに治せるからです。

患者さんの体への負担を軽くし、効果は大きく、僧帽弁閉鎖不全症を治すだけでなく心機能も改善します。

大動脈弁疾患が原因の患者さんの場合は術後2年もすれば心機能はほぼ正常化します。世間では手遅れと言われていた患者さんの心機能が正常化するのです。

この新術式は米田正始・英語論文265番にあります。解説付きのビデオもジャーナルで見ることができます。若い先生方のご参考になれば幸いです。より多くの患者さんたちが助かれば大変うれしいことです。

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僧帽弁膜症のリンク

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【テスト】心尖部「凍結」式の左室形成術ーーー治療成績をさらに改善 【2023年最新版】

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最終更新日 2023年2月15日

1.心尖部凍結式の左室形成術とは?

これまでの左室形成術の良いところを維持しながらも、はるかに短時間で確実にできる(つまり安全性が高い)新しい手術です

2.開発の経緯

その開発経緯からご説明します。
これまで左室形成術といえば死亡率の高い、危険な手術と考えられて来ました。

とくに2011年にアメリカで発表されたSTICH(スティッチ)試験で左室形成術は効果がないかのような結論を出されて世界中が驚きました。

しかしそのSTICH試験の内容を検討したところ、私たち専門家がやらないような軽症例が多く、つまり左室形成術が必要ない、したがって効果が上がらない患者さんを対象としていたことが判明しました。
これでは左室形成術は効果なしというとんでも結論になって当然ですね。

このことは数年前に来日したメイヨクリニックの畏友シャフ先生(世界的な心臓外科の名人です)も、つい先ごろ来日されたランキン先生(この先生も権威です)も嘆いておられたものです。
ランキン先生はSTICHの委員で研究方法がおかしいと主張したが聞き入れられなかったと言っておられました。

3.復活への動き

しかしその一方、左室形成のエキスパートがいるイタリアでも日本の一部有力施設でも左室形成術の成績は極めて良好で、STICH試験との落差をより感じるこの頃です。このような不完全試験のため多くの患者さんたちが左室形成術を受けることなく、死亡されている現実を見ると本当に心が痛みます。

嘆いてばかりいても仕方がないため、私たちは左室形成術をもっともっと改良し、もっともっと成績をあげるべく努力を重ねてきました。

その一つが1方向性ドール手術で、左室を理想的な形とサイズに、比較的短時間でまとめ上げることができ、死亡率がほぼゼロになりました。

4.最近の成果

さらに研究を進め、イタリアのカラフィオーレ先生や日本の杭ノ瀬先生、そして韓国の朴先生らの方法を改良し、これまでより格段に短時間で確実にできる左室形成術を日本胸部外科学会で発表しました。
これが表題の心尖部「凍結」式の左室形成術(Frozen-Apex SVR)なのです(右図)。(註:SVRとは左室形成術の略称です)

術前状態が悪かった中国からの患者さん、80代半ばで以前に左室破裂で修復を受けたがその後悪化して来院された方、大きな心筋梗塞の後心不全がどうにもならなくなった方、、、いずれも苦しいところからのスタートでしたが、新しいFrozen-Apex SVRで元気になられました。

図2

何しろ左室形成そのものの操作は15分以内に完了するため、圧倒的に侵襲つまり患者さんの体への負担が軽いのです。なので7名の患者さんはこれら重症を含めて全員が元気になっておられるのです。

5.心尖部凍結型左室形成術が優れている根拠

図1

この手術の根拠は2つあります。1つは心尖部はその存在が重要だがそれ自体の機能はそれほどではないということ、今一つは心尖部は左室のねじれ運動に必須であることです(左図)。

これまでの左室形成術は心尖部をどうしても壊したり、ゆがめたりする傾向がありました。新しい Frozen-Apex SVRでは心尖部を元の形に戻すため自然な力が発揮しやすくなるのです。

また左室の中心部には手をつけないため、失うものがないこと、さらに心尖部が小さくなって左室の中心部もそれに引き連れられて良いサイズと形になり、左室形成術で起こりがちな拡張機能不全が見られないのです。
そして3年以上経過観察しても良い状態が維持できることが確認されました。なので発表に踏み切ったのです。

参考:
いい心臓・いい人生第107号 アメリカでまた発表して参りました
いい心臓・いい人生100号 アメリカ胸部外科学会で発表することに
いい心臓・いい人生99号 第31回日本冠疾患学会にて。
いい心臓・いい人生98号 日本胸部外科学会総会(2017)にて。

2018年秋にこの新しい左室形成術はアメリカのメジャージャーナルの表紙を飾ることができました(右図)。

より完成度を高めて世界の多くの患者さんたちにお役に立てるようにして行きたく思います。
新しいデュアル形成術を知る

Seminar

6.これからの展望

これから心不全特に拡張型心筋症や虚血性心筋症の患者さんたちのお役に立てればこれ以上の喜びはありません。

冠動脈ステントを何度も入れた患者さんや心筋梗塞を何度もあるいは大きな心筋梗塞を患われたかた、心臓が大きくなり動かないと言われたかた、あるいはカテーテル治療・Mクリップを受けても改善しない方、その他心不全でお困りの皆さん、まずは諦めずご相談です。相談して失うものはありません。
これまでも、「もう打つ手なし」とか「看取りにしましょう」と言われてからこの手術を受けて社会復帰された患者さんが増えています。もちろん治せないタイプの心不全もあります。まずは相談です。

循環器内科のPCIご専門の先生方におかれましては、先生方が長年PCIで守って来られた患者さんがいよいよ心不全とくに拡張型心筋症でどうにもならなくなれば、ご相談ください。お役に立てれば幸甚です。

一つお願い:患者さんやご家族の中には状態がうんと悪くなってから連絡して来られるというケースがよくあります。お気持ちはわかるのですが、すでに寝たきりとか集中治療室に入ってからでは、手術に耐えられる体力がなく、どうにもならないこともあるのです。できればまだ何とか歩けるうち、これが有利なタイミングです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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抗がん剤治療後の心不全(いわゆるCTRCD) 【2021年最新版】

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最終更新日 2021年1月2日

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◼️抗がん剤による治療で心不全が

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医学の進歩でがんもかなり治り、あるいは長持ちするようになりました。211247569

まだまだ未解決の問題はありますが、それでもがんの患者さんにとって光が見えて来ているのは確かと思います。

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ところが、

抗がん剤によって心筋つまり心臓の筋肉が壊れることがあるのです。

このことは昔から知られてはいましたが、抗がん剤がより積極的に使われるようになって問題になっています。

これを近年、がん治療関連心機能障害(CTRCD)と呼ばれるようになりました。

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◼️心筋を壊す抗がん剤とは

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たとえばアドリアマイシン(ドキソルビシン)などのアントラサイクリン系抗がん剤ですね。

これは良く効くためリンパ腫、白血病、乳がんその他に現在も欠かせない薬になっています。

これが1型心筋障害(アントラサイクリン心筋症)を引き起こすのです。このタイプは一旦起こると元に戻りにくく、治療が難しいと言われています。

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またトラスツズマブに代表されるHER2(ErbB)阻害薬による2型心筋障害(トラスツズマブ心筋症)が知られています。このタイプは発生してからでも適切に治療すれば半数以上の患者さんで回復が可能です。

あるいは近年白血病治療で成果を上げている第二世代チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるニロチニブやダサチニブが末梢動脈閉塞症を引き起こすことが報告されており注意が必要です。

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◼️がん治療関連心機能障害(CTRCD)の治療は

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抗がん剤を止める、あるいはその使用量を調整することなどから治療は始まりますが、ケースによっては血管新生阻害剤が注目されています。ただこの薬は全身の血管の内側を守る血管内皮細胞を傷つける恐れがあり、そのために高血圧や肺高血圧、血栓症や心臓の機能低下などが起こるため慎重に使う必要があります。今後の展開が期待される治療法ではあるのですが、まだこれからの医学とも言えましょう。

この他にも元の状態と使用した抗がん剤の内容によってさまざまな対策が図られています。

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◼️もしCTRCDで心不全になってしまったら

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もともとががんを持っている状態からの出発なので大変ですが、がんが寛解状態となり心不全だけが問題という状態でしたら心臓外科がお役に立つことがあるかも知れません。

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CTRCDの心不全でも治せるケースが

私たちの経験ではアドリアマイシン心筋症で拡張型心筋症+機能性僧帽弁閉鎖不全症になった患者さんが心不全のため息苦しくてたまらないと来院され、その方に僧帽弁形成術とくに乳頭筋吊り上げ(PHO)を施行し元気になられ、10年近く経った現在もお元気にしておられるという経験があります。

また私が京都大学で勤務していたころ、アドリアマイシンでヒツジに拡張型心筋症を作り、これを改良左室形成術で心機能改善を図っていました。→英語論文番号108、124

心不全の内容が左室の拡張や動きの低下、あるいはそれによる僧帽弁の歪みからくる弁逆流なら私たちのPHOや新しい左室形成手術で治せるケースがあるでしょう。→→もっと見る

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実際、がんセンターの先生方と相談していると、拡張型心筋症や機能性僧帽弁閉鎖不全症になって困った患者さんはこれまで少なからずあるとのことでした。しかしそれらの患者さんは薬で対処できなくなると看取りつまりお亡くなりになっていたのです。残念なことです。内科医と外科医は交流があるようでも十分ではないのです。

がん治療関連心機能障害(CTRCD)の心不全と言われた患者さんは諦めるまえにご相談ください。

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いい心臓・いい人生 【第138号】 第22回日本成人先天性心疾患学会にて

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いい心臓・いい人生 【第138号】 第22回日本成人先天性心疾患学会にて

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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから

編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始

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新年のご挨拶をと思っているうちに、いつのまにか2月に入り時間の速さに負けて

いるこの頃ですが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

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先月、日本成人先天性心疾患学会に参加してまいりました。慈恵医大の森田紀代造

先生が会長で東京にて開催されました。

私は病院内の用事が多く、1日だけの参加となってしまいました。

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まず国際セッションで私たちが近年ちからを入れているオリジナル手術「Dual Repair」

を発表しました。虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症に最近注目の

カテーテル治療(Mクリップ)は低心機能例などに効果が少ないという事が示されて

いる中で、低心機能例でも安定したMRの制御が長期間でき、心機能や運動能が改善

するため、Mクリップの良きパートナーになり得ることを示しました。これまでなす

すべもなく看取りになっていた患者さんたちをこれから多数お助けできればと思います。

海外の先生を含めていろいろと建設的なご質問をいただきうれしく思いました。

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つぎに今回の学会でほぼ唯一のビデオセッションにてKay-Reed法術後遠隔期のMRに

対する複雑弁形成をご紹介しました。Kay-Reed法とはこどもの弁形成によく使われる

簡便な方法で、逆流部分とくに交連部の弁輪を潰す形で閉じ、他の部分は温存します。

そのため術後も弁は体とともに成長するのです。小さいこどもさんには良い方法と

思います。

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それが大人になり、僧帽弁が両尖とも逸脱し弁輪形成部付近の後尖が低形成になって

いたため両尖にそれぞれ4本、計8本の人工腱索を立て、低形成部は心膜パッチで拡大

してうまく逆流は消えました。人工腱索は多数になればなるほど、その長さ調整が

難しいと言われますが、恩師デービッド先生の方法を改良して使いやすくしたため問題

なく完遂できました。高い評価をいただき、ありがたく思いました。

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1日だけの参加でしたが、他発表にも参考になる事が多く、たとえば先天性心疾患術後

のデービッド手術(自己弁温存大動脈基部再建)では肺動脈弁付近の剥離に注意など、

有用な情報が得られました。また心疾患をもつ妊婦さんをどう守るかの議論には鬼気迫る

真剣さがあり、産科・小児科・内科・外科・麻酔科はじめ各分野の先生方の患者さんへの

愛情を感じました。

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またランチオンセミナーで筑波大学循環器内科教授の小池先生がCPXの最新の成果を講演

され、今後に役立つ優れた内容でした。リハビリロボットHALを使ってみたくなりました。

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朝早起きして日帰りで夜遅く帰宅してでも参加する甲斐がある学会でした。関係の皆さま、

会長の森田先生、ありがとうございました。

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令和2年2月5日

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米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

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心臓移植を検討中または待機中の方々へ【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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◆ 心不全パンデミックの時代に

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近年、心不全は「心不全パンデミック」と呼ばれるほど患者数が増加しています。ilm09_ad10004-s
そのなかで「心臓移植しか道がない」と宣告される方も少なくありません。

無事にドナー心が見つかり、移植を受けられた方は安堵されますが、現実にはドナー不足が深刻で、多くの患者さんが待機中のまま時間を過ごしています。

また補助循環(補助人工心臓:VAD)で移植までつなぐ方法もありますが、

  • 医療費の負担が莫大

  • 感染や合併症のリスク

  • 社会的・家庭的条件による制約

といった課題が多く、日本の医療保険制度でも大きな負担となっています。

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◆ 「もう看取りしかない」と言われた方へ

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移植が適応外とされる理由には、

  • ご家族のサポート体制がない

  • 糖尿病や他の持病

  • 著しい肥満
    など医学的・社会的要因も含まれます。

その結果「治療法なし」「看取り」と言われてしまう患者さんが少なくありません。

しかし、本当にそれだけしか選択肢はないのでしょうか?

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◆ 手術で社会復帰した患者さんたち

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私たちの外来には「打つ手なし」と言われた患者さんが数多く来られます。その中には、新しい手術で社会復帰できた方々がいます。

  • 患者さん1:拡張型心筋症(DCM)+機能性僧帽弁閉鎖不全症
     有名病院で「不治の病」とされましたが、**デュアル形成術(乳頭筋最適化+新しい左室形成術)**で手術後に元気に仕事復帰。

  • 患者さん2:急性大動脈解離術後の虚血性心筋症
     大学病院で「薬以外に治療なし」と言われていましたが、僧帽弁形成+左室形成術で改善し、社会生活に復帰。

👉 詳しくはこちら → デュアル形成術について

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◆ 新しい治療 ― デュアル形成術と左室形成術

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「心尖部を切る左室瘤手術は心不全には向かない」と誤解されることがあります。
しかし私たちが行う新しい左室形成術は従来の瘤切除とは異なるコンセプトで、心機能の改善を目的とした再構築手術です。

特に

  • 拡張型心筋症(DCM)

  • 虚血性心筋症

  • 機能性僧帽弁閉鎖不全症(FMR)

  • 虚血性僧帽弁閉鎖不全症(IMR)

などで「移植しかない」と言われた患者さんでも、移植以外の選択肢が存在する可能性があります。

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◆ 諦める前にご相談ください

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  • 入退院を繰り返している心不全患者さん

  • 「次の入院が最後かもしれない」と不安を抱える方

  • 移植待機中だが先が見えない方

こうした患者さんこそ、一度は外科的治療の可能性を検討することが重要です。

心臓移植や人工心臓だけが希望ではありません。
私たちは「ネバー・ギブアップ」の精神で、命と生活の質(QOL)を守るための外科治療を提案しています。

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福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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機能性僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症に対するデュアル形成術【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月12日

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⬛️ デュアル形成とは?

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KomedaAATS2019FMRfigure3
2019年のアメリカ胸部外科学会僧帽弁シンポジウムで発表した図です

**デュアル形成術(Dual Reconstruction Surgery)**とは、私たちが開発した

  • 乳頭筋最適化術(PHO:Papillary Head Optimization)

  • 心尖部凍結型左室形成術(Frozen-Apex SVR)

同時に行う新しい外科手術です。

従来、左室拡大が高度(直径 65mmを大きく超える)症例では弁形成が困難とされ、人工弁置換が選択されることが多くありました。しかし、デュアル形成術では左室直径80〜90mmを超える重症例でも弁形成が可能となり、多くの患者さんが人工弁を使わず心機能を温存しています。

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⬛️  なぜ心臓が良くなるのか?

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デュアル形成術は「弁」だけでなく「左室本体」を同時に整える点に特徴があります。

  1. 僧帽弁逆流の改善

    • 左室の歪みにより弁が引っ張られて生じる「機能性僧帽弁閉鎖不全」を根本から改善。

  2. 心機能の回復(弁―心室連関の改善)

    • 乳頭筋を前方へ吊り上げることで左室収縮力が強化。

    • 心尖部形成により弁―左室―心尖部の連携が回復。

  3. 肺うっ血の軽減・運動耐容能の改善

    • 左室拡張末期圧が下がり、息切れが軽くなります。

  4. 致死性不整脈の減少

    • 手術前に不整脈が多発していた患者さんの約8割で術後消失

    • 左室圧負荷の軽減と筋肉状態の改善が背景と考えられます。

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⬛️  Mクリップ(カテーテル治療)との違い

  • MitraClip(Mクリップ)は弁尖をクリップで寄せる治療で、弁逆流を軽減しますが左室の形や機能を直接改善するものではありません

  • 大規模試験(MITRA-FRなど)でも、左室拡大が強い症例では効果が限定的と報告されています。

  • 僧帽弁後尖がゆがんでいるケース(テザリング角度が45度以上)では効果が出にくい
  • 一方、デュアル形成術は弁と左室の両方を再建できるため、大きな左室や重症心不全や後尖テザリング高度なケースでも改善が期待できます。

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⬛️ 従来の手術との違い

  • 手術時間の短縮:従来のドール手術やセーブ手術に比べ、心停止時間が短く患者負担が軽減。

  • 乳頭筋と左室のより自然な位置関係を回復できる。

  • 左室のねじれ運動が再び生じやすく、心機能が効率的に働く。

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⬛️  どんな時に効果が大きい?

  • 高度の機能性僧帽弁閉鎖不全症

  • 拡張型心筋症(特に虚血性)

  • 心尖部に梗塞瘤や拡張を伴う症例

これらでは、術後の改善度が大きく、「看取り」とされていた方が社会復帰する例も少なくありません。

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⬛️ 限界と注意点

  • 後尖が硬化・短縮している場合は、後尖拡大術を併用する必要があります。

  • **左室が極度に拡大(拡張末期径85mm以上)**している場合は改善度に限界があります。

    • ただし、それでも「補助循環(VAD)までの時間を延ばす(bridge to VAD)」効果は期待できます。

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⬛️  今後の展開

  • Mクリップで十分な改善が得られなかった患者さんへの救済治療として有効性が期待されています。

  • 若年者や活動性の高い高齢者においても、人工弁を避けつつ心機能を維持できる治療として応用が広がっています。

  • これまで「不治」とされていた患者さんの社会復帰例が増えており、今後さらに治療選択肢として普及が進むと考えられます。→→心移植を検討中の方々へ

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⬛️  まとめ

  • デュアル形成術は PHO(乳頭筋最適化術)+Frozen-Apex SVR(心尖部凍結型左室形成術) の組み合わせ。

  • 重症機能性僧帽弁閉鎖不全症・拡張型心筋症でも弁形成を可能にする革新的手術です。

  • 弁と左室を同時に再建することで、心機能回復・不整脈抑制・社会復帰につながります。

  • 「看取り」や「移植待機」と言われた方でも新たな可能性があります。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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Mクリップでうまく行かない時に、、、【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月12日

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⬛️ Mクリップとは?

**MitraClip(Mクリップ)**は、カテーテルで行う僧帽弁逆流(僧帽弁閉鎖不全症:MR)の低侵襲治療です。→→Mクリップの解説はこちら

  • 主な対象:

    • 機能性僧帽弁閉鎖不全症(FMR)

    • 拡張型心筋症(DCM)に伴う弁逆流

    • 心筋梗塞やステント治療後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症(IMR)

僧帽弁の前尖と後尖を小さなクリップで中央部につなぎ、逆流を軽減させます。

  • メリット:全身麻酔不要、胸を開けない、早期回復が可能。

  • 課題:逆流が完全には消えにくく、再発しやすい傾向が報告されています。

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⬛️ Mクリップで効果が不十分な場合

  • 一時的に改善しても、数か月~数年で逆流が再発することがあります。

  • 特に心機能が悪いときや、後尖角度が45度を超える重症例では成績が良くありません
  • 欧米の報告では、Mクリップ後に弁が損傷し、**人工弁置換(弁を丸ごと取り換える手術)**になった例もあります。

  • 人工弁は有効な手段ですが、左室の形を不自然に変えることがあり、心機能低下のリスクを伴います。

👉 そのため、Mクリップ後の外科的再建が検討されるケースがあります。

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⬛️ 外科手術でも「弁形成」を目指す

当院では20年以上にわたり、機能性・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術に力を注いできました。

  • 左室駆出率が30〜50%から時に20%台に落ちた重症心不全でも、弁形成で逆流を改善し心機能を回復させてきました。

  • 弁置換ではなく、弁形成にこだわる理由

    • 左室の収縮力をできるだけ温存

    • 再入院のリスクを減らす

    • 社会復帰を目指せる

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⬛️ 最新の方法:デュアル形成術

私たちが開発した**Dual Repair(デュアル形成術)**は、

  • 乳頭筋前方吊り上げ術(PHO)

  • 心尖部凍結型左室形成術(Frozen-Apex SVR)

を組み合わせた新しい術式です。

この方法により:

  • Mクリップでは改善が難しい大きく拡張した左室でも弁形成が可能

  • 弁逆流を減らすだけでなく、心臓のポンプ力を回復

COAPT試験やMITRA-FR試験で「Mクリップは効果が乏しい」とされたような患者群でも、当院のデュアル形成術で改善しているケースが多数あります。

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⬛️ 諦める前にご相談を

  • Mクリップ後に逆流が再発してしまった方

  • 「もう移植しかない」と言われた方

  • 人工弁置換を避けたい方

こうした患者さんでも、弁形成+左室再建によって心機能を取り戻し、仕事や社会復帰を果たしている例が増えています。

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⬛️ まとめ

  • Mクリップは低侵襲で有用ですが、全ての症例に効果的とは限りません

  • 効果が不十分な場合でも、**弁形成術+左室形成術(デュアル形成)**という選択肢があります。

  • 「Mクリップが効かなかったら終わり」ではありません。

諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。

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執筆:米田 正始
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いい心臓・いい人生 【第137号】 第33回日本冠疾患学会にて

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いい心臓・いい人生 【第137号】 第33回日本冠疾患学会にて
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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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いつの間にか今年も残すところ僅かになりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。
この12月13日と14日に岡山で日本冠疾患学会があり参加して参りました。
今回は倉敷中央病院の循環器内科門田一繁先生と心臓血管外科小宮達彦先生が会長で、
「人をつなぐ、医療をつなぐ」というテーマでした。

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循環器病領域は内科系と外科系の競合が厳しい領域の一つと言われて久しいのですが、
今これをハートチームの元にしっかりつなごうという趣旨が含まれる現代的なテーマ
です。私はご縁あって長年この学会の理事を務めさせて頂いておりますが、学会
そのものの方向性が内科と外科の垣根を超えた全面協力での患者さんベスト治療で
あるだけに、この学会にふさわしい立派なテーマと思いました。

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さて初日の合同シンポジウム「心原性ショックに対する補助循環」では主にインペラや
ECMOがらみの補助循環の最近の展開が論じられました。インペラやエクペラなどの強力
治療によってこれまでの不治の急性心不全、ショック状態が治せる可能性を感じました。

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ついで外科ビデオセッション・New TechniqueではInfarct Exclusion変法が近畿大学
の金田敏夫先生から発表されました。30年以上前にトロントから発表させていただいた
方法を強化していただき嬉しいことでした。私は機能性僧帽弁閉鎖不全症FMRに対する
Dual Repair僧帽弁形成術を2つのビデオで検討しました。座長の兵庫医大坂口太一
教授、福島県立医大横山 斉教授からいくつもの鋭いご質問を頂き、皆さん特長がわかり
やすくなったように思いました。内科系の先生もこの発表を聴いて下さっていたようで、
今後内科外科のハートチームでの参考になればと思いました。

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ランチョンセミナー・今CABGとどう向き合うか?では榊原病院の平岡有努先生がOff
the job trainingとして通常のブタ心臓だけでなく肋骨付き資材でのLITA―LAD吻合や
VSP練習、食道肺付き資材で弓部大動脈置換術練習なども行えることを紹介されました。
九州大学の塩瀬明教授はチャレンジャーズライブから始まり国内ローテーションや海外
留学などでも果敢に研修機会を広げて行く努力を紹介されました。昔から伸びるひとは
どんな環境でも伸びるという言葉がありますが、こうした立派な姿勢の人にはより立派
な環境を提供したいし、提供しなければと皆さん思われたのではないでしょうか。

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懇親会でビデオ発表へのご質問やコメントを内科・外科の先生方からもいただき、大変
有意義でした。とくに内科の先生方からの貴重なコメントをいただけたのはこの学会
ならではと改めて感じいりました。

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2日目は実践エコー講座(岸和田市立病院の六尾哲先生)を拝聴しました。広範囲の
テーマを網羅され、良くまとまっており、さっそく役に立つ実用的実践的な内容でした。
コメディカルの皆さんにも有益であったものと思います。

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外科シンポ・オンポンプ対オフポンプCABGは部分参加でしたが、オフポンプもオン
ポンプもその特徴を把握して使いこなせば良い結果に結びつくという印象を得ました。
無理なくできるならオフポンプが第一選択と思いました。オフポンプ先進国日本の
お家芸を皆で安全に進化させて頂きたいものです。

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心臓リハビリ教育セミナー(群馬県立心血管センターの安達 仁先生)は心臓外科医
の私には斬新な視点が多く、累積LDLや異所性脂肪、夜食を控える理由、Insulin
release解除のための食後リハ運動、ACSトリガーと酒・コーヒー・怒り・興奮、心リハ
とCAD早期発見、笑顔の重要性などなど、病気の予防だけでなく二次予防、術後予後の
一層の改善などにも有益と思われました。

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ランチョンセミナー(阿部幸雄先生)は心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症(AFMR)と
心房生機能性三尖弁閉鎖不全症(AFTR)で、冠疾患学会との関連は良くわかりませんでした
が、充実した内容であり良いセミナーと思いました。
AFMRはやや少ない疾患という印象でしたが高齢者MRの原因では最多であり油断禁物です。
AFTRも高齢者では多く僧帽弁と三尖弁はセットでしっかり治す必要があるとのことで、
同感でした。

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午後のポスター・心機能低下では座長(ピンチヒッター)を仰せつかりました。いずれも
興味深い内容でした。私は前日のビデオ発表の解析部分をポスターで解説しました。
さまざまなご質問をいただき、ポスターらしい少数精鋭検討となりました。内科の先生も
お越しくださり、嬉しいことでした。

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岡山はお隣の倉敷に大原美術館があり、学会前に行く機会を得ました。前回ここへ来た
のは小学校4年生の時なので大昔のことでしたが覚えのある絵があり懐かく振り返り
ました。個人的にはモネとエルグレコは圧巻と感動しました。大原美術館の起源(利潤の
社会還元、それも一般市民への還元)や小島虎次郎、印象派の時代進化なども興味深く
思いました。

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学会テーマのように今後の仕事につなげる有益な学会でした。留守を守って下さった
医誠会病院の皆様に感謝申し上げます。

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令和元年12月19日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

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執筆:米田 正始
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重症心不全や心筋症などで「打つ手なし」と言われた患者さんたちへ【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月12日

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⬜️ 現状 ― 心不全パンデミックの時代に

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近年、重症心不全(拡張型心筋症・虚血性心筋症・機能性/虚血性僧帽弁閉鎖不全症など)で「もう薬や点滴では対応できない」「打つ手がない」と言われる患者さんが増えています。
これは社会的にも大きな課題で、「心不全パンデミック」という言葉が使われるほどです。

しかし、本当に打つ手はないのでしょうか?

私たちが長年この病気に取り組んできた経験から言えるのは――
**「治療できるケースは想像以上に多い」**ということです。

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⬜️ 手術で改善が期待できるケース

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次のような患者さんは、新しい外科治療で改善する可能性があります:

  • 左室が大きく拡大し、形がまん丸になっている

  • 心尖部(左室の先端)が膨らんでいる

  • その結果、僧帽弁が引き伸ばされて逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が強い

  • 左室の収縮力が正常の3分の1以下に低下している

👉 このような場合、新しい左室形成術やデュアル形成術で心機能の回復や生活の質の改善が期待できます。→→もっと見る

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⬜️ 改善が難しいとされるケース

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一方で、次のような状態では治療が難しいこともあります:

  • すでに寝たきりになっている

  • 認知症が高度に進行している

  • 左室はあまり拡大していないが硬くなっている

  • 僧帽弁逆流が少ない

  • 肺高血圧が強い

ただし、完全に不可能とは限りません。たとえば、肺高血圧があっても僧帽弁逆流が強い方では術後に改善した例もあります。

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⬜️ 実際のエピソード

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ある患者さんは、有名病院で「末期心不全・看取り」と診断されました。しかし当院に転院後、新しい左室形成術を受けて元気になり、職場復帰まで果たしました。

このように、「打つ手なし」と言われても実際には治療可能なことがあるのです。

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⬜️ 治療選択を狭めないために

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  • 内科の先生でも、日進月歩の外科治療の進歩をご存知ない場合があります。

  • 過去の大規模臨床試験(STICHトライアル)が「左室形成術に効果がない」と誤解された影響で、手術の価値が正しく伝わっていないこともあります。

しかし、実際の臨床現場では改善例が多数存在します。重要なのは、内科と外科が協力する「ハートチーム」で総合的に判断することです。→→新しい手術・デュアル形成はこちら

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⬜️ メッセージ ― 諦める前にご相談を

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  • 「もうダメ」と言われた方

  • 入退院を繰り返している方

  • 心移植を検討中の方

こうした患者さんでも、新しい外科治療で元気を取り戻せる可能性があります。→→心移植を検討中の方々へ

👉 特に心不全で繰り返し入院している方は、次の入院が最後になるリスクもあります。諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。

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⬜️ まとめ

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  • 重症心不全=「打つ手なし」ではありません

  • 左室形成術やデュアル形成術で改善可能なケースが多く存在します

  • 内科と外科が連携し、ケースごとに最適な治療を見極めることが大切です

希望を失わず、一歩踏み出すことが大切です。

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