京都大学での再生医療・臨床試験の再開を慶ぶ

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京都大学探索医療センターにてbFGF(ビー・エフ・ジー・エフ、塩基性線維芽細胞増殖因子)の徐放(数週間という時間をかけて病気のある部位で徐々に効力を発揮させる方法)による下肢動脈閉そく(閉塞性動脈硬化症、ASO)による虚血に対する臨床治験が今月から再開されました。それも探索医療センターの目玉プロジェクトとして、大きな予算と専任の教官が複数つく形で、大変うれしいことです。遺伝子も細胞も使わないためがんなどの心配も少ない安全性と、確実に効く効率の良さが評価されたということです。

bFGF徐放による血管新生治療で劇的な改善がみられた患者さんです このbFGF徐放による治療法は6年あまり前に、私が京都大学で仕事していたころに、再生医工学研究所の田畑泰彦教授との共同研究で、臨床試験として7名の患者さんに使い、成果を上げ、患者さんに喜ばれていたものですが、2007年のごたごたで中断になっていたものです。

7名の患者さんでの成果は国内外の学会や英語論文195番(2007年)でも発表し、患者さんを苦しめていた下肢の潰瘍が消えたり小さくなったり、あるいは歩ける距離が何倍にも増えたり、という「目に見える」ものでした。またその準備として1998年ごろから動物実験を繰り返し、その効果を自分の眼で確認していただけに自信もありました(英語論文のページにたくさんあります)。

さらにこの方法は当時の探索医療センターの王英正助教授らとの共同研究で、心臓の幹細胞から誘導した心筋細胞の移植治療の強力なサポートとして細胞を守り増やすために併用されていました(英語論文222番)。残念ながらこの方法は当時は京大病院では時間切れで実現できませんでしたが、今年になって京都府立医大にて循環器内科や心臓外科の夜久均教授のもとで臨床試験として一例目が実現しました。

せっかく患者さんに役立つものを10年もかけて開発してもそのまま尻切れトンボになるのを心配していたのですが、上記の皆さまのおかげで何とかこれから展開しそうな情勢になり、うれしく思っています。

とくに京大病院探索医療センターでの臨床治験の再開には、田畑泰彦教授はもちろん、心臓血管外科の坂田隆造教授や池田義准教授、丸井晃准教授はじめとした先生方の大変なご努力があったものと拝察されます。関係の諸賢に感謝いたします。

しかしせっかくの良い方法も、日本のドラッグラグの中では産業化・一般化まではなかなか至らず、わずかな数の患者さん、それも下肢虚血の患者さんにしか恩恵が届かない懸念が依然と続いています。そのため、いくつかの方法でこの方法を広く普及させる道を今、探っています。

何で日本はこうなんだ、とぼやいてもはじまらないため、一歩ずつ進めて行くつもりです。皆さんの応援をお願いいたします。

2010年9月18日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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