アジア心臓血管胸部外科学会のご報告

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この4月6日から10日にかけて台北でアジア心臓血管胸部外科学会が開催されました。

私は3つばかり発表があったため参加いたしました。

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学会前日に恒例のアメリカ胸部外科学会AATSとの合同卒後教育セッションがありました。IMG_2429

着実な進歩あるいは完成度の向上が感じられる内容で皆さん参考になったものと思います。

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Adams先生のいつものビジュアルかつ技術面を詳述されるお話を楽しく拝聴しました。同先生としてはどちらかと言えば珍しい虚血性MRの話が多く、日本の我々のほうが進んでいるような一面も感じられましたが前向きに取り組んでおられることを知り安堵しました。

Damiano先生の冠動脈バイパス手術のお話ではオフポンプバイパスOPCABがオンポンプに比べて劣勢であるという内容で、OPCABで鳴らして来た日本の心臓外科にとっては困惑する内容でした。

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Adams先生が複雑僧帽弁形成術のおはなしをされ、こちらの方はAdams先生らしい、ここまでの経験と考察の蓄積をさらにUpdateされたお話で、皆さん頭の中がすっきりしたのではないかと思います。

Taweesak先生の定番のリウマチ性僧帽弁膜症に対する弁形成も同様で、さらに完成度が上がり、標準手術の域にはいったものとして何よりでした。

Damiano先生の本職ともいえるメイズ手術のレビューもよくまとまっていました。

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Bavaria先生の二尖大動脈弁のDavid手術(自己弁温存式基部再建)も参考になり、二尖弁も三尖弁と同様に形成するメリットがあり、長持ちするというのは患者さんにとって福音と思います。現場も自信をもってこの手術ができると確信しました。

Stanford大学時代の友人Moon先生の脳保護のお話も最近この領域の知識が若い世代に乏しくなっている中で極めてタイムリーな企画であったと思います。

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その他にも興味深いレビュー講演が多数あり一日で十分学べたのではないかと思います。

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1日目からの学会もアジア+アメリカ+ヨーロッパの仲間の参加を得て、濃厚な内容になりました。

僧帽弁形成術のセッションはAdams先生はじめより突っ込んだ内容でしたし、CABGのセッションでは日本勢の健闘も目立ち、高梨先生の内膜切除や菊池先生のMICS CABG、宮川先生の心筋シートなどお国自慢の逸品が披露されました。

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弓部大動脈瘤のセッションでは座長不在のため浅井先生が飛び入り座長をされ立派でした。私も浅井先生から誘われたのですがつい遠慮してしまいました。優れた発表も多かったのですが、私たち野崎徳洲会の急性大動脈解離・弓部手術はかなり突出して進歩的で、これからどしどし発信して皆様のご意見を頂こうと思いました。

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その他にも面白いセッション、優れた発表が多数あり最後まで楽しめた学会でした。

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私は3つ発表しましたが、その一つ、機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋最適化手術いわゆるPHO手術が最優秀演題5つのひとつとして残り、その審査がありました。これから機能性僧帽弁閉鎖不全症(含、虚血性僧帽弁閉鎖不全症)の外科治療はもっと成績が上がる、患者さんの生存率や心機能はさらに改善する、皆さん頑張りましょうというメッセージは浸透したようでうれしく思いました。発表のあとAdams先生やTaweesak先生、Hakim先生ら数名の大御所が君の優勝だと握手に来てくれたのは光栄な限りでした。

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最後のディナーの際に発表があり、優勝は地元台湾の若手のものになりましたが、あまり年寄りがでしゃばらない方が良いとの考えもあり、それはそれで楽しい経験でした。ともあれこれからより多くの患者さんが助かればこれほどうれしいことはありません。

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HOCMに対するモロー手術とくに心室中部閉塞型に対するものや、ポートアクセスMICSでのメイズ手術もさまざまな質問をいただき、関心を持っていただけたこと、感謝しております。

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この学会中は、なるべく地元の大衆食堂で食事をするようにしてみましたが、台湾の方々は日本人に親切で、今後もこうした良き関係を続けて行ければなどと思ってしまいました。

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また夜景写真を撮りにクルマで走りましたが、どうも台北のスモッグは中国本土からの汚染が来たものらしく、これからアジア全体で環境汚染対策をやらねばアジア全体が沈んでしまうのではないかと少し心配になりました。

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楽しく充実した台北での数日間でした。学会関係の方々と、野崎徳洲会病院で留守を守ってくれた皆様に心から御礼申し上げます。

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平成28年5月1日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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心臓外科医のブログ――くすのき・さつき 循環器カンファランス

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この2月27日に大阪府守口市で開催されたくすのき・さつき 循環器カンファランスに参加しました

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このカンファランスは大阪東部の循環器地域医療のために立ち上げられ、今年で10周年、今回で20回目となる、活発な研究会です。

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代表世話人の神谷匡昭先生(松下記念病院循環器内科)のお言葉を借りますと、

守口・門真(くすのき・さつきは両市の木と花です)を中心として、寝屋川・旭区や大東・四条畷まで北河内地域での循環器診療の向上を目指して発足されたそうです。これまでのべ1000名以上の先生方が参加されたということからその活発な内容が想像できます。

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10周年記念誌も研究会の際に配布されました。代表世話人の神谷先生はじめ、各世話人の先生方のメッセージを拝見し、熱い想いが伝わってきました。

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くすのき・さつき循環器カンファランスの創設者であられる杉原洋樹先生のメッセージの一節につぎの文がありました。

「急性心筋梗塞や不整脈などに代表される心疾患は、突然発症し重篤な転帰に至る場合が少なくありません。迅速な診断と適切な治療が必要で、そのためには病診連携が極めて重要です。お互いの顔を知り、一緒に勉強し、情報交換することで、病診連携の充実を目指しています。」

これを拝見して参加して良かったと思いました。

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カンファランスは終始和やかで、しかし熱のこもった質疑がなされて勉強になりました。

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とくに松下記念病院の卒後1年目や2年目の研修医の先生らが頑張って発表され、それを皆でサポートしておられるのが素晴らしいと感心しました。

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重症の横紋筋融解の患者さんを病診連携で素早く診断、治療し事なきを得たケースや、僧帽弁逸脱症の患者さんで非定型的な拡張期余剰心音の検討など、プライマリケアに根ざした良い検討がされました。ただしこの患者さんは僧帽弁形成術の適応があるのに拒否されて経過観察になっているとのことで、これは私たちが力を入れている先進的MICSでの弁形成なら患者さんも受け容れやすいのではないかと思いました。

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またレフラー心内膜炎による左室内血栓で左室心尖部が充満した画像が供覧され、私はこうした病態に対する手術経験を多数持っているためコメントさせて戴きました。レフラーがらみの血栓だけであるか、あるいは心尖部肥大型心筋症左室緻密化障害が背景にあるかの鑑別もお願いしておきました。いずれも稀な病態ですが、たまたま私がまとまった数の経験を持っているため、研修医の先生方にも勉強して頂こうと思った次第です。いずれの場合でも外科手術で治せるというのも理由の一つです。

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話題提供のセッションでは松下記念病院のリハビリテーション科理学療法士の橋本先生が同病院での積極的な取り組みをお話されました。心臓内科のみならず、心臓外科の観点からもこれからますます発展して欲しい領域です。

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症例供覧のセッションでは我が野崎徳洲会病院心臓血管外科から王先生に弁膜症に対するMICS手術について講演して頂きました。とくに私がこれまで開発しちからを入れて来たLSH法や前腋窩切開のMICSを紹介して頂きました。有益なご質問やコメントを戴きありがとうございました。これからもっと多数の患者さんたちに少ない苦痛と早い仕事復帰、そして見えにくくきれいな傷跡で心臓手術を笑顔で受け容れて戴けるきっかけになればと願っています。

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同セッションでは大阪市立総合医療センター 心臓血管外科の佐々木康之先生が虚血性心筋症に対する左室形成術の手術経験(SAVE手術Dor手術)についてお話されました。こうした手術を100例以上経験して来た私なりにコメントしたいことがいくつかあったのですが、あまり専門的な話になると開業医の先生方のお役に立てない懸念があったためまたの機会にさせて戴こうと思いました。

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しかしいずれのご発表と討論も内容のある、学ぶことの多い、楽しいものでした。

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そして特別講演は国立循環器病研究センター研究所の斯波真理子先生の「脂質異常症治療最前線」でした。私は残念ながら所用のため途中から退席しましたが、コレステロールの研究者から多数のノーベル賞受賞者が生まれた歴史は、人類がコレステロールと闘って来た歴史を物語るものと、心に残るものがありました。また機会をみつけて同先生のお話をお聴きしたく思いました。

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次回のくすのき・さつき循環器カンファランスにも是非参加したく思いました。神谷先生、世話人の先生方、スポンサーさん、お疲れ様でした。

 

2016年2月28日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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心臓外科医のブログ 第46回日本心臓血管外科学会にて

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恒例の日本心臓血管外科学会に行って参りました。

今回は名古屋大学血管外科の古森公浩先生が会長を務められ、同先生のお人柄と名古屋の良さが感じられる学会総会でした。

今回のテーマは「アカデミックサージャンを目指して」というもので、研究マインドを常に持って血管外科を極めてこられた古森先生らしいものでした。

シンポジウム「近未来のCABGはどうあるべきか」ではここまで磨き上げられたCABGとくにオフポンプやスケルトン化された動脈グラフト、左小開胸のMICSなどを軸とした、より完成度の高いCABGと、薬や再生医療の併用などが発表されました。

20年ほど前にトロントで学んだCABGと比べてここまで進化したかという感慨がありましたが、同時に、カテーテルによるPCI治療の躍進ぶりと比較すると小さい進歩の積み重ねを超えず、もっと革新的なブレイクスルーが必要とも感じました。

もっともハートチームとして最良最適な心臓病治療を行うという意味では患者さんがお元気になり、ハートチームの個々のメンバーが張り切って仕事できておればそれで良く、その中で心臓外科医が新たな活躍の道を開拓して行けばという気もしました。

その後に講演されたKappetein先生(EACTS、ヨーロッパ心臓胸部外科の重鎮)の内容も同じ方向性であると感じました。

冠動脈の複雑病変例については新型ステントと比較してもまだまだCABGの優位性は続き心臓外科の貢献度が急に揺らぐことはなさそうですが、ハートチームとしての医療をより充実させていくことが大切なようです。

特別講演はノーベル賞受賞の赤崎勇先生の「青色発光ダイオード(LED)はいかに創られたか」でした。

世界のほとんどの研究者がギブアップしたこの研究を初志貫徹して成功された、その経過の一部を拝見し感動しました。

お話の中で「我ひとり荒野を行く」というくだりがありました。これこそパイオニアの心意気と感じ入っていたところ、口の悪い友人に「お前にそっくりや」と言われて光栄というよりお恥ずかしい限りで、今日頂いたエネルギーを患者さんの治療に向けることでもっと貢献したく思いました。

近年の医療事故の中で大動脈手術時の脳神経系合併症と心臓手術全般における心筋保護の知識の欠如が指摘されている中、この解決へ向けてのセッションがいくつかありました。

特別企画2 心大血管手術の中枢神経保護戦略はその一つで、大変有用なセッションでした。弓部全置換術での脳保護は低体温循環停止+逆行性脳灌流から選択的順行性脳灌流へと変遷し、ある程度の成績改善を見ましたがLeukoaraiosisやシャギー大動脈例などまだまだ課題は残ります。大動脈解離への外科治療も昔と比べれば長足の進歩を遂げた領域ですが、脳の灌流不全はまだ問題で、早期に脳灌流を確保することで一層の改善が見込まれます。rSO2などのモニターで覚醒遅延パタンをより詳細に調べればここでも成績の改善が可能でしょう。胸腹部大動脈の手術で最大の問題ともいえる脊髄対麻痺への対策はこれまで知られている多数の方法、たとえばAK動脈同定と保護、脳脊髄液ドレナージ、MEP、低体温、再建順序とストラテジー、肋間動脈再建や灌流、至適血圧の維持、良好な血行動態の維持などをさらに磨く必要があります。ただ脳脊髄液ドレナージひとつをとっても合併症がゼロではなく、さまざまな注意が必要です。MEPモニター所見に応じて麻酔薬プロポフォールの量を調整すること、MEPが良くても血圧が低いと脊髄麻痺が起こり得ること、脊髄灌流のStealを減らす努力、左心バイパス時に血圧コントロールが容易な閉鎖回路の利点、脳脊髄液ドレナージの押しどころと引きどころ、麻薬の適切な使い方、などなど盛りだくさんの内容でした。

もう一つの問題である心筋保護については、上田裕一先生の理事長講演でも解説がなされ、同先生をはじめ心臓血管外科学会で編集した心筋保護法の教科書が紹介されました。

脳保護にせよ、心筋保護にせよ私たちの世代は多大な時間とエネルギーを割いて研究し勉強したのですが、最近はそうした過去の大切な遺産を知ることなく、合併症を起こすという残念な事例が増えているようで、若い心臓外科医の先生方にはぜひこうした人類の英知を学んで頂きたく思いました。

最近のトピックスのひとつである大動脈弁形成術についてパリのLansac先生が概説されました。STJとAVJがらみのeHの調整、シェーファーバンドなど弁形成おたくの間ではすでに常識化している内容でしたが、完成度をますます上げられているようで、興味深く拝聴しました。

森之宮病院の加藤先生のスタンフォードB型大動脈解離に対するTEVARのお話は大変明快でわかりやすく参考になりました。野崎徳洲会病院でも積極的にTEVARや外科治療を多数行っている領域だけに興味をもって拝聴しました。かつてはB型解離は保存治療と教えられたものですが、その長期成績は悪く、もっと積極的な治療が必要と思って来ました。偽腔が拡大するパタンを知り、早期治療で治してしまえば多くの患者さんたちに福音になると確信しました。

夕方の不整脈外科研究会では名古屋大学の碓氷先生の当番世話人で大動脈弁手術時の心房細動治療について議論が交わされました。

不整脈外科研究会は前半のみ参加させて頂き、後半は自己心膜等による大動脈弁再建術シンポジウムに参加しました。東邦大学大森病院の尾崎重之先生が開発された自己心膜大動脈弁再建法の報告を拝聴し参考になりました。

学会2日目には僧帽弁形成術の正中切開VS MICSのセッションがあり、経験の着実な蓄積を感じました。

弓部大動脈瘤のセッションでは川崎幸病院の多数の外科治療の経験が印象的でした。同時にZone 0や1でのハイブリッド治療の進歩も報告があり、Totalデブランチから部分デブランチまでさまざまなデブランチとTEVAR治療を組み合わせている私たちには大変興味深いセッションでした。なお弓部大動脈手術での低体温の安全性と有用性の発表もあり、昨今の安易な常温虚血への警鐘として良かったと思います。

大動脈弁形成術のUpdateというセッションでも上記Lansac先生のお話と同様、着実な進歩と蓄積が感じられました。大動脈弁輪形成リングもうまく使えば有用と思うのですが、現状ではシェーファーバンドが確実という印象を受けました。しかしリングも使い方や適応によっては利点があり、今後の展開を期待したく思いました。

ニューヨークのDavid Adams先生が僧帽弁形成術の講演をされました。これまで何度もお聴きしていますが、いつも何か得るものがあり今回も拝聴しました。

僧帽弁尖の強度を考えて、交連部のマジックSutureには心膜フェルトを使うべき、というくだりはきめ細かい提示で感心しました。逸脱部の隣の、どちらかと言えば低形成部の処理などもこれまで同様の経験がありなるほどと思いました。

近年の運動負荷エコーの進歩を受けて、ひとつ質問しました。従来の安静時エコーでは問題ない僧帽弁が運動エコーでは狭窄っぽくなるという報告があったため、今後は運動負荷エコーで術後評価し、それに合わせて弁形成も改訂すべきだろうかということをお聴きしました。するとこれは自分だけでは答えられないと、エコーの大家Martin Roberts先生にバトンを渡され、同先生はExcellent Questionと持ち上げながら、症状改善している普通のケースにはそう神経質になる必要はない旨のお答えでした。確かに運動能力の必要度に応じた対応で、アスリートのような患者さんなどに運動負荷エコーを行うので十分なのかも知れません。

私自身の発表は3日目に2つの会長要望演題の中で行いました。

ひとつは低心機能を伴う成人先天性心疾患のセッションで、肥大型閉塞性心筋症HOCM、修正大血管転位症cTGAに伴う三尖弁閉鎖不全症TR、左室緻密化障害、冠動脈ろうについて、ここまでの経験を報告しました。いずれも比較的稀な病態で経験の蓄積が少ない施設が多く、興味をもって聴いていただけたようです。最適なタイミングで手術をし、アフターケアも充実させ、心機能を低下させずに長期予後を改善するという努力を今後も続けたく思いました。

また有益なご質問をいただき、ありがたがく思いました。

今一つは午後の「虚血性心筋症+僧帽弁閉鎖不全症に対するMVPでは弁下組織への手術介入は必要か」のセッションでの発表でした。

私が開発したPHO(乳頭筋最適術)による僧帽弁形成術は生理的で、前尖のみならず後尖のテザリングも改善し、心機能も改善することをデータでお示ししました。

同じ患者さんで乳頭筋の吊り上げ前と後で弁のテザリングが取れ、弁逆流が消えることをお示しし、その意義を見て戴きました。座長の荒井先生も最近は理解が進んで議論がかみ合うようになりましたね、と語っておられたのが印象的でした。

PHOを採用して下さる施設が徐々に増え、世の中に広く貢献できればこれほどうれしいことはありません。そのために確実で効果的なやり方を発信し続けて行ければと思いました。

さまざまなセッションの他に懐かしいあるいは仲良しの先生方と語る機会がいくつもあり、楽しい学会でした。

同時に若手と接する機会をより大切にして皆さんの展開に役立つような努力も続けて行こうと思いました。

会長の古森先生、立派な学会をありがとうございました。

 

2016年2月20日

米田正始

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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第一回 徳洲会心臓血管外科部会

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この10月18日、日本胸部外科学会の会期中DSCF0318bに神戸にて徳洲会病院の心臓血管外科部会が開催されました。

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世話人の大橋壮樹先生によれば、以前から構想はあったものの皆さん多忙でなかなか機会が造れず今に至ってしまいましたとのことで、野崎徳洲会病院での緊急手術の多さと忙しさを実際に体験して、うなずけました。

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今回の第一回集会は我が恩師・Tirone E. David先生(トロント大学心臓血管外科)を特別講師として呼んで頂き、私にとっては二重に楽しく有難い会になりました。

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DSCF0385b講演テーマは弁膜症治療をめぐってで、ここまで40年以上の経験をさまざまな文献的考察をまじえてお話されました。

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私にとっては留学まもない1988年ごろ、初めて見るゴアテックス糸人工腱索やバーロー症候群への複雑僧帽弁形成術、弁がぼろぼろに壊れた感染性心内膜炎IEをもとどおりきれいな弁に再建する手術などなど、忘れられない経験をもう一度プレイバックして頂けるような気持ちで拝聴しました。

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そのころ、同先生の指導にて担当した研究、硬性リングよりも軟性リングで僧帽弁形成術を行った方が、術後の運動時心機能が良いという研究成果(英語論文のページ、論文#11)も久しぶりに拝見でき、懐かしい限りでした。

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あれからまもなく30年、これほど永い時間が経ったことをしみじみ感じながら拝聴しました。

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大橋先生のご配慮で質疑応答の時間がたっぷりと取られましたが、皆さんシャイであまり質問されません。

DSCF0346.

そこで質問がない時や、あっても途切れるたびに、不肖私が弟子のひとりとして質問させて頂きました。質問といっても、サクラの質問ではなく、最近の手術の中で自分なりに疑問に思っていたことを順々にぶつけて率直なご意見を頂くという、得難い機会となりました。

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対しては新たな改良によって弁形成でき、かつ患者さんに大きなメリットがある、そうした状況があるのではないかという質問や、三尖弁形成術にも工夫すれば人工腱索は役に立つのではないか、あるいはループ法よりもメリットが大きいと考えられる連続式人工腱索設置法の方法の進化など、確認と勉強をさせて戴きました。

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講演のあとで若い先生方がDSCF0586b順番にツーショットでDavid先生と記念写真を撮っておられました。大変良いこととおもいます。これをきっかけに世界の一流の手術や病院システムに関心をもち、成長して頂ければと思いました。最近の若者は昔ほど留学熱がないと聞きましたが、広い世界に師を求めて学び、活躍して欲しいと願わずにはおれませんでした。

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講演のあとは懇親会で、鈴木隆夫理事長はじめ徳洲会の先生方とゆっくり懇談でき、新参者の私にとってはありがたい機会になりました。大橋先生、東上先生、樋上先生、曾根田先生、吉田先生はじめおなじみの心臓外科医の先生方とも楽しく歓談させて頂きました。

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若い先生方は私などにも熱心にご質問下さり、これから新しい術式や治療法を軸IMG_1928に共同研修や共同研究をやろうと盛り上がりました。かつての京大同門会での熱く楽しい想い出を彷彿とさせる、躍動感を感じるひとときでした。

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若い先生方に背中を押してもらえるというのは幸運なこととあらためて知りました。皆さんに大きく成長して頂けるよう、自分も頑張らねばと襟を正しました。

世話人の労をお取りくださった大橋先生、関係の皆様、ありがとうございました。

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AATS 大動脈シンポジウム 2015 in Kobe

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アメリカ胸部外科学会(AATS)は心臓血管外科の領域では世界で最も権威のある学会です。その医学的水準や見識、社会的信用、倫理的正当性や自浄作用、さらには政治力に至るまで極めて高いレベルにある学会です。心臓血管外科の領域で世界中の学会のお手本になっているといっても過言ではありません。そのAATSが20年ほど前から大動脈シンポジウムを2年に1度、ニューヨークで開催するようになり、すでに歴史のあるシンポジウムになっています。IMG_1860

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この分科会を日本で初めて、アジアでも初めて、神戸にて開催されました。会長の大北裕先生とSundt先生のご尽力に敬意を表したく思います。

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記念すべき会で、発表もあったため私も参加しました。

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海外から高名な先生方が参加されたことと、国内からも近年の大動脈外科の進歩を象徴するかのように力作の演題がならび、内容が充実するとともに、日本の大動脈外科が世界からより評価されることにつながるものと感じました。

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心に残った発表をいくつか紹介します。

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まず初めに大動脈基部再建のセッションがあり、我が恩師Tirone E. David先生(Toronto大学)が基部再建のテクニックを解説されました。昔、トロントでこの方法を開発したころは大動脈弁がそう壊れていないケースが多かったのですが、成績安定とともにより重症例を扱うようになり半分の患者さんで何らかの弁形成を併用しているとのことでした。やはり基本はしっかりとしたCoaptationが大切で、とくにCoaptation Heightの確保ということでしょうか。

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弁尖の開窓は組織の弱さを示し、あまりうれしい所見ではありませんが、細いゴアテックス糸2列でしっかりと補強し、成績改善に役立っているようです。同先生はこれを20年以上昔からやっていますが、やる価値はあるようです。Yacoub法つまりリモデリング法は老人の3尖が良い適応になりやすく、二尖弁ではDavid法つまりリインプランテーションを使うとのことでした。

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LuebeckのHans-Hinrich Sievers先生はご家族のご不幸のため来日できず、スカイプをもちいたネット講演になりました。二尖弁の大動脈は解離を起こすリスクが10倍というのは実感にあう数字でした。大動脈は形成より置換が良いというのもうなずけました。面白かったのは大動脈壁が黄白色になると、それは細血管がないためで、危険なサインという観察でした。そういう眼で今後しっかりと大動脈を見ようと思いました。

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MGH(マサチューセッツ総合病院)のThoralf M. Sundt先生は大動脈基部の再手術を解説されました。心臓血管手術の中で比較的難易度の高い手術で、いろいろと注意点も多く、参考になりました。癒着が危険レベルのときには慎重なアプローチが必要で、場合によってはバルブインバルブを活用し基部再手術を回避するというのは役立つことがあると思いました。基部再建時のLMTの剥離は最小限に、時にキャブロール法を活用、あるいはキャブロールバッフルで基部全体を包む形で危機を逃れるなどは、経験豊富な同先生ならではのメッセージでしょう。

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日本勢の健闘が目立ったのは急性大動脈解離弓部大動脈全置換関係の領域でした。

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東北大学の斉木佳克先生はAcute Aortic SyndromeでIntimal Defectの検出で治療に役立てることを、神戸大学の大北裕先生は大動脈解離の術前のMalperfusion対策の試みを、自治医大の岡村先生・安達秀雄先生らは弓部のエントリー遺残が以後の大動脈拡大に影響することを、国立循環器病研究センターの湊谷謙司先生はSundt先生の低体温に対する中等度低体温での選択的脳灌流を、東京医大の荻野均先生は弓部全置換術の最近のテクニックについて、大阪大学の倉谷徹先生はTEVARを積極的に活用したハイブリッド治療について、それぞれ述べられました。いずれもおなじみの内容でしたが、この領域では世界をリードしつつあることを感じました。

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私自身もこれまでと違って毎日大動脈解離の患者さんが来られる施設に移動したため、これからこの領域でも貢献できればなどと思ってしまいました。

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イタリア・ボローニャのRoberto Di Bartolomeo先生のエレファントトランクの詳細についてのお話も興味深いものでした。

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京都大学の川東先生の弓部全置換術と枝付ステントグラフトの比較は、かつてその初期導入を担ったものとして懐かしく興味深いものでした。外科手術はやはり脳梗塞の回避などで安定したちからを持っており、枝付ステントグラフトはハイリスク例を中心に適応を絞るのが良いとあらためて思いました。

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午後の胸腹部大動脈瘤のセッションでも内容あるディスカッションが続きました。

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フィラデルフィアのJoseph E Bavaria先生のB型解離の扱いでは、Good patientかつbad anatomyのケースに外科手術、その他はTEVARか内科治療という棲み分けでそれぞれの特徴を良く反映したものと感じました。
浜松医大の椎谷紀彦先生は胸腹部大動脈瘤の外科手術において、肋間動脈などの再建をより確実に、かつ長期の開存率をより高くするための工夫を論じられました。参考になりました。

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Terry P. Carrel先生のウシ心膜をもちいたTubeグラフトのきれいな姿を示されました。感染に強いとのことで、今後もっと積極的に使いたいと思いました。私も大動脈基部膿瘍などでホモグラフトの代わりにこの方法を用いたことが何度かあり、その裏付けを頂いた気分でうれしく思いました。

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その他にも興味深い発表が続き、充実した一日でした。
ポスターも同様で、心臓血管研究所の國原孝先生の大動脈弁形成IMG_1837b術は完成度が高く、今度のスタンダードになるものとあらためて思いました。

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私はバルサルバ洞破裂に対する新しい手術を発表し、これまでの術式より安定度が良く、他院で失敗したケースの救命例複数も含めて、さまざまな状況に対応できるものと思いました。恩師Tirone E. David先生も私のポスターを見に来て下さり、良いコメントを頂きました。

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たっぷり丸一日勉強してもまだまだやることがあるといった印象ですが、アメリカの外でこうした機会が創られたことに大きな意義を感じます。大北先生、Sundt先生、関係の皆様、お疲れ様でした。

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2015年10月20日

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米田正始 拝

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執筆:米田 正始
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第四回 重症心不全外科研究会にて――左室形成術をめぐって

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第68回日本胸部外科学会の際にこの重症心不全外科研究会が開催されました。今回は自治医大さいたま医療センターの山口敦司先生が当番幹事つまり会長でした。

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この研IMG_1854究会はこれまで多数の患者さんたちを救命して来た左室形成術がSTICHトライアルという欠陥研究のため誤った過小評価を受け、そのために患者さんが左室形成術の恩恵が受けられなくなるという悲劇が発生しているのを何とかしようという趣旨で立ち上がったものです。

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これまでオーバーラッピング手術などで業績を上げて来られた北海道大学の松居喜郎先生が代表幹事として、その事務局機能を同大学の若狭哲先生が担って下さっているものです。左室形成術の大御所であられる北村惣一郎先生や須磨久善先生にも顧問としてご参加いただいている、この領域のオールニッポンともいえる集まりです。

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今回は山口先生のご配慮でこれまで以上に内容豊富な研究会になりました。

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まず須磨先生のご司会で松居先生が重症心不全外科研究会のおかれている立ち位置と今後の課題というテーマで概説されました。左室形成術が患者さんの予後改善に役立つという根拠を示す努力を紹介されました。

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医療現場では左室形成術の威力は知る人ぞ知る、おおきなものがありますが、この心臓手術は重症例に行うことが多く、患者さんの中には移植以外の何をやってもダメというほどに心臓が弱っている方も多く、これらの方々では左室形成術は効果なしという結論になりがちですし、逆に軽症すぎる方の場合は左室形成術をやらなくてもまあまあ元気ということも多々あります。このあたりのしっかりとして見極めが大切で、こうした方向の議論がなされました。

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この中で松居先生らのグループのSWI(Stroke Work Index、心筋の性能を知る有用な指標です)が20以上なら予後が良いという指標は今後の有力な参考になり得るものと思いました。

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ついで山口先生の司会で若狭先生がこれまでの本研究会での公表エビデンスをまとめて紹介されました。

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SURVIVEという名前のレジストリ―で1500例以上のデータの蓄積のなかから検討されました。その77%が虚血性でした。左室形成術は768例あり、そのうち40%に僧帽弁手術がなされていました。

左室駆出率40%未満の1093例を検討されました。左室形成術はちょうどその半分にされていました。

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その結果、Group2というESVIが71-96の範囲の中等度の左室機能不全例にて左室形成術は有意に予後を改善していました。左室はそれより大きいつまりより重症のグループでは明らかな予後改善効果に至っていませんでしたが、私の見たところ、それらのグループは拡張機能障害がない範囲内でもっと積極的に左室を縮小すれば心機能も生存率もさらに改善したのではないかと思いました。これからこうした細部を煮詰める必要があるものと感じました。

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研究会の広範はビデオプレゼンテーションで、東京医科歯科大学の荒井裕国先生と京都府立医大の夜久均先生の座長で行われました。

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東京大学の小野稔先生は弓部大動脈瘤と虚血性心筋症の患者さんに対して左室形成術と僧帽弁形成術、CABGを行い、ついでデブランチTEVARで仕上げられたケースを報告されました。こうした複合疾患での一つの良い組み合わせ治療と思いました。

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国立循環器病研究センターの小林順二郎先生は機能性MRを合併したDCMの一例を報告されました。左室Dd65mmをバチスタ手術で積極的に45mmまで縮小し改善をみました。機能性僧帽弁閉鎖不全症を僧帽弁形成術で治すためにこうしたバチスタ手術は有用とあらためて感じました。ただここまで小さくすると拡張機能障害が出て困ることもあり、注意深く進める必要を感じました。

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東海大学の長泰則先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する左室形成術を報告されました。中等度以上のMRには弁置換をしているとのことでした。左室形成術はDor手術を使っておられますが、ジオメトリー維持のため工夫をしておられました。術後の心室頻拍VTを防ぐために積極的に左室の内膜切除を行っておられるのが印象的でした。

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名古屋大学の六鹿先生は40代のデュシャン型筋ジスDCM患者さんに心拍動下MVRとTAPなどを施行し、一旦改善していたものの6年経って心不全が進行したというケースを報告されました。私は多少とも似たケースを経験していたため、次のようにお勧めしました。まずこのタイプの筋ジスは心筋も侵すため油断はできない、しかしゆっくりと進むためまだ左室形成術で当分元気になる時間があるかも知れない、そこでその専門家と心筋の予後を十分検討されること、そしてDd89 EF12なら拡張機能障害がなければ左室形成術でかなりの改善が見込まれるため、前向きに検討して頂きたい。

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松居先生はEF8.8% Mild MRの虚血性心筋症に対するオーバーラップ手術と乳頭筋接合と吊り上げの一例を報告されました。Dd78は64へ、EF15は22へ改善したようで、これからさらに薬で改善を図って頂きたく思いました。MRIでのViabilityの有用性や乳頭筋接合の詳細も論じられました。

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私、米田正始はある大学病院で心移植候補と判定された患者さんに、ご希望によって左室形成術とPHO式僧帽弁形成術によって社会復帰された一例を報告しました。現在術後1年が経ちますがお元気でNYHA I度つまり心不全症状なく、ご家族の介護などで活躍しておられます。

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こうした超重症でも外科手術とくに左室形成術やPHOなどによって元気に社会復帰できる方が多いことをもっと多くの方々に、とくに内科の先生に知って頂きたく報告しました。

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移植センターの先生に聞いたところ、最近の循環器内科の先生方の傾向として、こうした心不全でβブロッカーが効かなくなれば即LVAS補助循環にという短絡が多いとのことでした。LVASは長足の進歩を遂げていますが、まだまだQOLは低く、やはり左室形成術などの通常治療で元気になれれば患者さんへのメリットは大きなものがある、こうしたことも論じました。

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山口先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋接合術の工夫を解説されました。カラーとMICSリトラクターをもちいると経僧帽弁的に乳頭筋が良く見え、手術がやりやすくなります。

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京都府立医大の山崎先生は広範囲の梗塞除外を行った左室形成術の一例を示されました。ELIET法と呼ばれる直線閉鎖にて心機能を改善されました。

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さまざまな症例から活発な議論ができました。最初のご講演と合せて熱い志の高い研究会でした。

なお幹事会でここまでの立派なデータの蓄積をうまく使って左室形成術の特徴を浮き彫りにするための努力工夫を論じました。私見ですが、中等度心不全で効果が出ている以上、中高度心不全や高度心不全では必ず効果のあるケースが存在するはずで、それらを検討することでより左室形成術の真価や限界が見えてくるものと思いました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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東京HOCMフォーラム2015にて

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恒例になったこのHOCMフォーラムに今年も参加して参りました。
4回目の今回は慶応大学循環器内科の前川裕一郎先生が当番幹事で開催されました。

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学会が多数でき、それぞれ内容のある学術集会が開かれている昨今ですIMG_1838が、この会のようにHOCMに特化してまる一日、さまざまな角度から深く掘り下げることができる機会はそうありません。

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参加して有意義な一日だったと思います。私なりに感じたところをざっとお書きします。

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まず教育セッションとしてHOCM診断や評価のためのCTを榊原記念病院の歌野原祐子先生が、心エコーを東京大学の大門雅夫先生が、HCMへの治療デバイスとしてICDを榊原記念病院の井上完起先生が概説されました。

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私は前日夜まで大阪で仕事していたため、朝一番で出発してもこのセッションには間に合いませんでしたが良い内容であったと聞きました。

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それから症例発表が行われました。
日本医大の厚見先生は不安定な潜在的HOCMに対して複数の圧格差誘発試験により高度な圧格差を証明し、PTSMAで軽快した一例を報告されました。

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安静時には圧格差が見えなくても負荷をかけると変動して圧格差が生じるケースは私も経験があり負荷エコーの有用性を示すものと思います。変動型のほうが軽症とはいうものの、体を動かせない、仕事ができないというのは重症と言ってよく、しっかり治療するのが正しいと再認識しました。

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心臓血管研究所の嘉納先生は症状の管理に難渋し、最終的に外科治療を要したHOCM症例を報告されました。
中隔枝がちょうど良いところに存在しないときはアブレーションには無理があり、外科治療の適応のひとつになります。とくに乳頭筋異常を伴えばより外科が役に立ちます。これらを確認できた報告でした。

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仙台厚生病院の伊澤先生は事前の心臓CTが焼灼する中隔枝の決定に有用であったHOCMの一例を報告されました。左室のCTと冠動脈CTを併せて考えるとより正確な位置決めができ有用です。画像診断の進歩は素晴らしいと思いました。

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国立循環器病研究センターの天木先生は僧帽弁形成術後に発生した僧帽弁閉鎖不全症に対してアブレーションが効いたS字状中隔のケースを報告されました。

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僧帽弁形成術が増えた現在、こうした難症例をときおり経験します。術後はすっかり元気になって頂いてこそ弁形成ですので、私は術中にSAM予防策をより徹底して行うか、そうでなければモロー手術を同時施行するようにしています。参考になった報告でした。

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ランチョンセミナーでは日本医大の天野先生はLGE(ガドリニウム遅延造影)だけではない、HCMの造影CMRを解説されました。

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LGEは主に心筋の瘢痕を見ているためDCMなどで問題となる線維化は良く見えません。また心筋の壊れはじめの状態を見つけることも難しいです。この点、T1マッピングはびまん性線維化の評価ができ、そして造影後シネ画像で梗塞と閉塞の同時評価ができ、これらを従来の検査法に加えれば診断精度はより上がるわけです。今後の展開が楽しみになりました。

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午後のセッションのトップバッターとして榊原記念病院の高梨秀一郎先生がSeptal Reduction Therapyのお話をされました。
HOCMの外科治療を積極的に行っている施設は少数で、この手術を経験したことのない心臓外科医が多数おられます。そうした中でこの治療を定着させようというご努力は立派と感心しました。
診断の進歩や病態の理解が進み、左室中部閉塞型が増えたこともあり、最近はかつての経大動脈アプローチだけでなく経心尖部アプローチが増えているとのことでした。MayoクリニックのSchaff先生の報告以来、この方法が理解され、今後伸びるものと思いました。

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私はMICS技術を応用し、経大動脈弁で左室中部閉塞までは十分対処でき、その場合皮膚切開も小さく傷跡を見えにくくできるため、左室をなるべく傷つけないという方針で進めて来ました。しかし心尖部にも病変があるケースが増えているため、左室心尖部アプローチが役立つときには積極的に使おうと思いました。左室形成術で100例以上の経験蓄積があり、この経験で心尖部アプローチは大変やりやすいためこれからより重症にも対応できることを期待しています。

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なおこの心尖部肥大型HCMは従来知られていたよりも予後が悪く、今後の治療の進歩で救われる患者さんが増えるものと感じました。

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引き続いて共催セミナーがありました。
慶応大学の湯浅先生はエンドセリン受容体拮抗薬を用いたHCM治療の可能性について講演されました。ノーベル賞のiPS細胞のおかげでHCMの病態の理解が進み、現在この病気はサルコメア構造遺伝子に異常がある、サルコメア病であることがわかっています。これまでの薬物では特異的なものがないため成果も不十分です。エンドセリンのひとつであるET1にはETAとETBの2つのレセプターがあり、このうちETAのブロッカーを使うことで心筋の乱れが減ることが分かったとのことで、今後の展開が楽しみです。

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それからまた症例発表が続きました。
その中で小倉記念病院の林先生の心不全を呈した重症AS・大動脈弁狭窄症合併のHOCM症例が目につきました。
86歳とご高齢のためなるべく侵襲を下げたい、しかし治療が中途半端ではかえって不利、ASとHOCMを順々に治すか、その場合どちらを先にするか、あるいは外科手術で両方同時に治すか、さまざまな議論がありました。
まさにケースバイケースで、しかし安全第一で、後悔を残さない治療が大切と思いました。

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同様の症例報告が慶応大学の秋田先生からもありました。とくに悪性リンパ腫が見つかったとなると、それを進行させないよう、なるべくカテーテル治療を優先させるのが賢明と思いました。
またこうした狭窄が複数ある症例では通常のドップラー計測ができず、カテーテルでも微妙な位置決めが必要で必ずしも容易ではありません。心エコーではプラニメトリーで眼で見ての評価が必要となり、より熟練が必要かと感じました。

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これにも関連して、公立陶生病院の浅野先生が心エコーによる加速血流評価が有効であった複合型HOCMの一例を報告されました。

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ついで教育セッションとして、
1. HCM診療における遺伝子診断の役割(愛媛大学の大木元明義先生)
2. 失神を示すHCMの評価(榊原記念病院の高見澤格先生)
3. 日本におけるHCM登録研究(高知大学の北岡裕章先生)
の講演がありました。

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S字状中隔によるHOCMでは遺伝子変異が10%にしかないのに、心室中隔全体の肥厚では80%に遺伝子変異がある、しかし心尖部型では30%程度というのは興味深いデータでした。

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失神の鑑別では1.心室性や上室性不整脈、2.徐脈性不整脈、3.左室流出路閉塞、4.自律神経の障害、5.心筋虚血と拡張障害の相互作用、などを総合的に勘案する必要があり、また最近6か月以内の原因不明の失神では突然死の危険性があるというのは重要なメッセージと思います。HCMでも30%の患者さんに失神が起こるというのも同様です。

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最後に共催セミナーII パネルディスカッションが開催されました。
高山守正先生とともに不肖私も座長として仕事させて戴きました。

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HCMの年代別治療というテーマで、
まず大阪大学の小垣先生が小児領域におけるHCM重症例への対策の現状を概説されました。HCMの多くは特発性つまり原因不明で、1歳未満で診断がついた患者さんは予後が悪く、2歳までに心不全死することが多いのですが、学齢期に達しても心臓突然死という問題があること、治療では代謝性のHCMでは欠乏する酵素を補うことで改善できるものの、そうした治療ができないタイプでは有効な治療が難しく心移植に頼る傾向があること、などなどをお話されました。

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ついで榊原記念病院の内藤先生が40歳未満のHCMに対する心筋切除術を解説されました。40歳未満のケースでは左室中部閉塞型が多いためか左室内圧格差が低く僧帽弁閉鎖不全症の合併が少なく突然死のリスクが高いこと、手術では心尖部アプローチが増えていることなどを報告されました。

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榊原記念病院の高見澤先生は成人HCMを内科の立場から検討されました。35歳がターニングポイントで若くして診断された患者さんは心臓突然死が多く左室肥大や乳頭筋異常が多いことを示されました。心不全、不整脈などの突然死、脳梗塞などを予防するトータルマネジメントの重要性を強調されました。外科的治療は若年者、より高度な肥厚、併存心疾患や乳頭筋異常などがある場合に適応になりやすいとまとめられました。

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最後に慶応大学の前川先生は高齢者HCMの治療を内科の立場からお話されました。高齢者では1.Fraility、2.Comorbidity、3.Disabilityなどに注意して治療を考える必要があること、高齢者や担癌患者ではPTSMAになりやすい、80歳以上についてはこれからEBMを蓄積する必要があることなどを示されました。

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全体のパネルディスカッションの中でHCMはHOCMよりも心臓突然死が多く注意が必要であることも示されました。

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これまで何となく手つかずであったHCMやHOCMに対してきめ細かい治療戦略ができつつあることを実感しました。

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帰りの電車の都合で懇親会には参加できませんでしたが、内容のあるディスカッションが十分にできた素晴らしいフォーラムであったと思います。前川先生、高山先生、お疲れ様でした。

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執筆:米田 正始
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第20回日本冠動脈外科学会総会にて

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この学会はむかしから親しみのある学会です。節目にあたる20回総会に行って参りました。
今回は京都府立医科大学の夜久均教授が会長で12年ぶりの京都での開催となりました。

 

夜久先生は12年前のことを昨日のように覚え20thJACASていて感慨深いのものがあると仰っていましたが、私も当時府立医大の先生方と楽しく内容のある交流の場を増やすよう先代の故・北村信夫先生と一緒に努力していたため、鮮やかに覚えていました。

それもあって印象に残る学会になりました。

 

まず学会前日の理事会にてこの学会の立役者である瀬在幸安理事長が引退表明をされ、時代の流れを感じさせる、物悲しい始まりとなりました。日本の冠動脈外科の黎明期から頂上期までを牽引してこられただけに特別な存在であったからです。
意外に知られていないことですが、瀬在先生は学会長を市中病院の実力派からも選出するという、日本の学会では稀有なことを何度も行われ、その先進性をも教えて戴いたように思います。

 

 

さて学会は初日から内容のあるディスカッションが続き、充実していました。IMG_1637

左室形成術の世界のリーダーとも言えるMenicante先生(写真中、左は堀井先生です)、台湾のMICSの天才Kuan-Ming Chu先生、MICS CABGのトップとも言えるBob Kiaii先生、CABGエコーのリーダー畏友 Rune Haarberstad先生、つい最近アジア心臓血管胸部外科学会を開催された香港の Song Wanなどの先生が講演され、私はその全部は聴けませんでしたが皆さん大変勉強になったと思います。個人的にはかつてお世話になった先生揃いで内緒の論議も含めて楽しい二日間でした。

 

なかでもKiaii先生はダビンチというロボットをもちいてバイパス手術を長年にわたり積み重ねて来られました。久しぶりにゆっくり語ることができ参考になりました。日本ではロボットは患者さんに多額の負担を強いるため、ロボットを使わずにMICSバイパス手術をやっていることをお話したら少し複雑な表情でした。

 

日本は世界に遅れをとっている一方、国民皆保険で誰もが他国よりも安価な医療を受けられる、この兼ね合いが難しいことをお話しました。しかしカナダでは医療は全額国家負担のはずですので(少なくとも私がいたころはそうでした)工夫の余地があるかも知れないと思いました。

 

まずオフポンプバイパス手術いわゆるOPCABを検証するシンポジウムがありました。オンポンプバイパスと比較しての研究はこれまで多数なされ、なかなからちがあきません。おそらく重症例でしか差が出ないからでしょうが、重症例を無作為割り付けすることは倫理的にできないのです。と言ってしまうと重症例ではOPCABが有利ということになり、多くの心臓外科医は賛同すると思います。そこにこの研究の難しさがあるのです。

 

日本のデータベースでの研究から、手術の予想リスクが高い患者さんではOPCABでは実死亡率は増えないがオンポンプでは増えるというデータが示されていました。なるほどと思いました。これをどのようにして世界に納得していただくか、ですね。

 

昼前に瀬在幸安理事長の恒例の、しかし最後の理事長講演がありました。20年にわたりこうした地道なデータ集積と解析、発表を続けてこられたことに皆強い敬意を抱かれたことと思います。同先生には来年からも参加して教えてくださいとお願いしてしまいました。

 

会長要望演題として心室中隔穿孔VSPのセッションが複数あり、私自身の発表もあっため参加しました。25年以上前にトロントから発表した心筋梗塞除外術いわゆるDavid-Komeda法と呼んで頂いている方法ですが、成績向上のために皆さん改良を重ねて来られた成果を拝見しました。

 

流れは複数パッチを使うなどして結局大き目のパッチで縫合部を守りながらというところにあるようですが、なるべく早期に手術というこれまでの大方の方針が術前管理の進歩に支えられて数日間待つという施設もあり、やはり弱い心筋をもっとうまく扱えるよう術式の改善が必要とあらためて思いました。

 

右室から2枚のパッチでサンドイッチ式に閉鎖する方法は以前より減った感がありますが、私は適材適所で左室の状態を見てうまく活用すれば良いと思っています。実際、北里大学では前壁VSPに径左室のExclusion法、手術がやや複雑になる後壁VSPには径右室の2枚パッチという形で使い分けをしておられ、参考になったと思います。

 

私はこれまで発表して来たExclusion法の完成型(になるかも知れない方法)を供覧しました。縫合線に余分な張力がかからず、超急性期でも心筋が裂けない、運針そのものも2次元的で簡略な方法で、これなら若い先生らにも比較的短時間でマスターしていただけるのではないかと期待しています。もう1-2例経験したところではやくまとめて出したく思っています。

 

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する手術方針というワークショップがあり、東京医科歯科大学の荒井裕国先生と私、米田正始で座長をやらせて頂きました。

 

まず私が乳頭筋最適化による僧帽弁形成術、PHO法と呼んでいる手術の中期遠隔期の成績を発表しました。もっとも生理的、そして慣れれば簡便な術式として使って下さる先生が増えて感謝しています。弁を治すだけでなく、左室をできるだけ回復改善させる効果があり、カテーテルによるMクリップ時代にもお役に立ち続けることができるようにしたいものです。

 

北海道大学の新宮先生はLVSWIが20以上あるケースでは予後が良いことを示されました。こうした生理学的研究は極めて重要かつ有用と思いますが、現代の研究予算は分子生物学・遺伝子医学や再生医学関連でないとなかなか獲得できないため努力が必要です。工夫してぜひ研究を完成させて頂きたく思いました。

 

東京医科歯科大学の水野先生は乳頭筋吊り上げによってMRの再発が減り生存率も上がる傾向を示されました。MVRでは逆流はゼロになるのですが必ずしも成績が良くない、その点をこれからさらにDiscussionしたく思いました。

 

京都大学の西尾先生と国立循環器病研究センターの島原先生はそれぞれの視点から僧帽弁形成術と左室形成術を併用するメリットを論じられました。今後こうしたデータを早く全国規模で集積し、左室形成術がより多くの患者さんを救えるようにしたいとあらためて思いました。

 

Menicante先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症が心室の病気であるという観点から、左室形成術に重点を置いてお話をされました。左室形成については大変貴重な情報を頂けたと思いますが、僧帽弁形成術については我々ほどやっておられないため少し議論はかみ合いませんでした。日本はまだまだ心移植が少ないため僧帽弁形成術などの非移植医療ではすでに世界の最先端を行っているのではという印象を持ちました。

しかし全体として情報と示唆に富む、良いセッションだったと思います。荒井先生と共に納得いたしました。

 

 

引き続いて左室形成術の適応と術式という、虚血性僧帽弁閉鎖不全症と関連した重要テーマのワークショップがありました。北海道大学の松居喜郎先生と香川大学の堀井泰浩先生の座長で進められました。

 

東海大学の長先生は長年努力して来られたDor手術の101例での成績を検討されました。重症例を多数含むなかで10年生存率71%は立派でした。左室縮小の度合いは43%でおそらくこのあたりが最適かと感じました。もちろん対象によりますが。術前の僧帽弁閉鎖不全症の存在が長期生存に影響しなかったというのは左室形成術の威力ではないでしょうか。

 

京都府立医大の大平先生はELITE法という内側から直線閉鎖する左室形成術を検討されました。側壁などの形成には優れた方法と思います。

 

私は一方向性Dor手術と仮称するオリジナルな手術を発表しました。Dor手術の簡便さとSAVE手術のジオメトリー特性をもつ方法で、重症例ほどメリットが大きくなるものと思います。ただ世間一般とくに内科では左室形成そのものが冷え切っているため、まだまだ啓蒙活動が必要です。

 

Menicante先生は例のSTICHトライアルのあと症例数は少し減ったがいまは回復していることを示されました。左室形成術は長期生存率を高めるメリットがあること、左室拡張が著明なときには左室の形を整えることが大切と話されました。さすがは1000数百例を執刀した大御所と思いました。

 

虚血性心筋症のセッションでも興味深い発表が続きました。

 

済生会宇都宮病院の古泉先生は低左室機能症例に対するオンポンプ心拍動CABGはあまり良くないことを示されました。

 

私はこれは是非ご参考にと、スタンフォードで研究した内容をお話しました。つまり左室をUnloadしすぎると心内膜下虚血となり運が悪いと心機能を悪化させるのです。世間一般には左室はUnloadすればするほど良いという考えが多いですが、そうとは限らないことを動物実験で証明しジャーナルから発表したことをお話しました。

 

宮崎市郡医師会病院の古川貢之先生は術前左室拡張不全のLVR治療成績に与える影響について発表されました。そこで心尖部のConisity Indexが大きいと拡張機能不全が強くなり治療成績が悪化することを示されました。さすが強力なエコーチームと外科医との研究と感心しました。これまで感覚的に知っていたつもりのことを、客観的に数字で示していただき立派と感心しました。丸いSphericalな左室は拡張機能が悪い、ということで外科的に左室形成でうまく治せば、収縮機能のみならず拡張機能もある程度改善できればすごいと思いました。

 

私の施設からは小澤先生の代理として私が発表しました。ある大学病院で心移植適応と判定された患者さんが、左室形成を求めて私の病院へ来られ、一方向性Dor手術で見事に元気になられたことを報告しました。このようなケースがあることを内科の先生方にもっと知って頂き、ハートチームで心不全を治せればと思います。

 

2日目のお昼には夜久先生の会長講演を拝聴しました。OPCAB、虚血性心筋症に対する左室形成術、虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋吊り上げ術、若手に対するチャレンジャーズライブなど、同じ時代に一緒に苦労し楽しんだという想いで敬意をもって拝聴しました。患者さんを多数救えば一流、新しい術式を 開発して歴史に名を残せば超一流というお話は、若手にモチベーションを与えてくれたものと思います。

 

2日目午後のMICS CABGのワークショップでは最近の進歩が発表されました。

 

大和成和病院の菊池先生は両側内胸動脈をもちいたMICS OPCABを示されました。すでに50例の経験を積まれ、ロボットを使わなくても質の高いMICS OPCABができることが示されたのは素晴らしいと思います。

 

町田市民病院の宮城先生も同様に両側ITAをもちいたMICS OPCABを発表されました。

 

今回のもうひとつの目玉企画として Korea-Japan Coronary Artery Surgery Summitがありましたが、韓国でMERSがまだ終息せず先生方の出国許可が下りないということで中止になりました。代えて日本側代表での座談会になりました。私は他用でこれは参加できませんでしたが、こうした企画を立てただけでも意義があったものと思います。

 

その他OPCABコンテストでも、朴社長の熱いご支援のもと、内容ある練習とコンテストがされたようで、日本の心臓外科発展への良いインパクトが期待されます。

 

盛りだくさんの内容で皆さん十分に楽しめた第20回学術集会になったと思います。夜久先生、教室の皆様、お疲れ様でした。

 

平成27年7月30日

 

 

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JAPAN MICS SUMMIT2015 に参加して

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発展途上にあるMICSの研究会、第二回の学術集会がこの7月4日に東京で開催されたため、参加いたしました。

この前身の会のから毎回盛況で、近いうちに学会に昇格する見込みです。私は大学病院を離れているにもかかわらず世話人にも加えていただき何か貢献したいと考えて行ってまいりました。

今回は榊原記念病院の高梨IMG_1629秀一郎先生が会長をされ、なかなか面白いプログラムでした。

参加者もざっと見て400数十名で、若い先生が多数おられ、関心の高さを実感できました。

 

まずはじめにビデオライブとして4つの発表がなされました。

 

田端実先生が右開胸MICS-TAPASD閉鎖について概説されました。ASD(心房中隔欠損症)やTAP(三尖弁輪形成術)は心臓手術の中では入門編といいますか、比較的簡単な操作になるのですが、それは正中の大きな切開での話で、MICSでは術野の広さや角度が限定されるため注意が必要です。ASDの閉じ方も通常とは少々異なる工夫がなされ、若い先生方には参考になったのではと思います。大動脈遮断せずに心室細動でやったらというご意見もあり、一理ありお気持ちはよくわかるのですが、やはり正中アプローチとは異なる手術であるという認識が必要と感じました。十分な勉強と準備ののちこの手術に取り組むことが安全上必要です。

 

ついで私、米田正始が右開胸MICS-MV Repair(僧帽弁形成術)とMazeの併用の手術をご紹介しました。MICSでメイズ手術をやっている施設はかなり少ないようですが弁膜症の治療のなかで心房細動の解決は重要です。これまでも日本胸部外科学会シンポジウムその他で発表して参りました。ふつうの正中アプローチとは違う注意点を含めて、そのノウハウをご紹介しました。私はお金がかかり効果に疑問のあるラジオ波焼灼・RFアブレーションよりも安価で確実な冷凍凝固を長年提唱して参りましたが、MICSでは冷凍凝固はさらに役立つことをお示ししました。

 

というのは冷凍凝固ではプローブつまり器械の先端が凍って心房壁にくっつくため安定度が良く、狭い視野での取り回しが楽で確実なのです。従来の正中切開アプローチの成績に遜色ないことをお示ししました。

ただし現在この冷凍凝固の器械が国内では入手できず、早く解決して欲しいという状況も再確認されました。

いろんなご質問やご意見をいただき、内容のあるディスカッションとなったこと、皆様に感謝申し上げます。

 

ついで岡本一真先生が慶応大学の長年の経験にもとづいて右小開胸僧帽弁置換術のお話をされました。弁形成と比べて地味な印象の弁置換術ですが、状況によっては、たとえば弁形成が極めて複雑で時間がかかり、かつ患者さんが長時間の手術に耐える体力が乏しいときなどには絶大な威力を発揮します。いざというときの切り札とも言えるでしょう。実際慶応大学でのMICSの死亡例の大半が僧帽弁置換術であったことをそれを物語っています。これは弁形成を頑張ったが結局仕上がらず、それから弁置換へと進んだために患者さんの体力が消耗したためと拝察いたします。つまり一歩早く方針を切り替えれば弁置換は悪くないわけです。こうしたことを皆で確認しました。

 

最後に坂口太一先生が左開胸MICS-CABGにおける視野展開の工夫についてお話されました。近年注目を集めるこの領域ですが、まだ課題がいくつもあります。それらへの対策を整理して解説されました。たとえばどの肋間を開けるのが良いか、上行大動脈に中枢吻合をつけるときに安全に部分クランプを使う工夫、狭い視野の中でオフポンプの条件で吻合部をうまく出すテクニック、左側から右ITAを採取する工夫など、盛りだくさんでした。1-2年あまり前までは、傷跡の小さいMICSのために、内容的には一昔前のバイパス手術に逆戻りするような感がありましたが、かなり解決されており、これからこの領域は大きく発展するでしょう。

 

ビデオライブのつぎには合併症とくに再膨張性肺水腫(略してRPE)のセッションがありました。

 

まず外科の立場から岡本先生が長い間の経験をもとに、実例をもとに解説をされました。体外循環が長時間になってしまったケースで起こりがちで、原因として長時間の体外循環と肺の機会的損傷を挙げられました。文献では多量のステロイドが有効とか、FFP新鮮凍結血漿の使用が関連しているとか、術前からのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や右心不全あるいは右室圧が40mmHgを超える肺高血圧の存在もリスクファクターと報告されています。その他に心不全状態から十分な時間をおかずに短期間に手術せざるを得なかったケース、メイズ手術が必要で時間がかかったケース、分離換気を徹底しすぎたケース、なども検討されました。

 

予防策としてクランプ解除前によく肺を膨らます、クランプ中にもこまめに両肺換気を行う、ステロイドを使用する、などが提案され、いったん起これば重症ではVV ECMOつまり脱血も送血も静脈をもちいる方法を考慮することなどが論じられました。

 

私たちもこの問題に取り組み、予防策やいったん起こった時の対応策などを磨いて参りましたが、参考になりました。これから実験研究なども併用してより科学的な解明と対策の確立へ持っていければと思いました。

 

ついで清水淳先生が心臓麻酔の立場から考察を加えられました。この病態はやはりARDSであり、1994年のAECCの記事にも矛盾しないとのことでした。数時間の肺虚血でもサイトカインは増加しますし、ましてそこへ2度目の体外循環使用などが加わる難手術例では起こる条件がそろっているというわけです。再膨張性肺水腫の治療にはまず疑うこと!、疑えばX線写真を撮り、RPEがあるなら分離換気で治療することを提唱されました。まったく同感でした。

 

治療はARDSとしてのそれが必要で、肺血管外水分量の計測が役立つ、そして患側肺にPEEPつまり陽圧をかけることが有用とのことでした。ステロイドや適宜エラスポールなども使って良い印象とのご意見でした。

 

麻酔科からの貴重なお話に続いて呼吸器内科から緒方嘉隆先生が解説を加えられました。

 

RPEは呼吸器内科領域ではよくある病態で、気胸とくに大きなもののあとには16%とも言われる頻度で起こること、胸水があるときや気道内圧が高いときや糖尿病患者もリスクが高いこと、おそらく肺毛細血管の透過性が上がっていることなどを示されました。心拍出量が多いときに起こりやすいというご意見は興味深いと感じました。

 

血管内容量の移動があるため、PEEPは有用で、利尿剤の使用には血管内容量不足に注意が必要とのことでした。

 

体外循環の使用の有無という背景の違いはあっても、平素多数の再膨張性肺水腫の治療をこなしておられる同先生のお話は大変参考になりました。

 

 

ひきつづいて完全内視鏡セッションがありました。

 

宮地鑑先生はこどものPDAを手術支援ロボットAESOP3000を使用して内視鏡下にクリップにて長年にわたり治療して来られました。その成果を発表されました。

 

乳幼児の手術でもさまざまな注意が必要であることは理解できましたが、新生児、未熟児の手術は高度なものと感心いたしました。こうしたご経験、ノウハウを成人の手術にも活かせればと思いながら拝聴しました。

かつてAESOPが注目を集めたころ、今から10年以上昔ですが、当時アメリカまで行ってこの器械を使って内胸動脈を採取する研修を受けたころを懐かしく思いだしました。

 

伊藤敏明先生は内視鏡による右腋窩切開AVR大動脈弁置換術を供覧されました。名古屋で一緒に勉強して来た先生ですので、実感をもって拝聴しました。私も同様のMICSでのAVR手術を行っているため大いに参考になりました。

 

MICS手術にもいろいろありますが、この手術を行う施設は少なく、今後さらに完成度を上げてより有用なものにしていきたく思いました。お昼のセッションに出てくるSutuless Valveつまり無縫合弁が日本に入ってくれば、この手術はより有効でより安全なものになるでしょう。今後の展開が楽しみになりました。

 

このセッションのトリは大塚俊哉先生で、これまで取り組んでこられた非弁膜症性心房細動に対する完全内視鏡手術を供覧されました。

 

患者さんの病気や状態に合わせて、左心耳を切除するだけにとどめるか、左心耳切除+メイズ手術を行うかを選択して来られました。一過性の心房細動AFや短期持続性のAFには極めて有効という結果でした。

 

今後展開が期待できる治療法だけに早く保険適応になることを祈りながら拝聴しました。

 

 

ここで海外招請講演があり、イタリアはボローニア大学のMarco Di Eusanio先生が、上記のSuturelss Valveについて講演されました。

 

MICSの大動脈弁置換術AVRは現在すでに成果を上げていますが、これをこの弁を用いることでより短時間により安全に手術できることが示されつつあります。

 

現在ハイリスク患者さんを中心にカテーテルで入れるTAVIが話題になっていますが、より確実に、より脳梗塞を避けやすいこの弁は外科の新たな魅力になるかも知れないと思いました。ということを先日の関西胸部外科学会のシンポジウムでもお話しましたが、その期待をさらに膨らませてくれるご講演でした。

 

せっかくの海外招請講演ですので私も一つご質問しました。TAVIで入れる生体弁の耐久性が現在議論になり始めていますが、このSutuless Valveではどうですかと。Eusanio先生のここまでの7-8年のデータでは良い印象で、ブラインドで入れるTAVIよりも良い可能性があるとのことで意を強くしました。

 

そこでお昼休みとなり、私は世話人会に少し顔を出してから大阪の別研究会の講演会場へと急ぎました。

 

MICS SUMMITとしては午後は弁のQuality評価、チューリッヒ大学のFrancesco Maisano先生の僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療への外科医の役割というご講演、コメディカルセッション、最後にイブニングセミナーとしておじさんが始めるMICSセッションと盛りだくさんでした。

 

残念ながら私はこれら午後のセッションには参加できませんでした。

しかし内容ある素晴らしい会であったことは間違いなく、会長の高梨秀一郎先生、代表の澤芳樹先生はじめ関係の先生方に厚く御礼申し上げます。

 

平成27年7月5日

 

米田正始

 

 

 

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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関西胸部外科学会にて

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第58回学術集会が岡山で開催され、出席して参りました。

 

会長は岡山大学呼吸器外科の三好新一郎IMG_1566教授でした。メインテーマは温故創新、三好先生らしい素晴らしいテーマと感心しました。温故知新から発展した考え方と思いますが、登録商標?のため5万円を権利者に支払われたという噂は本当でしょうか。それだけの価値はあったと個人的には思います。

 

岡山は榊原病院の吉田清先生のご縁があってこれまで何度もお邪魔しているせいか、何か楽しい地という印象が強く今回も楽しみにしていました。個人的にはシンポジウムでの発表が2つあり、さらに若手の受賞かけての発表も2つあったため、真面目に参加しました。

 

全体として若い先生方の教育やモチベーション向上のため配慮が十分された会だったと思います。学生諸君も多数参加しておられたようです。

 

3Kとも6Kとも言われる心臓外科、胸部外科にこころある若者が来てくださるよう、そのやりがい、楽しさを十分にアピールすることは大切です。ちょっと大げさに言えば、この国の将来がかかっているとさえ思えます。

 

さて一日目には朝からYoung Investigator Awardsのセッションが続き、若くて熱い議論が交わされていました。

それから心臓・大血管のビデオセッションに参加しました。神戸大学の肺肉腫に対する腫瘍摘出術+右肺全摘術はこれまでの心臓手術と集学治療を集めた優れたものと感心しました。ベントール手術がらみの興味深い症例が北野病院や徳島日赤病院から発表されていました。兵庫医大のベントール手術後の大動脈弁置換AVRは私にとっては25年も昔のトロント時代から行っているHome-madeグラフトなのでうれしく思いました。京都府立医大のELITE法による左室形成術と乳頭筋吊り上げの僧帽弁形成術も同様でした。

cTAGをもちいたステントグラフト、手術の際にそれを使うオープンステント、Jグラフトのオープンステントも興味深い内容でした。

 

ランチョンセミナーでは大阪大学の倉谷徹先生の大動脈解離にはcTAGでっか?という大阪人らしい実質本位の素晴らしい講演がありました。これからステントグラフトはさらに進化する、上行大動脈さえ外科手術から離れるかも、しかし急性解離のエントリー閉鎖パッチや、慢性解離でのTEVARなど、限界もまた見えて来た、おそらくその限界を超えて見せようという気概も感じられたハイレベルのご講演でした。

 

三好会長の立派な会長講演につづいて、ドイツのシェーファー先生の講演がありました。
大動脈弁形成術ではいまや世界の最高峰と言われるシェーファー先生の緻密なジオメトリー研究とより良い弁形成の結果を拝聴し大変参考になりました。ちかぢかブリュッセルで同先生と双璧をなすクーリー先生らとの共同シンポジウムがあり、私も楽しみにしてますよとお伝えしたところ、待ってるぜ!とのことでした。

 

大動脈弁形成術はまだ進化の途中にありますが、かなり完成度が上がったと思います。これからより多くの患者さんたちのお役に立つと期待しています。

 

それから大動脈弁形成・大動脈基部再建のシンポジウムがありました。畏友神戸大学の大北裕先生と同・倉敷中央病院の小宮達彦先生の司会で行われました。

 

まず東邦大学の尾崎重之先生が尾崎弁の最近の展開を報告されました。完成度がさらに上がった感があります。

有力施設からの大動脈基部再建や大動脈解離とARなどのご発表に交じって、私はMICSと弁形成とバルブインバルブTAVIの観点からお話させて戴きました。こうした視点の発表は他になかったためか、一部のMICS専門家の議論になったように思います。これからさらに完成度を高めつつ、多くの病院で役立てて戴けるよう、啓蒙活動が必要なようです。

 

医療安全講習会では疲労と事故についての貴重なお話を名古屋大学の相馬孝博先生から戴きました。これまで疲労なんてへっちゃらさと思って来ましたが、やはり人間が起こすミスを科学的に減らすという観点から一段高いところから自分自身を監視するマインドフルな姿勢、疲労対策は大切と思い、勉強になりました。

自分だけでなく皆で楽しくストレス発散、なども大切なようです。

 

夜は全員参加の懇親会がありましたが、若い先生方や学生さんたちも参加されており、良い雰囲気でした。

 

学会2日目は朝から若手アワードつまり受賞のための発表コンテストに参加しました。当院の小澤達也先生が、興味深い症例2例を発表してくれました。小澤先生が発表してくれたのは次の2例でした。

 

1つは世界的にも珍しい神経鞘腫というタイプの心臓腫瘍でした。手術前は粘液腫と思われていましたが、その位置が普通と違い、大動脈基部に近いため、場合によっては大動脈弁や僧帽弁形成術を含めた大手術の可能性もあったため正中からアプローチしました。完全切除でき患者さんはお元気に退院されました。傷跡も小さく、夏服が着られるとよろこんで頂きました。

 

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受賞風景です。小澤君はこの日の夜当直のためすでに会場を去っていましたので彼の姿はこの写真にはありませんが。

もうひとつは、他の病院で2回弁置換手術を受けられた患者さんで、左室後壁が生体弁の先端のためにえぐれて瘤になり、このままでは破裂→突然死の恐れがあった患者さんでした。もとの弁を外して瘤になった左室後壁をがっちり修復補強し新たな人工弁を入れて治しました。患者さんは元気に退院されました。
あとで後者の症例提示が受賞したことを知り、小澤先生には大変良い経験をしていただけたこと、うれしく思いました。

 

立ち上げて軌道に乗って間もないかんさいハートセンターを去ることになった私ですが、最後にまたひとつ想い出が残せてうれしく思いました。

 

先天性心疾患の教育講演に少し顔を出し、国立循環器病研究センターの市川肇先生の右室流出路再建のさまざまな方法の講演を拝聴しました。頭の中がすっきり整理されたように思います。余談ながらあのラステリ手術のラステリ先生は37歳の若さで逝ってしまわれ、それを惜しんだメイヨクリニックの仲間たちがラステリの名前を残そうと努力して、ジャンプグラフトを何でもラステリ手術と呼ぶほどになったというエピソードをお聞きし、心に響くものがありました。

 

梯子してTEVARのシンポジウムを聴きました。天理病院の山中一朗先生のオープンステントの努力に頭が下がりました。

 

ランチョンでは滋賀医大の浅井徹先生の司会のもと、大動脈弁形成術の講演が2つありました。ひとつは心臓血管研究所の國原孝先生、いま一つは昨日に引き続きてシェーファー先生の大動脈弁形成術のお話の続編でした。

國原先生は日本での多施設研究を立ち上げつつあり、弁のジオメトリーや病態から始まって臨床結果さらに血行動態の詳細までを検討し始めておられ、その成果が楽しみです。

 

シェーファー先生は大動脈弁とそれを支える基部の形態を詳細に論じられ、大動脈弁形成で安定した成績を上げるために何が必要かを詳しく論じられました。同先生が創られたeffective Height測定ゲージの正しい使い方と誤った使い方なども、当然とはいえ、有用なお話でした。

 

IMG_1558
Chang先生の講演風景です

午後には韓国の畏友、Byung Chul Chang先生の不整脈外科の歴史と新たな努力についてのご講演がありました。思えば永い道のりを進んで来たものだと感慨深いものがありました。私にとってはまだトロント留学中の1991年ごろにアメリカの学会でJames Cox先生のお話に感銘を受け、それから徐々に進めて来た不整脈外科でしたが、そのころのデータなども拝見し私の心は若い日々にもどっていました。Yonsei大學での新たな試みなども紹介され、勉強になりました。

 

それを受けて、不整脈外科のシンポジウムがありました。

日本医大の新田隆先生はこの領域の新リーダーにふさわしい基調講演をされました。メイズ手術の際の肺静脈隔離のときにBox LesionとU Setのどちらが良いか、多角的に検討されました。これまで多数の立派な研究が一見矛盾するような結論になっていた理由がある程度理解できました。

ともあれ肺静脈隔離や冠静脈洞などのアブレーションを完璧に行うことの重要性は間違いないようです。

 

国立循環器病研究センターの草野研吾先生は循環器内科の不整脈治療とくにカテーテルアブレーションの最近の進歩と成果をきれいにまとめられました。正確な治療のための3Dマッピング、より安全に深達度を増やせるイリゲーションカテーテル、冷凍凝固バルン、その他新デバイスの数々は素晴らしいと思いました。

外科もこうした内科の進歩を積極的に取り入れ、ハートチームの仲間としてふさわしいものを着々と造らねばと思いました。

その他ガングリオンプレクサスへの外科的アブレーションの工夫努力、メイズ手術での盲点の克服その他興味深い内容たっぷりでした。

 

私はMICSでのメイズ手術とくに心房縮小メイズについてお話しました。心房拡張が心房細動IMG_0820bの治療成績をもっとも悪くする因子のひとつなのに、外科ではまだそれほど心房縮小の努力がされていません。

 

10年ほど昔にアメリカ胸部外科学会AATSその他で心房縮小メイズ手術を発表して以来、継続的に発表して参りましたが、なかなか普及するまでに至っていません。慣れるまでは難しい手術と思われているようです。

 

それをさらに難しいMICS(写真右、傷跡の長さは5cm台です)で行うのですから、いっそう多くの外科医が敬遠するのかも知れません。今日の手応えをもとに、これからは心房縮小メイズとMICSメイズの両方の視点から啓蒙活動したく思いました。

 

最後にこの秋から始まる医療事故調査報告制度のご説明が岡山大学名誉教授の清水信義先生からありました。この制度は医療事故を予防するために、10年近く前からモデル事業としてトライされた事業の完成版です。これによって訴訟が激減したという実績があります。ただ病院経営者のなかには、これによって訴訟が増える、おそらく報告書を患者さんのご家族に見せるから訴訟になるというお考えの向きが多々おられるそうです。

 

しかしそれは清水先生によればご家族に事実を見せない、結局は破たんする姿勢でありもともと論外の考えとのことでした。これはいわば、患者さんが不幸にして亡くなってもきちんとした説明がなされてご家族が疑義を抱かないことが大切であるという意味でもあるようです。私は一人立ちして以来20年以上、訴えられたことはありませんし、亡くなられた患者さんのご遺族さえご支援くださったのは、そうした姿勢のおかげと思っています。

 

ともあれ、全力投球の医療を行い、第三者的評価に耐えられる内容としっかりした説明を行うことを基本にすればこの報告制度は良い結果をもたらしやすいと感じました。まずは襟を正して気をひきしめて日々精進して行こうということでしょう。

 

最後に上記の受賞式がありました。当科の小澤先生は当直業務があるため早々に帰途についていましたので式には出席できませんでしたが、私がその旨お伝えして了解を頂きました。

 

近年、心臓血管外科や呼吸器外科など、メジャー外科は厳しいしんどいつらいといういことで若手が敬遠する傾向が強くなっています。学会をあげて有為な若者を支援する、育てる、これは大変重要なことで、今回の関西胸部外科学会も大きな貢献をされたことと思います。

会長の三好先生、岡山大学の皆様、お疲れ様でした。

 

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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