いい心臓・いい人生 【第九十四号】小林真央さんの一件で思うこと

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いい心臓・いい人生 【第九十四号】小林真央さんの一件で思うこと
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発行:心臓外科手術情報WEB
https://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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大雨や猛暑が交錯するこの頃ですが皆様体調を崩したりしておられないでしょうか。

 

乳がんで闘病しておられた小林真央さんの一件では本当に悲しい気持ちになりました。
人生まだこれからという時に命を奪われる、まだお子さんたちも小さいのに。

 

しかしその後、報道で伝えられる内容は、どこまで真実で正確かはわかりませんが、
残念な思いがさらに強くなるものでした。

 

様々なご事情があって乳腺のしこりの後の精密検査や治療が遅れぎみであったこと
は聞いていました。

 

しかし本来受けるべき治療、真央さんの場合は癌の根治術ですね、これを受けられ
なかったということは残念極まりないことです。

 

私は心臓外科医で乳がんの専門家ではありません。しかしかつて研修医の頃に、30
名以上の乳がん患者さんの治療に参画させていただきました。中には手遅れに近い
ほど、癌が大きくなり、リンパ節に転移していた患者さんも何名かおられました。

 

もう30年以上も昔のことですが、それでも患者さんも私たちも頑張り、そのほとんどの
方々は長生きしておられました。少なくとも1年やそこらで亡くなることは診断時に
よほど末期の患者さん以外にはありませんでした。

 

がんにも色々あり、急速に大きくなり、早く転移する、悪性度が高いものもあります。
しかしそうしたタイプでも渾身の治療で長期生存を得た方も少なくないのです。

 

医学にはまだまだ未完成、未熟なところがあります。しかしこれまでの多数の患者さんの
データをもとに検討し、より多くの患者さんがより確実に治るよう、常に検討し改善を
続けて来たのも事実です。

 

週刊誌などでこの薬は無意味とかこの手術はダメなどの記載が見られることがあり
ますが、それらは一面の真理をついていることはあっても全面的にそうであるとは
限らないのです。これらの疑問は医師に聴くのが一番です。例えばある優れた薬で
気になる副作用が玉にキズという状況なら、その薬が患者さんにとって必要不可欠
ならば、副作用を毎回チェックし大丈夫という確認を取りながらその薬をうまく使う
ようにします。もし副作用がダメだからとその薬を使わないと、元の病気のために
患者さんがやられてしまいます。患者さんが一番得する、高い妥協点を毎回相談確認
しながら確保するわけです。

 

しかしそうした無用な疑心暗鬼が皆の心にある中で真央さんが本来あるべき治療を受け
られなかったことを残念に思うのです。
それは民間療法や気功などをどうこう言うのではなく、科学的データに基づいた治療を受け
つつ、他の治療法を併用したらもっと良かったのではと思うからです。

 

済んでしまったことをとやかく言うのではなく、真央さんのようなケースは少なくない、
これからも起こり続けると感じるため、この一文をお書きしたくなったのです。

 

がんと同じことは心臓病、心臓手術でも経験することがあります。
重症でも心臓手術を受ければ95%助けられるという実績があっても、手術は怖い、
手術は嫌ですと、その他の治療法や民間療法を選び、死んで行った方を何人も見て
来ました。

 

手術を最初から好きな人はいません。でも手術で大多数の患者さんが助かり、逆に手術
しなければ大半が遠からず亡くなるというデータが出ている状況では、冷静に、問題を
直視し、患者さんに真に益する道を選んで欲しいと思います。また患者さんだけでなく、
ご家族はじめ周囲の方々にも真剣に考えて戴きたいのです。

 

自分が生きるか死ぬかの状況になれば、人間、誰でも不安になりますし、時には動転し、
どうしたら良いかわからなくなることさえあるのです。そうした時に、周囲の方々が
患者さんを精神的に支え、冷静に科学的に判断できるよう応援して欲しく思います。

 

小林真央さんの一件ではそうした昔の残念な患者さんたちを想い出し、悲しい思いに
なりました。
困った病気になれば、心を許せる人たちとじっくり考え、相談し、医師にもどしどし
質問し、情報を十分に得て、後悔を残さないようにしたいものです。多くの医師は
喜んで支援してくれるでしょう。現実から逃げても逃げおおせるものではないのです。

 

追伸:心臓病で普段から飲水制限をしておられる皆様へ、猛暑で汗をかく時はいつもの
飲水制限は適切でないこともあります。体調がおかしければ早めに医師にご相談
ください。一般的には体重が減っておれば発汗に応じて飲水を増やして良い場合が多い
です。

敬具
平成29年7月15日
米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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