いい心臓・いい人生 【第九十七号】江東豊洲心臓血管外科カンファランス

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いい心臓・いい人生 【第九十七号】江東豊洲心臓血管外科カンファランス
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発行:心臓外科手術情報WEB
https://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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この9月2日に東京にて恒例の江東豊洲心臓血管外科カンファランス
が開催され、畏友山口裕己先生のお招きで私も参加して参りました。
昭和大学江東豊洲病院内の講堂で開催されましたが、すでに開院から4年とお聞きし、真新しい綺麗な病院と感心したのが昨日のように思い出されます。

 

今回は心房細動をテーマとして内科と外科の積極的な先生方が多数集まる面白い会になりました。
心房細動はどこにでもある病気ですが、そのためにどれだけ多くの方々がいのちを落としたり、寝たきりになったりしておられるか、まだまだ世間の理解は進んでいない病気です。中でも元気に仕事や家庭で活躍していた方が突然こうした悲劇に見舞われるという被害は甚大です。
心房細動の怖さは何と言っても脳梗塞が起こることで、その原因は左房の中で血栓ができることです。

 

かつてはワーファリンというお薬をきちんと使えばかなり脳梗塞は予防できるということでこれが標準的治療でしたが近年使い易いDOACというタイプの薬が使えるようになってさらに成績が上がりました。加えてカテーテルによるアブレーションという治療が進歩して、より根本的に治せるようになりました。
こうした最近の進歩をこの領域のエキスパートである奥村謙先生(前・弘前大学教授)が講演されました。私は以前から奥村先生のお仕事はよく存じており、加えて研究会前夜の食事会で最近の進歩を伺っていましたので、一層ちからが入り聴き入ってしまいました。

 

それから筑波大学の瀬尾由広先生が不整脈治療の豊富な経験から心房性僧帽弁閉鎖不全症のお話をされ、そうした概念がない時代、20年近く昔からこれに取り組んで来た私としてはようやく我々の時代が来たという気持ちで拝聴しました。
心房細動などで左心房が拡張すると僧帽弁や左室基部が変形し、弁が噛み合わなくなります。そのため僧帽弁形成術には特別な方法が必要となるのです。

 

私は20年前に少し違う角度でこの病気を見ていました。左房が巨大になるとカテーテル治療はもとよりメイズ手術も効かなくなる、何とかしようと左房縮小するメイズを開発しました。すでに多数の患者さんのお役に立っていますが、これからもっと多数の方々のお役に立てる日が来れば最高です。
この後心房性僧帽弁閉鎖不全症の診断と治療というテーマで東京大学の大門雅夫先生や宮崎の畏友・渡邉望先生、金沢大学の竹村博文先生らが興味深い症例を交えて発表されました。昭和大学江東豊洲病院の光山晋一先生は山口先生お得意の後尖パッチ拡大の成果を発表されました。
ランチョンセミナーは畏友・天野篤先生のいつの世代でも心臓外科医で活躍できるために、という熱く楽しいお話でした。皆さんご存知の通り、天皇陛下を冠動脈バイパス手術で救われた私たちの誇りとする天野先生で時間の経つのを忘れて傾聴しました。最後に先生はいつまで現役で心臓手術をされますか!と質問させて頂きました。質問の真意は、当分止めないでね!というところにありましたが、その通り回答頂き、嬉しいひとときでした。
午後から左心耳切除にまつわるトピックスが論じられ、それからメイズ手術の最近の話題に移りました。
私は心房縮小メイズを日本で最初に提唱したものとして、最近の成果を披露いたしました。巨大左房となり、もう看取りしかないと言われた患者さんたちを多数元気に社会復帰していただいたことをご報告しました。これからこの方法を自分だけでなく、多くの心臓外科医にも使って頂きたいという願いを込めてお話しました。
最後に心房細動アブレーションの最新治療のセッションがありました。興味深い内容揃いでした。内科のカテーテル治療と心臓外科の手術は常に協力し、お互いに補いあって、弱点を補強しながらベスト治療を提供すべきで、お互いの治療法を良く理解することがその第一歩で、良いセッションだったと思います。
都合でこのセッションの終わりごろに会場を後にしました。
山口先生、関係の皆さまがた、素晴らしい会をありがとうございました。

 

平成29年9月10日
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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