いい心臓・いい人生 【第九十八号】日本胸部外科学会総会

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いい心臓・いい人生 【第九十八号】日本胸部外科学会総会
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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恒例の胸部外科学会総会がこの9月26日から29日にかけて札幌で開催され
ました。
心臓血管外科の領域では日本では最高峰の学会のため私も参加いたしましたので
少しご報告します。

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今回は北海道大学の松居喜郎教授が会長で、いつものパワー溢れる雰囲気が
学会総会にも反映され熱い会になりました。

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私は発表したい演題がいくつもある中で、2つに絞って発表することになり
ました。ひとつは左室形成術のシンポジウム、いまひとつは機能性僧帽弁
閉鎖不全症のセッションでした。

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シンポジウムでは「日本から発信する虚血性心筋症に対する外科治療戦略」
というテーマで、これまで治療成績の改善に努力して来た左室形成術の成果を
発表しました。

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その冒頭に畏友メニカンティ(Lorenzo A. Menicanti)先生が基調講演として
イタリアでの経験をお話されました。ドール手術で有名なDor先生の直弟子
だけあって、豊富な経験をもとに有用なお話でした。彼も従来型のドール手術
では不十分と、左室の細長いジオメトリーを回復させるためにいくつもの工夫
をしていることを知り、我が意を得たりと思いました。

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私は須磨久善先生や磯村正先生らが考案されたSAVE(セーブ)手術のきれいな
ジオメトリーと、Dor先生のドール手術の簡便さを併せ持ついいとこ取り
手術(一方向性ドール手術)の長期成績を発表しました。重症患者さんを相手
にして、病院死がない、つまり全員お元気に退院されていることをお示しでき
ました。かつて京大病院で助けられなかった重症患者さんを今なら助けられる
という、弔い合戦のような気持ちでの努力を示しました。

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併せて、さらに侵襲を下げた、新しい方法・心尖部凍結左室形成術
(Frozen Apex SVR)を発表し、これからは重症心不全の患者さんを補助循環・
人工心臓なしで社会復帰してもらえることを示しました。発表の後、メニ
カンティ先生もブラボー!と言って下さり恐縮ものでした。これからもっと
多くの心不全患者さんたちのお役に立てればと思います。

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機能性僧帽弁閉鎖不全症のセッションでは、私が15年前に開発し、改良を
重ねて来た乳頭筋前方つり上げによる僧帽弁形成術(乳頭筋最適化手術、PHO)
の長期成績を発表しました。あの世界の心臓外科の最高峰・AATS(アメリカ
胸部外科学会)で今年4月に発表した内容を新しく改訂したものでした。

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乳頭筋を前方へ吊り上げるのは近年は日本ではかなりコンセンサスが得られ、
名だたる先生方がこれを活用してくださっているのは考案者としてうれしいこと
です。しかし15年以上の経験を活かしてこれからさらに改良を加え、かつ多くの
心臓外科の先生方に使って頂けるよう、情報提供をしなければと思いました。

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また学会3日目午後の重症心不全研究会では上記Frozen Apex SVRをさらに詳しく
お話し、貴重なご意見を頂きました。高名なScott Rankin先生が興味を持って
参加して下さったため、松居会長の依頼もあって、私がRankin先生の通訳を務め
させて頂きました。大変関心を持って下さり、何度も質問をして下さったため、
通訳し甲斐のあるセッションでした。

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その他HOCM(肥大型閉塞性心筋症)のセッションでは日本屈指の豊富な経験を
もとにコメントをいくつかさせて頂きました。まだ闇雲に心筋を切除している、
あるいはよく見えないため不十分に切っている、という印象の発表もあり、
心配になりました。

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またビデオセッションで心室中隔穿孔VSPの発表では、私がトロントで発表
し、改良を重ねて来た心筋梗塞除外術Exclusion法の進化について行けないため
に本来守るべき右室を切ってパッチを張る方法へと進んだ旨の発表がありました。
これはもっと誰にでもできる汎用性のある術式を完成させなかった私たちの責任
であることを痛感しました。幸い若い先生方にもできる改良型をすでにジャーナル
などで発表しており、今後もっと啓蒙活動したく思いました。

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学会そのものはよくデザインされた、有意義で楽しい内容でした。70回総会という
節目の学会でもあり、歴史を振り返り未来を考えるセッションも良かったと思い
ます。海外からの招請演者が多く、国際色が豊かになりました。

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ただ目玉商品とも言われたビデオセッションが、やや玉石混合で、えっ?なぜ?
というようなレベルの発表もあり、このあたりがまだまだ日本の学会の課題
と、友人と話していました。日本の学会が真にハイレベルになるためには、
しがらみではなく内容本位の演題選別をしなければならないと以前から言われて
いますが、これを再認識しました。

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会長の松居先生と北海道大学の皆様、お疲れ様でした。また学会の成功、
おめでとうございました。

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平成29年10月1日
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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