いい心臓・いい人生 【第九十九号】第31回日本冠疾患学会にて

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いい心臓・いい人生 【第九十九号】第31回日本冠疾患学会にて
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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この12月15日と16日に大阪にて日本冠疾患学会学術総会が開催され出席して参りました。この学会は循環器つまり心臓や血管の内科と外科が協力して患者さんのベスト治療を創り上げようという趣旨で続いているもので、近年叫ばれているハートチームを長年提唱・実践して来た進歩的かつヒューマンな学会です。

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今年は天理よろづ相談所病院循環器内科・中川義久先生と滋賀医大心臓血管外科・浅井徹先生がそれぞれ内科系会長と外科系会長を務められました。

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私はこの学会の理事および評議員として学会前日から会議に参加し3日間忙しく過ごしました。またシンポジウムで2つの発表を行い、さらに治療成績を上げようと提案をさせていただきました。

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まず1日目午前中のシンポジウム「慢性虚血性心不全IMR, LV dysfunction,高度虚血をどうするか」で「慢性虚血性心筋症や虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する外科治療ーー非移植対象患者においての2工夫」と題して、新しい手術の成果を報告しました。

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これらの病気は今なお難病として、心臓手術をギブアップされる患者さんも全国的に少なくないという現実があります。かといってお薬だけでは限界があり、時間と共に患者さんたちは亡くなって行かれます。海外では補助循環つまり人工心臓や心移植という選択肢が多いのですが、日本ではまだまだですし、そもそも60-65歳を超えたり糖尿病あるいは腎不全その他の病気があれば恩恵に預かれないのです。

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そのため左室をチューンナップしてパワーアップを図る左室形成術や、乳頭筋を適正に吊り上げて左室と僧帽弁の両方を直す僧帽弁形成術を行って来ました。

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今回はそれらを単独で、あるいは組み合わせることで、これまで治せなかったような重症患者さんたちを治せたことを報告しました。

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京大病院で勤務していた10年以上昔でも、当時としては良い成績(全国平均の半分の死亡率)を上げていましたが、現在の手術成績は当時とは比較にならないほど改善し、隔世の感があります。昔、お助けできなかった患者さんたちのことを想い出しながら発表しました。

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新しい左室形成術は来年2018年のアメリカ胸部外科学会AATSでも発表できることになり、ちょっと盛り上がりました。

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学会2日目の午後には外科ビデオセッション「急性心筋梗塞合併症に対する手術術式の検証」という目玉セッションがあり、私は「簡便で再現性が高い、原因療法としてのExclusion法を目指して」というタイトルでいわゆるDavid-Komeda法の改良型を報告しました。

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心室中隔穿孔という病気はしばしば緊急または準緊急で手術が必要な怖い病気で、夜中などに若手中心のチームでも安全確実に患者さんを救命できるよう、工夫をこらし、30年近く前に発表した手術法をとことん改良しました。

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多数のご質問をいただき、これから日本中で多くの患者さんたちを救うのに役立てば幸いです。こうした機会をくださった中川・浅井両会長に感謝申し上げます。

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また1日目の海外招請講演で香港のSong Wan先生が虚血性僧帽弁閉鎖不全症への外科治療のお話をされました。その際、私の術式も紹介・評価くださり、光栄に思いました。

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本学会ではお薬などの内科的治療やカテーテルでのPCIつまりステント治療と冠動脈バイパス手術のうまい使い分けや協力などでも多くの優れた発表やディスカッションがありました。また冠動脈と弁膜症その他病変の合併における治療や、教育講演やコメディカルの方々へのセッションでも充実していました。

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ハートチームシンポジウムでは本学会ならではの内科と外科の協力的ディスカッションが多くなされ、素晴らしいことと改めて感心しました。

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全員懇親会では会員寄付のワインなどを飲みながら楽しいひと時を過ごしました。
盛会のうちに本学会は終了し、多くの成果と想い出が得られたと思います。

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中川先生、浅井先生、関係の皆様方、ありがとうございました。

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平成29年12月16日
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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