いい心臓・いい人生 【第102号】成人先天性心疾患学会にて

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いい心臓・いい人生 【第102号】成人先天性心疾患学会にて
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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酷寒の季節ですが、皆様お元気にお過ごしでしょうか。

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この1月27日から28日にかけて日本成人先天性心疾患学会での発表のため東京まで行って参りました。ドカ雪で帰宅難民まで出るほどの東京と言われていましたが、すでに寒さは少し緩んでおり、あちこちに残る雪がその時の大変さを物語っていました。

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成人先天性心疾患と言う言葉はまだあまり聞きなれないものかも知れません。先天性心疾患という生まれつきの心臓病をお持ちの患者さんが成人になられた後も様々な形で心臓の問題が発生することがあり、これを解決し、先天性心疾患の患者さんが人生を永く豊かに過ごせるようにするための学会です。これは子供の頃に心臓手術を受けられた患者さんや、心臓手術を受ける必要がなかった、あるいは医学的理由で手術はしないほうが良かった、などの方々も含まれます。

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こうした病気の特徴のため、この学会は産婦人科、小児科、小児循環器科、循環器内科、心臓血管外科、麻酔科などはもちろん、様々なコメディカルの方々や患者さんのご家族、それを支援される患者さんの会の方々、はじめ実に多様な方々が参加される、ヒューマンな学会です。

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私はいくつか発表があり、まずHOCM(肥大型閉塞性心筋症)や心尖部肥大型HCM(HCMは肥大型心筋症)の手術の成績を発表しました。これまで不治の病と言われた患者さんたちが、お元気に社会復帰されているのを報告しました。これらの病気の中には手術も難易度が高く、手術できる病院も限られるというケースも多く、関心を集めたようです。

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また子供の頃にケイリード法という方法で僧帽弁形成術を受け、大人になってその弁がいよいよ壊れた後、私のいる医誠会病院で複雑僧帽弁を受けて元気になられたというケースを発表しました。2回の手術で患者さんは人工弁なしで元気になられ、妊娠出産も安全にできるようになり、理想の医療に一歩近づいたと言うご意見をいただきました。弁には長年の変化が加わってさすがに複雑な形成になりましたが、人工腱索8本と一部弁尖のパッチ拡大などの技術を駆使してきれいに仕上がりました。この形成がバシッと決まるかどうかでこの患者さんの人生が変わって来るため、熱くやりがいのある手術でした。同時にこども時代には何とかして弁置換を避けるべきで、そのためにケイリード方は良い方法ではないかという議論もできました。

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もう一つの発表はエプシュタイン病の高度三尖弁閉鎖不全症に対するコーン手術を傷跡の見えにくいMICSで手術したという報告でした。患者さんはバレエの愛好家で一般に使われる胸の真ん中の大きな傷ではバレエができないと、私の病院へ来られたものです。コーン手術はまだ未だ難手術の位置付けにありますが、それをより難易度の高いMICSでできたおかげで患者さんの生き甲斐を守ることができたのは嬉しいことでした。これからより多くの患者さんたちの健康と生きがいを守ることができればと思います。

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学会としては成人先天性心疾患の患者さんが、大人になった後の様々な問題、例えば不整脈や心不全、妊娠や出産、就職その他の問題を解決するための様々な取り組みが議論され大変勉強になりました。また妊娠期や授乳中に飲んではいけないお薬が多いためご苦労されているお母さん患者さんが多いのですが、実際のデータを検証するとそう悪くない、ほとんど問題ないというものもあり、今後もっと患者さんに役立つ発信をという取り組みがされているのも素晴らしいと感心しました。

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またエコーやCT、MRIその他の最新の進歩で成人先天性心疾患やその心不全などの評価がより正確に、より迅速にできることが示され、今後多くの患者さんたちにお役に立つものと思いました。

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様々な学びや喜びのある素晴らしい学会でした。会長の自治医大心臓血管外科・河田政明先生や関係の皆様、お疲れ様でした。

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平成30年1月29日
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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