お便り135: 熟考し決意して転院、MICSの手術を受けられたエプシュタイン病の患者さん

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成人先天性心疾患の中には様々なタイプがあります。

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子供の頃はそう悪くなくても、次第に弁や心室の状態が悪化し、大人のある時期になると心不全で危険な状態になる、そうしたことも少なくありません。

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以下の患者さんはエプシュタイン病という比較的稀な先天性IMG_0403 (2)心疾患で、大人になってから三尖弁が壊れ、不整脈が起こり、心不全が悪化し、いくつかの大学病院やセンターを受診されました。

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そしていよいよ心臓手術が必要という段階になり、通常の正中切開による手術では大好きなバレエが続けられなくなるため、傷跡が見えにくいMICSでの手術を求めて米田外来へ来られました。

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エプシュタイン病の三尖弁閉鎖不全症にはコーン手術というやや複雑な手術が優れた成績を上げることが知られており、それをMICSで行う事になりました。これまで複雑三尖弁形成術をMICSで行って来た経験からこれは十分可能なためお引き受けしました。

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手術はうまく行き、間も無く元気に退院して行かれました。手術前は三尖弁が存在しないほど逆流していたのが、術後はほぼゼロまでに改善し、右室や右房も正常サイズに近づいていました。

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あれから1年近く経ち、お元気に外来検診に来られるお姿を拝見しては嬉しく思っています。

以下はその患者さんからのお便りです。

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米田先生へ

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私の希望に応えて先生の執刀で難しく手間のかかる手術を行い生命線をつなぎ止めて下さり本当にありがとうございます。

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6歳の頃からずっと舞台に立ちそれがそれまでの私にとっての現実で存在場所と考えてそれを心の支えに生きて来ました。そういった私固有の生き方を汲み入れての手術跡はふくらみが無く線というほどきれいで早くも去年の11月の発表会に出演することができました。

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三尖弁の手術は症例も少なくエプシュタイン病も稀な病気で情報もほとんどなく恐い手術でした。それなのに思い切って米田先生、執刀して下さってありがとうございました。

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そして麻酔科の先生、ありがとうございました。

氏家先生、貯血時のお話もありがとうございました。

助けてくださったたくさんの方々、ありがとうございました。

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その後、もう一通のお手紙をいただきました。ここまでの苦悩と決意して良かったことを切々と綴っておられます。心臓外科医としてこの上なく嬉しい事です。

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米田先生へ

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米田先生は覚えておいででしょうか?

仁泉会病院で初めて先生にお会いした時、

ほとんど私はものを言うことができませんでした。

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その理由は、前の病院のようにバッサリ断られたらどうしよう、、、

「正中切開しかできません」と言葉が出たらどうしよう、、、

それに京都大学の教授を勤めた人物だから何だかちょっと怖かったのです。

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この頃は立派なお人なのに親しみやすく、ざっくばらん、

常に前向きで、そして何よりお医者なのに普通の人に対して自然体で接するのには、主人と共に驚いています。

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前回の診察、長時間になりすみませんでした。

カウンセリングでは傾聴はしてもらえますが、つらかった。心中までは理解してはもらえませんので、今まで恐る恐るだったものが一気に爆発してしまいました。本当に申し訳けなかったです。

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小学校の5、6年生の頃からマラソンなどすると心臓がドキドキしたり、息切れの症状が出ていました。(疲れやすい)

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中学入学時の健診で心雑音を聴診器によって発見されました。それで地域の内科医院で踏み台による負荷を行なった後で心電図をしたら医者が「こりゃあかん!」と言って**大学病院を紹介され、 19**年8月(12歳)の夏休みに右足そけい部からのカテーテル検査をしました。

診断は心肥大と小さな穴があるが成長と共にふさがる。注意事項として妊娠、出産の話も出ていましたが、当時まだ中学一年生なので大ごととは受け止めませんでした。

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 6歳よりバレエを習い始めて10年。その後いろいろなダンスを経験し、現在も踊りを続けています。

平成*年(25歳)正常分娩を予定していましたが妊娠中毒症治療中、血圧上昇のため、緊急で帝王切開にて出産しました。普通出産の予定でしたが39週4日で手術) 出産後、なかなか体調が回復せず1ヶ月以上実家で寝込んでいました。

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それでその産婦人科の紹介で腎臓内科をいくつか渡り歩きましたが腎臓は心配するほどのものではない、とどこでも言われました。

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平成9年4月、三重県から兵庫県の**市に転勤になる。引越しで再び体調を悪くし、寝たり起きたりの生活が1年ほど続きましたので自分でやはりこれはどこか変だと思いまして**市立中央病院へ。

そこで初めてエプシュタイン奇形と診断されました。

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平成18年*月に有名な**センターを紹介状なしで初診いたしました。**はエプシュタイン病に詳しいので自分の病状を理解してもらえると期待したからでした。

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翌日の11日に心エコー検査をして、軽症とのこと。

医師より、ここは重症の患者の来る所だけれど、年に一度の心エコーの検診は外来でしてもいいです、と言って下さいました。1-2年ほどして心エコーでは変化もないのに、私が「えらい、えらい」と訴えるので、一度24時間心電図をしてみるか、という事になり、しましたが、異常なしでした。それでそのセンターに通うのはいったん止めたように思います。

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平成24年*月、心臓が締め付けられ息ができない状態になったため、**病院へ。

翌日再診。それでその時に以前**センターに行っていたと伝えたので、**病院の方が手続きをして、再び**センターへ行きました。

平成25年*月から**センターで再び年一回の心エコー検査を始めました。

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平成27年*月、医師より一度カテーテル検査を受けてみるか?と提言され、一度と言われたのが引っかかって、「私はもう中一の時にカテーテル検査はしました」と答えました。

平成18年の初診の問診に書きましたが、その間、医師も4、5人変わりましたし、知らなかったみたいでした。そして次回(来年)は主人と二人で来院するようにといわれました。

平成28年*月、医師はほとんど主人に、手術が前提の検査入院の必要性を伝えていました。平成29年*月、検査入院しました。

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(それからミックスでの手術はできないと言われ米田外来へ来られました)

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平成29年*月、心臓の手術を米田正始先生の執刀で受けました。

自分がこの先生なら命を預けていいと信頼し、リスクの不安も先生なら、と手術する決心に至りました。

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米田先生のこの骨を切らない仕上がりのきれいなMICS手術が成功したことをこれから手術を受ける人たちに知ってもらいたいなと思っています。あるいはこれからの手術の何らかの役に立てれば良いなと思います。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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