いい心臓・いい人生 【第107号】 アメリカでまた発表して参りました

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いい心臓・いい人生 【第107号】 アメリカでまた発表して参りました
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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ゴールデンウィークの真っ只中、皆様いかがお過ごしでしょうか。

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私は今週アメリカ・カリフォルニア州のサンディエゴで開催された第98回
米国胸部外科学会(略称AATS)に発表のため参加して参りました。

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この学会は名前は米国、、、ですが、実質は世界のトップに位置する学会で
世界中の心臓血管外科の主な先生方が参加されます。そのためここに参加する
ことは世界の動向を知ることになり、またここで発表できることは世界で認め
られたのと同じ意味を持つと言われます。日本からも熱心な先生が一定数
参加しておられました。

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私個人にとっては昔お世話になった内外の先生方や、旧友と再会する貴重な
機会でもあり楽しみにしていました。

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今年もまたこの米国胸部外科学会(AATS)で発表の機会をいただいたため、
行って参りました。

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昨年の発表に引き続いて2年連続の発表という大変光栄な機会になりました。
昨年は機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい手術、PHOと呼んでいる手術
の成果を見て頂きました。今年は新しい左室形成術、心尖部凍結式左室形成術
の成果と今後の方向性を発表しました。

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左室形成術はもともと重症心不全の患者さんに使うこともあって、冠動脈
バイパス手術や普通の弁膜症手術より死亡率が高い、難しい手術として知られて
います。あまりのリスクの高さに近年は敬遠する心臓外科医も多く、話が
心臓移植や人工心臓ができない患者さんの治療ですので、患者さんにとっては
この左室形成術が最後の生きる手立てなのに、という困った状況にあります。

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昔、京大病院で勤務していた頃に、この左室形成術で90%の重症患者さん
(そのままでは間も無く死んでしまう状態)たちの救命に成功する一方で、
約10%の患者さんをお助けできず、その数字だけが一人歩きして周囲に誤解や
ご迷惑をおかけし、大学を去る原因になった、曰くつきの手術でもあります。

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私はその後もこの左室形成術を改良し、この10年ほどはもう誰も死なせない、
安全なレベルに引き上げることに成功していました。これを3年あまり前から
さらに改良し、普通では補助ポンプも要らない、原則全員助けられる、
そこまで完成度を上げた左室形成術がこの心尖部凍結型左室形成術でした。
私にとってはかつての不十分な手術や医学に対する自分なりの回答であり、
かつて助けられなかった患者さんやご苦労をおかけした仲間たちへの禊(みそぎ)
という気持ちが強くありました。

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発表の後、良いコメントや前向きのご質問をいただき、そのあとも、
是非これから使いたいから詳細を教えて!と言っていただき、この10数年の努力
が報われた思いでした。

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この手術の詳細は近いうちに米国のメジャージャーナルから発行されるため、
これから世界のあちこちで患者さんの救命にお役に立てればこれ以上の喜びは
ありません。

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これをバネにして、さらに精進したいと思いながらサンディエゴを後にしました。
次回のメルマガでは、その他今回の学会で学んだことなどをご報告したく思います。

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平成30年5月3日
医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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