いい心臓・いい人生 【第120号】 日本胸部外科学会2018

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いい心臓・いい人生 【第120号】 日本胸部外科学会2018

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発行:心臓外科手術情報WEB

http://www.shinzougekashujutsu.com

編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始

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変な台風が急ぎ足で通り過ぎましたが皆様如何お過ごしでしょうか。

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2つの台風の合間を縫うような形で恒例の日本胸部外科学会総会が東京で開催

され参加して参りました。日本の心臓血管外科の学会としては最高峰に位置する

学会で、専門医資格維持に必要ということもあり皆と一緒に参加しました。

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今回は東京医科歯科大学の荒井裕国先生が会長を務められ、先生らしい親切で

内容たっぷりてんこ盛りの会で真面目に参加した人間の一人として、ぐったり

疲れるほど充実していました。

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海外からの招請演者も豪華な顔ぶれでした。

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弁膜症・ミックス関連ではニューヨークのDavid H. Adams(僧帽弁形成術で

ますます磨きがかかっています)、バンコックの Taweesak Chotivatanapong

(リウマチ性僧帽弁膜症の弁形成が年々完成度向上)、モナコのGilles

Dreyfus、シシリーのKhalil Fattouch(虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する

乳頭筋吊り上げの仲間、私が発明した乳頭筋前方吊り上げもきちんと引用して

くれてありがとう)、ライデンのRobert JM Klautz(SAMや機能性逸脱の話は

分かりやすかったです)、ミュンヘンのRudiger Lange(複雑僧帽弁形成術や

直視下MICSで話題を)、ザーランドのHans-Joachim Schaefers(大動脈弁

形成術がいよいよ佳境に)、ローマのHugo Baron Vanerman(MICS手術の

パイオニア、ますます冴えるご指導に感謝)、香港のSong Wan(抜群の安定感

ある弁形成)、スタンフォードのJoseph Woo(若きリーダー、大変柔軟性ある

頭と腕で、私発明の乳頭筋前方吊り上げも綺麗に活用)、シドニーのTristan

D Yan(MICSのホープ)らが講演されました。

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個人的にも旧交を温めたり、新たなプロジェクトで色々と相談ができ、大変

有意義なひと時でした。

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冠動脈関係ではバンコックの Suchart Chaiyaroj、オンタリオ・ロンドンの

Bob B Kiaii(MICSバイパスがさらに完成度を上げる)、ソウルのKi-Bong Kim、

オックスフォードのDavid Paul Taggart、大動脈関係ではボストンのDuke Edward

Cameron(日本のreimplantation手術のレベル向上にも貢献)、ボローニャの

Roberto Di Bartolomeoはじめ錚々たるゲスト陣でした。

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私自身はテクノアカデミー・虚血性心疾患の部で心筋梗塞後のVSDいわゆるVSPに

対する心筋梗塞除外術、通称David-Komeda手術と呼んで頂いている手術の歴史と

新型の解説を加えました。この手術を中心とした左室アプローチでしか治せない

病態、代表的な3つ(左室自由壁破裂合併、虚血性心筋症や心不全合併例、

心筋解離が高度で心室中隔が二つに割れたケース)をお示しし、若い先生にも

使って頂ける簡便な新型術式を披露しました。若手がこの手術で優れた成績を

上げているのをご紹介しました。さらにこれから左室形成術のリバイバルを引き

起こすかも知れない心尖部凍結型左室形成術をご紹介し、これによって左室内操作

に慣れればVSPへの左室内手術ももっと快適安全になる事をお示ししました。

左室は心臓外科の最後のフロンティアの一つである事、若い先生方に是非とも

挑戦して欲しいこともお話しました。

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VSP以外でも僧帽弁形成術のラピッドセッションで新しい連続ループ法の威力を

お示ししました。これは複雑僧帽弁形成術特にMICSで活躍する事をお示しし、

上記タイのTaweesak先生らからも良いご意見を頂きました。

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近年の学会の流れに沿って若手育成のためのセッションやアワード(賞や留学

支援など)のセッションも増え、親切で楽しい学会への脱皮努力が感じられる

良い内容でした。

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また心臓血管、呼吸器、食道の3本柱を持つ胸部外科総合学会ですが、年々

3つに分化する傾向が見られ、今後どのように統合性を維持するか、学会

そのものの存在価値を問われる状況になっていることも教えられました。

心臓外科医が日本外科学会に参加しても居場所が少ない、内容も薄いと感じる

(専門医資格維持のために止む無く参加)のと同様のことを呼吸器や食道の先生方

がこの学会に対して感じておられるのであれば、やはり抜本的な改正が必要なの

かも知れません。

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ともあれ極めて充実し、また楽しい4日間でした。会長の荒井先生、東京医科歯科

大学の皆様、お疲れ様でした。

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平成30年10月7日

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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー

心臓血管外科専門医・指導医

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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