いい心臓・いい人生 【第122号】 アジア弁膜症シンポジウム(2)

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いい心臓・いい人生 【第122号】 アジア弁膜症シンポジウム(2)
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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アジア弁膜症シンポジウムの2日目からは趣を変えて北山にあるしょうざん
リゾートで開催しました。(今回のシリーズは医療者向けです。一般の皆様、
申し訳ありませんが、読み飛ばして下さい)
紅葉が始まり、会議場からそれが大きく広がる光景はなかなかのものでした
(自画自賛ですみません)。

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まず人工弁の選択のセッションで機械弁の推進派としてYan Li先生と、Morakat
Bundit先生が、生体弁の推進派としてインドのKaushal Pandy先生とPrathanee
Sompop先生がそれぞれの経験を披露されました。

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アジアの心臓弁膜症外科は症例数が多いため、欧米の学会とは一味違う説得力
があり、勉強になったと思います。
せっかく生体弁を使っても、その患者さんの半数近くがワーファリンを服用
しているため、もっと機械弁を使ったらどうか、とか、機械弁の突然の機能不全
は現在も怖い合併症であるとか、再手術は今や安全にできるため生体弁の寿命
はそれほど気にしなくても良いとか、それぞれ意味のあるお話でした。

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さらに長期成績について、シンガポールのOon Cheong Ooi先生とアメリカ・
オレゴンの畏友Anthony Furnary先生がそれぞれの視点から発表されました。

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とくにFurnary先生はこれまでの16000例近い多数の経験の解析を一歩進めて、
SMRという考え方、つまり同世代の健康人と比べてどれほど生体弁や機械弁の
患者さんの長期成績が追いついているかを検討されました。

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機械弁AVR(大動脈弁置換術)はSMR2.0(同世代の健康人の2倍の死亡率)
であるのに対して生体弁AVRでは1.17とかなり良好でした。しかも20年成績で、
ブタ弁1.33に対して心膜弁1.12と同じ生体弁でも意外に生存率に差があり驚き
ました。僧帽弁では生体弁は機械弁のSMRより良好であるものの、二葉機械弁
とでは差がないことも示されました。

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私のこれまでの人工弁選択で良かったためほっとしましたが、これらをさらに
詰めて行く必要があると思いました。様々な有益情報を活かして、この場合
はこうする、あの場合はああする、というキメ細かい対応策ができれば心強い
ことです。

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午前中の後半は大動脈弁の治療についてで、治療タイミング(Dr. Chartiburns
Peenutchamee)、人工弁サイズミスマッチ(我らの代表 Dr. Huat Seong Saw)、
低流量低圧較差AS(大動脈弁狭窄症)(Dr. James Wong、TAVIが選択肢に
なるというのは理解できるところでした)の議論がなされました。

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それから最近話題の短時間で植え込める生体弁(いわゆる縫わなくても良い
sutureless弁)のセッションとなり、今後の方向性をDr. Abu Khudairが、
Perceval弁を韓国の畏友Dr Byung Chul Changが、Intuity弁をマレーシアの
畏友Dr. Jeswant Dillonが発表しました。

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Sutureless弁はTAVIよりも弁周囲逆流が少ない分、長期生存率が良いという
のは外科には嬉しいニュースでした。アジアは症例数が多いだけでなく、
新しい器械や弁が自由に使えて羨ましい限りでした。

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午後はネットワーキングということで、4班に分かれて京都散策をして頂き
ました。嵐山界隈と金閣寺龍安寺界隈で、大変好評でした。他文化に関心や
理解がある人たちが多いため、案内のし甲斐がありました。歩きながら議論
の続きをしている人もあり、感心しました。

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定刻までに全員戻らないと困る、冷めたスープなど出せないと生真面目過ぎる
シェフが主張するため遅刻者が出ないよう、神経を使いました。広いエリアを
散策したのに皆さん全員遅刻せず、お見事でした。(続く)

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平成30年11月14日

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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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