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いい心臓・いい人生 【第124号】 アジア弁膜症シンポジウム(4)
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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熱い議論で盛り上がったアジア弁膜症シンポジウムも最終日になりました。
朝の会場へのの道のりは、さらに秋の到来を示す紅葉が進んでいました。
(今回も内容は医療者または弁膜症患者さん向けです。それ以外の方は
すみませんが、読み飛ばして下さい)
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まず現在のガイドラインを見直すセッションで、手術や治療の進化をガイド
ラインが必ずしも反映していないことがあり、患者さんを預かる身としては
うまく対応する必要があることを痛感しました。
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弁膜症を持つ妊婦さんの治療もその一つでした。妊婦さんの心臓は、子宮
と赤ちゃんのため心拍出量が50%前後も増えるため、僧帽弁狭窄症や
大動脈弁狭窄症などの狭窄病変には不利であることや、凝固系が亢進する
ため、血栓ができやすく、要注意であることなどを話しされました。
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感染性心内膜炎の手術などでも検討の余地あることをDr. Pandyが示されました。
子どもの弁膜症の治療では、タイのDr. Azhari Yakub、サウジアラビアの
Dr. Zohair Al Halees、ベトナムのDr. Van、Dr. Peenutchaneeらがそれぞれ
の立場から論じられました。
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次のセッションは付随病変をどこまで治すかというもので、まず虚血性MRを
どう扱うかという昨日の延長線上の議論がDr. Chanからなされました。
弁膜症に伴う心房細動AFはDr. James WongとDr. Choosakが概説されました。
北京のDr. Mengは左心耳閉鎖の話をされ、最近は挿管なしつまりマスクにて
MICSで左心耳閉鎖を積極的に行なっていることを紹介されました。
脳梗塞の予防に役立つため、これからの前向き医療と思いました。
Dr. Chanは三尖弁閉鎖不全症の手術とその適応について、最近の考え方を
紹介されました。これまでより積極的に弁形成する方向にあり、頷けるもの
でした。
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ランチオンは中国国産の生体弁のお話でした。アメリカの生体弁をもとにした
中国版という印象ですが、まだ1年のフォローアップ成績しかないためちょっと
心配になりました。
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午後は小開胸による弁膜症手術、いわゆるMICSのセッションでした。
タイの畏友Dr. Weerachai Nawarawong、マレーシアの畏友Dr. Jeswant Dillon、
中国のDr. HaiboがそれぞれのMICS経験談を紹介しました。いずれも興味深い
立ち上げ時の苦労話などが含まれ、楽しく拝聴しました。通常の正中切開の
弁膜症手術と違い、ラーニングカーブが強いことからどこでも誰でもやるべき
手術ではないとする意見もあり、やはりMICSはエキスパートだけがやる手術
と思いました。
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サウジのDr. KhalielはMICS開始にあたっては、入念な準備が必要で、時代に
遅れないよう努力すべきとのことで、当然と思いました。
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最後のセッションはカテーテルで入れる生体弁、いわゆるTAVIがテーマでした。
シンガポールからDr. Chua Yeow Leng、タイからDr. Pranya Sakiyalak、
中国からDr. Zhang Haibo、日本からは京都大学湊谷謙司教授の名代・川東
正英先生、韓国からDr. Byung Chul Chang、サウジからDr. Feras Khalielが
それぞれのお国と施設の現状を紹介されました。
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カナダ・バンクーバーのDr. Jia Lin SoonがTAVIの文献的考察と私見を、韓国の
Dr. Chanが公正なハートチームになっているかについて論じました。かつては
外科医が主体となる経心尖部アプローチも一部あったが、現在はほとんどゼロ
で、手術死亡もほぼゼロになった。しかし遺残ARは予後を悪くする。バルブ・
イン・バルブは安全な手技になったがPPMつまりサイズミスマッチが一部に
あり、レジストリーが必要、などが論じられました。
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ここでも熱い議論があり、コマーシャルベースに偏りすぎて、患者不在になって
いるのではないかという批判も見られました。厳しくても嘘のない本物のディス
カッションで、さすがMuluシンポジウムと思いました。良い医療が患者さんに
益するものである以上、見かけの便利さで患者さんに不利な結果をもたらす物
は許してはならない、という良心が伺え、誇らしいことでした。
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最後のディナーでも皆和気藹々と楽しいひと時を過ごすことができました。
なおこのシンポのお土産は、信楽の大小屋さんの一輪挿しと、静岡の道楽苑さん
のお茶セットでなかなかの好評をいただき、嬉しく思いました。
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今回のシンポジウムでは日本の弁膜症外科の良さを世界に知っていただきたく、
もっと多数の同胞の先生方をノミネートさせて頂いておりましたが、事務局の
様々なご都合で理想通りには進みませんでした。この分は次回以後に持ち越し
たく思います。また4日間全出席が義務ということで、せっかく講演依頼した
先生にも、参加できないというケースが発生し、お許し頂けましたら幸いです。
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その次回のアジア弁膜症シンポジウム(Muluシンポジウム)は北京にて2年後に
開催されることになりました。次期会長のMeng Xu先生、よろしくお願いします。
参加の皆さん、立派な発表とディスカッションありがとうございました。
お世話になったトラベルラボパートナーズの妹尾さん、石倉さん、国島さん、
お疲れ様でした。
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平成30年11月16日
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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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