いい心臓・いい人生 【第161号】 心臓外科の現場から

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━━━━いい心臓・いい人生 【第161号】 心臓外科の現場から━━━

発行:心臓外科手術情報WEB
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始

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皆様ご無沙汰致しております。

冬の訪れを感じさせるこの頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。

インフルエンザがすでに流行しており、学級閉鎖も増え、外来へは発熱の患者さんが急増しています。

 

さて心臓外科では厳しい医療情勢の中で皆さん日々努力し、各領域で着実な進歩が見られます。私は半分心臓外科、半分心臓内科の二足わらじで、これまで以上に忙しく目が回るような毎日を送っています。

 

心臓内科(病院では循環器内科とか循環器科と呼ばれることが多いです)のカテーテル治療の進歩のため、状態の悪い、あるいは多数の病気をお持ちの、はたまた超高齢の患者さんたちを中心に冠動脈、大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症の一部などにカテーテル治療が活躍する場面が増えました。やはり切らずに治せる、たとえ治せなくても軽くできるというのはありがたいことです。

昔から外科医は内科で治せない病気を治療し、内科の進歩でそれまでの治療から撤退し、より重症の病気を中心とした新たなフロンティアへと仕事場を広げるというのがならわしでした。それは患者さんがより負担の少ない形で元気になるという意味で素晴らしいものと思います。

 

しかしカテーテル治療はどうしても不完全さがつきまといます。そのため患者さんの生存率が下がることもしばしばです。そこで外科治療がその弱点を埋めるという形も大切と考えるようになりました。さらにこれまでの外科治療でも患者さんを救えない谷間の部分を何とか埋めようという努力も併せて行うようになりました。

 

心不全への手術がその一つで、内科治療では治せない、従来型の外科治療でも新しい補助循環つまり人工心臓が使えない、移植も様々な制約のためできないという患者さんの手術を年々工夫を重ねながら続けて来ました。

たとえば虚血性心筋症や虚血性僧帽弁閉鎖不全症などでは内科の先生がギブアップされた患者さんを新しく開発した手術(乳頭筋前方吊り上げ術や新しい左室形成術)で助けて来ましたが、治療成績が良くなり、短期成績だけでなく10年を超える長期成績が十分期待に応えられるレベルに達したため最近は各種の重要学会で発表し、外科の良さを知って頂くようにしています。肥大型心筋症の一部で、これまで心移植しかないと言われたタイプも皆さんお元気に長期生存できるようになり、これも発信しています。

 

長年外科医をやっていますと、ノウハウの蓄積や国内外から頂く情報が増え、これまで見えなかったものが見えます。石の上にも3年という諺を思い出しています。医学の場合は3年ではなく30年かと思っています。

共に頑張って下さった内科・外科のチームの皆さんや、何より苦楽を共にした患者さんやご家族に感謝しながら今日もこつこつと努力を重ねています。

 

2025年11月18日

 

米田正始 拝

 

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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