第四回 重症心不全外科研究会にて――左室形成術をめぐって

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第68回日本胸部外科学会の際にこの重症心不全外科研究会が開催されました。今回は自治医大さいたま医療センターの山口敦司先生が当番幹事つまり会長でした。

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この研IMG_1854究会はこれまで多数の患者さんたちを救命して来た左室形成術がSTICHトライアルという欠陥研究のため誤った過小評価を受け、そのために患者さんが左室形成術の恩恵が受けられなくなるという悲劇が発生しているのを何とかしようという趣旨で立ち上がったものです。

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これまでオーバーラッピング手術などで業績を上げて来られた北海道大学の松居喜郎先生が代表幹事として、その事務局機能を同大学の若狭哲先生が担って下さっているものです。左室形成術の大御所であられる北村惣一郎先生や須磨久善先生にも顧問としてご参加いただいている、この領域のオールニッポンともいえる集まりです。

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今回は山口先生のご配慮でこれまで以上に内容豊富な研究会になりました。

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まず須磨先生のご司会で松居先生が重症心不全外科研究会のおかれている立ち位置と今後の課題というテーマで概説されました。左室形成術が患者さんの予後改善に役立つという根拠を示す努力を紹介されました。

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医療現場では左室形成術の威力は知る人ぞ知る、おおきなものがありますが、この心臓手術は重症例に行うことが多く、患者さんの中には移植以外の何をやってもダメというほどに心臓が弱っている方も多く、これらの方々では左室形成術は効果なしという結論になりがちですし、逆に軽症すぎる方の場合は左室形成術をやらなくてもまあまあ元気ということも多々あります。このあたりのしっかりとして見極めが大切で、こうした方向の議論がなされました。

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この中で松居先生らのグループのSWI(Stroke Work Index、心筋の性能を知る有用な指標です)が20以上なら予後が良いという指標は今後の有力な参考になり得るものと思いました。

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ついで山口先生の司会で若狭先生がこれまでの本研究会での公表エビデンスをまとめて紹介されました。

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SURVIVEという名前のレジストリ―で1500例以上のデータの蓄積のなかから検討されました。その77%が虚血性でした。左室形成術は768例あり、そのうち40%に僧帽弁手術がなされていました。

左室駆出率40%未満の1093例を検討されました。左室形成術はちょうどその半分にされていました。

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その結果、Group2というESVIが71-96の範囲の中等度の左室機能不全例にて左室形成術は有意に予後を改善していました。左室はそれより大きいつまりより重症のグループでは明らかな予後改善効果に至っていませんでしたが、私の見たところ、それらのグループは拡張機能障害がない範囲内でもっと積極的に左室を縮小すれば心機能も生存率もさらに改善したのではないかと思いました。これからこうした細部を煮詰める必要があるものと感じました。

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研究会の広範はビデオプレゼンテーションで、東京医科歯科大学の荒井裕国先生と京都府立医大の夜久均先生の座長で行われました。

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東京大学の小野稔先生は弓部大動脈瘤と虚血性心筋症の患者さんに対して左室形成術と僧帽弁形成術、CABGを行い、ついでデブランチTEVARで仕上げられたケースを報告されました。こうした複合疾患での一つの良い組み合わせ治療と思いました。

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国立循環器病研究センターの小林順二郎先生は機能性MRを合併したDCMの一例を報告されました。左室Dd65mmをバチスタ手術で積極的に45mmまで縮小し改善をみました。機能性僧帽弁閉鎖不全症を僧帽弁形成術で治すためにこうしたバチスタ手術は有用とあらためて感じました。ただここまで小さくすると拡張機能障害が出て困ることもあり、注意深く進める必要を感じました。

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東海大学の長泰則先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する左室形成術を報告されました。中等度以上のMRには弁置換をしているとのことでした。左室形成術はDor手術を使っておられますが、ジオメトリー維持のため工夫をしておられました。術後の心室頻拍VTを防ぐために積極的に左室の内膜切除を行っておられるのが印象的でした。

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名古屋大学の六鹿先生は40代のデュシャン型筋ジスDCM患者さんに心拍動下MVRとTAPなどを施行し、一旦改善していたものの6年経って心不全が進行したというケースを報告されました。私は多少とも似たケースを経験していたため、次のようにお勧めしました。まずこのタイプの筋ジスは心筋も侵すため油断はできない、しかしゆっくりと進むためまだ左室形成術で当分元気になる時間があるかも知れない、そこでその専門家と心筋の予後を十分検討されること、そしてDd89 EF12なら拡張機能障害がなければ左室形成術でかなりの改善が見込まれるため、前向きに検討して頂きたい。

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松居先生はEF8.8% Mild MRの虚血性心筋症に対するオーバーラップ手術と乳頭筋接合と吊り上げの一例を報告されました。Dd78は64へ、EF15は22へ改善したようで、これからさらに薬で改善を図って頂きたく思いました。MRIでのViabilityの有用性や乳頭筋接合の詳細も論じられました。

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私、米田正始はある大学病院で心移植候補と判定された患者さんに、ご希望によって左室形成術とPHO式僧帽弁形成術によって社会復帰された一例を報告しました。現在術後1年が経ちますがお元気でNYHA I度つまり心不全症状なく、ご家族の介護などで活躍しておられます。

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こうした超重症でも外科手術とくに左室形成術やPHOなどによって元気に社会復帰できる方が多いことをもっと多くの方々に、とくに内科の先生に知って頂きたく報告しました。

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移植センターの先生に聞いたところ、最近の循環器内科の先生方の傾向として、こうした心不全でβブロッカーが効かなくなれば即LVAS補助循環にという短絡が多いとのことでした。LVASは長足の進歩を遂げていますが、まだまだQOLは低く、やはり左室形成術などの通常治療で元気になれれば患者さんへのメリットは大きなものがある、こうしたことも論じました。

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山口先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋接合術の工夫を解説されました。カラーとMICSリトラクターをもちいると経僧帽弁的に乳頭筋が良く見え、手術がやりやすくなります。

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京都府立医大の山崎先生は広範囲の梗塞除外を行った左室形成術の一例を示されました。ELIET法と呼ばれる直線閉鎖にて心機能を改善されました。

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さまざまな症例から活発な議論ができました。最初のご講演と合せて熱い志の高い研究会でした。

なお幹事会でここまでの立派なデータの蓄積をうまく使って左室形成術の特徴を浮き彫りにするための努力工夫を論じました。私見ですが、中等度心不全で効果が出ている以上、中高度心不全や高度心不全では必ず効果のあるケースが存在するはずで、それらを検討することでより左室形成術の真価や限界が見えてくるものと思いました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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