抗がん剤治療後の心不全(いわゆるCTRCD) 【2021年最新版】

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最終更新日 2021年1月2日

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◼️抗がん剤による治療で心不全が

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医学の進歩でがんもかなり治り、あるいは長持ちするようになりました。211247569

まだまだ未解決の問題はありますが、それでもがんの患者さんにとって光が見えて来ているのは確かと思います。

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ところが、

抗がん剤によって心筋つまり心臓の筋肉が壊れることがあるのです。

このことは昔から知られてはいましたが、抗がん剤がより積極的に使われるようになって問題になっています。

これを近年、がん治療関連心機能障害(CTRCD)と呼ばれるようになりました。

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◼️心筋を壊す抗がん剤とは

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たとえばアドリアマイシン(ドキソルビシン)などのアントラサイクリン系抗がん剤ですね。

これは良く効くためリンパ腫、白血病、乳がんその他に現在も欠かせない薬になっています。

これが1型心筋障害(アントラサイクリン心筋症)を引き起こすのです。このタイプは一旦起こると元に戻りにくく、治療が難しいと言われています。

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またトラスツズマブに代表されるHER2(ErbB)阻害薬による2型心筋障害(トラスツズマブ心筋症)が知られています。このタイプは発生してからでも適切に治療すれば半数以上の患者さんで回復が可能です。

あるいは近年白血病治療で成果を上げている第二世代チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるニロチニブやダサチニブが末梢動脈閉塞症を引き起こすことが報告されており注意が必要です。

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◼️がん治療関連心機能障害(CTRCD)の治療は

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抗がん剤を止める、あるいはその使用量を調整することなどから治療は始まりますが、ケースによっては血管新生阻害剤が注目されています。ただこの薬は全身の血管の内側を守る血管内皮細胞を傷つける恐れがあり、そのために高血圧や肺高血圧、血栓症や心臓の機能低下などが起こるため慎重に使う必要があります。今後の展開が期待される治療法ではあるのですが、まだこれからの医学とも言えましょう。

この他にも元の状態と使用した抗がん剤の内容によってさまざまな対策が図られています。

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◼️もしCTRCDで心不全になってしまったら

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もともとががんを持っている状態からの出発なので大変ですが、がんが寛解状態となり心不全だけが問題という状態でしたら心臓外科がお役に立つことがあるかも知れません。

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CTRCDの心不全でも治せるケースが

私たちの経験ではアドリアマイシン心筋症で拡張型心筋症+機能性僧帽弁閉鎖不全症になった患者さんが心不全のため息苦しくてたまらないと来院され、その方に僧帽弁形成術とくに乳頭筋吊り上げ(PHO)を施行し元気になられ、10年近く経った現在もお元気にしておられるという経験があります。

また私が京都大学で勤務していたころ、アドリアマイシンでヒツジに拡張型心筋症を作り、これを改良左室形成術で心機能改善を図っていました。→英語論文番号108、124

心不全の内容が左室の拡張や動きの低下、あるいはそれによる僧帽弁の歪みからくる弁逆流なら私たちのPHOや新しい左室形成手術で治せるケースがあるでしょう。→→もっと見る

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実際、がんセンターの先生方と相談していると、拡張型心筋症や機能性僧帽弁閉鎖不全症になって困った患者さんはこれまで少なからずあるとのことでした。しかしそれらの患者さんは薬で対処できなくなると看取りつまりお亡くなりになっていたのです。残念なことです。内科医と外科医は交流があるようでも十分ではないのです。

がん治療関連心機能障害(CTRCD)の心不全と言われた患者さんは諦めるまえにご相談ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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