ベントール手術、、患者さんの想い出

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  Ilm17_da05014-sTさんにベントール手術をさせて戴いたのはもう13年も前のことです。当時勤務していた京大病院でのことです。まだ30代でお若く、しかしマルファン症候群のため上行大動脈や大動脈弁が壊れたための手術でした。術後経過は順調でまもなく元気に退院して行かれました。

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当時から私は患者さん自身の弁を使うデービッド手術の経験はありましたが、マルファン症候群の患者さんの弱い弁組織に対してどれだけ良いかは不明でしたので、安全確実にベントール手術を行ったのです。今ならおそらくデービッド手術でしょう。

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私がハートセンターに異動してからは連絡がつかなかったのですが、その後Tさんは大阪の有名センターに通院しておられたようです。昨年9月にフェイスブックで再会し、高の原中央病院のかんさいハートセンターの内覧会にも来て下さいました。そのときにはマルファンネットワークジャパンという、私も顧問を務めさせていただいている、患者さんの会の一人としてお越し下さいました。久々の再会をうれしく思ったものです。医師ー患者というより旧友、もっといえば戦友のような熱いものを感じる再会でした。

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ところが昨年末、体調を崩され発熱し、近くの病院に入院されました。まもなく帰らぬひととなられたのです。それを知ったのはその1か月も後のことでした。

その時の話から、おそらく死因は感染性心内膜炎(IE)それもベントール手術の人工弁に起こったタイプ(PVE)だったものと推測されます。

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亡くなるまでに私が知っていたら、何 David & Bentallか違った結果を出せたのではないかと思うと残念でなりません。PVEならこれまで何度も救命できているからです。

それと、当時はベントール手術がただしいものと考えられた手術でしたが、現在行っているデービッド手術ならPVEにもなりにくいため、先駆的に後者をあのとき行えばよかったのでは、という悔いも残ります。

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時代の流れとはそうしたものかも知れませんが、少なくとも読者の患者さんにおかれましては、何かおかしいことがあれば、とくに発熱とか胸痛、失神、息切れなどは早めにご相談頂ければと思います。

Tさんのご冥福を祈りながら、自分なりに患者さんにもっと啓蒙活動や役立つことができないか、それがTさんへの供養になるのでは、と自問するこのごろです。

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(平成26年2月 米田正始 記)

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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