【テスト】乳頭筋最適化術(Papillary Head Optimization)とは 【2023年最新版】

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最終更新日 2023年2月15日

1.乳頭筋ヘッド最適化手術とは?

乳頭筋のヘッドを糸で束ねて前方に吊り上げ、僧帽弁の逆流を止める手術です。略称はPHOです。
アメリカのKron先生の方法をもとにして、私たちが世界に先駆けて開発した術式です。虚血性僧帽弁閉鎖不全症などの機能性僧帽弁閉鎖不全症に対して威力を発揮します。
この領域の権威であられる産業医大循環器内科教授・学長の畏友・尾辻豊先生のご意見で命名しました。 以下もう少し詳しくご説明します。

2.虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症の手術で大切なことは

心筋梗塞後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や特発性拡張型心筋症の機能性僧帽弁閉鎖不全症では前尖だけでなく後尖のテザリングつまり弁尖が左室側に引き込まれる現象をいかに治すかがカギとなります。

そのため前尖だけでなく後尖も治せるこのPHO法は当初、両尖最適化(Bileaflet Optimization)という名前で、より多くの患者さんたちにお役にたつものとして発表しました。しかし直接的には乳頭筋に手を加えて治すため、このPHOという名前が分かり易いと言われたのです。

PHOシェーマ

なるほど鋭いご指摘、さすがは尾辻先生と感心し、以後このPHO法という名前を発表のときには使っています(開発の歴史のページをご参照ください)。

3.従来の手術との成績の比較

これまでの手術法とくらべてこの乳頭筋最適化術(PHO法)はどのくらい良い結果を出せるのでしょうか。

まず現在まで標準術式と言われている僧帽弁輪形成術、つまりリングをもちいて僧帽弁の弁輪を締める方法(略称MAP)と比べてみると、
前尖のテザリングについてはMAPもそこそこは行けるもののPHO法が有利、とくに重症の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や重症の機能性僧帽弁閉鎖不全症でテザリングが高度なものではPHO法が断然有利です。

後尖については、MAPでは手術後は術前より悪化します。しかしPHO法をMAPに併用すれば悪化しません。有意に改善とまでは行きませんが良くなる傾向があります。つまりここでMAPだけの従来法にはない、大きなメリットが発生するわけです。

これらを合わせると、これまでのMAP法で治せなかった虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症をこの乳頭筋最適化術PHO法では治せる、その限界線が高くなったと言えそうです。

4.もう一つの手術法との比較では

PHOとPMA

この乳頭筋最適化術PHO法と、近年ある程度使われている乳頭筋接合術(PMA法)を比較しました。
PHOは乳頭筋先端を前方へ吊り上げるのに対してPMAでは両乳頭筋を寄せるのです(左図)。簡便な良い方法と思います。
すると前尖についてはどちらも善戦健闘するものの、PHO法のほうが有効性が高いという結果でした。

後尖についてはPMA乳頭筋接合術では悪化したのに対してPHO法では悪化しませんでした。

心臓とくに大切なポンプである左室のサイズや動きパワーについてはPMAよりPHO法のほうが有利という結果でした。PMAも悪くはないのですが、PHOでは明らかに改善する項目が多かったのです。

総合的に判断すると、乳頭筋接合術PMAより乳頭筋最適化術PHO法のほうが有利という結果でした。ただしその差は前述のMAP法との差よりは小さく、PMAはかなりつけているとも言えましょう。後尖のテザリングがそうひどくなければどちらも使える方法だと思います。

こうした結果を、2012年のヨーロッパ心臓胸部外科EACTSと、2013年のアメリカ胸部外科学会AATSの僧帽弁セッションともいえるMitral Conclaveなどで発表し、多くのご質問や前向きのコメントを頂きました。2017年にはアメリカ胸部外科学会の本会で発表でき、その効果が世界に知られるようになりました。

内外の学会でぜひ使いたいと言って下さった先生方も増え、光栄なことです。

5.乳頭筋最適化術(PHO)の限界は

ただしいかなる術式もそうであるように、このPHO法にも限界はあると思います。

そもそも左心室があまりにも壊れているケースでは、僧帽弁閉鎖不全症がきれいに消えても、それだけではパワー不足という大きな、かつ根底的問題が残ります。
何しろ、これらの手術が対象とする患者さんは、心臓の筋肉が大きく壊れたり失われた方々ですから、もとの出発点が厳しいのです。

しかし、だからこそ、少しでもパワーアップをという努力は大切と思います。PHO法が患者さんにとって有利で、かつ威力を発揮できるような使い方をすることが大切です。

パワーに関しては、ここまでの研究で、PHO法と同じ前方吊り上げによって、左室収縮機能が改善することが心不全の動物モデルで証明できています。これは手術前に僧帽弁閉鎖不全症をもたないモデルですので、弁の逆流を消したため左室機能が良くなったのではなく、PHOという操作自体が左室機能を良くしたことになります。
これは人間ではなかなか証明できない、実験研究ならではのメリットと考えています。

というのは人間の患者さんで、僧帽弁閉鎖不全症のないひとにこうした術式を行うことは倫理的に許されないからです。

それ以外にもPHO法が左室のパワーアップに役立つという傍証があります。それはコアプシスCoapsysという左室を前後に圧迫するデバイスで左室機能がある程度改善するというデータが実験でも患者さんの臨床データでも報告されています。PHO法で左心室を前後に圧迫するちからとかなり近いちからのかかり方です。そのため同法でも同様のパワーアップが期待しやすいのです。

6.限界を打ち破る、最近の展開は

Apf1107-s

そうこうしながら、60名を超える患者さんにこのPHO法を行い、その前のバージョンである腱索転位法(トランスロケーション法)と併せると100例近い数になりました。

なかでも新しいPHO法で予想以上に活発な生活を送っておられる方が多いことが、実感のあるよろこびです。

こうした最近の成果を内外の主要学会のシンポジウムなどで発表し啓蒙に努めています。

参考:
いい心臓いい人生99号 第31回日本冠疾患学会(2017)にて。
いい心臓いい人生98号 日本胸部外科学会総会(2017)にて。
いい心臓・いい人生96号 ソウルに行って参りました(第19回国際弁膜症シンポジウム
いい心臓・いい人生92号 アメリカでちょっと頑張りました(アメリカ胸部外科学会)

それともうひとつ、この方法にいったん慣れるとかなり短時間で手術操作が完了します。上記のように大きなメリットを患者さんに提供できるだけでなく、それがたかだかプラス10分あまりの時間でできてしまうという利点は今後に期待ができると考えています。短時間でできるということは、患者さんの体力を消耗せずにすむことであり、体力が落ちた重症患者さんにとって大きな利点となります。

PHO and others

私たちが開発したPHO手術(図の左)は、その効果の高さからご活用くださる施設が増え始め(図の右)、光栄なことです。医学研究のオリジナリティを守るため、私たちの原著を引用頂けると良いのですが、、、、

さらに新しい左室形成術(心尖部凍結型左室形成術と言います→もっと見る)で短時間で左室の修復が行えるようになり、アメリカのメジャージャーナルの表紙を飾りました(右図の赤矢印)。

Seminar

これまでPHOが使えなかった巨大な左室にも使えるようになり、盛り上がりを見せています。PHOと新しい左室形成術の併用効果は大きく(デュアル形成術)、2019年のアメリカ胸部外科学会・僧帽弁シンポジウムで発表し反響がありました。→→デュアル形成をもっと知る

それやこれや、こうした努力のメリットと限界とを常に考え、患者さんが損しないようにバランス感覚を磨きつつ、日々精進しています。またこれからこのPHO法を海外や国内の先生方にも安心して使って頂けるよう、啓蒙活動を行う予定です。

7.カテーテル治療・Mクリップとの比較では

近年循環器内科で話題のMクリップは、心臓外科手術のアルフィエリ法をカテーテルで行うものです。アルフィエリ法では僧帽弁前尖と後尖を真ん中にてつなぎ、僧帽弁を2つに分けて閉じやすくするものです。
良い方法なのですが、本質的に僧帽弁を治すものではなく、まして原因である左室を直せないため効果は限定しています。ただMクリップはカテーテルでからだへの負担が少ないため試みる価値があるケースは存在すると思います。
これをやってみてダメなら上記の乳頭筋最適化手術(PHO)というのは一つの方法と思います。
Mクリップについて、さらに見るのはこちら
Mクリップが効かないときはこちら

ニュース(2016.9)

機能性僧帽弁閉鎖不全症はさまざまな原因で起こり、患者さんの予後を悪くします。
機能性僧帽弁閉鎖不全症のなかで、心筋梗塞などによる虚血性僧帽弁閉鎖不全症や、拡張型心筋症にもとづくタイプには上記の左房アプローチによるPHO術式が威力を発揮することを発表して参りました。

このたび、大動脈弁からのアプローチによるPHO手術を世界の心臓外科トップジャーナルと言われる Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery誌 から発表することになりました。

この新術式は上記のどのタイプの機能性僧帽弁閉鎖不全症にも使えますが、中でも大動脈弁疾患に合併するタイプに特に有用です。というのはこの病気の患者さんの多くは大動脈弁置換術または大動脈弁形成術が必要なため上行大動脈を一度開ける必要があります。そのときにこの上行大動脈からPHOを行えば5-10分ほどで僧帽弁もきれいに治せるからです。

患者さんの体への負担を軽くし、効果は大きく、僧帽弁閉鎖不全症を治すだけでなく心機能も改善します。

大動脈弁疾患が原因の患者さんの場合は術後2年もすれば心機能はほぼ正常化します。世間では手遅れと言われていた患者さんの心機能が正常化するのです。

この新術式は米田正始・英語論文265番にあります。解説付きのビデオもジャーナルで見ることができます。若い先生方のご参考になれば幸いです。より多くの患者さんたちが助かれば大変うれしいことです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【テスト】バーロー症候群(Barlow’s syndrome)―形成できないというのは昔話?【2023年最新版】

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最終更新日 2023年2月15日

1.まずバーロー症候群とは?

それは僧帽弁の弁尖つまりひらひら開閉する部分が大きく広がり過ぎて余り、モコモコと凹凸した弁のことです。弁尖が余っている状態とも言えます。
以下もう少しご説明します。

バーロー症候群(Barlow’s syndrome)は欧米にはよく見られる僧帽弁の病気で、人口の1-6%に発生するというデータもあり遺伝的要素のある疾患です。
故バーロー先生(右写真)初めて記載され、その名が残っています。

故バーロー先生

別名フロッピー弁症候群(floppy-valve syndrome、弱い弁という意味)とか膨らんだ僧帽弁症候群(Billowing mitral valve syndrome)などともいうように、弁が伸びて組織が瘤のように余ってしまい、きれいに閉じなくなった状態を指します。

バーロー症候群とFED

左図の上がバーロー症候群の僧帽弁で前尖がもこもこと瘤化し変化していることがわかります。
左図の下が一般的な後尖逸脱のある僧帽弁で弁そのものの変化は軽いです。fibroelastic deficiency略してFEDとも呼ばれます。
著者は北米や豪州でこのバーロー症候群の手術を多数経験しましたが、近年は日本でも増えている印象があります(バーロー症候群の手術事例1)。

僧帽弁クレフト(裂隙)など先天性僧帽弁閉鎖不全症に合併するものもあります(手術事例2)。
甲状腺疾患やマルファン症候群手術事例3)、あるいはリウマチ性弁膜症などで多く見られる傾向があります。

2.バーロー症候群の症状は?

症状は当初はあまりないことが多いのですが、弁の逆流が増えるにしたがって次第に動悸や倦怠感、めまい、息切れ、胸痛(狭心症とは違う形の)、偏頭痛などがあります。

バーロー症候群(Barlow’s syndrome)では弁尖がしばしば2つとも左房へ落ち込み弁の逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が発生します。
その原因として考えられるのは、組織が変性し、弁尖が伸びてしまうことで、その組織変性は他の変性性の病気と関連していると考えられています。
バーロー症候群の患者さんの25%では関節の異常や高いアーチ状の口蓋、あるいは側彎やろうと胸、などの骨格の異常などが見られます。

3.バーロー症候群の診断と治療は

診断は心エコーにてつきます。
弁尖の位置や形、かみ合わせ具合等でわかりますし、僧帽弁閉鎖不全症としての重症度ももちろんわかります。

中等度から高度の僧帽弁閉鎖不全症になると、突然死や心房細動、腱索断裂、心不全、あるいは感染性心内膜炎への注意が必要となります。
こうなると心臓手術が必要となり、それによって突然死が防げます。
とくに胸痛や易疲労感、めまいなどを感じたら要注意です。
(参考:僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン

4.バーロー症候群の手術特に弁形成術は

手術では弁葉そのものが比較的柔らかいため、僧帽弁形成術が可能です。
ただし前尖・後尖含めた弁の大半を修復する必要がしばしばあり、熟練したチームでのみ形成可能です。

たとえば前尖の大半が逸脱していることも多く、しかもその前尖がしばしば瘤化しています。
そうなると前尖を適切に切除し、さらに人工腱索を多数立てて適切なかみ合わせを再現する必要があります。
私たちの経験では12本前後の人工腱索を前尖に立てればきれいにかみ合うようになります(手術事例4)。

さらに難しいのは、後尖も壊れていることが多く、そちらも三角切除や人工腱索などで再建する必要があります。
後尖の背丈が高すぎる場合はその高さを調整したり、取り付ける人工腱索の位置を調整してSAM(サム、後尖が前方へせり出し、それに押されて前尖が左室の出口を塞いでしまいます)をおこさないような工夫をします。
つまり前尖の人工腱索の長さ決定の通常の指標としている後尖の位置そのものがずれているため、前尖・後尖とも新たに造りなおすような工夫が求められるわけです。

人工腱索の4−6本も短時間で確実に立てられないチームではバーロー症候群の僧帽弁形成術が困難というのはそうした要求の多い手術だからです。

5.エキスパートが行う弁形成なら

しかしいったんきれいに弁形成術ができると、長期予後は良好です。
これは弁輪にリングをつけて弁全体をガードし、腱索もしっかりした人工腱索で置き換わることと、 前尖後尖のかみ合わせが良好になれば弁葉に対するストレスが大きく軽減されるからです。

バーロー症候群と言われた僧帽弁閉鎖不全症の患者さんにおかれましては、病気を無用に恐れることなく、また油断することもなく、しっかり正面から向き合って治す、これがお勧めできる方針です。

私たちはバーロー症候群の僧帽弁形成術といえども傷跡の小さいミックスで行なっている稀有な病院の一つです。お役に立てれば幸いです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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こどもの頃に僧帽弁手術を受けた方に

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◼️ こどもの頃の僧帽弁手術のあと

医学の進歩で、昔は治療できなかった病気が今は治療できる、そうしたケースが年々増えています。

こどもの頃に僧帽弁閉鎖不全症などで手術を受けられた患者さんたちも、その手術のおかげで立派に元気になり成人になったとうケースがすでに多数あります。

しかしさすがに10年20年が経つと、その間の体の成長や心臓・弁の疲労もあって成人期にまた弁膜症が悪化することがあります。

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◼️ こども時代の僧帽弁形成術の利点と弱点

こどもの頃は体が小さく、将来の成長を考えると、僧帽弁形成術で威力を発揮する弁形成リングや腱索の代わりをする糸などが使えないことも一因です。リングも糸も成長できないからです。そのためこどもの時期の僧帽弁形成術は大人の弁形成と比較するとどうしても不完全になりがちなのです。

そういうことで成人に達した患者さんの僧帽弁などがまた悪化すると、そこで仕上げの弁形成手術が必要になることが多々あるのです。もとの弁の病気とこどもの時の手術、そしてそれ以後の長い間の変化などが加わって成人期の僧帽弁は複雑な形となり、そのための弁形成手術も複雑になりがちです。

そこでバーロー症候群やリウマチ性僧帽弁膜症などでの弁形成の経験や技術が役立つのです。

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◼️ たとえばケイ・リード手術の後では

たとえばこども時代に良く使われるKay-Reed手術(ケイ・リード手術)では逆流している付近の弁輪を閉鎖して逆流を減らします。リングなどを使わないためその後の弁の成長が見込めるというメリットがあります。ただし弁輪の一部を閉鎖するため弁が小さくなるという短所はあります。それらを考慮してなるべく長所が大きくなるような手術がされています。

そのKay-Reed手術のあと、10−30年経って、僧帽弁閉鎖不全症が悪化したときの弁形成手術の経験があります。弁尖つまりひらひらと開閉できる部分がある程度以上残っておれば、腱索はゴアテックス糸で取り替えることができますし、弁尖が多少不足していてもパッチで弁尖の根元部分を補えば良くなります。またすでに成長が止まっているため今度は弁形成リングも活用できます。そうしたノウハウを結集するとKay-Reed手術後の長年月経ったあとの弁形成は可能なことが多いように思います。

少なくともこども時代に人工弁になるよりも患者さんにとってのびのびと健康な生活が送りやすいように感じています。

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◼️ 弁形成と弁置換

弁形成のメリットは女性患者さんに特に大きいです。弁形成の後なら妊娠・出産もそれだけやりやすく、人生プランも立てやすくなるからです。男性患者さんの場合はスポーツや仕事に打ち込みやすいというメリットがあります。

成人期に弁がすっかり壊れてどうにもならないレベルであれば人工弁を入れる必要がでてきます。その場合でも患者さんの年齢や人生プラン、考え方に応じて機械弁と生体弁を選択し、その後の丁寧なフォローでできるだけ安全を確保するという事ができるでしょう。

ということでこども時代に僧帽弁手術を受けられ、現在成人期や青年期に達しておられる患者さんには専門医とよく相談し、その方に合った方針を立てることをお勧めします。

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いい心臓・いい人生 【第138号】 第22回日本成人先天性心疾患学会にて

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いい心臓・いい人生 【第138号】 第22回日本成人先天性心疾患学会にて

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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから

編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始

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新年のご挨拶をと思っているうちに、いつのまにか2月に入り時間の速さに負けて

いるこの頃ですが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

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先月、日本成人先天性心疾患学会に参加してまいりました。慈恵医大の森田紀代造

先生が会長で東京にて開催されました。

私は病院内の用事が多く、1日だけの参加となってしまいました。

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まず国際セッションで私たちが近年ちからを入れているオリジナル手術「Dual Repair」

を発表しました。虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症に最近注目の

カテーテル治療(Mクリップ)は低心機能例などに効果が少ないという事が示されて

いる中で、低心機能例でも安定したMRの制御が長期間でき、心機能や運動能が改善

するため、Mクリップの良きパートナーになり得ることを示しました。これまでなす

すべもなく看取りになっていた患者さんたちをこれから多数お助けできればと思います。

海外の先生を含めていろいろと建設的なご質問をいただきうれしく思いました。

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つぎに今回の学会でほぼ唯一のビデオセッションにてKay-Reed法術後遠隔期のMRに

対する複雑弁形成をご紹介しました。Kay-Reed法とはこどもの弁形成によく使われる

簡便な方法で、逆流部分とくに交連部の弁輪を潰す形で閉じ、他の部分は温存します。

そのため術後も弁は体とともに成長するのです。小さいこどもさんには良い方法と

思います。

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それが大人になり、僧帽弁が両尖とも逸脱し弁輪形成部付近の後尖が低形成になって

いたため両尖にそれぞれ4本、計8本の人工腱索を立て、低形成部は心膜パッチで拡大

してうまく逆流は消えました。人工腱索は多数になればなるほど、その長さ調整が

難しいと言われますが、恩師デービッド先生の方法を改良して使いやすくしたため問題

なく完遂できました。高い評価をいただき、ありがたく思いました。

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1日だけの参加でしたが、他発表にも参考になる事が多く、たとえば先天性心疾患術後

のデービッド手術(自己弁温存大動脈基部再建)では肺動脈弁付近の剥離に注意など、

有用な情報が得られました。また心疾患をもつ妊婦さんをどう守るかの議論には鬼気迫る

真剣さがあり、産科・小児科・内科・外科・麻酔科はじめ各分野の先生方の患者さんへの

愛情を感じました。

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またランチオンセミナーで筑波大学循環器内科教授の小池先生がCPXの最新の成果を講演

され、今後に役立つ優れた内容でした。リハビリロボットHALを使ってみたくなりました。

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朝早起きして日帰りで夜遅く帰宅してでも参加する甲斐がある学会でした。関係の皆さま、

会長の森田先生、ありがとうございました。

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令和2年2月5日

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米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

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心臓移植を検討中または待機中の方々へ【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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◆ 心不全パンデミックの時代に

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近年、心不全は「心不全パンデミック」と呼ばれるほど患者数が増加しています。ilm09_ad10004-s
そのなかで「心臓移植しか道がない」と宣告される方も少なくありません。

無事にドナー心が見つかり、移植を受けられた方は安堵されますが、現実にはドナー不足が深刻で、多くの患者さんが待機中のまま時間を過ごしています。

また補助循環(補助人工心臓:VAD)で移植までつなぐ方法もありますが、

  • 医療費の負担が莫大

  • 感染や合併症のリスク

  • 社会的・家庭的条件による制約

といった課題が多く、日本の医療保険制度でも大きな負担となっています。

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◆ 「もう看取りしかない」と言われた方へ

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移植が適応外とされる理由には、

  • ご家族のサポート体制がない

  • 糖尿病や他の持病

  • 著しい肥満
    など医学的・社会的要因も含まれます。

その結果「治療法なし」「看取り」と言われてしまう患者さんが少なくありません。

しかし、本当にそれだけしか選択肢はないのでしょうか?

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◆ 手術で社会復帰した患者さんたち

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私たちの外来には「打つ手なし」と言われた患者さんが数多く来られます。その中には、新しい手術で社会復帰できた方々がいます。

  • 患者さん1:拡張型心筋症(DCM)+機能性僧帽弁閉鎖不全症
     有名病院で「不治の病」とされましたが、**デュアル形成術(乳頭筋最適化+新しい左室形成術)**で手術後に元気に仕事復帰。

  • 患者さん2:急性大動脈解離術後の虚血性心筋症
     大学病院で「薬以外に治療なし」と言われていましたが、僧帽弁形成+左室形成術で改善し、社会生活に復帰。

👉 詳しくはこちら → デュアル形成術について

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◆ 新しい治療 ― デュアル形成術と左室形成術

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「心尖部を切る左室瘤手術は心不全には向かない」と誤解されることがあります。
しかし私たちが行う新しい左室形成術は従来の瘤切除とは異なるコンセプトで、心機能の改善を目的とした再構築手術です。

特に

  • 拡張型心筋症(DCM)

  • 虚血性心筋症

  • 機能性僧帽弁閉鎖不全症(FMR)

  • 虚血性僧帽弁閉鎖不全症(IMR)

などで「移植しかない」と言われた患者さんでも、移植以外の選択肢が存在する可能性があります。

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◆ 諦める前にご相談ください

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  • 入退院を繰り返している心不全患者さん

  • 「次の入院が最後かもしれない」と不安を抱える方

  • 移植待機中だが先が見えない方

こうした患者さんこそ、一度は外科的治療の可能性を検討することが重要です。

心臓移植や人工心臓だけが希望ではありません。
私たちは「ネバー・ギブアップ」の精神で、命と生活の質(QOL)を守るための外科治療を提案しています。

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執筆:米田 正始
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機能性僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症に対するデュアル形成術【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月12日

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⬛️ デュアル形成とは?

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KomedaAATS2019FMRfigure3
2019年のアメリカ胸部外科学会僧帽弁シンポジウムで発表した図です

**デュアル形成術(Dual Reconstruction Surgery)**とは、私たちが開発した

  • 乳頭筋最適化術(PHO:Papillary Head Optimization)

  • 心尖部凍結型左室形成術(Frozen-Apex SVR)

同時に行う新しい外科手術です。

従来、左室拡大が高度(直径 65mmを大きく超える)症例では弁形成が困難とされ、人工弁置換が選択されることが多くありました。しかし、デュアル形成術では左室直径80〜90mmを超える重症例でも弁形成が可能となり、多くの患者さんが人工弁を使わず心機能を温存しています。

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⬛️  なぜ心臓が良くなるのか?

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デュアル形成術は「弁」だけでなく「左室本体」を同時に整える点に特徴があります。

  1. 僧帽弁逆流の改善

    • 左室の歪みにより弁が引っ張られて生じる「機能性僧帽弁閉鎖不全」を根本から改善。

  2. 心機能の回復(弁―心室連関の改善)

    • 乳頭筋を前方へ吊り上げることで左室収縮力が強化。

    • 心尖部形成により弁―左室―心尖部の連携が回復。

  3. 肺うっ血の軽減・運動耐容能の改善

    • 左室拡張末期圧が下がり、息切れが軽くなります。

  4. 致死性不整脈の減少

    • 手術前に不整脈が多発していた患者さんの約8割で術後消失

    • 左室圧負荷の軽減と筋肉状態の改善が背景と考えられます。

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⬛️  Mクリップ(カテーテル治療)との違い

  • MitraClip(Mクリップ)は弁尖をクリップで寄せる治療で、弁逆流を軽減しますが左室の形や機能を直接改善するものではありません

  • 大規模試験(MITRA-FRなど)でも、左室拡大が強い症例では効果が限定的と報告されています。

  • 僧帽弁後尖がゆがんでいるケース(テザリング角度が45度以上)では効果が出にくい
  • 一方、デュアル形成術は弁と左室の両方を再建できるため、大きな左室や重症心不全や後尖テザリング高度なケースでも改善が期待できます。

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⬛️ 従来の手術との違い

  • 手術時間の短縮:従来のドール手術やセーブ手術に比べ、心停止時間が短く患者負担が軽減。

  • 乳頭筋と左室のより自然な位置関係を回復できる。

  • 左室のねじれ運動が再び生じやすく、心機能が効率的に働く。

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⬛️  どんな時に効果が大きい?

  • 高度の機能性僧帽弁閉鎖不全症

  • 拡張型心筋症(特に虚血性)

  • 心尖部に梗塞瘤や拡張を伴う症例

これらでは、術後の改善度が大きく、「看取り」とされていた方が社会復帰する例も少なくありません。

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⬛️ 限界と注意点

  • 後尖が硬化・短縮している場合は、後尖拡大術を併用する必要があります。

  • **左室が極度に拡大(拡張末期径85mm以上)**している場合は改善度に限界があります。

    • ただし、それでも「補助循環(VAD)までの時間を延ばす(bridge to VAD)」効果は期待できます。

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⬛️  今後の展開

  • Mクリップで十分な改善が得られなかった患者さんへの救済治療として有効性が期待されています。

  • 若年者や活動性の高い高齢者においても、人工弁を避けつつ心機能を維持できる治療として応用が広がっています。

  • これまで「不治」とされていた患者さんの社会復帰例が増えており、今後さらに治療選択肢として普及が進むと考えられます。→→心移植を検討中の方々へ

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⬛️  まとめ

  • デュアル形成術は PHO(乳頭筋最適化術)+Frozen-Apex SVR(心尖部凍結型左室形成術) の組み合わせ。

  • 重症機能性僧帽弁閉鎖不全症・拡張型心筋症でも弁形成を可能にする革新的手術です。

  • 弁と左室を同時に再建することで、心機能回復・不整脈抑制・社会復帰につながります。

  • 「看取り」や「移植待機」と言われた方でも新たな可能性があります。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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Mクリップでうまく行かない時に、、、【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月12日

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⬛️ Mクリップとは?

**MitraClip(Mクリップ)**は、カテーテルで行う僧帽弁逆流(僧帽弁閉鎖不全症:MR)の低侵襲治療です。→→Mクリップの解説はこちら

  • 主な対象:

    • 機能性僧帽弁閉鎖不全症(FMR)

    • 拡張型心筋症(DCM)に伴う弁逆流

    • 心筋梗塞やステント治療後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症(IMR)

僧帽弁の前尖と後尖を小さなクリップで中央部につなぎ、逆流を軽減させます。

  • メリット:全身麻酔不要、胸を開けない、早期回復が可能。

  • 課題:逆流が完全には消えにくく、再発しやすい傾向が報告されています。

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⬛️ Mクリップで効果が不十分な場合

  • 一時的に改善しても、数か月~数年で逆流が再発することがあります。

  • 特に心機能が悪いときや、後尖角度が45度を超える重症例では成績が良くありません
  • 欧米の報告では、Mクリップ後に弁が損傷し、**人工弁置換(弁を丸ごと取り換える手術)**になった例もあります。

  • 人工弁は有効な手段ですが、左室の形を不自然に変えることがあり、心機能低下のリスクを伴います。

👉 そのため、Mクリップ後の外科的再建が検討されるケースがあります。

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⬛️ 外科手術でも「弁形成」を目指す

当院では20年以上にわたり、機能性・虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術に力を注いできました。

  • 左室駆出率が30〜50%から時に20%台に落ちた重症心不全でも、弁形成で逆流を改善し心機能を回復させてきました。

  • 弁置換ではなく、弁形成にこだわる理由

    • 左室の収縮力をできるだけ温存

    • 再入院のリスクを減らす

    • 社会復帰を目指せる

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⬛️ 最新の方法:デュアル形成術

私たちが開発した**Dual Repair(デュアル形成術)**は、

  • 乳頭筋前方吊り上げ術(PHO)

  • 心尖部凍結型左室形成術(Frozen-Apex SVR)

を組み合わせた新しい術式です。

この方法により:

  • Mクリップでは改善が難しい大きく拡張した左室でも弁形成が可能

  • 弁逆流を減らすだけでなく、心臓のポンプ力を回復

COAPT試験やMITRA-FR試験で「Mクリップは効果が乏しい」とされたような患者群でも、当院のデュアル形成術で改善しているケースが多数あります。

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⬛️ 諦める前にご相談を

  • Mクリップ後に逆流が再発してしまった方

  • 「もう移植しかない」と言われた方

  • 人工弁置換を避けたい方

こうした患者さんでも、弁形成+左室再建によって心機能を取り戻し、仕事や社会復帰を果たしている例が増えています。

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⬛️ まとめ

  • Mクリップは低侵襲で有用ですが、全ての症例に効果的とは限りません

  • 効果が不十分な場合でも、**弁形成術+左室形成術(デュアル形成)**という選択肢があります。

  • 「Mクリップが効かなかったら終わり」ではありません。

諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。

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執筆:米田 正始
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いい心臓・いい人生 【第137号】 第33回日本冠疾患学会にて

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いい心臓・いい人生 【第137号】 第33回日本冠疾患学会にて
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発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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いつの間にか今年も残すところ僅かになりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。
この12月13日と14日に岡山で日本冠疾患学会があり参加して参りました。
今回は倉敷中央病院の循環器内科門田一繁先生と心臓血管外科小宮達彦先生が会長で、
「人をつなぐ、医療をつなぐ」というテーマでした。

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循環器病領域は内科系と外科系の競合が厳しい領域の一つと言われて久しいのですが、
今これをハートチームの元にしっかりつなごうという趣旨が含まれる現代的なテーマ
です。私はご縁あって長年この学会の理事を務めさせて頂いておりますが、学会
そのものの方向性が内科と外科の垣根を超えた全面協力での患者さんベスト治療で
あるだけに、この学会にふさわしい立派なテーマと思いました。

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さて初日の合同シンポジウム「心原性ショックに対する補助循環」では主にインペラや
ECMOがらみの補助循環の最近の展開が論じられました。インペラやエクペラなどの強力
治療によってこれまでの不治の急性心不全、ショック状態が治せる可能性を感じました。

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ついで外科ビデオセッション・New TechniqueではInfarct Exclusion変法が近畿大学
の金田敏夫先生から発表されました。30年以上前にトロントから発表させていただいた
方法を強化していただき嬉しいことでした。私は機能性僧帽弁閉鎖不全症FMRに対する
Dual Repair僧帽弁形成術を2つのビデオで検討しました。座長の兵庫医大坂口太一
教授、福島県立医大横山 斉教授からいくつもの鋭いご質問を頂き、皆さん特長がわかり
やすくなったように思いました。内科系の先生もこの発表を聴いて下さっていたようで、
今後内科外科のハートチームでの参考になればと思いました。

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ランチョンセミナー・今CABGとどう向き合うか?では榊原病院の平岡有努先生がOff
the job trainingとして通常のブタ心臓だけでなく肋骨付き資材でのLITA―LAD吻合や
VSP練習、食道肺付き資材で弓部大動脈置換術練習なども行えることを紹介されました。
九州大学の塩瀬明教授はチャレンジャーズライブから始まり国内ローテーションや海外
留学などでも果敢に研修機会を広げて行く努力を紹介されました。昔から伸びるひとは
どんな環境でも伸びるという言葉がありますが、こうした立派な姿勢の人にはより立派
な環境を提供したいし、提供しなければと皆さん思われたのではないでしょうか。

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懇親会でビデオ発表へのご質問やコメントを内科・外科の先生方からもいただき、大変
有意義でした。とくに内科の先生方からの貴重なコメントをいただけたのはこの学会
ならではと改めて感じいりました。

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2日目は実践エコー講座(岸和田市立病院の六尾哲先生)を拝聴しました。広範囲の
テーマを網羅され、良くまとまっており、さっそく役に立つ実用的実践的な内容でした。
コメディカルの皆さんにも有益であったものと思います。

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外科シンポ・オンポンプ対オフポンプCABGは部分参加でしたが、オフポンプもオン
ポンプもその特徴を把握して使いこなせば良い結果に結びつくという印象を得ました。
無理なくできるならオフポンプが第一選択と思いました。オフポンプ先進国日本の
お家芸を皆で安全に進化させて頂きたいものです。

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心臓リハビリ教育セミナー(群馬県立心血管センターの安達 仁先生)は心臓外科医
の私には斬新な視点が多く、累積LDLや異所性脂肪、夜食を控える理由、Insulin
release解除のための食後リハ運動、ACSトリガーと酒・コーヒー・怒り・興奮、心リハ
とCAD早期発見、笑顔の重要性などなど、病気の予防だけでなく二次予防、術後予後の
一層の改善などにも有益と思われました。

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ランチョンセミナー(阿部幸雄先生)は心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症(AFMR)と
心房生機能性三尖弁閉鎖不全症(AFTR)で、冠疾患学会との関連は良くわかりませんでした
が、充実した内容であり良いセミナーと思いました。
AFMRはやや少ない疾患という印象でしたが高齢者MRの原因では最多であり油断禁物です。
AFTRも高齢者では多く僧帽弁と三尖弁はセットでしっかり治す必要があるとのことで、
同感でした。

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午後のポスター・心機能低下では座長(ピンチヒッター)を仰せつかりました。いずれも
興味深い内容でした。私は前日のビデオ発表の解析部分をポスターで解説しました。
さまざまなご質問をいただき、ポスターらしい少数精鋭検討となりました。内科の先生も
お越しくださり、嬉しいことでした。

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岡山はお隣の倉敷に大原美術館があり、学会前に行く機会を得ました。前回ここへ来た
のは小学校4年生の時なので大昔のことでしたが覚えのある絵があり懐かく振り返り
ました。個人的にはモネとエルグレコは圧巻と感動しました。大原美術館の起源(利潤の
社会還元、それも一般市民への還元)や小島虎次郎、印象派の時代進化なども興味深く
思いました。

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学会テーマのように今後の仕事につなげる有益な学会でした。留守を守って下さった
医誠会病院の皆様に感謝申し上げます。

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令和元年12月19日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

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執筆:米田 正始
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いい心臓・いい人生 【第135号】 キエフの国際学会に行って参りました

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いい心臓・いい人生 【第135号】 キエフの国際学会に行って参りました
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発行:心臓外科手術情報WEB
心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ この10月24日から25日にかけてウクライナ・キエフの心臓再建外科2019という学会 に参加しました。国立キエフ循環器センターというウクライナ共和国を代表する ハートセンターからご招待を頂いての参加でした。 . 旧ソ連が15の共和国に分かれ、それぞれの道を歩んでいるのですが、ウクライナは もともとソ連の中心的存在で、ICBMミサイルの基地やあのチェルノブイリ原発でも 有名です。 . 学会の前日にこのキエフ循環器センターを見学しました。案内して下さった院長の トルドフTodurov先生は腕利きの心臓外科医でもあり、大変意欲的に心臓医療を進 めているという印象でした。有名なベルリンハートセンターをモデルとしてキエフ にハートセンターを13年前に造り、すでに年間2000例の心臓手術を行うまでに発展 していました。 . 病室もICUも広々とした空間で患者さんもくつろいでいる感がありました。2-3年後 に新病院を準備中の医誠会(国際)病院の参考になるセンターでした。またこうした 国際学会を開催し、世界と交流し人を育てる、まさに国際病院の姿は参考になりま した。 . 学会はキエフや旧ソ連系の各国からの参加に加えて欧米各国から1名ずつゲストが 招待され、なぜかアジアは私だけでした。 . 学会1日目は我が恩師デービッド先生(Tirone E. David、トロント大学)とランゲ 先生(ベルリン心臓センター)と私の三人で座長を行う特別セッションでした。 まず冠動脈バイパスとくにオフポンプバイパス術の展開が論じられ、日本での経験 や現状を紹介しました。 . ついで弁膜症関係で三尖弁形成術でのクローバーテクニックでも他法とのうまい 使い分けを論じました。 ランゲ教授はエプシュタイン病の三尖弁閉鎖不全症に対する弁形成術の変遷と現在 のコーン手術(Cone、円錐)まで解説されました。私も好きな手術のため議論させ て頂きました。 フランスの畏友・バシェー先生は心臓手術の失敗とその予防について、航空会社の 安全対策と対比して論じました。このレベルのしっかりした医療安全が必要と改め て思いました。 . 学会2日目は主に大動脈弁・大動脈基部再建と心不全の外科治療でした。 大動脈弁・基部再建がらみではホモグラフト、ロス手術、MICSでのスーチャーレス (無縫合)生体弁、自己心膜再建などが熱く論じられました。それぞれ使い道と 弱点があり、うまい活用がポイントと思いました。 . 心不全については私はここまで開発・改良してきた手術つまり乳頭筋最適化手術 (PHO)と心尖部凍結式左室形成術(FASVR)とくにその両者を組み合わせた新しい手術 Dual Repair(二元手術)を紹介しました。 反響は大きく、多くの質問をいただき、セッションの後も「自分もやってみたい」 「やり方を詳しく教えて」というご希望を幾つもいただき、光栄なことでした。 . ウクライナを始め旧社会主義国は経済的に苦しく、医療予算にも制約が強いため、 医療関係者は苦労しておられるようです。私のDual Repair手術なら補助循環 つまり人工心臓と心移植の10分の1から20分の1の費用で患者さんを助けられる ため、今後活用して頂ければと思いました。 . 最後に恩師デービッド先生やニューヨークのスチュワート先生らとともにパネル ディスカッションがありました。心臓外科の将来像について様々な意見を交換し ました。 . キエフでは日本大使館の方々にお世話になり、有意義で楽しいひとときが持てま した。日本の医療が優れている点や劣っているところを把握すれば国際貢献が できるのではといくつかの提案をさせて頂きました。 またウクライナなどの開発途上国の苦労は近い将来、経済が減速した日本でも現実 となり得るため、お金のかからない医療の有用性をお伝えしました。 . 学会の後、世界遺産のSt Andrews寺院などを皆で歩きました。旧社会主義国には 昔の良いものが残っており貴重な財産と感じました。 . お世話になったキエフ循環器センターのトルドフ先生やデマンチェックDemanchek 先生、日本大使館の皆様、そして留守を守って下さった医誠会病院の神谷賢一先生 や皆様に御礼申し上げます。 . 令和元年10月28日 米田正始  . ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB
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いい心臓・いい人生 【第134号】 日本心臓病学会にて

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いい心臓・いい人生 【第134号】 日本心臓病学会にて
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編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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台風一過のあと少し涼しくなったと思いきや、また真夏日が戻ったような最近ですが、
皆さまいかがお過ごしでしょうか。

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この9月13日から15日まで第67回日本心臓病学会(於、名古屋)に参加して
まいりました。
三重大学の伊藤正明先生が会長で、教育マインドにあふれた、かゆい所に手が届く
ような素晴らしい学会でした。

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臨床主体かつ内科中心の、つまり患者さん目線の学会で、外科系学会とは一味ちがう
多くの情報や意見交換・交流ができました。

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私自身は2つ発表がありました。

ひとつは僧帽弁閉鎖不全症治療の最前線というシンポジウムで、虚血性僧帽弁
閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症に対するDual Repairという新しい心臓手術の
成果を発表しました。もはや少々左室が壊れていても僧帽弁閉鎖不全症は治せる
ようになり、今後の展開が期待できるデータでした。

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もう一つは、昨年のアメリカ胸部外科学会で発信した新しい左室形成術(心尖部
凍結型左室形成)の中期遠隔期の結果で、患者さんはお元気になる方がほとんどで、
有望な結果でした。面白いのは術前に致死性不整脈が出ていた方が多い中、術後は
それがほとんど出なくなったことで、この手術の有効性を示す一つの指標と言われ
ました。

これまでの方法をより強化し、従来の外科治療の限界点を引き上げ、より多くの
患者さんたちに恩恵が届く、そうした成果について、有益なご質問やコメントを
いただきました。発表のあとも、ぜひこの新しい手術を使いたい、というお願いを
いただき、光栄でした。

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これから仲間を増やし、これらの手術を全国というより世界に広げていければ、
と思いました。
実際、私たちの患者さんの中には、すでに見捨てられ、あとは看取りだけ、
と言われてから手術を受けて社会復帰した方が複数含まれており、これまでの
常識に前向きに挑戦できる結果だったと思います。
今回の心臓病学会では、その他にも興味ふかい、役立つセッションが多数あり
ました。

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私は心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症のシンポジウムで発言させていただき、この
病気の本体が心房の高度拡張にある限り、弁を直すだけでなく心房も縮小して
適正化するのが本筋であることをお話しました。15-16年前に欧米のメジャー
ジャーナルで発表した内容をあらためてお伝えしました。
中には心房縮小のやり方を教えて!と言ってくださる先生方も複数あり、そのコツ
をお話しておきました。ちかぢかこのハウツーを記載した論文を出すつもりです
ので、ご期待ください。
皆様のお役に立ってこそ意義ある研究ですので、時間を捻出して頑張りたく思い
ます。

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その他がん心臓病学のセッション、心不全と心拍数、左心耳閉鎖デバイス、HOCM
(コロンビア大学高山先生、立派な講演ありがとう)、心エコーでのストレイン
解析、新しい補助循環・インペラ、負荷心エコー、などなど、大変参考になると
ともに、交流を楽しむことができました。

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素晴らしい学会を企画運営された伊藤正明教授はじめ三重大学の皆様と、私の留守
を守って下さった医誠会病院の皆様に感謝申し上げます。

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令和1年9月17日

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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

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