【第三号】 再生医療ご報告1

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心臓の再生医療・手術をするためタイ国・バンコックへ先週、行って参りました。

ご存じのように、アジア諸国は近年大きく経済発展し、医療や医学でも実力をつけ

つつあり、個々の人たちも自信をつけられ、欧米の学会への参加や発表でも

昔よりずいぶん積極的になって来ておられます。アジアの先生方(というより多

くの国民)の真摯で勤勉な姿を知るものとしてうれしいことです。

 

さらに、最近数年間知られるようになったメディカルツーリズム(medical tourism)
でアジア諸国へ手術や治療を受けに来ることが増えました。

この背景にはアジア諸国の若い医師たちが欧米へ留学し先進医学を学びやすくなったという経済状況があります。欧米の患者さんから見れば、医療レベルも悪くない、英語もかなり通じる、そして何よりも安い、というわけです。


私たち日本の医師から見ますと、新しい治療法への認可が日本で特に厳しく、なか
なか実現できないという問題があります。

そのため心臓の再生治療の認可をタイで受け、準備を進めていましたが、政変が起こったため、様子を見ていました。

今回は政治状況が落ち着いたことと、この治療法しかないという患者さんが来られたため実現の運びとなりました。

 

患者さんはバングラデシュから来られた若い男性で、狭心症(虚血性心疾患)のため
自国で数年以上前に冠動脈バイパス手術を受けられました。

いったん元気になられましたが、病気が進行し、心筋梗塞を起こし、心不全+狭心症という形で自国では治療不可能と言われてバンコック心臓センターへ来られました。

この病院は日本でいえばハートセンターのような位置づけにある活発な民間病院で、その高機能さや快適さ美しさは日本の水準を超えており感心します。

手術はこの方法の特長つまり侵襲が低い(体への負担が少ない)ことを反映して、2
時間ほどで終了し、すぐ話ができる状態になりました。念のため術後数日間は入院
して頂きましたがそのまま退院され、外来フォローとなりました。

bFGFというたんぱく質を使うこの治療法では新しく動脈が育つまで何週間かかかるため、しばしはこのまま待つことになります。うまく行けばバイオバイパスと呼んでいる細い血管のバイパスができ心臓が良くなります。


同様のメディカルツーリズムはタイだけでなくアジア諸国では隆盛の一途で、それ

だけ国力も医療も進化しているわけです。日本には国民皆保険制度を始め、日本

ならではの良さはまだありますが、患者負担が増えたり先進国より医療費抑制が

強すぎて現場が崩壊したり、制度が古く国際化時代に遅れ、新しい治療の恩恵を

国民が受けられないといった問題点がでてきています。


ぐちっていてもはじまらないので、まずは実行とタイでの治療を始めました。実績

を積んで、日本の患者さんも安心してタイまで行って頂けるよう、さらに日本でも
これを開始できるよう、努力したく思います。


2009年8月22日記

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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