EVARに適した腹部大動脈瘤とは?

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腹部大動脈瘤に対するEVAR(ステントグラフト内挿術)治療は患者さんにやさしい治療法として人気がありますが、EVARに適した腹部大動脈瘤とそうでないものがあります。

この点、その患者さんの瘤の特徴を把握し、もっとも適した治療法を選ぶことが患者さんの安全と安心につながります。

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EVARに適した腹部大動脈瘤の特徴とは次のものがあります。

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1.中枢側のネックの長さが15mm以上あること。

腎動脈より足側の、正常の腹部大動脈の長さがこれだけあれば、EVARの中枢側はしっかりと固定されるわけです。

このとき、ネック部の大動脈に血栓や強い石灰化がないことが重要です。

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2.瘤のサイズ。正しくサイズとくに直径を測定することが大切です。

EVARが小さすぎても大きすぎても問題が起こることがあります。

大きすぎると大動脈ネックが拡張してしまうこともあります。

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ここまでの報告では動脈瘤があまり大きすぎるとEVAR(ステントグラフト)の成功率は下がる傾向がみられます。

ヨーロッパのレジストリー(登録)データEUROSTAR registryでは瘤の直径が6.5㎝以上では治療後のさまざまな問題たとえば術後合併症や死亡率あるいは遠隔期の破裂などが増えると報告されています。

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3.角度: 身体の縦の線と大動脈のネックか動脈瘤がなす角度が60度以上あるとEVARは入りにくくなったり、折れ曲がったり、漏れたり、あとでグラフトがずれていく恐れがあります。

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4.腸骨動脈つまり遠位側の状態: 腹部大動脈瘤の多くは遠位側の大動脈が瘤となっているため腸骨動脈で固定する必要があります。

この腸骨動脈が拡張したり、良い部分が短かったするとEVARは入れづらくなります。

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ときに総腸骨動脈が使えず、外腸骨動脈を使う場合がありますが、リークが起こりやすく注意や工夫が必要となります。

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5.大腿動脈:EVARは大腿動脈から挿入するために、その直径は8mmは必要です。

大腿動脈が全体的に細かったり石灰化が強いとかなり困難となります。

必要に応じて後腹膜に剥離して腸骨動脈から入れることもあります。

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6.アクセサリー腎動脈: 患者さんの30%にアクセサリー腎動脈が見られます。

もしEVARがこれを閉塞させると腎梗塞になります。

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7.下腸間膜動脈: 腹部大動脈瘤の患者さんでは下腸間膜動脈がよく閉塞しています。

この場合はEVARを挿入しても問題ありません。

しかし下腸間膜動脈が開存し、かつ上腸間膜動脈に狭窄があれば、EVAR(ステントグラフト)が下腸間膜動脈を閉塞すると腸虚血となり危険です。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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