大動脈炎症候群、、患者さんの想い出

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Aさんは40代の女性で、大動脈弁閉鎖不全症と上行大動脈瘤のため来院されIMG_1623bました。近所に米田正始の心臓手術を受けた知人がおられ、その創があまりにきれいだったので、自分もそのようにしてほしいと相談して来られました。

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診察と検査の結果、頸動脈の状態から大動脈炎症候群の疑いが上記の診断に加わりました。検査上、炎症はごく軽度であったためまず手術を先行させることになりました。

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手術では大動脈炎症候群の所見が著明で、上行大動脈の壁が内膜でうんと肥厚し、周囲組織にまで炎症(刺激状態)がおよんでいました。

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上行大動脈を周囲の組織からはがし、切除しました。これを人工血管で置き換えました。大動脈弁はもしもの炎症再燃時にも人工弁がはずれないような工夫をしてから生体弁を縫い付けました。手術は簡単ではなかったのですが、再手術のノウハウで問題なく完了しました。これらを小さい創で行いました。

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術後経過は順調でまもなくお元気に退院されました。膠原病内科の専門家がおられる大学病院へご紹介し、現在は大動脈炎症候群のコントロールに力を入れて頂いています。

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その後私の外来にも定期健診に来ておられますが、創の長さを測ったら長さ58mmで感心しましたとのことでした。喜んで戴いて何よりです。早く大動脈炎を鎮めて安定させましょう。それからのびのびとやって頂けるでしょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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マルファン症候群、、患者さんの想い出

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Aさんはマルファン症候群をもつ50代の女性です。かつて私が京大病院にいたころ、定期健診をお願いしますと来院されました。

聞けば、下行大動脈瘤のためすでに下行大動脈置換術を他院で受けておられました。

sick_29しかしマルファン症候群のため、大動脈の他の部分が解離や瘤になればまた手術が必要なためこれから注意し、いざと言う時の備えを造りました。

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それから1年ほど経ったある日、Aさんから電話が入りました。

朝から急に胸や背中が痛むので、打ち合わせどおり近くのB病院へ行きました。そこでCTを取ってもらったら、上行大動脈が解離していると言われました、と。A309_095

そこで私もただちにそのB病院に急行し、そこで緊急手術を行いました。

解離した上行大動脈を人工血管で置換してAさんは一命を取り留めました。

まもなく元気に退院して行かれました。

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このお話しはマルファン症候群の患者さんが、日頃からいざと言う時の準備、備えをしておけばこれほどスムースに安全に救命できることを示すものと思います。Aさん、ご理解とご協力ありがとうございました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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お便り126 マルファン症候群・二尖弁大動脈基部拡張にデービッド手術でお元気に

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大動脈基部拡張症とくにマルファン症候群のように組織が弱い患者さんの場合、手術や治療の内容がその後の人生に大きな影響を与えます。中でも60歳以下の若い患者さんの場合は人工弁を使わないで元気になると言うことが大きな意味を持ちます。その一回の手術が人生を決める、そんなインパクトがあります。自己弁を温存する大動脈基部再建の手術はそう言う手術です。

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以下の患者さんは40代後半のマルファン症候群の方で、遠方の日本海側から来られました。自己弁温存する大動脈基部再建、いわゆるデービッド手術はできないと地元の心臓専門病院で言われて私の外来に来られたのでした。

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心エコーを拝見すると二尖弁っぽい大動脈弁でした。基部拡張が強く、逆流も重症の状態で、実際心不全が進行し、しかも基部の破裂や解離が間も無く起こる心配がある状態でした。

そこで予定をやりくりして早期手術することにしました。

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手術では、基部の大動脈壁が紙のように薄くペラペラとなり、周囲と癒着し、半ば破裂し始めている、そんな所見でした。急いで手術予定を組んで本当に良かった、間に合ったと言う状況でした。

恩師デービッドの方法に最近の大動脈弁形成術を組み合わせ、術前は超高度と言われた大動脈弁閉鎖不全症つまり弁逆流は止まりました。術前心不全のわりには術後経過は順調でお元気に地元に帰って行かれました。

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以下はその患者さんからのお礼状です。褒めすぎの部分は目をつぶって下さい。お互い人間です。患者さんは勇気を出して決意をされ、私たちは持てる技術を駆使して頑張った、そう言うことです。お役に立ててほんとうに嬉しいです。

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患者さんは間も無く体力がつき普通の生活や仕事に戻られることでしょう。仕事だけでなく旅行やスポーツなども楽しめるでしょう。外来でお元気なお姿を拝見するのが楽しみです。

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********** 患者さんからのお便り**********

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米田先生

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米田先生の神の手で、私の心臓を強く生まれ変わらせてもらい、また入院中は大変 お世話になりました。

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術後のあまりにも力強過ぎる脈動に圧倒されて、初めはとても恐くて正直 驚きました。
心臓だけが元気になり暴走し、その他の臓器や細胞や私自身も付いて行くのがやっとだなと感じてました。

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心臓の機能がかなり落ちてる心不全、いつ破裂するかも分からぬ危険性を聞かされて、心臓手術の選択肢しか残されていない私は気持ちも全然追い付かず、恐さと不安しかありませんでした。 数ある名医と呼ばれるお医者様の中から、この先生になら命を預けて間違いないと私は納得して米田先生を選びました。

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米田先生と出会い、接してもらいながら 患者思いの先生を見ているうちに、人の形をした神様っているんだな~って思うようになっていて、恐さや不安は何処へやら 。 この神様の手にかかったら 私はどうなるんだろう と逆に手術をするのがとても楽しみになってました。

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術後、調子の悪かった所が消えてしまっていて自分の身体がどれだけポンコツだったかを思い知りました。今も毎日が絶好調ではないですが、私の心臓は強く たくましくなったと確信していますので、不調な日でも心配や不安になる事はありません。

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毎日 心臓の脈動を感じながら、これは米田先生でなければ治せなかったものだったと思うと本当に ただただ感謝です。
傷痕も目立たないように工夫されてるのにも感動しています。

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先生はいつも忙しい方なので、この様なメールはお手間を取らせてしまうし遠慮しようかと思ってましたが….
やはりメールさせて頂きます、しかも長文でごめんなさい。

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本当に米田先生に出会えて良かったです、まだまだ これからもお世話になります 宜しくお願いします。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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フロリダスリーブ手術 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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◆ フロリダスリーブ手術とは?

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フロリダスリーブ手術(Florida Sleeve Procedure)は、2005年に米国フロリダ大学のHess先生らが報告した大動脈基部再建術です。
特徴は、シンプルな手技で出血が少なく、安全性が高いこと。従来の基部再建(デービッド手術やヤクーブ手術)のエッセンスを活かしつつ、より低リスクで自己弁を温存できる方法です。

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◆ 従来の自己弁温存術(デービッド手術・ヤクーブ手術)との違い

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デービッド手術(Reimplantation法)

  • 人工血管の中に弁を移植して基部を完全に保護

  • 長期成績に優れ、安定度が高い

  • 技術習得がやや難しく、熟練した術者が必要

ヤクーブ手術(Remodeling法)

  • 自然なバルサルバ洞の形を再現しやすい

  • 以前は弁輪の補強が不十分とされましたが、近年改良され成績が向上

  • 比較的縫いやすいが、確実な止血と経験が求められる

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フロリダスリーブ手術の位置づけ

  • デービッド手術を簡略化した方法

  • 人工血管で基部を外から包み込む(スリーブ状に覆う)

  • 冠動脈の切り離し不要、出血リスクが最小限

  • 手技が比較的短時間で済み、他の合併手術と併用しやすい

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◆ フロリダスリーブ手術の手技イメージ

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  1. 拡張した大動脈基部を、スリットを入れた人工血管で外から覆う

  2. 左右の冠動脈入口をそのまま温存

  3. 基部が適正サイズに矯正され、逆流防止と破裂予防が可能に

👉 出血の可能性は上行大動脈の吻合部のみ。止血が容易で安全性が高いのが大きな魅力です。

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◆ 注意点と工夫

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  • 基部を人工血管に収める際、逆流が生じないよう形を整える高度な判断が必要

  • 冠動脈入口が人工血管に圧迫されないよう、適切な配置と固定が必須

  • デービッド手術の経験を積んだ術者が行うことが望ましい
    (逆に「デービッドが怖いからスリーブを」といった未熟な導入は危険です)

ガイドラインを遵守しつつ、これまで以上の安全性で確実な自己弁温存式の手術ができる、このメリットをこれから確立して行きたいものです。

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◆ フロリダスリーブ手術のメリット

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  • 出血が極めて少ないため、安全性が高い

  • 手術時間が短縮でき、他の合併手術(僧帽弁形成や冠動脈バイパスなど)も余裕を持って実施可能

  • マルファン症候群など大動脈基部拡張が進行する患者さんに、早めに安全な自己弁温存術を提供できる

  • 輸血制限がある方(例:エホバの証人)にも適応しやすい

  • 複雑大動脈弁形成術では長期の安定が図りやすくなる

 

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症例画像(CT比較)

  • 手術前:大動脈基部の拡張が明らか

  • 手術後:人工血管で包まれ、適正サイズに縮小・補強。出血もなく安全に終了

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◆ 当院での取り組みと展望

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私たちは、これまで培ってきたデービッド手術・ヤクーブ手術の豊富な経験を土台に、症例ごとに最適な方法を選択しています。
その中でフロリダスリーブ手術は、

  • 「安全に自己弁を守りたい」

  • 「将来の再建を見据えて、今できるだけ低リスクで」

というニーズに応える有力なオプションです。

今後はガイドラインを踏まえながら、より安全で確実な自己弁温存術の一つとして普及していくことが期待されます。

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◆ まとめ

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  • フロリダスリーブ手術は大動脈基部拡張症に対する自己弁温存術の新しい選択肢

  • 出血リスクが少なく、安全性が高いのが特徴

  • マルファン症候群や輸血制限のある方にも有用

  • 熟練したチームで行えば、デービッド手術に並ぶ確実な成績が期待できる

「自己弁をできるだけ残したい」「再手術のリスクを減らしたい」方は、ぜひ一度ご相談ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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関西胸部外科学会にて

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第58回学術集会が岡山で開催され、出席して参りました。

 

会長は岡山大学呼吸器外科の三好新一郎IMG_1566教授でした。メインテーマは温故創新、三好先生らしい素晴らしいテーマと感心しました。温故知新から発展した考え方と思いますが、登録商標?のため5万円を権利者に支払われたという噂は本当でしょうか。それだけの価値はあったと個人的には思います。

 

岡山は榊原病院の吉田清先生のご縁があってこれまで何度もお邪魔しているせいか、何か楽しい地という印象が強く今回も楽しみにしていました。個人的にはシンポジウムでの発表が2つあり、さらに若手の受賞かけての発表も2つあったため、真面目に参加しました。

 

全体として若い先生方の教育やモチベーション向上のため配慮が十分された会だったと思います。学生諸君も多数参加しておられたようです。

 

3Kとも6Kとも言われる心臓外科、胸部外科にこころある若者が来てくださるよう、そのやりがい、楽しさを十分にアピールすることは大切です。ちょっと大げさに言えば、この国の将来がかかっているとさえ思えます。

 

さて一日目には朝からYoung Investigator Awardsのセッションが続き、若くて熱い議論が交わされていました。

それから心臓・大血管のビデオセッションに参加しました。神戸大学の肺肉腫に対する腫瘍摘出術+右肺全摘術はこれまでの心臓手術と集学治療を集めた優れたものと感心しました。ベントール手術がらみの興味深い症例が北野病院や徳島日赤病院から発表されていました。兵庫医大のベントール手術後の大動脈弁置換AVRは私にとっては25年も昔のトロント時代から行っているHome-madeグラフトなのでうれしく思いました。京都府立医大のELITE法による左室形成術と乳頭筋吊り上げの僧帽弁形成術も同様でした。

cTAGをもちいたステントグラフト、手術の際にそれを使うオープンステント、Jグラフトのオープンステントも興味深い内容でした。

 

ランチョンセミナーでは大阪大学の倉谷徹先生の大動脈解離にはcTAGでっか?という大阪人らしい実質本位の素晴らしい講演がありました。これからステントグラフトはさらに進化する、上行大動脈さえ外科手術から離れるかも、しかし急性解離のエントリー閉鎖パッチや、慢性解離でのTEVARなど、限界もまた見えて来た、おそらくその限界を超えて見せようという気概も感じられたハイレベルのご講演でした。

 

三好会長の立派な会長講演につづいて、ドイツのシェーファー先生の講演がありました。
大動脈弁形成術ではいまや世界の最高峰と言われるシェーファー先生の緻密なジオメトリー研究とより良い弁形成の結果を拝聴し大変参考になりました。ちかぢかブリュッセルで同先生と双璧をなすクーリー先生らとの共同シンポジウムがあり、私も楽しみにしてますよとお伝えしたところ、待ってるぜ!とのことでした。

 

大動脈弁形成術はまだ進化の途中にありますが、かなり完成度が上がったと思います。これからより多くの患者さんたちのお役に立つと期待しています。

 

それから大動脈弁形成・大動脈基部再建のシンポジウムがありました。畏友神戸大学の大北裕先生と同・倉敷中央病院の小宮達彦先生の司会で行われました。

 

まず東邦大学の尾崎重之先生が尾崎弁の最近の展開を報告されました。完成度がさらに上がった感があります。

有力施設からの大動脈基部再建や大動脈解離とARなどのご発表に交じって、私はMICSと弁形成とバルブインバルブTAVIの観点からお話させて戴きました。こうした視点の発表は他になかったためか、一部のMICS専門家の議論になったように思います。これからさらに完成度を高めつつ、多くの病院で役立てて戴けるよう、啓蒙活動が必要なようです。

 

医療安全講習会では疲労と事故についての貴重なお話を名古屋大学の相馬孝博先生から戴きました。これまで疲労なんてへっちゃらさと思って来ましたが、やはり人間が起こすミスを科学的に減らすという観点から一段高いところから自分自身を監視するマインドフルな姿勢、疲労対策は大切と思い、勉強になりました。

自分だけでなく皆で楽しくストレス発散、なども大切なようです。

 

夜は全員参加の懇親会がありましたが、若い先生方や学生さんたちも参加されており、良い雰囲気でした。

 

学会2日目は朝から若手アワードつまり受賞のための発表コンテストに参加しました。当院の小澤達也先生が、興味深い症例2例を発表してくれました。小澤先生が発表してくれたのは次の2例でした。

 

1つは世界的にも珍しい神経鞘腫というタイプの心臓腫瘍でした。手術前は粘液腫と思われていましたが、その位置が普通と違い、大動脈基部に近いため、場合によっては大動脈弁や僧帽弁形成術を含めた大手術の可能性もあったため正中からアプローチしました。完全切除でき患者さんはお元気に退院されました。傷跡も小さく、夏服が着られるとよろこんで頂きました。

 

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受賞風景です。小澤君はこの日の夜当直のためすでに会場を去っていましたので彼の姿はこの写真にはありませんが。

もうひとつは、他の病院で2回弁置換手術を受けられた患者さんで、左室後壁が生体弁の先端のためにえぐれて瘤になり、このままでは破裂→突然死の恐れがあった患者さんでした。もとの弁を外して瘤になった左室後壁をがっちり修復補強し新たな人工弁を入れて治しました。患者さんは元気に退院されました。
あとで後者の症例提示が受賞したことを知り、小澤先生には大変良い経験をしていただけたこと、うれしく思いました。

 

立ち上げて軌道に乗って間もないかんさいハートセンターを去ることになった私ですが、最後にまたひとつ想い出が残せてうれしく思いました。

 

先天性心疾患の教育講演に少し顔を出し、国立循環器病研究センターの市川肇先生の右室流出路再建のさまざまな方法の講演を拝聴しました。頭の中がすっきり整理されたように思います。余談ながらあのラステリ手術のラステリ先生は37歳の若さで逝ってしまわれ、それを惜しんだメイヨクリニックの仲間たちがラステリの名前を残そうと努力して、ジャンプグラフトを何でもラステリ手術と呼ぶほどになったというエピソードをお聞きし、心に響くものがありました。

 

梯子してTEVARのシンポジウムを聴きました。天理病院の山中一朗先生のオープンステントの努力に頭が下がりました。

 

ランチョンでは滋賀医大の浅井徹先生の司会のもと、大動脈弁形成術の講演が2つありました。ひとつは心臓血管研究所の國原孝先生、いま一つは昨日に引き続きてシェーファー先生の大動脈弁形成術のお話の続編でした。

國原先生は日本での多施設研究を立ち上げつつあり、弁のジオメトリーや病態から始まって臨床結果さらに血行動態の詳細までを検討し始めておられ、その成果が楽しみです。

 

シェーファー先生は大動脈弁とそれを支える基部の形態を詳細に論じられ、大動脈弁形成で安定した成績を上げるために何が必要かを詳しく論じられました。同先生が創られたeffective Height測定ゲージの正しい使い方と誤った使い方なども、当然とはいえ、有用なお話でした。

 

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Chang先生の講演風景です

午後には韓国の畏友、Byung Chul Chang先生の不整脈外科の歴史と新たな努力についてのご講演がありました。思えば永い道のりを進んで来たものだと感慨深いものがありました。私にとってはまだトロント留学中の1991年ごろにアメリカの学会でJames Cox先生のお話に感銘を受け、それから徐々に進めて来た不整脈外科でしたが、そのころのデータなども拝見し私の心は若い日々にもどっていました。Yonsei大學での新たな試みなども紹介され、勉強になりました。

 

それを受けて、不整脈外科のシンポジウムがありました。

日本医大の新田隆先生はこの領域の新リーダーにふさわしい基調講演をされました。メイズ手術の際の肺静脈隔離のときにBox LesionとU Setのどちらが良いか、多角的に検討されました。これまで多数の立派な研究が一見矛盾するような結論になっていた理由がある程度理解できました。

ともあれ肺静脈隔離や冠静脈洞などのアブレーションを完璧に行うことの重要性は間違いないようです。

 

国立循環器病研究センターの草野研吾先生は循環器内科の不整脈治療とくにカテーテルアブレーションの最近の進歩と成果をきれいにまとめられました。正確な治療のための3Dマッピング、より安全に深達度を増やせるイリゲーションカテーテル、冷凍凝固バルン、その他新デバイスの数々は素晴らしいと思いました。

外科もこうした内科の進歩を積極的に取り入れ、ハートチームの仲間としてふさわしいものを着々と造らねばと思いました。

その他ガングリオンプレクサスへの外科的アブレーションの工夫努力、メイズ手術での盲点の克服その他興味深い内容たっぷりでした。

 

私はMICSでのメイズ手術とくに心房縮小メイズについてお話しました。心房拡張が心房細動IMG_0820bの治療成績をもっとも悪くする因子のひとつなのに、外科ではまだそれほど心房縮小の努力がされていません。

 

10年ほど昔にアメリカ胸部外科学会AATSその他で心房縮小メイズ手術を発表して以来、継続的に発表して参りましたが、なかなか普及するまでに至っていません。慣れるまでは難しい手術と思われているようです。

 

それをさらに難しいMICS(写真右、傷跡の長さは5cm台です)で行うのですから、いっそう多くの外科医が敬遠するのかも知れません。今日の手応えをもとに、これからは心房縮小メイズとMICSメイズの両方の視点から啓蒙活動したく思いました。

 

最後にこの秋から始まる医療事故調査報告制度のご説明が岡山大学名誉教授の清水信義先生からありました。この制度は医療事故を予防するために、10年近く前からモデル事業としてトライされた事業の完成版です。これによって訴訟が激減したという実績があります。ただ病院経営者のなかには、これによって訴訟が増える、おそらく報告書を患者さんのご家族に見せるから訴訟になるというお考えの向きが多々おられるそうです。

 

しかしそれは清水先生によればご家族に事実を見せない、結局は破たんする姿勢でありもともと論外の考えとのことでした。これはいわば、患者さんが不幸にして亡くなってもきちんとした説明がなされてご家族が疑義を抱かないことが大切であるという意味でもあるようです。私は一人立ちして以来20年以上、訴えられたことはありませんし、亡くなられた患者さんのご遺族さえご支援くださったのは、そうした姿勢のおかげと思っています。

 

ともあれ、全力投球の医療を行い、第三者的評価に耐えられる内容としっかりした説明を行うことを基本にすればこの報告制度は良い結果をもたらしやすいと感じました。まずは襟を正して気をひきしめて日々精進して行こうということでしょう。

 

最後に上記の受賞式がありました。当科の小澤先生は当直業務があるため早々に帰途についていましたので式には出席できませんでしたが、私がその旨お伝えして了解を頂きました。

 

近年、心臓血管外科や呼吸器外科など、メジャー外科は厳しいしんどいつらいといういことで若手が敬遠する傾向が強くなっています。学会をあげて有為な若者を支援する、育てる、これは大変重要なことで、今回の関西胸部外科学会も大きな貢献をされたことと思います。

会長の三好先生、岡山大学の皆様、お疲れ様でした。

 

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
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元・京都大学医学部教授
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事例: デービッド手術を受けたマルファン症候群の患者さん 2

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デービッド手術大動脈基部拡張症に対する自己弁温存手術として大きな役割をになっています。

かつてこの手術をトロントで恩師デービッド先生が開発されたとき、私はチームの一員として参加していました。ホモグラフト、ステントレス弁、ロス手術、上行大動脈置換術などの手術を磨き上げるなかで、おのずと必然的にこの基部再建手術が生まれていったことをアートとサイエンスのすばらしい一例と思いました。

20年以上前にこの術式を行っていましたが、実のところ、この良さだけでなく弱点盲点も知っていたため、その後この術式を見合わせていました。しかしトロントやスタンフォードでの長期成績がでて、自分の中で疑問が解消したため、数年前から再開していたのです。

この手術を希望してあちこちから患者さんが来られますが、次の患者さんは関西から来られました。

患者さんは約40歳の男性で

以前からマルファン症候群を指摘されていました。術前CT

2年ほど前から大動脈基部拡張症のため近くの病院でフォローを受けておられました。

最近胸痛発作が起こるようになり、セカンドオピニオンで米田正始の外来へ来られました。

当院での治療を希望されたため、その後検査を施行しました。

大動脈基部は直径50mmに達しており、大動脈弁もやや寸足らずになり始めて軽度の大動脈弁閉鎖不全症が発生していました。

マルファン症候群では大動脈組織が弱いため、一般の大動脈基部拡張症の図1基部剥離患者さんより一歩早く治すことが勧められているため、心臓手術することにしました。

体外循環・大動脈遮断下に

拡張した上行大動脈(写真左)を横切開、離断しました。

まず大動脈 図2弁計測中基部のサイズを測定し(写真右)、

大動脈弁再建の予測を立てました。

それから大動脈基部の骨格部分をきれいに出して、患者さんご自身の弁尖を温存しつつ、人工血管をその周囲に 図3第一層糸かけ縫い付ける準備をしました。

適切なサイズのダクロン人工血管を大動脈基部の外側に配置し、固定しました(写真左)。

さらに、大 図5第2層糸かけ動脈基部の骨格部分を人工血管の内側に縫い付けました(写真右)。

このとき、弁尖の形、かみ合わせ、位置関係が最適になるように微調整を行いました。

水テストで弁逆流がないことを確認しました。

図6左冠動脈入口部そこで左冠動脈の入口部分を人工血管に小穴をあけて、

そこへ縫い付けました(写真左)。

同様に右冠動脈の入口部分も人工血管に縫い付けて、

冠動脈の流れがスムースに行くように、

かつまったく血液がもれないようにしました(写真右下)。

 

大動脈弁の 図7右冠動脈入口部一番高いところ、いわゆるSTJ(Sino-Tubular Junction)と呼ばれるところに糸をかけて、

大動脈基部のバルサルバ洞と呼ばれる部位が適度なふくらみをもつようにしました。

図10出来上がりあとは人工血管のもう一方の端を弓部大動脈に吻合して操作を完了しました(写真左)。

術後エコーで大動脈弁の機能は良好で、CTにて人工血管がきれいになじんでいることが示されました(写真右下)。

術後経過は 術後CT順調で術後2週間を待たずに元気に退院されました。

術後1年の外来でもお元気で仕事をこなしておられ、心臓のホルモンであるProBNPも102と正常で、心臓・大動脈とも安定していました。

術後3年が経過し、お元気で順調です。

デービッド手術はこうした若い患者さんたちの予後や生活の質(QOL)の改善に大きく貢献するものと思います。

現在はこのデービッド手術を小さい創でおこなうミックス法で行うようにしており、若い患者さんが手術後にできるだけ精神的ストレスのないように心がけています。

さらに大動脈弁形成術を適宜併用してできるだけ自然で長持ちする弁形態を整えるようにしています。

こうした努力の積み重ねでさらに成績は向上していくでしょう。

 

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事例:二尖弁大動脈弁狭窄症のエホバの証人患者さん

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二尖弁大動脈弁は年齢とともに壊れやすく、弁尖(弁のひらひらと開閉する部分)が硬く狭くなって大動脈弁狭窄症になったり、弁尖が落ち込んで逆流が発生し大動脈弁閉鎖不全症になることが少なくありません。

さらに逆流をそのままにしておくと次第に心臓の筋肉が変性し、拡張型心筋症になりかねません。

 

00058727_20091119_CR_1_1_1二尖弁の場合は上行大動脈や大動脈基部が構造的に弱く、拡張して瘤になることがあります。

これらを考えて短期的かつ長期的な計画のもとで、手術や治療を組み立てる必要があります。


患者さんは39歳男性、二尖弁による大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症(ASR)そして上行大動脈瘤のため米田正始の外来へ遠方から来られました。

00058727_20091119_US_1_12_12b長い間のASR(左図、弁が硬く分厚くなりあまり開きません)のためか、左室の直径(LVDd)73mmと高度に拡張し、駆出率も30%と低下していました。

心不全のため僧帽弁閉鎖不全症も中等度まで合併していました(下右図)。

つまり二次的 00058727_20091119_US_1_25_25bに拡張型心筋症にまで悪化していたわけです。

患者さんのお母様がエホバの証人の信者さんで、母親の気持ちに沿いたいという希望を出されましたので、極力無輸血という方向で手術と治療を進めました。

胸骨正中切開・心膜切開でアプローチしました。(術中写真工事中)

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開しました。

大動脈弁は左冠尖LCCと右冠尖RCCが一体化した二尖弁でした。肥厚硬化が顕著で、石灰化も中等度みられました。

現在でしたら自己心膜による大動脈弁再建を行うところですが、当時はまだ検討中であったため、この患者さんには人工弁を入れることにしました。

弁および石灰をすべて切除しました。

ここで機械弁(On-X弁)縫着しました。この弁は機械弁ですが、背丈を高くすることで血流速を上げ、血栓ができにくい構造になっており、将来ワーファリンが不要または減量できる可能性があります。

上行大動脈を2層に閉鎖し、大動脈遮断を解除しました。

体外循環からの離脱はカテコラミン(強心剤)なしで容易でした。

上行大動脈は50mmに達するほど拡張し、事実上の動脈瘤でした。

通常は上行大動脈置換術を行うのですが、上記のように患者さんのたっての希望で無輸血を確実に達成するためにラッピングを行うことにしました。ラッピングでしたら針穴出血もありませんし、ポンプ時間を短縮することで出血傾向も軽くなります。

上行大動脈を周囲組織から剥離し、ヘマシールド人工血管でラッピングし、軽く締め付ける形で径を35mm程度まで小さくし、人工血管を固定しました。上行大動脈のほぼ全域を覆うことができました。

経食エコーに良好な大動脈弁機能と心機能を確認しました。

入念な止血ののち、余裕をもって無輸血で心臓手術を完了しました。

術後経過は順調で、血行動態安定し出血も少なく、術当夜、抜管し、術翌朝一般病棟へ戻られました。

術後10日目に元気に退院されました。

すでに心臓は格段に小さくきれいな姿になっています。(下右図)

00058727_20100706_CR_1_1_1手術前は心機能の低下が著明でしたが、

術後1年で左室の直径(LVDd)49.5mm、駆出率42%まで回復しておられます。

僧帽弁閉鎖不全症もほぼ消えるほとに改善していました。

ラッピングした上行大動脈も直径45mmで安定しています。

これからお元気に親孝行に励んで頂ければと思います。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 急性大動脈解離と大動脈弁閉鎖不全症

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急性大動脈解離はとつぜん、それもいのちにかかわる状態となる病気です。上行大動脈がやられるA型とやられないB型があり、A型では超緊急手術が患者さんを救います。心タンポナーデつまり血液が心臓の周りに貯まって圧迫したり、この方のように大動脈弁閉鎖不全症を合併すると一層急ぎます。

その病院の足腰の強さや基本姿勢が問われる病気ともいえます。

ハートセンターはまさにこうした病気の患者さんを救うために存在しているような病院で、社会にお役に立てればと念じています。

患者さんは79歳女性で、高血圧と高脂血症で近くの医院に通院しておられました。

とつぜんの胸痛で、当院へ搬送されて来ました。いそいで診断確定し、ただちに手術となりました。

手術室の準備ができ次第、患者さんを搬送し全身麻酔を導入しました。

図1血行動態は頻脈でプレショック状態でしたので、解離のためタンポナーデが発生しているものと考え、急遽オペ開始しました。

この時点でアニソコリア(左右の瞳孔サイズが違うこと)があり強い脳虚血の懸念がありました。早く手術しないと脳死になる恐れが迫っています。

図2
急いで心膜を切開しますと暗赤色の血液が噴出しタンポナーデ状態であることが確認されました。

左写真でソーセージのように赤く見えているのが上行大動脈です。

突然高血圧になって大動脈が破裂しないよう、血圧が徐々に上がるよう血液とクロット(血の塊り)を心のうからゆっくり吸引し血行動態は安定しました。

写真上右は上行大動脈の解離を、写真左は解離した上行大動脈―近位弓部大動脈の外観を示します。

 

左大腿動脈送血、上下大静脈脱血管にて体外循環を開始しました。

図3全身を約20℃まで冷却しつつ、頭部は氷嚢で追加冷却し、かつバルビタール等で脳保護に努めました。

体温が20℃になったところで循環停止し、上行大動脈を横切開しました。

最近は28℃程度でより迅速に自然に治すことが増えましたが、この患者さんのように脳保護が大切なときには有用な方法かも知れません。

解離腔には暗赤色のクロットが見られ、これを摘除しました。

内膜は上行大動脈遠位部の内側(主肺動脈側)に亀裂があり、これがエントリーと考えました(写真上左、ハサミの先端やや左側の部位が亀裂です)。
図4

上行大動脈を切除し近位弓部大動脈を露出したところで、GRFグルーをもちいて、近位弓部大動脈の断端を補強しました(写真右)。

図5ダクロンフェルトストリップを用いて

ヘマシールド人工血管1分枝付き26mmを近位弓部大動脈に縫合しました(写真左)。

現在はさらに高性能の人工血管で一段と出血が減っています。

十分なエア抜きののち、24分で体外循 図6環を再開し、復温に入りました(写真下右)。
縫合部の止血を確認・補強後、上行大動脈基部をトリミングし、

図7大動脈基部には弁のなかほどのレベルまで解離があったため、

GRFグルーで内膜と外膜を固定しました(写真左)。

さらに 図83つの交連部を内外のフェルト付き糸でリベットを打つように固定し、

再解離しにくく、またARの発生を抑えるようにしました(写真右)。
上記人工血管の反対側を大動脈基部と縫合しました。

110分で大動脈遮断を解除しました。入念な止血とエア抜きののち、体外循環を離脱しました。

図9離脱は容易でした。

写真左は近位弓部大動脈人工血管置換術後の外観を示します。
経食エコーにてA弁と左室の機能良好を確認しました。

入念な止血ののち手術を完了しました。

麻酔導入のころに見られた瞳孔不同は体外循環再開後は正常化し安定しました。

術後経過はまずまず順調で、出血も治まり、術翌日朝に抜管いたしました。

神経学的にも明からな異常はありません。

術後経過は良好で、年齢とリハビリをじっくり行い、手術後3週間で元気に退院されました。

その1年半後、息切れのため米田の外来へこられ、右冠動脈の狭窄が判明、カテーテルによるPCI治療で軽快しました。

大動脈の術後4年が経ちますが、お元気にしておられます。かつての緊急手術の甲斐があったと喜んでいます。もはや急性大動脈解離でいのちを落としてはもったいないと思います。

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執筆:米田 正始
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事例: 急性大動脈解離で緊急手術

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急性大動脈解離は大動脈の壁が内外に裂けておこる病気です。

このなかでスタンフォード分類A型とよばれる上行大動脈が解離するタイプは緊急で手術しなければ発症2日間で患者さんの約半数が亡くなるという大変な病気です。

慣れたチームなら緊急手術することで 95%以上の確率で治すことができ、的確な治療がいかに大切かがわかる病気です。

以下の事例は57歳女性で、急性大動脈解離(スタンフォードA型)に大動脈弁閉鎖不全症を合併し、危険な状態になっていたため近くの病院から緊急搬送されました。

心膜切開後の所見手術にて心膜を切開したところ、心のう内には血液はありませんでした(左図)。

上行大動脈が解離して太くなり、かつ表面が赤黒くなり破れる寸前の状態であることがわかります。

手術開始直前の血圧低下はおそらく解離した上行大動脈がSVCを圧迫していたためと推察しました。

解離は弓部大動脈から大動脈基部近くまで見られました。

Ao切開体外循環を開始しました。体温が21℃まで低下したところで循環停止としました。

上行大動脈を横切開しました(右図)。

エントリーらしいものを切開部付近に認めた以外は末梢側・中枢側とも内膜は大丈夫でした。

 

GRF糊注入上行大動脈遠位部を近位弓部大動脈まで切除し、

外膜と内膜をGRF糊(のり)で固めたあと(写真左)、

ダクロンヘマシールド人工血管24mmを吻合しました(写真下右)。  遠位部吻合チェック

エア抜きののち、22分で循環停止を完了し、通常の体外循環に復しました。

 

吻合部の止血確認・補強ののち、大動脈基部を剥離・トリミングしました。

AVP大動脈基部は無冠尖NCCと右冠尖RCCを中心に解離していたため、GRF糊を用いて解離部を固定し、さらに各交連部をすべて吊り上げ固定して解離やARの進展を防ぐようにしました(写真左)。

その 中枢側吻合上で上記のダクロン人工血管を縫合しました(写真下右)。

 63分で大動脈遮断を解除し、105分で体外循環を容易にカテコラミンなしで離脱しました。

 

十分な止 完成図血ののち手術を明け方に終えました(写真左)。

術後経過は順調で、手術翌日には集中治療室を元気に退室され、10日後には退院されました。

手術から4年経つ現在も、ときどき定期健診のため外来へ来られます。

お元気なお顔を拝見するたびに、急性解離は患者さんが生きているうちに熟練チームでしっかり治すことが大切と実感します。


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上行大動脈の石灰化 【2020年最新版】

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上行大動脈

最終更新日 2020年2月25日

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◼️上行大動脈の石灰化は危険信号

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大動脈とくに上行大動脈の石灰化は心臓外科医にとって頭痛の種でした。

というのは心臓手術を行うときに、上行大動脈を遮断する必要があり、もし大動脈の石灰化がそこにあれば、石灰は割れて飛び散るおそれがあるからです。飛び散れば、もしそれが脳に流れていけば、脳卒中とくに脳梗塞になるのです。

そうなるとせっかく心臓をきれいに治しても手術は空しいものになってしまいます。

これまでそうした患者さんに対してはいくつかの対策を立てて、それなりに対処して来ました。しかしそれぞれ弱点があり、私たちは満足していませんでした。

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◼️これまでの石灰化大動脈に対する対策は

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1.大動脈を遮断せず、心臓をVFつまり心室細動の状態にして素早く手術を行う

2.およそ22度前後の低体温にして、短時間の循環停止のもと、上行大動脈を人工血管で置換し、それ以後はその人工血管を遮断する

の2つが主でした。

しかし1.は心臓の保護にやや弱く、とくに大動脈弁の手術には使えないという問題があります。

2.は本格的すぎて時間がややかかり過ぎ、患者さんのからだへの負担が大きいという問題がありました。

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◼️上行大動脈石灰化に対する第三の対策は

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これらの経験の中から、現在多用している方法は

3.体温を26-28℃程度まで下げておき、そこで一時循環を停止。ただちに大動脈を開けて内側にある内膜の硬いところをはぎとり、きれいに治してからすぐ大動脈を閉じて循環を再開する。

これなら1.や2.の欠点がかなり解消できます。

もちろん現在も、必要があり利点があれば1.や2.を活用することもあります。

さらに1.の発展型として、血液のカリウムを高くしてVFではなく心停止を誘導し、そこで心内操作を行うということもあります。これは主に僧帽弁操作と三尖弁操作に対してもちいます。1.と比べて心機能を守るというメリットが多いという印象です。

要はその患者さんにぴったりした方法を選んで活用するわけです。

上行大動脈の石灰化は基本的に治せる状態なのです。

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