心臓外科はほんとうに若手医師に人気がないのだろうか

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近年、あちこちの心臓外科(心臓血管外科)医局で新入局者が少ない、人気がないという声を聞く。


Cpyo013-sなかにはそれほど人も減らず困ってもいない医局もあるようだが、大学によっては事態は深刻である。

何年かに1人しか入局がないといった話さえ耳にする。

しかし心臓外科を目指す若手がそれほど減ったのだろうか。

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たしかに現代の若者はあまり厳しいことは好きでない。昔のように患者を助けるために1か月病院に泊まり込んで治療したなどはもはやノスタルジアでしかないのかも知れない。

ひところ人気があった眼科や耳鼻科でさえ、最近はきつい、つらいと人気低下の傾向にあると聞く。若者気質がさらに高じていきつくところまで行ったのであろうか。

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私見ではあるが、心臓外科領域の若手を見ていると、以前より数は多少減ったかもしれないが、現在もある一定数、熱く高い志をもった若手が存在すると思うのである。というのは、医局を預かった経験や若手と接したところでは、忙しい施設で、日夜手術に入り、術前術後の管理をし、患者のために活躍する若手がその施設を辞めたいといった話をあまり聞いたことがない。若手が辞めたいというのは多くの場合、ヒマな施設なかでも執刀など手を動かす機会が少ない施設の場合である。

つまり心臓外科に来るほどの若手は、それが忙しいことぐらいは熟知した上のことであり、辞めたいというケースは修練内容の貧相さに失望しているだけと思うのである。

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病院この観点からは大学病院は大いに苦しく不利である。コメディカルや事務が雑用をやってくれないためおのずと若手医師にしわ寄せがくる。そのため雑用係りとしての若手医師を増やさざるを得ず、結果として1人当たりの症例数や経験数が減るのである。

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たとえばある国立大学病院では年間200例をこなすために医師が総数で15名も必要である。すなわち医師一人当たりの例数は13例にすぎない。その一方、民間市中病院である私の施設では年間300例以上の開心術を行う。医師は私を含めて4名である。そのため医師一人当たりの例数は75例に達する。実に5-6倍の開きである。

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このためかどうか、民間市中病院の私のところへは研修希望がちょくちょく来られる。数年に一人しか入局しない一部の医局と対照的である。

そうした中で、現代の若手医師は怠惰というよりも高い質と量を求めている、昔よりDemandingであるだけではないかと思うのである。

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ただ医局にいれば将来のポストがある程度約束されるなどの長期的メリットがあるという考えがむかしからある。それも一つの特長と思われる。しかし近年台頭しているのは、そのような遠い将来の、それもただポストだけが確保されていても内容が伴うかどうか不明な状況には頼りたくないという考え方である。

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これらを考えると心臓外科にもっと若手が参Ilm09_aj06012-s入してくれるようにするには何が必要か、おのずと見えてくると思われる。そして彼らの要求に応えることが、医学教育はもとより、医療の改革にもつながるのではないかと思うこのごろである。

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誤解のないように付記しておきたいのだが、これらは大学や医局を否定しているのではなく、大学病院と市中病院とくに自由度の高い私的病院がタイアップすればそれぞれの強みを発揮しやすくなることも強調したいのである。タイアップすることで経験量も増え、学会発表もやりやすくなり、収入も確保しやすくなる、このことは豪州などでは常識になっている。

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さまざまな工夫を凝らして修練がもっと面白くなれば心臓外科という領域はまだ若手を惹きつける魅力を十分に備えているように思うのは私だけであろうか。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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