フロリダスリーブ手術 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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◆ フロリダスリーブ手術とは?

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フロリダスリーブ手術(Florida Sleeve Procedure)は、2005年に米国フロリダ大学のHess先生らが報告した大動脈基部再建術です。
特徴は、シンプルな手技で出血が少なく、安全性が高いこと。従来の基部再建(デービッド手術やヤクーブ手術)のエッセンスを活かしつつ、より低リスクで自己弁を温存できる方法です。

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◆ 従来の自己弁温存術(デービッド手術・ヤクーブ手術)との違い

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デービッド手術(Reimplantation法)

  • 人工血管の中に弁を移植して基部を完全に保護

  • 長期成績に優れ、安定度が高い

  • 技術習得がやや難しく、熟練した術者が必要

ヤクーブ手術(Remodeling法)

  • 自然なバルサルバ洞の形を再現しやすい

  • 以前は弁輪の補強が不十分とされましたが、近年改良され成績が向上

  • 比較的縫いやすいが、確実な止血と経験が求められる

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フロリダスリーブ手術の位置づけ

  • デービッド手術を簡略化した方法

  • 人工血管で基部を外から包み込む(スリーブ状に覆う)

  • 冠動脈の切り離し不要、出血リスクが最小限

  • 手技が比較的短時間で済み、他の合併手術と併用しやすい

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◆ フロリダスリーブ手術の手技イメージ

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  1. 拡張した大動脈基部を、スリットを入れた人工血管で外から覆う

  2. 左右の冠動脈入口をそのまま温存

  3. 基部が適正サイズに矯正され、逆流防止と破裂予防が可能に

👉 出血の可能性は上行大動脈の吻合部のみ。止血が容易で安全性が高いのが大きな魅力です。

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◆ 注意点と工夫

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  • 基部を人工血管に収める際、逆流が生じないよう形を整える高度な判断が必要

  • 冠動脈入口が人工血管に圧迫されないよう、適切な配置と固定が必須

  • デービッド手術の経験を積んだ術者が行うことが望ましい
    (逆に「デービッドが怖いからスリーブを」といった未熟な導入は危険です)

ガイドラインを遵守しつつ、これまで以上の安全性で確実な自己弁温存式の手術ができる、このメリットをこれから確立して行きたいものです。

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◆ フロリダスリーブ手術のメリット

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  • 出血が極めて少ないため、安全性が高い

  • 手術時間が短縮でき、他の合併手術(僧帽弁形成や冠動脈バイパスなど)も余裕を持って実施可能

  • マルファン症候群など大動脈基部拡張が進行する患者さんに、早めに安全な自己弁温存術を提供できる

  • 輸血制限がある方(例:エホバの証人)にも適応しやすい

  • 複雑大動脈弁形成術では長期の安定が図りやすくなる

 

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症例画像(CT比較)

  • 手術前:大動脈基部の拡張が明らか

  • 手術後:人工血管で包まれ、適正サイズに縮小・補強。出血もなく安全に終了

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◆ 当院での取り組みと展望

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私たちは、これまで培ってきたデービッド手術・ヤクーブ手術の豊富な経験を土台に、症例ごとに最適な方法を選択しています。
その中でフロリダスリーブ手術は、

  • 「安全に自己弁を守りたい」

  • 「将来の再建を見据えて、今できるだけ低リスクで」

というニーズに応える有力なオプションです。

今後はガイドラインを踏まえながら、より安全で確実な自己弁温存術の一つとして普及していくことが期待されます。

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◆ まとめ

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  • フロリダスリーブ手術は大動脈基部拡張症に対する自己弁温存術の新しい選択肢

  • 出血リスクが少なく、安全性が高いのが特徴

  • マルファン症候群や輸血制限のある方にも有用

  • 熟練したチームで行えば、デービッド手術に並ぶ確実な成績が期待できる

「自己弁をできるだけ残したい」「再手術のリスクを減らしたい」方は、ぜひ一度ご相談ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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