腋窩下部(前腋窩線)MICSとは――より進んだ安全な方法 【2021年最新版】

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最終更新日 2022年2月3日

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◾️ミックス(MICS)の進化

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低侵襲心臓手術(MICS)は主に僧帽弁形成術などの僧帽弁手術を右第四肋間での小開胸で行う形で進歩して来ました。

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その開胸は一般には右前方で行われることが多いです。前側方開胸MICS

写真右は一般的な前側方右開胸MICSによる僧帽弁形成術の傷跡です。

後述のLSH法のため傷の数も最小限で患者さんの満足度は高いです。

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◾️次のステップ、腋窩下部ミックス

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私たちは大動脈弁手術をMICSで行うときに前腋窩(えきか)線の近く、つまり以前よりさらに背中側で体の真横側に近い、腕をおろせば隠れるほどの位置つまり腋窩下部に切開を移動して来ました。

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そうした経験の中で、この腋窩下部アプローチで僧帽弁形成術も十分安全にできることを見出しました。

そうするとASD(心房中隔欠損症)はじめ様々なMICS手術に腋窩下部アプローチが良いという判断になり、現在そのようにしています。

前腋窩線MICS.

写真右はこの前腋窩線アプローチMICSでの弁膜症手術の傷跡です。

より見えにくく、より高機能、といったところでしょうか。

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◾️腋窩下部法、他の方法との比較

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この新しいアプローチと従来のMICSつまり前側方開胸そして胸骨正中切開とを比較してみますと、

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                        腋窩下部アプローチ   従来法(前側方開胸)        胸骨正中切開

大胸筋   まったく切らない   一部切る        まったく切らない

ケロイド  起こりにくい     やや起こりやすい    よく起こる

傷跡    見えにくい      やや見えにくい     よく見える

痛み    軽い         軽い          強い

クルマの運転 退院後すぐに可   退院後すぐに可     退院後2-3か月

僧帽弁手術 可能         可能          可能

大動脈弁手術 可能        困難          可能

追加自己負担 ない        ない          ない

 

およそこういう結果になります。腋窩下部アプローチがぴったり来ない患者さん以外ではできるだけこれを用いる意義がお判りいただけるものと存じます。

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◾️なるべく少ない副次創で

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私たちの弁膜症手術のMICSは腋窩下部(前腋窩線)アプローチで、それも副次創が1つしかないLSH法で、目立たないきれいな傷跡の手術でこころの傷も小さくします。

内視鏡も適宜併用していますが、現時点で完全内視鏡をもちいる利点があまりないと思われるため、まだ補助的な活用にとどめています。

ロボット(ダビンチ)を使うと副次創が多くできるのに加えて多額の追加出費を患者さんにお願いする必要があるのに、患者さんに益するというデータがないためまだ様子見の状態です。

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◾️大切なこと

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こうしてMICSは年々進化しています。

しかし大切なことは心内操作つまり心臓の中での手術操作の質的向上です。

これを一義的に考え、ついで美容や早い職場復帰などを考慮するのが良いと考えています。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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