ロボット心臓手術とは 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月9日

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最近テレビなどでロボット(主にダビンチ)を用いた心臓手術が話題です。

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🔳 ロボットは高価な「孫の手」?

ロボットとは実際にどういうものでしょうか?

AI(人工知能)のようにロボットが自分で判断して難しい手術をこなすのでしょうか?

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答えはNOです。

ロボットはいわばマジックハンドで人間が操縦して胸の中で切ったり貼ったりするだけのものです。うんとわかりやすく言えば孫の手をデラックスにしたようなものと言われます。1990年代に開発され徐々に改良され現在に至りますが本質は変わっていません。

ただし、ロボットは関節が多く、胸の中の狭い空間でも比較的取り回しが良く、今後胸腔鏡よりも便利になる可能性があります。

その反面、ロボットは高価な消耗品が多く、保険適応になったとはいえ、現在も様々な形で患者さんの負担増になっているケースが後を絶ちません。

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🔳 専門家の評価は?

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2019年7月に東京で開催された日本低侵襲心臓手術学会総会いわゆるミックスサミットでも胸腔鏡・内視鏡を多用するペリエ先生(フランス)とダビンチ・ロボットを多用するルルメ先生(アメリカ)の討論がありました。それぞれミックス(要するに傷跡が小さい手術です)として優れたものですが、どちらが良いとは言えない状況で、国や病院や個人によってケースバイケースというのが答えかと私は思いました。ダビンチについている3Dカメラは最新のドイツ製3D内視鏡より性能が劣るという識者の意見は本当と思います。

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どちらも良いならお金がかからない胸腔鏡・内視鏡が有利という意見も聞かれました。

ロボットを使えば一歩先進的な手術と「勘違い」して患者さんが集まるという意見が陰で多数聞かれました。

実際、アメリカの学会での議論では、内視鏡やロボットも使ったが、結局直視下つまり自分の眼で見るミックスがベストという権威筋の先生もおられるのです。

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🔳 ロボット手術なら傷跡は小さくきれい?

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ロボットとLSH_3
LSH MICSとは私たちが開発したサテライト創がほとんど無いミックス手術です

傷跡のきれいさでは、ロボットは意外に大きめの穴(サテライト穴、副次創)が沢山できるためあまり綺麗とは言えません。

そうしたサテライト穴はいつまでも残ります。よほど色白でケロイド体質でない方でなければ、決して一時的なものではないのです。ダビンチ・ロボット手術後の傷跡の実例はこちらをご覧ください

メインの傷跡は内視鏡手術と同じ程度のサイズですが、ロボットの場合、サブの傷跡(穴)が4つもあり、傷跡のエリアとしてはかえって大きくなりがちです。

将来的にはサブの穴は減るものと予想しますが、現状では傷だらけになりがちです。

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🔳 ロボット手術は安全なの?

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ロボットは安全上有利かと言えばそうとも限りません。アーム(腕)が心臓や血管に当たったとか、調整に時間がかかった(つまり患者さんには大きな負担になります)などの事例報告が少なからずあります。また現在でも冠動脈の吻合やそのレベルの細かい作業には不向きと報告されています。

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またロボットでなければできない心臓手術はありません。むしろあまり難しい手術ではロボットを避ける傾向が世界的に見られます。

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🔳 ではなぜロボット手術が話題になるの?

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これまでの学会等の議論の内容からは、1。将来の医学の発展のための第一歩としてのロボット、2。患者さんを集めるための手段として、というのが本音の議論のようです。

2019年時点での日本では2。の威力は強く、ロボットがあるだけで患者さんが集まるという現象が見られます。

ただこれまでのダビンチロボットの特許権が切れる近い将来には、より優れたロボットが開発され、ロボット手術の方が安全となったり、ロボットでないとできない手術などが出現するかも知れません。その時代にはロボットは真に役立つものになるかも知れません。

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ともあれ、大切なことは、質の高い弁形成術を、なるべく綺麗で見えにくい傷跡で、そして患者さんの負担を極力減らす、そうした医療を推進していくことと思います。現時点ではロボット=素晴らしい先端医療とは限らないのです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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もう一つのミックス—-早期仕事復帰のために 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月14日

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◆ MICS(ミックス)心臓手術とは?

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現在の大動脈弁ミックス
左図が通常の(胸骨)正中切開、中図が代表的なミックス、右図が正中のミックスです。

MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲心臓手術、ミックスとも呼ばれます)は、
胸骨を切らずに小さな切開で行う心臓手術です。
僧帽弁形成術や大動脈弁形成術などに応用され、**「痛みが少なく、回復が早い心臓手術」**として注目されています。

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MICSの主なメリット

  1. 傷跡が目立たない(美容効果)
    Tシャツや水着を楽しめる、温泉でも気兼ねしないなど、若い方からご高齢の方まで高い満足度。

  2. 早期の社会復帰・仕事復帰
    胸骨を切らないため、体力の回復が早く、仕事復帰が早いのが大きな魅力です。

  3. 自動車運転の早期再開
    胸骨正中切開では通常3〜6か月運転制限が必要ですが、MICSでは数週間で運転復帰が可能なケースもあります。
    →「心臓手術 運転再開」を希望される患者さんに大きなメリットです。

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◆ 実際の患者さんの声

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  • 50代 男性・会社員
    「胸骨を切らない手術のおかげで、退院から2週間後にはデスクワークに復帰できました。『心臓手術を受けても仕事を続けられる』という安心感が大きかったです。」

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  • 60代 女性・主婦
    「術後まもなく自動車を運転でき、孫の送り迎えもできるようになりました。胸の傷も目立たず、友人と温泉旅行に行っても周囲に気づかれません。」

こうした体験談からもわかるように、MICSは生活の質(QOL)を大きく改善する手術です。

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◆ MICSができない場合でも「もう一つのMICS」

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動脈硬化、大動脈瘤、複雑な弁膜症などでMICSができない場合でも、
当院では「胸骨正中切開」でも早期の仕事復帰・運転再開をめざす工夫をしています。

胸骨.

独自の胸骨閉鎖法

  • 一般的なプレートやピンではなく、力学的に強固で安定した閉鎖法を採用

  • 手術翌日から腕を大きく動かせ、胸帯不要で退院後すぐに活動可能

  • **「胸骨正中切開でも仕事復帰が早かった」**と喜ばれる患者さん多数

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特殊な皮膚切開法

  • 電気メスをほとんど使わず、組織を火傷させないため治りが早い

  • 感染リスクが極めて低く、20年以上の実績で胸部感染ゼロ例の期間あり

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◆ 「もう一つのMICS」という考え方

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  • MICSが難しい場合でも、痛みが少なく、回復が早く、仕事復帰や運転再開が可能

  • 胸骨正中切開でも「低侵襲に近い恩恵」を得られる治療戦略

  • 当院はこれを「もう一つのMICS」として提案しています

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◆ まとめ:諦めずにご相談ください

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  • 他院で「MICSは不可能」「胸骨正中切開しか選べない」と言われた方

  • 「心臓手術の後、早く仕事に戻りたい」「車を運転したい」と望む方

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→ 当院では患者さんの生活を考えた手術を行っています。

ぜひ一度ご相談ください。
**「諦める前に、最適な選択肢を一緒に探す」**ことが、私たちの使命です。

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執筆:米田 正始
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元・京都大学医学部教授
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これからこどもを産みたい患者さんにーーー妊娠・出産に合う心臓手術 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月15日

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1. 妊娠・出産に合う心臓手術とは?

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妊娠・出産を希望する女性にとって、心臓手術の選択は非常に重要です。
理想的なのは、弁膜症や心不全を残さず、かつワーファリン(抗凝固薬)を使わなくて済む手術です。

心臓の弁膜症を放置して妊娠すると、心不全が進行し母子ともに命の危険が高まります。
一方、弁置換術(人工弁)を選んだ場合も、妊娠・出産に大きなリスクを抱えることになります。

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2. 人工弁が妊娠・出産に不利な理由

機械弁(金属弁)

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  • ワーファリンが必須
  • ワーファリンは胎児に奇形や流産のリスクを高める
  • 妊娠中も母体の命に関わるリスクあり

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生体弁(ブタやウシ由来の弁)

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  • ワーファリンは不要
  • しかし若い女性では耐久性が短く、5年以内に壊れることも
  • 再手術が必要になると、妊娠出産どころか再手術自体のリスクも増える

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👉 つまり「人工弁」は妊娠を希望する女性には不利なのです。

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3. 弁形成術(修復術)の利点

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ここで大きな意味を持つのが弁形成術です。

  • 自分の弁を修復するのでワーファリン不要

  • 生体弁よりも耐久性が長く、数十年持つケースも

  • 妊娠中も弁が急に硬化・石灰化する心配が少ない

  • 妊娠・出産を安全に迎えやすい

実際、私たちのチームでは、弁形成術を受けた多くの女性が無事に出産を経験し、その後も元気に育児・仕事を続けておられます。
外来にお子さんを連れて来られる患者さんもおられ、医療者として大きな喜びです。

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4. 対象となる弁は僧帽弁・三尖弁だけではない

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これまで主に僧帽弁形成術で妊娠出産を支援してきました。(お便り129など多数)
しかし近年は、

  • 大動脈弁形成術

  • 三尖弁形成術(お便り130

にも適応が広がり、より多くの女性患者さんが恩恵を受けられるようになっています。
(→参考:患者さんの会ページ)

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5. 低侵襲手術(MICS/ミックス)でさらに安心

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対象となる患者さんは10代~30代の若い世代が中心です。
この世代では美容面・早期社会復帰の希望が強いため、私たちは**MICS(ミックス:骨を切らない低侵襲心臓手術)**を積極的に採用しています。

  • 傷跡が目立ちにくい

  • 術後の痛みが少ない

  • 早期に仕事や家庭生活に復帰可能

医学的にMICSが不適な場合でも、痛みの少ない胸骨正中切開の工夫を用い、同様のメリットを得られるよう配慮しています。

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6. メッセージ

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過去10年で、妊娠・出産に対応した心臓手術は大きく進歩しました。
「弁膜症があるから子どもをあきらめなければならない」――
それはもう昔の話です。

妊娠・出産を望む女性患者さんには、**弁形成術+低侵襲手術(MICS)**という選択肢があります。

どうか一人で悩まず、まずはご相談ください。
私たちは、患者さんと赤ちゃんの未来を守るため、全力でサポートします。

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参考

いい心臓・いい人生 【第九十五号】弁形成手術とお若い女性患者さん

重症弁膜症でこれからどうしようと悩んでおられる患者さんたちにおかれましては、老若男女を問わず、しっかり調べ、そして聞いたり問い合わせたりして情報を集め、前向きに熟考いただければと思います。私たちも及ばずながらお手伝いさせて頂きます。

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腋窩下部(前腋窩線)MICSとは――より進んだ安全な方法 【2021年最新版】

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最終更新日 2022年2月3日

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◾️ミックス(MICS)の進化

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低侵襲心臓手術(MICS)は主に僧帽弁形成術などの僧帽弁手術を右第四肋間での小開胸で行う形で進歩して来ました。

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その開胸は一般には右前方で行われることが多いです。前側方開胸MICS

写真右は一般的な前側方右開胸MICSによる僧帽弁形成術の傷跡です。

後述のLSH法のため傷の数も最小限で患者さんの満足度は高いです。

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◾️次のステップ、腋窩下部ミックス

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私たちは大動脈弁手術をMICSで行うときに前腋窩(えきか)線の近く、つまり以前よりさらに背中側で体の真横側に近い、腕をおろせば隠れるほどの位置つまり腋窩下部に切開を移動して来ました。

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そうした経験の中で、この腋窩下部アプローチで僧帽弁形成術も十分安全にできることを見出しました。

そうするとASD(心房中隔欠損症)はじめ様々なMICS手術に腋窩下部アプローチが良いという判断になり、現在そのようにしています。

前腋窩線MICS.

写真右はこの前腋窩線アプローチMICSでの弁膜症手術の傷跡です。

より見えにくく、より高機能、といったところでしょうか。

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◾️腋窩下部法、他の方法との比較

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この新しいアプローチと従来のMICSつまり前側方開胸そして胸骨正中切開とを比較してみますと、

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                        腋窩下部アプローチ   従来法(前側方開胸)        胸骨正中切開

大胸筋   まったく切らない   一部切る        まったく切らない

ケロイド  起こりにくい     やや起こりやすい    よく起こる

傷跡    見えにくい      やや見えにくい     よく見える

痛み    軽い         軽い          強い

クルマの運転 退院後すぐに可   退院後すぐに可     退院後2-3か月

僧帽弁手術 可能         可能          可能

大動脈弁手術 可能        困難          可能

追加自己負担 ない        ない          ない

 

およそこういう結果になります。腋窩下部アプローチがぴったり来ない患者さん以外ではできるだけこれを用いる意義がお判りいただけるものと存じます。

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◾️なるべく少ない副次創で

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私たちの弁膜症手術のMICSは腋窩下部(前腋窩線)アプローチで、それも副次創が1つしかないLSH法で、目立たないきれいな傷跡の手術でこころの傷も小さくします。

内視鏡も適宜併用していますが、現時点で完全内視鏡をもちいる利点があまりないと思われるため、まだ補助的な活用にとどめています。

ロボット(ダビンチ)を使うと副次創が多くできるのに加えて多額の追加出費を患者さんにお願いする必要があるのに、患者さんに益するというデータがないためまだ様子見の状態です。

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◾️大切なこと

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こうしてMICSは年々進化しています。

しかし大切なことは心内操作つまり心臓の中での手術操作の質的向上です。

これを一義的に考え、ついで美容や早い職場復帰などを考慮するのが良いと考えています。

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MICS冠動脈バイパス術(MICS-CABG)【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月11日

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心臓外科領域では最近このMICS-CABGが話題です。要するに胸骨を切らず、小さい傷跡でできる冠動脈バイパス術です。

これは弁膜症とくに僧帽弁閉鎖不全症などに対するMICS手術がある程度の広がりを見せていることに触発されての流れのようです。

人間だれしも傷跡が小さい方がうれしいというのはごく自然なことです。

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◾️さきがけはMIDCAB手術

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このMICS-CABGのさきがけはMIDCAB手術でした。

1996年ごろ、日本にも紹介され、一時関心を集めたものです。

ただこのMIDCAB手術は通常、左内胸動脈LITAを左前下降枝LADに付ける、一本バイパスであるため、あまり普及しませんでした。

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その後バイパスが必要な冠動脈でまずまずのサイズと性状のものならどれにでも付けられる正中大切開でのオフポンプバイパス手術・OPCABが隆盛となり現在に至ります。

このためMIDCABは中途半端な手術という印象をもたれ、すたれてしまったようです。

しかしその良さは一部専門家の間では一貫して評価されていました。

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たとえばカテーテルによる冠動脈形成術PCIとハイブリッドで使えば外科と内科の良い面を併せた治療になるなどの形で生き残って来ました。

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◾️そしてミックス冠動脈バイパス手術へ

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これが近年オタワのRuel先生やカナダ・ロンドンのKiaii先生らの発表に触発されて多枝バイパスできる左小開胸の冠動脈バイパス手術として展開を始めたのです。リバイバルというよりリノベーションでしょうか。

その背景には内視鏡手術の進歩に支えられたより便利な手術器械の出現や、冠動脈バイパスへの慣れ、そして必要ならPCIの追加などもできて安全面が確保されやすいなどの状況がありました。

ただしMICS-CABGをやるにあたって大切なことがいくつかあると思います

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1.バイパス手術としての質を落としてはならない。つまり良好な長期成績とくにグラフト開存率を維持しなければならない。このためなるべく動脈グラフトとくに内胸動脈を多用したい。

2.全身の動脈硬化が進んだ患者さんが多いため、脳梗塞を合併させないようにする必要がある。

3.患者さんの苦痛の軽減、早いICU退室や退院、そして早い仕事復帰ができてこそ価値がある

4.もちろん手術死亡率を上げてはならない

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こうした条件を満たすのであれば体外循環の使用は大きな問題ではないとする考え方もあり、うまく使えば過渡期としては良い方策かもしれません。しかし脳梗塞その他の合併症を減らすという観点からできればオフポンプが望ましいとは言えましょう。ただ安全のためには熟練度の高さが求められ、たとえばOPCABを何とかこなせると言った程度の実力ではMICS-CABGは難しいでしょう。

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◾️ミックスバイパス、さまざまな工夫

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海外のこれまでの報告では右内胸動脈が使いづらいため上行大動脈を部分遮断して静脈グラフトを付けるケースも多いようですが、これは1.や2.から見てやや不利という印象です。術前にしっかり状態を評価して脳梗塞を起こさないという確信のもとにやるというのは許容されるように思えます。

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右内胸動脈が使えればこうした問題はかなり解決へ向かうということで、海外ではまずダビンチロボットをもちいて左小開胸から右胸にまでロボットのアームを伸ばして内胸動脈を剥離するという解決策が示されました。しかし誰もが比較的安価に医療を受けられるという日本の医療事情を考えると、ロボットに高額のお金を支払わねばならないという医療はなじみにくいものがあります。

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そこで新しいMICSの器械や方法を駆使して右内胸動脈を採る方法が研究されました。

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私たちも10数年も昔から必要のある患者さんにはこのMICSバイパスに準じた左開胸アプローチでの手術を行って来ました。たとえばエホバの証人の信者さんでしかも出血しやすい再手術例ですね、こちらをご覧ください。患者さんはすっかりお元気になられました。

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あるいは前回のバイパス手MICS-CABG後術での動脈グラフトが2本とも開存しており、うち一本が胃大網動脈GEAで、目的血管は回旋枝であるという状況で左開胸のMICS-CABGに準じた方法で虚血を解消しました。術後のCTを右図に示します。

このようにして実績を積み上げています。

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◾️ちょっと発想の転換も

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私たちは僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、心房細動に対するメイズ手術、心臓腫瘍、さらに収縮性心膜炎まで小さい開胸のMICSで手術している数少ないチームですので、MICSのバイパス手術にも自然と力が入ります。

同時に発想を変えて、術後速やかに仕事やクルマ運転復帰ができる冠動脈バイパス手術も行なっています。胸骨の再建法に工夫をしているのです。比較的ご高齢の患者さんが多いバイパス手術では傷跡の小ささといった美容面よりも、痛みや苦痛少なく、早く仕事や実生活に戻れる手術が望まれているからです。この点、10代ー30代に代表される若い患者さんが多い弁膜症や成人先天性心疾患とはニーズが違うと感じるこの頃です。→→→続きを見る

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ともあれ、これから患者さん目線で、しっかり心臓を直し、かつ仕事や運転にも早く戻れる、こうした冠動脈バイパス手術をMICS-CABGを中心に完成度を上げ、実現できればと思います。

 

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JAPAN MICS SUMMIT2015 に参加して

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発展途上にあるMICSの研究会、第二回の学術集会がこの7月4日に東京で開催されたため、参加いたしました。

この前身の会のから毎回盛況で、近いうちに学会に昇格する見込みです。私は大学病院を離れているにもかかわらず世話人にも加えていただき何か貢献したいと考えて行ってまいりました。

今回は榊原記念病院の高梨IMG_1629秀一郎先生が会長をされ、なかなか面白いプログラムでした。

参加者もざっと見て400数十名で、若い先生が多数おられ、関心の高さを実感できました。

 

まずはじめにビデオライブとして4つの発表がなされました。

 

田端実先生が右開胸MICS-TAPASD閉鎖について概説されました。ASD(心房中隔欠損症)やTAP(三尖弁輪形成術)は心臓手術の中では入門編といいますか、比較的簡単な操作になるのですが、それは正中の大きな切開での話で、MICSでは術野の広さや角度が限定されるため注意が必要です。ASDの閉じ方も通常とは少々異なる工夫がなされ、若い先生方には参考になったのではと思います。大動脈遮断せずに心室細動でやったらというご意見もあり、一理ありお気持ちはよくわかるのですが、やはり正中アプローチとは異なる手術であるという認識が必要と感じました。十分な勉強と準備ののちこの手術に取り組むことが安全上必要です。

 

ついで私、米田正始が右開胸MICS-MV Repair(僧帽弁形成術)とMazeの併用の手術をご紹介しました。MICSでメイズ手術をやっている施設はかなり少ないようですが弁膜症の治療のなかで心房細動の解決は重要です。これまでも日本胸部外科学会シンポジウムその他で発表して参りました。ふつうの正中アプローチとは違う注意点を含めて、そのノウハウをご紹介しました。私はお金がかかり効果に疑問のあるラジオ波焼灼・RFアブレーションよりも安価で確実な冷凍凝固を長年提唱して参りましたが、MICSでは冷凍凝固はさらに役立つことをお示ししました。

 

というのは冷凍凝固ではプローブつまり器械の先端が凍って心房壁にくっつくため安定度が良く、狭い視野での取り回しが楽で確実なのです。従来の正中切開アプローチの成績に遜色ないことをお示ししました。

ただし現在この冷凍凝固の器械が国内では入手できず、早く解決して欲しいという状況も再確認されました。

いろんなご質問やご意見をいただき、内容のあるディスカッションとなったこと、皆様に感謝申し上げます。

 

ついで岡本一真先生が慶応大学の長年の経験にもとづいて右小開胸僧帽弁置換術のお話をされました。弁形成と比べて地味な印象の弁置換術ですが、状況によっては、たとえば弁形成が極めて複雑で時間がかかり、かつ患者さんが長時間の手術に耐える体力が乏しいときなどには絶大な威力を発揮します。いざというときの切り札とも言えるでしょう。実際慶応大学でのMICSの死亡例の大半が僧帽弁置換術であったことをそれを物語っています。これは弁形成を頑張ったが結局仕上がらず、それから弁置換へと進んだために患者さんの体力が消耗したためと拝察いたします。つまり一歩早く方針を切り替えれば弁置換は悪くないわけです。こうしたことを皆で確認しました。

 

最後に坂口太一先生が左開胸MICS-CABGにおける視野展開の工夫についてお話されました。近年注目を集めるこの領域ですが、まだ課題がいくつもあります。それらへの対策を整理して解説されました。たとえばどの肋間を開けるのが良いか、上行大動脈に中枢吻合をつけるときに安全に部分クランプを使う工夫、狭い視野の中でオフポンプの条件で吻合部をうまく出すテクニック、左側から右ITAを採取する工夫など、盛りだくさんでした。1-2年あまり前までは、傷跡の小さいMICSのために、内容的には一昔前のバイパス手術に逆戻りするような感がありましたが、かなり解決されており、これからこの領域は大きく発展するでしょう。

 

ビデオライブのつぎには合併症とくに再膨張性肺水腫(略してRPE)のセッションがありました。

 

まず外科の立場から岡本先生が長い間の経験をもとに、実例をもとに解説をされました。体外循環が長時間になってしまったケースで起こりがちで、原因として長時間の体外循環と肺の機会的損傷を挙げられました。文献では多量のステロイドが有効とか、FFP新鮮凍結血漿の使用が関連しているとか、術前からのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や右心不全あるいは右室圧が40mmHgを超える肺高血圧の存在もリスクファクターと報告されています。その他に心不全状態から十分な時間をおかずに短期間に手術せざるを得なかったケース、メイズ手術が必要で時間がかかったケース、分離換気を徹底しすぎたケース、なども検討されました。

 

予防策としてクランプ解除前によく肺を膨らます、クランプ中にもこまめに両肺換気を行う、ステロイドを使用する、などが提案され、いったん起これば重症ではVV ECMOつまり脱血も送血も静脈をもちいる方法を考慮することなどが論じられました。

 

私たちもこの問題に取り組み、予防策やいったん起こった時の対応策などを磨いて参りましたが、参考になりました。これから実験研究なども併用してより科学的な解明と対策の確立へ持っていければと思いました。

 

ついで清水淳先生が心臓麻酔の立場から考察を加えられました。この病態はやはりARDSであり、1994年のAECCの記事にも矛盾しないとのことでした。数時間の肺虚血でもサイトカインは増加しますし、ましてそこへ2度目の体外循環使用などが加わる難手術例では起こる条件がそろっているというわけです。再膨張性肺水腫の治療にはまず疑うこと!、疑えばX線写真を撮り、RPEがあるなら分離換気で治療することを提唱されました。まったく同感でした。

 

治療はARDSとしてのそれが必要で、肺血管外水分量の計測が役立つ、そして患側肺にPEEPつまり陽圧をかけることが有用とのことでした。ステロイドや適宜エラスポールなども使って良い印象とのご意見でした。

 

麻酔科からの貴重なお話に続いて呼吸器内科から緒方嘉隆先生が解説を加えられました。

 

RPEは呼吸器内科領域ではよくある病態で、気胸とくに大きなもののあとには16%とも言われる頻度で起こること、胸水があるときや気道内圧が高いときや糖尿病患者もリスクが高いこと、おそらく肺毛細血管の透過性が上がっていることなどを示されました。心拍出量が多いときに起こりやすいというご意見は興味深いと感じました。

 

血管内容量の移動があるため、PEEPは有用で、利尿剤の使用には血管内容量不足に注意が必要とのことでした。

 

体外循環の使用の有無という背景の違いはあっても、平素多数の再膨張性肺水腫の治療をこなしておられる同先生のお話は大変参考になりました。

 

 

ひきつづいて完全内視鏡セッションがありました。

 

宮地鑑先生はこどものPDAを手術支援ロボットAESOP3000を使用して内視鏡下にクリップにて長年にわたり治療して来られました。その成果を発表されました。

 

乳幼児の手術でもさまざまな注意が必要であることは理解できましたが、新生児、未熟児の手術は高度なものと感心いたしました。こうしたご経験、ノウハウを成人の手術にも活かせればと思いながら拝聴しました。

かつてAESOPが注目を集めたころ、今から10年以上昔ですが、当時アメリカまで行ってこの器械を使って内胸動脈を採取する研修を受けたころを懐かしく思いだしました。

 

伊藤敏明先生は内視鏡による右腋窩切開AVR大動脈弁置換術を供覧されました。名古屋で一緒に勉強して来た先生ですので、実感をもって拝聴しました。私も同様のMICSでのAVR手術を行っているため大いに参考になりました。

 

MICS手術にもいろいろありますが、この手術を行う施設は少なく、今後さらに完成度を上げてより有用なものにしていきたく思いました。お昼のセッションに出てくるSutuless Valveつまり無縫合弁が日本に入ってくれば、この手術はより有効でより安全なものになるでしょう。今後の展開が楽しみになりました。

 

このセッションのトリは大塚俊哉先生で、これまで取り組んでこられた非弁膜症性心房細動に対する完全内視鏡手術を供覧されました。

 

患者さんの病気や状態に合わせて、左心耳を切除するだけにとどめるか、左心耳切除+メイズ手術を行うかを選択して来られました。一過性の心房細動AFや短期持続性のAFには極めて有効という結果でした。

 

今後展開が期待できる治療法だけに早く保険適応になることを祈りながら拝聴しました。

 

 

ここで海外招請講演があり、イタリアはボローニア大学のMarco Di Eusanio先生が、上記のSuturelss Valveについて講演されました。

 

MICSの大動脈弁置換術AVRは現在すでに成果を上げていますが、これをこの弁を用いることでより短時間により安全に手術できることが示されつつあります。

 

現在ハイリスク患者さんを中心にカテーテルで入れるTAVIが話題になっていますが、より確実に、より脳梗塞を避けやすいこの弁は外科の新たな魅力になるかも知れないと思いました。ということを先日の関西胸部外科学会のシンポジウムでもお話しましたが、その期待をさらに膨らませてくれるご講演でした。

 

せっかくの海外招請講演ですので私も一つご質問しました。TAVIで入れる生体弁の耐久性が現在議論になり始めていますが、このSutuless Valveではどうですかと。Eusanio先生のここまでの7-8年のデータでは良い印象で、ブラインドで入れるTAVIよりも良い可能性があるとのことで意を強くしました。

 

そこでお昼休みとなり、私は世話人会に少し顔を出してから大阪の別研究会の講演会場へと急ぎました。

 

MICS SUMMITとしては午後は弁のQuality評価、チューリッヒ大学のFrancesco Maisano先生の僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療への外科医の役割というご講演、コメディカルセッション、最後にイブニングセミナーとしておじさんが始めるMICSセッションと盛りだくさんでした。

 

残念ながら私はこれら午後のセッションには参加できませんでした。

しかし内容ある素晴らしい会であったことは間違いなく、会長の高梨秀一郎先生、代表の澤芳樹先生はじめ関係の先生方に厚く御礼申し上げます。

 

平成27年7月5日

 

米田正始

 

 

 

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り116: MICSの複雑三尖弁形成術で人工弁を免れ、、

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三尖弁閉鎖不全症はそれ単独では心臓手術が必要になることは比較的まれです。

 

しかしあまり高度な逆流で心不全が強まり、症状が強く肝臓などの内臓にまで影響が及ぶようになれば手術が必要となることがあります。

IMG_1532B

実際、タイミングを逃して外科に紹介されたときにはすでにDICという末期状態のため手術ができず、そのまま失ったという経験が昔あります。

 

高度な三尖弁閉鎖不全症は油断できないわけです。

 

下記の患者さんは昔の交通事故が遠因となり胸部大動脈が傷ついて手術を受けられました。その後重症の三尖弁閉鎖不全症が発生し遠方からはるばるお越し下さいました。

 

弁尖つまり弁のひらひら部分がほとんど作動しない、ぶらぶらになって全然閉じることができない状態でした。おそらくは昔の交通事故のため弁を支える糸が多数切れてしまったのでしょう。

 

こうした場合、通常のリングをもちいた三尖弁形成術は効果がありません。

 

人工腱索が必要なのですが、三尖弁でこの方法を使える病院は数少ないのです。

 

私たちはこれまでペースメーカーによる三尖弁閉鎖不全症の手術経験を積むなかで、人工腱索を使うノウハウを蓄積して来たため、これは得意種目のひとつです。

 

下記の患者さんも、前尖、中隔尖、後尖とも逸脱していましたが、ゴアテックス糸による人工腱索を合計12本立ててきれいに治りました。つまり人工弁を回避できたわけです。

 

この操作を傷跡の小さい、骨も切らないMICSで行いました。患者さんには大変よろこんで頂けました。

 

以下はその患者さんからのお便りです。

 

 

これから楽しく活発な生活を楽しんで下さい!

 

 

******** 患者さんからのお便り *********

米田正始先生へ

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先だってお世話になりました石川県**市の**です。

お便り116.
あれほど苦しかった症状がなくなり、今は衰えた体力を取り戻そうと少しずつ活動を増やしているところです。

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思えば、4年前の大動脈瘤発症から急激に心機能が衰え、まだまだ働き盛りの年齢にも関わらず、仕事も続けられないほど病状が悪化し、米田先生に出会う頃には、息苦しさや動悸で自宅の階段がまともに登れなくなり、ほんの少しの距離でさえ休みながらでないと歩けなくなっていました。

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それまで、定期的に地元の病院で診察を受けており、「まだ手術の適用には至ってない」とのことで投薬治療を続けていましたが、自分の感覚では医師の言葉とは裏腹に、あまりのしんどさから、このまま薬の治療で本当のいいのだろうかと疑心暗鬼になっており、気持の落込みも酷くなる一方でした。

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そんな時、ネットで米田先生のサイトを見つけ、その中の“患者さんの声”を読ませていただき、自分よりももっと重症の患者さんが、米田先生の手術を受けて健康を取り戻した例を沢山拝見し、この先生ならきっと今の自分の状態を的確に判断してもらえると確信しました。

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しかしながら、調べれば調べる程大変有名な先生であるが故、何のつてもない自分が診察を受けることができるのだろうかと思ったり、又、自宅からも遠いので、先生のメアドを登録したものの発信する勇気がなかなか出ませんでした。

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そんな迷いに迷っていた時、間違えて発信ボタンを押してしまいました。本文の無い空メールに対して、驚くほど速く返信していただき、恐縮するやら感激するやらで、迷いに迷っていた自分の背中を押していただいた気がしました。

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すぐに自分の症状を伝えたところ、一度診察に来てくださいとのことで、コーディネーターと打ち合わせをして診察の予約をしていただきました。

 

診察の結果は、三尖弁閉鎖不全症と心房細動で、手術適用の時期とのことでした。

 

詳しい状況を分かりやすく説明していただき、自分の心臓の状態を確認することができ、手術を受けるしかないという一大決心もつき、その日のうちに手術を受けようと前向きな気持ちになれたのは、先生の的確な診断と手術の方法をお聞きできたからです。

 

又、遠方からということで、必要な検査も一日でしていただき、たいへんなご配慮をいただきました。これまでいくつもの病院にお世話にますましたが、ここまで気配りしていただいたのは初めてです。

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手術は、レアケースだったらしく、三尖弁の傷みが相当酷く、ほぼ人工弁にせざるを得ないだろうとの説明を受けていましたが、「弁形成」を希望していた自分の気持ちを汲んでくださり、相当な工夫や技術で弁形成をしていただきました。米田先生だからこそできたとありがたく思います。

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術後に肺気腫や、除脈等の合併症(?)発症というオマケがつきましたが、その都度、適切な処置をしていただき、無事退院までこぎつけました。

 

家までの帰り道、高の原駅まで歩いている時、入院の時に歩いたこの道がこんなにも近かったのかと驚きました。

 

手術前はやっとの思いで病院までたどり着いていたので、凄く遠かった気がしていたからです。本当に良くなったんだと実感できた瞬間でした。

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入院中は、米田先生はじめチーム米田のスタッフの気配りやサポートをいただき、遠方ゆえの寂しさも紛らわせていただき、深く感謝しております。

 

本当にありがとうございました。

 

お問い合わせはこちら

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お便り113: 5回目の心臓手術と2つのハンディを乗り越えて

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弁膜症を長年お持ちの患者さんの場合、何十年という間には何度も心臓手術が必要になることがあります。

とくに感染性心内膜炎や組織が弱くて切れる場合などに、見られます。

私の病院へは3度目、4度目、5度目などの再手術を求めて患者さんがよく来られます。

地元の病院で危険、ダメと断られてこられるのです。

沖縄、九州や北海道、東京などからも来 184741739られます。できるだけご期待に沿えるよう、頑張っています。

つぎの患者さんは三重県から来られました。

それまで4回手術をうけて取り付けた人工弁がまた外れて逆流しているというのです。5回目の手術が必要となり、心臓のちからも肺のちからも正常の半分にまで低下し、極めて危険な状態でした。大学病院でもこれは無理と匙を投げられた状態でした。

高の原中央病院かんさいハートセンターの私の外来へ来られ、確かに危険性が高く、また薬などで当面は持ちそうなため経過を見ていました。

その間、心不全が次第に進み、苦しくなって、患者さんは何度もお手紙を下さいました。

もとの大学病院の先生方とも協力し、苦しさの原因が心臓にあるのか、肺にあるのかを含めて何度も検討し、やはり弁を治すしか生きる道はない、という結論になりました。

入念に準備を進め、MICSの方法を駆使して小さい切開でほとんど剥離が要らない形で弁の裂けたところをピンポイントで直しました。

患者さんは順調に回復され、元気に退院して行かれました。

是非とも生きたい、そのために何としても病気を克服する、5回目の手術でも頑張る、自分と自分の主治医を信じて頑張る、そうした覚悟と決意の賜物だったと思います。

まさに命を預けて戴いた、心臓外科医としてこれほど光栄なことはありません。そしてご期待に応えることができ、これほどうれしいことはありません。

また外来でお元気なお姿を拝見させてください!

以下はその患者さんが他の患者さんたちのお役に立てるようにと書いて下さったお便りです。

 

****** 患者さんからのお便り ******

米田先生へ IMG_0806b

病との戦い

私は69歳の男性です。

私の今までの病歴を紹介しますと、

子供の時、リュウマチ熱から心内膜炎を併発して、

31歳の時、1回目の僧帽弁開腹術を受け、その時血栓肝炎(ノンA・ノンB型)になり、(この時はまだC型ウイルスが見つかっていなかった)

その後、慢性化して40歳になった頃、ウイルスが活動し出して、大動脈閉鎖不全症とあわせてものすごいしんどい日が続きました。

当時は、C型肝炎は不治の病と言われていたので、大動脈閉鎖不全をとりあえず良くなりたい気持ちから2回目の心臓手術を受けました。

少し楽になったが、C型肝炎がますます悪くなり、仕事に耐え切れず44歳に大型スーパーを退職しました。

45歳の時、インターフェロンが保険適用になり、治療して快復しました。

それから10年間コンビニを経営して、その後56歳から子供の時からの夢であったラーメン店を経営しました。ラーメン店が軌道に乗りだした59歳の時に31歳の手術をした僧帽弁がまた狭くなり、人工弁を移植しました。(3回目の心臓手術)

ところが、術後10カ月頃、人工僧帽弁に黄色ブドウ球菌がついて6か月入院して治しました。しかし、かなり息苦しくなったが我慢してラーメン店を続けました。また、同時期、ワーファリンの飲む量を調整するために減らしていた時、脳梗塞になり救急車で病院に運ばれました。気付くのが早かったため少し障害は残りましたがまた仕事を続けました。

63歳頃から顔色が土色になり、浮腫みがひどくなり、64歳にギブアップして仕事を辞め、治療に専念しましたが、徐々に悪くなり、不整脈の治療のためペースメーカーを入れてもらったりしたが、59歳の時の人工弁の縫目からの逆流(人工弁感○○症の影響)がひどくなって、67歳の時4回目の手術を受けましたが、私はどうも体質がくっつきにくいためか、だんだん心不全が進行して色々病院にあたり、断られました。

そんな時、3年前にテレビで放映されていた心臓手術の様子を思い出し、名古屋のハートセンターの米田先生を尋ねましたが、1年前にかんさいハートセンターを高の原中央病院内に設置されたとのことで、半年位通院して5回目の手術を23日前に受けました。

おかげで、縫目の逆流を治すことができました。心臓の機能がしっかりして、腎機能も利尿剤を飲まなくても済むようになりました。

術前は心臓が普通の人の50%、肺の機能も50%でしたが、心臓機能はもっと良くなると思っています。肺の機能も時間はかかると思いますが、それにつれて良くなるよう呼吸を訓練したり、リハビリを積極的に行っています。

人生は一度限りです。良くなりたいという強い気持ちが大切です。

それには、なんとか良くしてやろうと事前検査の徹底、丁寧で心臓手術の豊富な医師を探して手助けをしてもらい、良くならないと損だという強い意志が必要です。

なんとかなりますので、最後まで頑張りましょう。

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お便り112: ポートMICSの僧帽弁形成術でゴルフ復帰へ

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僧帽弁閉鎖不全症の治療として僧帽弁形成術がベスト!というのはかなりの患者さんたちの間で常識になりつつあるようです。

近くの病院で弁置換を勧められてからこれはおかしい P1120179bとご自分で調べ、形成を確実にやってくれる病院を訪ねる患者さんも増えました。

同様におなじ弁形成なら早く仕事やスポーツに復帰したい、そのためにミックス手術ポートアクセス手術だ!と考える方々が増えました。

そして自分が納得できる治療や方針を立ててくれる医師を求めて飛行機ででも移動するという方が増えました。

下記の患者さんもそのひとりで、みずからしっかりと病気に立ち向かい、勉強し、そして連絡を取って来られました。

手術では僧帽弁前尖の広範囲が逸脱し、形成術としてはやや複雑でしたが、これをポートのMICSできれいに仕上げることができました。

せっかく九州・宮崎からお越し下さっただけに、十分な治療と、遠方がハンディにならないような配慮をし、余裕ができるまで院内で心臓リハビリもこなして頂くようにしました。

まもなく春がやってきます。ゴルフやスポーツなども楽しんでいただければうれしいことです。

東京オリンピックの観戦は余裕でお楽しみ頂けるものと存じます。

以下はその患者さんからのお便りです。

 

****** 患者さんからのお便り **********


特任院長 米田正始 様
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いつも医療に献身的に取り組んでおられる米田正始先生をはじめ、増山慎二先生、
小澤達也先生、村西菜苗先生そして麻酔科の先生、看護師の方々等改めて敬意を
表します。

入院から退院まで約29日間、不快な気持ちもなく治療に専念できたこと心より感
謝申し上げます。

ありがとうございました。

神の手に委ねたこの体、お陰様で東京オリンピックまではしっかりと見届けられ
るのではないかと密かに喜んでいます。

また、諦めかけていたゴルフも来年いや今秋にも本格的にできるのではないかと期待をふくらませています。

お会いできそうもありませんのでお手紙でお礼申し上げます。

本当にありがとうございました。

医療充実・発展のため、益々ご活躍されることでしょう。

どうか体だけはご自愛ください

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傷跡が目立たない心臓手術【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月24日

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◾️昔は大きな傷跡は良い事だと

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心臓手術はかつては MedianSternotomy傷跡が大きいもの、というのが常識でした。

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40-50年ほど昔、なにしろ生き残ることができれば良しとしよう!というレベルからのスタートだったからです。

胸骨正中切開といって約25センチ長の傷跡が胸の真ん中に残りました(右図)。

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◾️傷跡が小さいミックスの時代に

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その後心臓手術は日進月歩、安全IMG_0229b2性が高くなり、術後のQOLつまり生活の質が問われるようになって傷跡が目立たない手術つまりミックス手 PostAccess3術(MICS)が脚光をあびるようになりました(左図)。

 

左写真はMICS心臓手術後の傷跡です。

女性の場合は乳腺の下にあるしわのところで皮膚を切開するようにしているためほとんど見えません。

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その詳細はこちらのページをご参照ください。

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◾️傷跡が小さい手術の盲点・注意点

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ここで大切なこと、それは十分な安全性の確保のうえのミックス手術でなければならないということです。

言い換えれば、高い技術と熟練度が確保されていることが大切です。

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私たちは高々4年あまりの間にポートアクセスの本格的ミックス手術を160例近くこなした、熟練チームです。現在は毎週行っています。

たとえば写真右は僧帽弁形成術と大動脈弁形成術を同時にミックスで行った患者さんの傷跡です。

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僧帽弁形成術を例にとってみれば、ミックス手術をやっていると言ってもごく簡単な形IMG_0365DVPb成だけしかやっておらず、それ以上の手術では通常の大きな傷跡でやっている病院もあります。

これは心配です。術中に何か小さいトラブルでもあれば対処できないという恐れが多分にあるからです。

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私はかつて修練時代に恩師からこう教えられました。一段上の手術ができるようになって初めて普通の手術ができるのだ、と。つまり何か想定外のことがあっても、余裕をもって対処できる、ということです。

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◾️美容目的だけでないミックスも

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美容目的や早期の仕事復帰、スポーツ復帰、クルマ運転再開などのために骨を切らず傷跡が目立たないミックス手術を行うことが多々あります。

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しかし私たちは純粋に安全性を高めるためのミックスもやっています。

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たとえば5回目の心臓手術でアプローチできないほど強い癒着があるときに、それを避けるルートとしてのミックスですね。こうした重症患者さんを救命するためのノウハウの蓄積が普通の患者さんの安全向上に役立つと思うのです。

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患者さんにおかれましてはこうしたことも考えて病院を選ばれることをお勧めします。

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