最終更新日 2025年9月18日
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◆ 心室中隔穿孔(VSP/VSR)とは?
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心室中隔穿孔(VSP:Ventricular Septal Perforation、VSR:Ventricular Septal Rupture) は、心筋梗塞のあとに 心室中隔(左室と右室を隔てる壁)に穴が開く病気 です。
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発症すると数時間~数日で急速に悪化し、放置すれば致死率が極めて高い
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心不全・ショックを合併し、緊急の治療が必要
かつては手術を行っても死亡率が高い「難治の心疾患」でしたが、現在では新しい手術法や補助循環(インペラ・ECMO)の導入により、救命率が大幅に改善しています。
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◆ VSP/VSRの原因と発症メカニズム
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急性心筋梗塞 によって心筋が壊死し、その壊れた部分に穴が開く
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左室の血液が右室へ流れ込み(シャント)、心臓や肺に過大な負担がかかる
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突然の血圧低下・呼吸困難・新しい心雑音の出現で気づかれることが多い
診断は心エコーで容易につき、左室から右室への異常な血流 を確認します。
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◆ VSPの治療:心筋梗塞部除外術(David-Komeda法)
1980年代、私たちはトロント大学で Tirone David先生の指導のもと「心筋梗塞部除外術(Exclusion法)」 を開発しました。。(英語論文#14をご参照)
これは世界的に広まり、現在も標準術式として多くの心臓外科医に用いられています。(虚血性心疾患・手術事例7 )
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穴そのものを直接縫うのではなく、壊れた心筋ごとカバーして結果的に穴を閉鎖
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もろい心筋を傷つけずに修復できるため、成績が大幅に改善
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世界では 「Komeda-David法」「David-Komeda法」 と呼ばれることもあります
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左の3つの図はBrian Buxton先生の教科書 Ischemic Heart Disease: Surgical Management. Mosby, London, UK. 1998に引用掲載されたものです。
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◆ 改良型手術と新しいアプローチ
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2000年代以降、さらに改良を加えています。
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柔らかいパッチを余裕を持ってデザイン → 縫合部への負担を軽減
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2枚目のパッチを弁状に使う「サンドイッチ法」 → より確実な閉鎖 (右上図)
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このように「患者さんの心筋の状態に応じて最適な方法を選ぶ」ことが重要です。
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◆ 補助循環(インペラ・ECMO)と治療のタイミング
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VSPは「発症直後の手術死亡率が極めて高い」という問題があります。
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発症当日:死亡率90%
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3週間後:死亡率10%
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この差を埋めるため、近年は インペラやECMO(エクペラ)による補助循環 を用いて全身を守りつつ、心筋が落ち着くのを待ってから手術を行う戦略が取られています。
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数日〜数週間サポートし、心筋が強くなったところで除外術を施行
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特に日本人の体格では工夫が必要ですが、治療成績改善に直結する新しい流れ です
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◆ 高齢化と重症化への対応
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近年は 80代の高齢者や、虚血性心筋症を合併した重症例 (手術事例)が増えています。
この場合、体力の限界を超えないように 短時間で確実に修復する技術 が必要です。
私たちはこれまでの経験を活かし、低侵襲で心筋を守る術式 を改良し続けています。
またウェットラボや教科書・講演その他の方法で、この手術を若い先生方に指導するようにしています。(記事)
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◆ VSPの最新成果と国際的評価
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Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery に最新の改良術式を発表
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ビデオ付き解説で、若い心臓外科医でも安全に執刀できることを確認
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2019年 AATS(米国胸部外科学会)でも発表し、国際的に高い評価を受けています
VSP治療は「待つ戦略+除外術+適宜右室アプローチ」でさらに成果を上げつつあり、今後も進歩が期待されます。
米田正始・英語論文の 266番です。→この論文を読む (注:原本はカラーでビデオ付きですので、そちらもご参照ください)
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◆ 心室中隔穿孔の注意点(まとめ)
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心筋梗塞後に 急な呼吸困難・血圧低下・新しい心雑音 があれば、VSP/VSRの可能性
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時間との勝負 → 直ちに心エコーで確認し、心臓外科へ搬送
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IABP(大動脈内バルーンポンプ)やインペラ・エクペラなどで一時的にサポートしつつ、迅速に外科チームと連携
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◆ まとめ
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心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP/VSR)は放置すれば致死的な病気 ですが、
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Komeda-David法(心筋梗塞部除外術)
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補助循環(インペラ・ECMO)を用いた治療戦略
の進歩により、救命率は大きく改善しています。
早期診断と適切な外科チームへの紹介が、患者さんの命を救う最大の鍵です。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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