第9回宮城 Cardio Tissue Labo Seminarで

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この回は東東北大学病院北大学心臓血管外科が中心となって若手心臓外科医の手術手技修練のために毎年開催されているものです。すでに9回目で実績のある恒例行事になっているようです。

写真右は東北大学病院です。

今回は教授の斉木佳克先生のご厚意にてご招待いただき、心室中隔穿孔 VSP の講義とウェットラボによる実習およびその指導を仰せつかりました。

10年ほど前に、当時の田林晄一教授のご厚意で講演させて戴いたちょっと懐かしい艮陵会館で講演させて頂きました。病院の目の前という至便のところにあります。

 

心室中隔穿孔は心筋梗塞のあとで心室中隔が破れて右室へ血液が流入し、そのままでは患者さんは一気に心不全になりまもなく死亡される恐ろしい病気です。

私は1980年代後半にトロント大学へ留学したときに真っ先に研究したテーマのひとつでした。

そのころ、多くの心臓外科医がこの病気に取り組んでいましたが、その多くは穿孔した穴を塞ごうとして失敗し、患者さんを失っていました。

心筋梗塞の直後で組織が大変弱く、せっかく穴を塞いでも組織がちぎれてまた穴が開いたのです。

そこであえて直接穴を閉じるのではなく、遠巻きに、心筋梗塞部をパッチで覆うようにすることで、心筋梗塞でやられていない、比較的状態の良い心筋にパッチを縫うことで安定した結果を出したのです。

1989年のアメリカ心臓協会で発表したときにも多くの賞図 VSP手術賛の言葉をいただき、指導してくれた恩師のデービッド先生に感謝したものです。

その後この術式は日本へも導入され、David-Komeda法 とかKomeda-David法 と呼んでいただけるのは光栄な限りです。

この方法で多数の患者さんを救命することができました。この術式は単に穴を塞ぐだけでなく、左室を守る、心不全を予防するという効果もあるからです。それもあってこれが世界の標準術式となっています。

しかしこの方法は3次元的な感覚が必要で、左室内操作に熟練したひとでないと難しいというきらいがあります。

またせっかくきれいにパッチを縫着しても、術後、心筋梗塞エリアがさらに広がれば、パッチを縫った部位も壊れてパッチが外れるという事態も経験しました。

そこでこの20数年、この術式に改良を加え磨き続けて来たのです。その成果をお話しました。

山形大学の貞弘光章教授もこの会にご参加くださり、貴重なコメントを下さいました。(貞弘先生、ありがとうございます。)

東北大学の若い先生方も多数参加しておられ、これからドンドン実力をつけて心室中隔穿孔 VSPのような重症例を救命して頂きたいので、講演では何例も実際の手術ビデオを供覧し、操作に慣れて戴けるように工夫しました。

また最近一部の先生方が使っておられる右室からの二重パッチ法のビデオも供覧し、こうした方法の特徴を知り、うまく駆使してベストの結果を出せるようにしました。2011年から二重パッチ法の拡大術式つまり左室前壁まで保護できる方法を発表していますのでそれも併せて見て頂きました。

それに続いて、ウェットラボが行われました。

ブタ心は内腔が狭いため、手術練習はやや難しいのですが、逆に良い練習の機会にもなり、前向きに進めました。

まず私が前壁中隔のVSPでのDavid-Komeda法のパッチ縫着をデモンストレーションしました。

初心者でもやりやすい、改良型の方法をお見せしました。

この方法で、昨年も長野県の比較的若い先生に初めてのVSP手術を遠隔支援し、見事に救命成功していただいた経験をお話したこともあってか、若手諸君は皆しっかりとブタ心での手術をこなしてくれました。

どなたもきれいにパッチが貼られ、かつそれを組み立てて心筋がちぎれないようにという私の依頼をしっかりと守ってくれました。

初対面でも昔から仲間であったような気持ちになれる、一体感ある雰囲気の中で和やかに勉強ができました。

それから後壁のVSPは乳頭筋や僧房弁、腱索などの構造物のため視野が狭く難しいため、とくにそこを重点的に供覧し、皆さんになるほどと言って頂けたのはうれしいことでした。

つまり左室側から僧帽弁輪を縫えば組織切れもおこらず、難しい手術がうまく行く、これをお示ししたのです。

デービッド先生と開発したこの術式は別名 Exclusion法 と呼びます。心筋梗塞部を除外(Exclusion)するためこう呼ぶのです。皆さんに自在にExclusionできるよう、改良に改良を重ねた最新版、おそらく究極のそれをご披露し、お褒めの言葉を頂きました。

勉強のあとは斉木先生、准教授の川本俊輔先生、病棟医長の熊谷紀一郎先生らとごちそうして頂き、楽しいひと時を過ごすことができました。

私なりに進めている民間病院と大学病院のコラボレーションに前向きのご意見を頂き、うれしく思いました。

楽しく充実感あふれる機会と時間をいただき、斉木先生と東北大学心臓外科の先生方に深謝申し上げます。

 

平成27年3月8日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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10) 心筋梗塞後の心室中隔穿孔 VSP(VSR)―急いで治療しないと危険【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月18日

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◆ 心室中隔穿孔(VSP/VSR)とは?

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心室中隔穿孔(VSP:Ventricular Septal Perforation、VSR:Ventricular Septal Rupture) は、心筋梗塞のあとに 心室中隔(左室と右室を隔てる壁)に穴が開く病気 です。

  • 発症すると数時間~数日で急速に悪化し、放置すれば致死率が極めて高い

  • 心不全・ショックを合併し、緊急の治療が必要

かつては手術を行っても死亡率が高い「難治の心疾患」でしたが、現在では新しい手術法や補助循環(インペラ・ECMO)の導入により、救命率が大幅に改善しています。

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◆ VSP/VSRの原因と発症メカニズム

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  • 急性心筋梗塞 によって心筋が壊死し、その壊れた部分に穴が開く

  • 左室の血液が右室へ流れ込み(シャント)、心臓や肺に過大な負担がかかる

  • 突然の血圧低下・呼吸困難・新しい心雑音の出現で気づかれることが多い

診断は心エコーで容易につき、左室から右室への異常な血流 を確認します。

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◆ VSPの治療:心筋梗塞部除外術(David-Komeda法)

左室を治せば孔(VSP)は結果として閉じる、これが心筋梗塞部除外法のポイントです。ゴルフでいえば良いスイングをすれば結果としてボールは良く飛ぶ、というのと似ています。.

1980年代、私たちはトロント大学で Tirone David先生の指導のもと「心筋梗塞部除外術(Exclusion法)」 を開発しました。。(英語論文#14をご参照)

これは世界的に広まり、現在も標準術式として多くの心臓外科医に用いられています。(虚血性心疾患・手術事例7 )

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  • 穴そのものを直接縫うのではなく、壊れた心筋ごとカバーして結果的に穴を閉鎖

  • もろい心筋を傷つけずに修復できるため、成績が大幅に改善

  • 世界では 「Komeda-David法」「David-Komeda法」 と呼ばれることもあります

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左の3つの図はBrian Buxton先生の教科書 Ischemic Heart Disease: Surgical Management. Mosby, London, UK. 1998に引用掲載されたものです。

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◆ 改良型手術と新しいアプローチ

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2000年代以降、さらに改良を加えています。

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  • 柔らかいパッチを余裕を持ってデザイン → 縫合部への負担を軽減

  • 2枚目のパッチを弁状に使う「サンドイッチ法」 → より確実な閉鎖 (右上図)

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  • VSP transRV operation右室アプローチ:心筋梗塞が軽く、穴だけが開いた症例では、右室経由で2枚パッチ閉鎖(磯田・浅井式を改良)を行う(右下図)

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このように「患者さんの心筋の状態に応じて最適な方法を選ぶ」ことが重要です。

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◆ 補助循環(インペラ・ECMO)と治療のタイミング

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VSPは「発症直後の手術死亡率が極めて高い」という問題があります。

  • 発症当日:死亡率90%

  • 3週間後:死亡率10%

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この差を埋めるため、近年は インペラやECMO(エクペラ)による補助循環 を用いて全身を守りつつ、心筋が落ち着くのを待ってから手術を行う戦略が取られています。

  • 数日〜数週間サポートし、心筋が強くなったところで除外術を施行

  • 特に日本人の体格では工夫が必要ですが、治療成績改善に直結する新しい流れ です

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◆ 高齢化と重症化への対応

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近年は 80代の高齢者や、虚血性心筋症を合併した重症例手術事例)が増えています。
この場合、体力の限界を超えないように 短時間で確実に修復する技術 が必要です。

私たちはこれまでの経験を活かし、低侵襲で心筋を守る術式 を改良し続けています。

またウェットラボや教科書・講演その他の方法で、この手術を若い先生方に指導するようにしています。(記事

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◆ VSPの最新成果と国際的評価

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  • Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery に最新の改良術式を発表

  • ビデオ付き解説で、若い心臓外科医でも安全に執刀できることを確認

  • 2019年 AATS(米国胸部外科学会)でも発表し、国際的に高い評価を受けています

VSP治療は「待つ戦略+除外術+適宜右室アプローチ」でさらに成果を上げつつあり、今後も進歩が期待されます。

米田正始・英語論文の 266番です。→この論文を読む (注:原本はカラーでビデオ付きですので、そちらもご参照ください)

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◆ 心室中隔穿孔の注意点(まとめ)

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  • 心筋梗塞後に 急な呼吸困難・血圧低下・新しい心雑音 があれば、VSP/VSRの可能性

  • 時間との勝負 → 直ちに心エコーで確認し、心臓外科へ搬送

  • IABP(大動脈内バルーンポンプ)やインペラ・エクペラなどで一時的にサポートしつつ、迅速に外科チームと連携

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◆ まとめ

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心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP/VSR)は放置すれば致死的な病気 ですが、

  • Komeda-David法(心筋梗塞部除外術)

  • 補助循環(インペラ・ECMO)を用いた治療戦略
    の進歩により、救命率は大きく改善しています。

早期診断と適切な外科チームへの紹介が、患者さんの命を救う最大の鍵です。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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