【テスト】2) 虚血性心筋症とは?―多くは心筋梗塞で心筋がやられた状態ですが【2023年最新版】

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最終更新日 2020年2月29日

1.虚血性心筋症とは

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心臓に血液を送る冠動脈 (左図の赤く細い血管) が狭窄 (狭くなる) したり閉塞して心筋がやられる状態を虚血と言います。

虚血が悪化し心筋梗塞になった後、左室(ポンプの部屋)心筋が壊れて動きが悪くなり、血液が十分送れなくなる状態を虚血性心筋症と呼びます。

虚血によって起こった心筋症という意味です。通常の心筋梗塞以外でも、カテーテル治療PCI
を繰り返した後にも見られることがあり、これは細い枝がつぶれたり、組織片が詰まったりして心筋梗塞を何度か起こしたためと考えられています。
川崎病のために冠動脈瘤(こぶのように大きくなり、その中に血栓ができます)ができ、そこでできた血栓が心筋梗塞を繰りかえして起こることもあります。

2.虚血性心筋症では左室のどこがどう壊れるの?

虚血性心筋症は心筋梗塞のため左室心筋の一部が失われ、動きが悪くなったため、それを補うべく左室全体が大きくなったり形がくずれてしまい、梗塞にやられていない部分まで動きが損なわれる状態です。

図 梗塞後リモデリング

さらに左室全体の形が崩れて丸くなるために、僧帽弁という左室入り口にある弁もゆがみ、弁が逆流することがよくあります。これを虚血性僧帽弁閉鎖不全症といい、これによって状態が大きく悪化します。

このように虚血性心筋症が悪くなると命にかかわる状態になってしまいます。この状態では胸痛がないことも多く、患者さんご自身では状態がわかりにくいため油断は禁物です。

3.症状は?

体を動かすときの息切れや動悸などがよく見られます。虚血が進行中の場合は胸痛も起こります。心不全が進めば、息切れが強くなり横になって寝られなくなったり(これを起坐呼吸と呼びます)下肢がむくんだりします。

4.虚血性心筋症の治療は?

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しかしこの病気はかなりの部分、治せる病気です。一般的には心不全の治療をお薬やリハビリ、あるいはASVという空気マスクなどの内科的治療が行われます。

外科手術は現在あまり一般的ではありませんが、心不全や心不全治療の経験が豊富なエキスパート心臓外科医にご相談頂ければ、これは薬が良いとか、このタイプは心臓手術で治せる、などの方針が立ちます。
心筋梗塞のために失われた心筋はもどりませんが、梗塞の周囲にある心筋を回復させることはある程度可能ですし、梗塞でやられなかった心筋を守ることはかなりの程度までできるのです。
そうすることで虚血性心筋症といえども寿命を延ばせる可能性が出て来ます。
もっと読む
あきらめるとそれまでですが、粘り強く、心筋や心臓を守ることが生きることにつながるわけです。

メモ: もうひとつの視点として虚血にはマクロとミクロがあります。
マクロとは冠動脈のどこかが詰まったり狭くなったりしている状態で、大きなものはカテーテル治療バイパス手術でほぼ治せます。
ミクロとはもっと細い血管が詰まった状態で、従来治療では治せませんが、お薬も必ずしも十分には効きません。

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こうした状態に対して私たちは再生医療とくに血管新生治療を行っています。日本では認可をとるのに時間がかかるため、とりあえずタイの国際心臓病院で行っています。そこでは再生医療患者さんの大半はアメリカから来ておられます。はやく日本でもこれを実現したいものです。虚血性心筋症を治す切り口がさらに増えれば幸いです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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【テスト】乳頭筋最適化術(Papillary Head Optimization)とは 【2023年最新版】

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最終更新日 2023年2月15日

1.乳頭筋ヘッド最適化手術とは?

乳頭筋のヘッドを糸で束ねて前方に吊り上げ、僧帽弁の逆流を止める手術です。略称はPHOです。
アメリカのKron先生の方法をもとにして、私たちが世界に先駆けて開発した術式です。虚血性僧帽弁閉鎖不全症などの機能性僧帽弁閉鎖不全症に対して威力を発揮します。
この領域の権威であられる産業医大循環器内科教授・学長の畏友・尾辻豊先生のご意見で命名しました。 以下もう少し詳しくご説明します。

2.虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症の手術で大切なことは

心筋梗塞後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や特発性拡張型心筋症の機能性僧帽弁閉鎖不全症では前尖だけでなく後尖のテザリングつまり弁尖が左室側に引き込まれる現象をいかに治すかがカギとなります。

そのため前尖だけでなく後尖も治せるこのPHO法は当初、両尖最適化(Bileaflet Optimization)という名前で、より多くの患者さんたちにお役にたつものとして発表しました。しかし直接的には乳頭筋に手を加えて治すため、このPHOという名前が分かり易いと言われたのです。

PHOシェーマ

なるほど鋭いご指摘、さすがは尾辻先生と感心し、以後このPHO法という名前を発表のときには使っています(開発の歴史のページをご参照ください)。

3.従来の手術との成績の比較

これまでの手術法とくらべてこの乳頭筋最適化術(PHO法)はどのくらい良い結果を出せるのでしょうか。

まず現在まで標準術式と言われている僧帽弁輪形成術、つまりリングをもちいて僧帽弁の弁輪を締める方法(略称MAP)と比べてみると、
前尖のテザリングについてはMAPもそこそこは行けるもののPHO法が有利、とくに重症の虚血性僧帽弁閉鎖不全症や重症の機能性僧帽弁閉鎖不全症でテザリングが高度なものではPHO法が断然有利です。

後尖については、MAPでは手術後は術前より悪化します。しかしPHO法をMAPに併用すれば悪化しません。有意に改善とまでは行きませんが良くなる傾向があります。つまりここでMAPだけの従来法にはない、大きなメリットが発生するわけです。

これらを合わせると、これまでのMAP法で治せなかった虚血性僧帽弁閉鎖不全症や機能性僧帽弁閉鎖不全症をこの乳頭筋最適化術PHO法では治せる、その限界線が高くなったと言えそうです。

4.もう一つの手術法との比較では

PHOとPMA

この乳頭筋最適化術PHO法と、近年ある程度使われている乳頭筋接合術(PMA法)を比較しました。
PHOは乳頭筋先端を前方へ吊り上げるのに対してPMAでは両乳頭筋を寄せるのです(左図)。簡便な良い方法と思います。
すると前尖についてはどちらも善戦健闘するものの、PHO法のほうが有効性が高いという結果でした。

後尖についてはPMA乳頭筋接合術では悪化したのに対してPHO法では悪化しませんでした。

心臓とくに大切なポンプである左室のサイズや動きパワーについてはPMAよりPHO法のほうが有利という結果でした。PMAも悪くはないのですが、PHOでは明らかに改善する項目が多かったのです。

総合的に判断すると、乳頭筋接合術PMAより乳頭筋最適化術PHO法のほうが有利という結果でした。ただしその差は前述のMAP法との差よりは小さく、PMAはかなりつけているとも言えましょう。後尖のテザリングがそうひどくなければどちらも使える方法だと思います。

こうした結果を、2012年のヨーロッパ心臓胸部外科EACTSと、2013年のアメリカ胸部外科学会AATSの僧帽弁セッションともいえるMitral Conclaveなどで発表し、多くのご質問や前向きのコメントを頂きました。2017年にはアメリカ胸部外科学会の本会で発表でき、その効果が世界に知られるようになりました。

内外の学会でぜひ使いたいと言って下さった先生方も増え、光栄なことです。

5.乳頭筋最適化術(PHO)の限界は

ただしいかなる術式もそうであるように、このPHO法にも限界はあると思います。

そもそも左心室があまりにも壊れているケースでは、僧帽弁閉鎖不全症がきれいに消えても、それだけではパワー不足という大きな、かつ根底的問題が残ります。
何しろ、これらの手術が対象とする患者さんは、心臓の筋肉が大きく壊れたり失われた方々ですから、もとの出発点が厳しいのです。

しかし、だからこそ、少しでもパワーアップをという努力は大切と思います。PHO法が患者さんにとって有利で、かつ威力を発揮できるような使い方をすることが大切です。

パワーに関しては、ここまでの研究で、PHO法と同じ前方吊り上げによって、左室収縮機能が改善することが心不全の動物モデルで証明できています。これは手術前に僧帽弁閉鎖不全症をもたないモデルですので、弁の逆流を消したため左室機能が良くなったのではなく、PHOという操作自体が左室機能を良くしたことになります。
これは人間ではなかなか証明できない、実験研究ならではのメリットと考えています。

というのは人間の患者さんで、僧帽弁閉鎖不全症のないひとにこうした術式を行うことは倫理的に許されないからです。

それ以外にもPHO法が左室のパワーアップに役立つという傍証があります。それはコアプシスCoapsysという左室を前後に圧迫するデバイスで左室機能がある程度改善するというデータが実験でも患者さんの臨床データでも報告されています。PHO法で左心室を前後に圧迫するちからとかなり近いちからのかかり方です。そのため同法でも同様のパワーアップが期待しやすいのです。

6.限界を打ち破る、最近の展開は

Apf1107-s

そうこうしながら、60名を超える患者さんにこのPHO法を行い、その前のバージョンである腱索転位法(トランスロケーション法)と併せると100例近い数になりました。

なかでも新しいPHO法で予想以上に活発な生活を送っておられる方が多いことが、実感のあるよろこびです。

こうした最近の成果を内外の主要学会のシンポジウムなどで発表し啓蒙に努めています。

参考:
いい心臓いい人生99号 第31回日本冠疾患学会(2017)にて。
いい心臓いい人生98号 日本胸部外科学会総会(2017)にて。
いい心臓・いい人生96号 ソウルに行って参りました(第19回国際弁膜症シンポジウム
いい心臓・いい人生92号 アメリカでちょっと頑張りました(アメリカ胸部外科学会)

それともうひとつ、この方法にいったん慣れるとかなり短時間で手術操作が完了します。上記のように大きなメリットを患者さんに提供できるだけでなく、それがたかだかプラス10分あまりの時間でできてしまうという利点は今後に期待ができると考えています。短時間でできるということは、患者さんの体力を消耗せずにすむことであり、体力が落ちた重症患者さんにとって大きな利点となります。

PHO and others

私たちが開発したPHO手術(図の左)は、その効果の高さからご活用くださる施設が増え始め(図の右)、光栄なことです。医学研究のオリジナリティを守るため、私たちの原著を引用頂けると良いのですが、、、、

さらに新しい左室形成術(心尖部凍結型左室形成術と言います→もっと見る)で短時間で左室の修復が行えるようになり、アメリカのメジャージャーナルの表紙を飾りました(右図の赤矢印)。

Seminar

これまでPHOが使えなかった巨大な左室にも使えるようになり、盛り上がりを見せています。PHOと新しい左室形成術の併用効果は大きく(デュアル形成術)、2019年のアメリカ胸部外科学会・僧帽弁シンポジウムで発表し反響がありました。→→デュアル形成をもっと知る

それやこれや、こうした努力のメリットと限界とを常に考え、患者さんが損しないようにバランス感覚を磨きつつ、日々精進しています。またこれからこのPHO法を海外や国内の先生方にも安心して使って頂けるよう、啓蒙活動を行う予定です。

7.カテーテル治療・Mクリップとの比較では

近年循環器内科で話題のMクリップは、心臓外科手術のアルフィエリ法をカテーテルで行うものです。アルフィエリ法では僧帽弁前尖と後尖を真ん中にてつなぎ、僧帽弁を2つに分けて閉じやすくするものです。
良い方法なのですが、本質的に僧帽弁を治すものではなく、まして原因である左室を直せないため効果は限定しています。ただMクリップはカテーテルでからだへの負担が少ないため試みる価値があるケースは存在すると思います。
これをやってみてダメなら上記の乳頭筋最適化手術(PHO)というのは一つの方法と思います。
Mクリップについて、さらに見るのはこちら
Mクリップが効かないときはこちら

ニュース(2016.9)

機能性僧帽弁閉鎖不全症はさまざまな原因で起こり、患者さんの予後を悪くします。
機能性僧帽弁閉鎖不全症のなかで、心筋梗塞などによる虚血性僧帽弁閉鎖不全症や、拡張型心筋症にもとづくタイプには上記の左房アプローチによるPHO術式が威力を発揮することを発表して参りました。

このたび、大動脈弁からのアプローチによるPHO手術を世界の心臓外科トップジャーナルと言われる Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery誌 から発表することになりました。

この新術式は上記のどのタイプの機能性僧帽弁閉鎖不全症にも使えますが、中でも大動脈弁疾患に合併するタイプに特に有用です。というのはこの病気の患者さんの多くは大動脈弁置換術または大動脈弁形成術が必要なため上行大動脈を一度開ける必要があります。そのときにこの上行大動脈からPHOを行えば5-10分ほどで僧帽弁もきれいに治せるからです。

患者さんの体への負担を軽くし、効果は大きく、僧帽弁閉鎖不全症を治すだけでなく心機能も改善します。

大動脈弁疾患が原因の患者さんの場合は術後2年もすれば心機能はほぼ正常化します。世間では手遅れと言われていた患者さんの心機能が正常化するのです。

この新術式は米田正始・英語論文265番にあります。解説付きのビデオもジャーナルで見ることができます。若い先生方のご参考になれば幸いです。より多くの患者さんたちが助かれば大変うれしいことです。

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僧帽弁膜症のリンク

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第137号】 第33回日本冠疾患学会にて

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いい心臓・いい人生 【第137号】 第33回日本冠疾患学会にて
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発行:心臓外科手術情報WEB

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編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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いつの間にか今年も残すところ僅かになりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。
この12月13日と14日に岡山で日本冠疾患学会があり参加して参りました。
今回は倉敷中央病院の循環器内科門田一繁先生と心臓血管外科小宮達彦先生が会長で、
「人をつなぐ、医療をつなぐ」というテーマでした。

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循環器病領域は内科系と外科系の競合が厳しい領域の一つと言われて久しいのですが、
今これをハートチームの元にしっかりつなごうという趣旨が含まれる現代的なテーマ
です。私はご縁あって長年この学会の理事を務めさせて頂いておりますが、学会
そのものの方向性が内科と外科の垣根を超えた全面協力での患者さんベスト治療で
あるだけに、この学会にふさわしい立派なテーマと思いました。

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さて初日の合同シンポジウム「心原性ショックに対する補助循環」では主にインペラや
ECMOがらみの補助循環の最近の展開が論じられました。インペラやエクペラなどの強力
治療によってこれまでの不治の急性心不全、ショック状態が治せる可能性を感じました。

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ついで外科ビデオセッション・New TechniqueではInfarct Exclusion変法が近畿大学
の金田敏夫先生から発表されました。30年以上前にトロントから発表させていただいた
方法を強化していただき嬉しいことでした。私は機能性僧帽弁閉鎖不全症FMRに対する
Dual Repair僧帽弁形成術を2つのビデオで検討しました。座長の兵庫医大坂口太一
教授、福島県立医大横山 斉教授からいくつもの鋭いご質問を頂き、皆さん特長がわかり
やすくなったように思いました。内科系の先生もこの発表を聴いて下さっていたようで、
今後内科外科のハートチームでの参考になればと思いました。

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ランチョンセミナー・今CABGとどう向き合うか?では榊原病院の平岡有努先生がOff
the job trainingとして通常のブタ心臓だけでなく肋骨付き資材でのLITA―LAD吻合や
VSP練習、食道肺付き資材で弓部大動脈置換術練習なども行えることを紹介されました。
九州大学の塩瀬明教授はチャレンジャーズライブから始まり国内ローテーションや海外
留学などでも果敢に研修機会を広げて行く努力を紹介されました。昔から伸びるひとは
どんな環境でも伸びるという言葉がありますが、こうした立派な姿勢の人にはより立派
な環境を提供したいし、提供しなければと皆さん思われたのではないでしょうか。

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懇親会でビデオ発表へのご質問やコメントを内科・外科の先生方からもいただき、大変
有意義でした。とくに内科の先生方からの貴重なコメントをいただけたのはこの学会
ならではと改めて感じいりました。

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2日目は実践エコー講座(岸和田市立病院の六尾哲先生)を拝聴しました。広範囲の
テーマを網羅され、良くまとまっており、さっそく役に立つ実用的実践的な内容でした。
コメディカルの皆さんにも有益であったものと思います。

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外科シンポ・オンポンプ対オフポンプCABGは部分参加でしたが、オフポンプもオン
ポンプもその特徴を把握して使いこなせば良い結果に結びつくという印象を得ました。
無理なくできるならオフポンプが第一選択と思いました。オフポンプ先進国日本の
お家芸を皆で安全に進化させて頂きたいものです。

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心臓リハビリ教育セミナー(群馬県立心血管センターの安達 仁先生)は心臓外科医
の私には斬新な視点が多く、累積LDLや異所性脂肪、夜食を控える理由、Insulin
release解除のための食後リハ運動、ACSトリガーと酒・コーヒー・怒り・興奮、心リハ
とCAD早期発見、笑顔の重要性などなど、病気の予防だけでなく二次予防、術後予後の
一層の改善などにも有益と思われました。

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ランチョンセミナー(阿部幸雄先生)は心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症(AFMR)と
心房生機能性三尖弁閉鎖不全症(AFTR)で、冠疾患学会との関連は良くわかりませんでした
が、充実した内容であり良いセミナーと思いました。
AFMRはやや少ない疾患という印象でしたが高齢者MRの原因では最多であり油断禁物です。
AFTRも高齢者では多く僧帽弁と三尖弁はセットでしっかり治す必要があるとのことで、
同感でした。

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午後のポスター・心機能低下では座長(ピンチヒッター)を仰せつかりました。いずれも
興味深い内容でした。私は前日のビデオ発表の解析部分をポスターで解説しました。
さまざまなご質問をいただき、ポスターらしい少数精鋭検討となりました。内科の先生も
お越しくださり、嬉しいことでした。

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岡山はお隣の倉敷に大原美術館があり、学会前に行く機会を得ました。前回ここへ来た
のは小学校4年生の時なので大昔のことでしたが覚えのある絵があり懐かく振り返り
ました。個人的にはモネとエルグレコは圧巻と感動しました。大原美術館の起源(利潤の
社会還元、それも一般市民への還元)や小島虎次郎、印象派の時代進化なども興味深く
思いました。

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学会テーマのように今後の仕事につなげる有益な学会でした。留守を守って下さった
医誠会病院の皆様に感謝申し上げます。

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令和元年12月19日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
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いい心臓・いい人生 【第132号】 第24回日本冠動脈外科学会にて

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いい心臓・いい人生 【第132号】 第24回日本冠動脈外科学会にて
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発行:心臓外科手術情報WEB

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編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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梅雨が明けたと思いきや、台風が来て近畿はしっかり雨が降っています。台風進路
沿いの皆様にはくれぐれもご注意をお願いします。

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さてこの11日と12日、金沢市で開催された冠動脈外科学会に行って参りました。
金沢大学教授の竹村博文先生が会長で、金沢出身の大哲学者・西田幾多郎の言葉を
引用しての「潜心、そして、先進」というテーマでした。

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竹村先生のお人柄を反映したような、親切丁寧な企画が多く、皆さん大変勉強に
なったのではないかと思いました。
一般の読者の皆様にも冠動脈疾患(つまり狭心症や心筋梗塞など)の治療では
このような問題があり努力が行われているということを知って頂く機会になるかも
しれないため、ここで少し記載します。

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まず初日の「虚血性心疾患の新しいガイドラインを読み解く」では新しいガイド
ラインの説明と現状が論じられました。外科治療つまり冠動脈バイパス術は重症例
で患者さんの命を助ける、寿命を延ばすというメリットがあり、ガイドラインでも
治療法として推奨されるケースが多々あります。しかし、これが現場ではまだ浸透
しているとは言えず、カテーテル治療が行われるケースが多いことも論じられまし
た。どのようにして患者さんに最適の治療が行われるか、内科外科を含めたハート
チームをもっと機能させるにはどうしたら良いかが論じられました。

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もう一つの親切企画、FFR(冠動脈にどれくらい血液が流れているかの指標)の
教育講演も好評でした。これまでは冠動脈に造影剤を入れて内側を動画にして、
どこが狭くなっているかを調べ、それに応じてカテーテル治療PCIやバイパス手術
を行なって来ましたが、一見狭くなっている冠動脈でも、実際にはけっこう良く
血液が流れている、つまりその部位には治療の必要がない、こうしたケースが多々
あることがわかって来ました。それを認識することは患者さんに本当に必要な治療
を行い、かつ、不要な治療を回避するという大きなメリットがあります。このFFR
そして冠動脈の内側を精密に知るOCTの講義がされました。すでに知っていること
とは言え、あらためて最近の知見を学び頭の中を整理する素晴らしい機会になり
ました。

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また国際セッションとしてアジアの有名心臓外科医が手術をビデオで披露する場が
ありました。畏友Jae Won Lee先生(韓国)やKi-Bong Kim先生(韓国)、
Suchart Chaiyaroj先生(タイ)はじめ、数名の先生らが参考になる貴重な手術
ビデオを見せてくださいました。蛇足ながらせっかくの友好セッションでもある
ため、中国のジョークをひとつお話ししなるべく場を盛り上げるようにさせて頂き
ました。

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2日目には重症虚血性僧帽弁閉鎖不全症のワークショップがあり、私も発表いたし
ました。この病気は弁膜症の形を持っていても本質は心室の病気であるため、心室
を治すことが必須である、という観点から、世界に先駆けて行なって来た2つの方法
(乳頭筋前方吊り上げと心尖部凍結型左室形成術)を同時に行う手術を披露しました。
こんな重症でも治るのですか、ぜひ使ってみたいと後でご質問をいただき、手術の
コツや、外科治療の持ち味つまり内科のカテーテルではできない治療を行うことが
患者さんやハートチームに貢献する道であることをお話ししました。

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午後には会長のもう一つの親切企画、Syntaxスコア計算の講演がありました。この
Syntaxスコアとは冠動脈疾患の重症度、複雑度を計算するもので、このスコアが高い
とバイパス手術が有利になり、スコアが低いとカテーテル治療PCIが有利になるという、
貴重な指標です。しかしその計算法を知らない人が多く、私も数年前に勉強したまま
になっていましたので有用なセッションだったと思います。

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2日目最後にブローアウト型左室破裂のビデオセッションがありました。ブローアウト
とは心筋梗塞のあと、文字通り、左室が爆発(ちょっとおおげさ)するように破れる
病気で、多くの患者さんが死亡されますし、手術も難しいと言われています。私は15
年以上前にアメリカのジャーナルで発表した手術法をさらに改良したものをお出しし
ました。工夫すれば出血を止めることは難しくない、それよりも患者さんが生きている
うちに手術室まで到達できる方法を考えよう、生きて到達できれば救命可能という
メッセージをお送りしました。発表の先生方もみなさんそれぞれ貴重な経験と努力を
披露され、今後の展開につなげる良いセッションだったと思います。

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それ以外にも若い先生らに役立つセッションも多く、充実した二日間で、私は金沢の
街を楽しむ時間なく、急いで大阪に戻ることになりました。立派な会を開催された竹村
先生はじめ金沢大学の皆様、ご苦労さまでした。

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令和1年7月27日

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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

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もう一つのミックス—-早期仕事復帰のために 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月14日

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◆ MICS(ミックス)心臓手術とは?

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現在の大動脈弁ミックス
左図が通常の(胸骨)正中切開、中図が代表的なミックス、右図が正中のミックスです。

MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲心臓手術、ミックスとも呼ばれます)は、
胸骨を切らずに小さな切開で行う心臓手術です。
僧帽弁形成術や大動脈弁形成術などに応用され、**「痛みが少なく、回復が早い心臓手術」**として注目されています。

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MICSの主なメリット

  1. 傷跡が目立たない(美容効果)
    Tシャツや水着を楽しめる、温泉でも気兼ねしないなど、若い方からご高齢の方まで高い満足度。

  2. 早期の社会復帰・仕事復帰
    胸骨を切らないため、体力の回復が早く、仕事復帰が早いのが大きな魅力です。

  3. 自動車運転の早期再開
    胸骨正中切開では通常3〜6か月運転制限が必要ですが、MICSでは数週間で運転復帰が可能なケースもあります。
    →「心臓手術 運転再開」を希望される患者さんに大きなメリットです。

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◆ 実際の患者さんの声

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  • 50代 男性・会社員
    「胸骨を切らない手術のおかげで、退院から2週間後にはデスクワークに復帰できました。『心臓手術を受けても仕事を続けられる』という安心感が大きかったです。」

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  • 60代 女性・主婦
    「術後まもなく自動車を運転でき、孫の送り迎えもできるようになりました。胸の傷も目立たず、友人と温泉旅行に行っても周囲に気づかれません。」

こうした体験談からもわかるように、MICSは生活の質(QOL)を大きく改善する手術です。

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◆ MICSができない場合でも「もう一つのMICS」

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動脈硬化、大動脈瘤、複雑な弁膜症などでMICSができない場合でも、
当院では「胸骨正中切開」でも早期の仕事復帰・運転再開をめざす工夫をしています。

胸骨.

独自の胸骨閉鎖法

  • 一般的なプレートやピンではなく、力学的に強固で安定した閉鎖法を採用

  • 手術翌日から腕を大きく動かせ、胸帯不要で退院後すぐに活動可能

  • **「胸骨正中切開でも仕事復帰が早かった」**と喜ばれる患者さん多数

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特殊な皮膚切開法

  • 電気メスをほとんど使わず、組織を火傷させないため治りが早い

  • 感染リスクが極めて低く、20年以上の実績で胸部感染ゼロ例の期間あり

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◆ 「もう一つのMICS」という考え方

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  • MICSが難しい場合でも、痛みが少なく、回復が早く、仕事復帰や運転再開が可能

  • 胸骨正中切開でも「低侵襲に近い恩恵」を得られる治療戦略

  • 当院はこれを「もう一つのMICS」として提案しています

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◆ まとめ:諦めずにご相談ください

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  • 他院で「MICSは不可能」「胸骨正中切開しか選べない」と言われた方

  • 「心臓手術の後、早く仕事に戻りたい」「車を運転したい」と望む方

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→ 当院では患者さんの生活を考えた手術を行っています。

ぜひ一度ご相談ください。
**「諦める前に、最適な選択肢を一緒に探す」**ことが、私たちの使命です。

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左室形成術とは【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月11日

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◾️左室形成術とは?

左室形成術とは左室瘤拡張型心筋症その他の状態に対して左室の容量・サイズと形を整え調整することで左室の機能をできるだけ回復させる手術です。

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古典的なものとしては心筋梗塞のあとの左室IMG_0690b3瘤(右図、左室の一部がこぶのようにポコッと膨らみそれが左室機能を悪くしたり血栓ができて障害が起こる)に対しての瘤切除があり、多数の患者さんを救命して来ました。1990年代はまだこうした時代でした(英語論文 15番などをご参照ください)。

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その後カテーテル治療PCIやさまざまな薬の登場でいわゆる左室瘤が減ったものの、それに代わって虚血性心筋症という、左室全体が動かないタイプが増えました。

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図 梗塞後リモデリング

◾️この10-20年の流れ

これまでの左室瘤の手術では、左室の悪いところを切り取るために術後は良くなるのはある程度自明でしたが、虚血性心筋症となると左室の悪いところと良いところの差が小さく、良いところも切り取ってかえって悪くなるという心配がでてきたのです(左図)。

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さらにこうした患者さんたちは手術前から心不全のため内臓が壊れたり全身の体力が落ちていることも多々あり、手術はできても体がついて来ない、ということのないように、注意が必要なのです。

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それをさまざまな工夫をして左室機能を良くするような切り方としたのがバチスタ手術であり、セーブ手術ドール手術オーバーラッピング手術、エリート手術なのです。詳しくはそれぞれのページをごらんください。

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それぞれ特徴があり、長所と短所をもっているため、一概にこれがベストと言いづらいところがあります。

どの左室形成術が良いかを考えるよりも、どれがこの患者さんに一番ぴったりくるかを考える、これが大切と思います。

そのため私はこれらの左室形成術をすべて活用しており、適材適所で選ぶようにしています。

そしてこの数年間、より患者さんの負担を減らし効果をあげる心尖部凍結型左室形成術を考案し、成績を改善しつつあります。左室形成術で死亡する患者さんはほとんどない、というレベルに達しました。

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◾️もっと患者さんを救うために

心移植がまだまだ患者さんのニーズを満たすほどに普及していない現在、左室形成術はうまくやれば患者さんをお助けする奇跡の手術になり得ます。心移植の手前の段階での治療と位置付けられている補助循環つまり人工心臓は太いケーブルにつながれている不自由さとその感染症などの合併症の多さからQOL(生活の質)が低く、なかなかなじめないというのが現状です。プロモーションビデオでは補助循環をつけた形でゴルフなどしておられる一コマもありますが、では実際に1ラウンドし、その後皆でお風呂に入り、食事を楽しみ、、それも隣に監視の医療者がいない状況で、といった普通の楽しみができるかとなればかなり???マークがつくでしょう。

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あるいは年齢その他の医学的、社会的条件のため、心移植や補助循環が許可されない患者さんでは左室形成術は唯一の治療法となることさえあります。

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このように患者さんにとって極めて有用有益な左室形成術ですが、内科の先生方の評判はそれほど良くありません。というよりあまり知らないという先生が多いのです。

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それは左室形成術そのものがそう多数行われている手術ではないこと、その成果を見る機会が内科の先生方に少ないこと、さらに欧米で行われたSTICHトライアルという欠陥研究で左室形成術は効果がないという結論を出されたため、頭からこれが消えてしまっているという現実があることも理由のひとつです。

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しかし私たち左室形成術を得意とするグループはこの良さを科学的に数字で示そうと研究会(重症心不全外科研究会)を立ち上げてデータを蓄積しているところです。

また私たちは2017年の日本胸部外科学会と重症心不全研究会で改良型ドール手術と心尖部凍結型左室形成術を発表し、前向きのコメントを多くいただきました。2018年のアメリカ胸部外科学会でもこの成果を発表し、世界に問いかけました。

この10年ほどの間に補助循環(一種の人工心臓)が改良され、これまでの心移植へのつなぎ(ブリッジ)だけでなくDTつまり一生人工心臓で行くという治療が増えつつあります。といっても補助循環で長期間生きるのはまだまだ大変です。その中で、左室形成は補助循環へのつなぎ(ブリッジ)としての位置付けをもつケースが出て来ています。ともあれ皆の英知を結集して重症心不全の患者さんが一人でも多く、一年でも長く生きられる、それも楽しく生きられることを目指して努力したいものです。

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心不全でお悩みの患者さんにおかれましては左室形成術を熟知した医師に相談され、ベストの選択をされることをお勧めします。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第20回日本冠動脈外科学会総会にて

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この学会はむかしから親しみのある学会です。節目にあたる20回総会に行って参りました。
今回は京都府立医科大学の夜久均教授が会長で12年ぶりの京都での開催となりました。

 

夜久先生は12年前のことを昨日のように覚え20thJACASていて感慨深いのものがあると仰っていましたが、私も当時府立医大の先生方と楽しく内容のある交流の場を増やすよう先代の故・北村信夫先生と一緒に努力していたため、鮮やかに覚えていました。

それもあって印象に残る学会になりました。

 

まず学会前日の理事会にてこの学会の立役者である瀬在幸安理事長が引退表明をされ、時代の流れを感じさせる、物悲しい始まりとなりました。日本の冠動脈外科の黎明期から頂上期までを牽引してこられただけに特別な存在であったからです。
意外に知られていないことですが、瀬在先生は学会長を市中病院の実力派からも選出するという、日本の学会では稀有なことを何度も行われ、その先進性をも教えて戴いたように思います。

 

 

さて学会は初日から内容のあるディスカッションが続き、充実していました。IMG_1637

左室形成術の世界のリーダーとも言えるMenicante先生(写真中、左は堀井先生です)、台湾のMICSの天才Kuan-Ming Chu先生、MICS CABGのトップとも言えるBob Kiaii先生、CABGエコーのリーダー畏友 Rune Haarberstad先生、つい最近アジア心臓血管胸部外科学会を開催された香港の Song Wanなどの先生が講演され、私はその全部は聴けませんでしたが皆さん大変勉強になったと思います。個人的にはかつてお世話になった先生揃いで内緒の論議も含めて楽しい二日間でした。

 

なかでもKiaii先生はダビンチというロボットをもちいてバイパス手術を長年にわたり積み重ねて来られました。久しぶりにゆっくり語ることができ参考になりました。日本ではロボットは患者さんに多額の負担を強いるため、ロボットを使わずにMICSバイパス手術をやっていることをお話したら少し複雑な表情でした。

 

日本は世界に遅れをとっている一方、国民皆保険で誰もが他国よりも安価な医療を受けられる、この兼ね合いが難しいことをお話しました。しかしカナダでは医療は全額国家負担のはずですので(少なくとも私がいたころはそうでした)工夫の余地があるかも知れないと思いました。

 

まずオフポンプバイパス手術いわゆるOPCABを検証するシンポジウムがありました。オンポンプバイパスと比較しての研究はこれまで多数なされ、なかなからちがあきません。おそらく重症例でしか差が出ないからでしょうが、重症例を無作為割り付けすることは倫理的にできないのです。と言ってしまうと重症例ではOPCABが有利ということになり、多くの心臓外科医は賛同すると思います。そこにこの研究の難しさがあるのです。

 

日本のデータベースでの研究から、手術の予想リスクが高い患者さんではOPCABでは実死亡率は増えないがオンポンプでは増えるというデータが示されていました。なるほどと思いました。これをどのようにして世界に納得していただくか、ですね。

 

昼前に瀬在幸安理事長の恒例の、しかし最後の理事長講演がありました。20年にわたりこうした地道なデータ集積と解析、発表を続けてこられたことに皆強い敬意を抱かれたことと思います。同先生には来年からも参加して教えてくださいとお願いしてしまいました。

 

会長要望演題として心室中隔穿孔VSPのセッションが複数あり、私自身の発表もあっため参加しました。25年以上前にトロントから発表した心筋梗塞除外術いわゆるDavid-Komeda法と呼んで頂いている方法ですが、成績向上のために皆さん改良を重ねて来られた成果を拝見しました。

 

流れは複数パッチを使うなどして結局大き目のパッチで縫合部を守りながらというところにあるようですが、なるべく早期に手術というこれまでの大方の方針が術前管理の進歩に支えられて数日間待つという施設もあり、やはり弱い心筋をもっとうまく扱えるよう術式の改善が必要とあらためて思いました。

 

右室から2枚のパッチでサンドイッチ式に閉鎖する方法は以前より減った感がありますが、私は適材適所で左室の状態を見てうまく活用すれば良いと思っています。実際、北里大学では前壁VSPに径左室のExclusion法、手術がやや複雑になる後壁VSPには径右室の2枚パッチという形で使い分けをしておられ、参考になったと思います。

 

私はこれまで発表して来たExclusion法の完成型(になるかも知れない方法)を供覧しました。縫合線に余分な張力がかからず、超急性期でも心筋が裂けない、運針そのものも2次元的で簡略な方法で、これなら若い先生らにも比較的短時間でマスターしていただけるのではないかと期待しています。もう1-2例経験したところではやくまとめて出したく思っています。

 

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する手術方針というワークショップがあり、東京医科歯科大学の荒井裕国先生と私、米田正始で座長をやらせて頂きました。

 

まず私が乳頭筋最適化による僧帽弁形成術、PHO法と呼んでいる手術の中期遠隔期の成績を発表しました。もっとも生理的、そして慣れれば簡便な術式として使って下さる先生が増えて感謝しています。弁を治すだけでなく、左室をできるだけ回復改善させる効果があり、カテーテルによるMクリップ時代にもお役に立ち続けることができるようにしたいものです。

 

北海道大学の新宮先生はLVSWIが20以上あるケースでは予後が良いことを示されました。こうした生理学的研究は極めて重要かつ有用と思いますが、現代の研究予算は分子生物学・遺伝子医学や再生医学関連でないとなかなか獲得できないため努力が必要です。工夫してぜひ研究を完成させて頂きたく思いました。

 

東京医科歯科大学の水野先生は乳頭筋吊り上げによってMRの再発が減り生存率も上がる傾向を示されました。MVRでは逆流はゼロになるのですが必ずしも成績が良くない、その点をこれからさらにDiscussionしたく思いました。

 

京都大学の西尾先生と国立循環器病研究センターの島原先生はそれぞれの視点から僧帽弁形成術と左室形成術を併用するメリットを論じられました。今後こうしたデータを早く全国規模で集積し、左室形成術がより多くの患者さんを救えるようにしたいとあらためて思いました。

 

Menicante先生は虚血性僧帽弁閉鎖不全症が心室の病気であるという観点から、左室形成術に重点を置いてお話をされました。左室形成については大変貴重な情報を頂けたと思いますが、僧帽弁形成術については我々ほどやっておられないため少し議論はかみ合いませんでした。日本はまだまだ心移植が少ないため僧帽弁形成術などの非移植医療ではすでに世界の最先端を行っているのではという印象を持ちました。

しかし全体として情報と示唆に富む、良いセッションだったと思います。荒井先生と共に納得いたしました。

 

 

引き続いて左室形成術の適応と術式という、虚血性僧帽弁閉鎖不全症と関連した重要テーマのワークショップがありました。北海道大学の松居喜郎先生と香川大学の堀井泰浩先生の座長で進められました。

 

東海大学の長先生は長年努力して来られたDor手術の101例での成績を検討されました。重症例を多数含むなかで10年生存率71%は立派でした。左室縮小の度合いは43%でおそらくこのあたりが最適かと感じました。もちろん対象によりますが。術前の僧帽弁閉鎖不全症の存在が長期生存に影響しなかったというのは左室形成術の威力ではないでしょうか。

 

京都府立医大の大平先生はELITE法という内側から直線閉鎖する左室形成術を検討されました。側壁などの形成には優れた方法と思います。

 

私は一方向性Dor手術と仮称するオリジナルな手術を発表しました。Dor手術の簡便さとSAVE手術のジオメトリー特性をもつ方法で、重症例ほどメリットが大きくなるものと思います。ただ世間一般とくに内科では左室形成そのものが冷え切っているため、まだまだ啓蒙活動が必要です。

 

Menicante先生は例のSTICHトライアルのあと症例数は少し減ったがいまは回復していることを示されました。左室形成術は長期生存率を高めるメリットがあること、左室拡張が著明なときには左室の形を整えることが大切と話されました。さすがは1000数百例を執刀した大御所と思いました。

 

虚血性心筋症のセッションでも興味深い発表が続きました。

 

済生会宇都宮病院の古泉先生は低左室機能症例に対するオンポンプ心拍動CABGはあまり良くないことを示されました。

 

私はこれは是非ご参考にと、スタンフォードで研究した内容をお話しました。つまり左室をUnloadしすぎると心内膜下虚血となり運が悪いと心機能を悪化させるのです。世間一般には左室はUnloadすればするほど良いという考えが多いですが、そうとは限らないことを動物実験で証明しジャーナルから発表したことをお話しました。

 

宮崎市郡医師会病院の古川貢之先生は術前左室拡張不全のLVR治療成績に与える影響について発表されました。そこで心尖部のConisity Indexが大きいと拡張機能不全が強くなり治療成績が悪化することを示されました。さすが強力なエコーチームと外科医との研究と感心しました。これまで感覚的に知っていたつもりのことを、客観的に数字で示していただき立派と感心しました。丸いSphericalな左室は拡張機能が悪い、ということで外科的に左室形成でうまく治せば、収縮機能のみならず拡張機能もある程度改善できればすごいと思いました。

 

私の施設からは小澤先生の代理として私が発表しました。ある大学病院で心移植適応と判定された患者さんが、左室形成を求めて私の病院へ来られ、一方向性Dor手術で見事に元気になられたことを報告しました。このようなケースがあることを内科の先生方にもっと知って頂き、ハートチームで心不全を治せればと思います。

 

2日目のお昼には夜久先生の会長講演を拝聴しました。OPCAB、虚血性心筋症に対する左室形成術、虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋吊り上げ術、若手に対するチャレンジャーズライブなど、同じ時代に一緒に苦労し楽しんだという想いで敬意をもって拝聴しました。患者さんを多数救えば一流、新しい術式を 開発して歴史に名を残せば超一流というお話は、若手にモチベーションを与えてくれたものと思います。

 

2日目午後のMICS CABGのワークショップでは最近の進歩が発表されました。

 

大和成和病院の菊池先生は両側内胸動脈をもちいたMICS OPCABを示されました。すでに50例の経験を積まれ、ロボットを使わなくても質の高いMICS OPCABができることが示されたのは素晴らしいと思います。

 

町田市民病院の宮城先生も同様に両側ITAをもちいたMICS OPCABを発表されました。

 

今回のもうひとつの目玉企画として Korea-Japan Coronary Artery Surgery Summitがありましたが、韓国でMERSがまだ終息せず先生方の出国許可が下りないということで中止になりました。代えて日本側代表での座談会になりました。私は他用でこれは参加できませんでしたが、こうした企画を立てただけでも意義があったものと思います。

 

その他OPCABコンテストでも、朴社長の熱いご支援のもと、内容ある練習とコンテストがされたようで、日本の心臓外科発展への良いインパクトが期待されます。

 

盛りだくさんの内容で皆さん十分に楽しめた第20回学術集会になったと思います。夜久先生、教室の皆様、お疲れ様でした。

 

平成27年7月30日

 

 

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MICS冠動脈バイパス術(MICS-CABG)【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月11日

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心臓外科領域では最近このMICS-CABGが話題です。要するに胸骨を切らず、小さい傷跡でできる冠動脈バイパス術です。

これは弁膜症とくに僧帽弁閉鎖不全症などに対するMICS手術がある程度の広がりを見せていることに触発されての流れのようです。

人間だれしも傷跡が小さい方がうれしいというのはごく自然なことです。

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◾️さきがけはMIDCAB手術

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このMICS-CABGのさきがけはMIDCAB手術でした。

1996年ごろ、日本にも紹介され、一時関心を集めたものです。

ただこのMIDCAB手術は通常、左内胸動脈LITAを左前下降枝LADに付ける、一本バイパスであるため、あまり普及しませんでした。

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その後バイパスが必要な冠動脈でまずまずのサイズと性状のものならどれにでも付けられる正中大切開でのオフポンプバイパス手術・OPCABが隆盛となり現在に至ります。

このためMIDCABは中途半端な手術という印象をもたれ、すたれてしまったようです。

しかしその良さは一部専門家の間では一貫して評価されていました。

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たとえばカテーテルによる冠動脈形成術PCIとハイブリッドで使えば外科と内科の良い面を併せた治療になるなどの形で生き残って来ました。

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◾️そしてミックス冠動脈バイパス手術へ

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これが近年オタワのRuel先生やカナダ・ロンドンのKiaii先生らの発表に触発されて多枝バイパスできる左小開胸の冠動脈バイパス手術として展開を始めたのです。リバイバルというよりリノベーションでしょうか。

その背景には内視鏡手術の進歩に支えられたより便利な手術器械の出現や、冠動脈バイパスへの慣れ、そして必要ならPCIの追加などもできて安全面が確保されやすいなどの状況がありました。

ただしMICS-CABGをやるにあたって大切なことがいくつかあると思います

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1.バイパス手術としての質を落としてはならない。つまり良好な長期成績とくにグラフト開存率を維持しなければならない。このためなるべく動脈グラフトとくに内胸動脈を多用したい。

2.全身の動脈硬化が進んだ患者さんが多いため、脳梗塞を合併させないようにする必要がある。

3.患者さんの苦痛の軽減、早いICU退室や退院、そして早い仕事復帰ができてこそ価値がある

4.もちろん手術死亡率を上げてはならない

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こうした条件を満たすのであれば体外循環の使用は大きな問題ではないとする考え方もあり、うまく使えば過渡期としては良い方策かもしれません。しかし脳梗塞その他の合併症を減らすという観点からできればオフポンプが望ましいとは言えましょう。ただ安全のためには熟練度の高さが求められ、たとえばOPCABを何とかこなせると言った程度の実力ではMICS-CABGは難しいでしょう。

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◾️ミックスバイパス、さまざまな工夫

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海外のこれまでの報告では右内胸動脈が使いづらいため上行大動脈を部分遮断して静脈グラフトを付けるケースも多いようですが、これは1.や2.から見てやや不利という印象です。術前にしっかり状態を評価して脳梗塞を起こさないという確信のもとにやるというのは許容されるように思えます。

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右内胸動脈が使えればこうした問題はかなり解決へ向かうということで、海外ではまずダビンチロボットをもちいて左小開胸から右胸にまでロボットのアームを伸ばして内胸動脈を剥離するという解決策が示されました。しかし誰もが比較的安価に医療を受けられるという日本の医療事情を考えると、ロボットに高額のお金を支払わねばならないという医療はなじみにくいものがあります。

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そこで新しいMICSの器械や方法を駆使して右内胸動脈を採る方法が研究されました。

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私たちも10数年も昔から必要のある患者さんにはこのMICSバイパスに準じた左開胸アプローチでの手術を行って来ました。たとえばエホバの証人の信者さんでしかも出血しやすい再手術例ですね、こちらをご覧ください。患者さんはすっかりお元気になられました。

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あるいは前回のバイパス手MICS-CABG後術での動脈グラフトが2本とも開存しており、うち一本が胃大網動脈GEAで、目的血管は回旋枝であるという状況で左開胸のMICS-CABGに準じた方法で虚血を解消しました。術後のCTを右図に示します。

このようにして実績を積み上げています。

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◾️ちょっと発想の転換も

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私たちは僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、心房細動に対するメイズ手術、心臓腫瘍、さらに収縮性心膜炎まで小さい開胸のMICSで手術している数少ないチームですので、MICSのバイパス手術にも自然と力が入ります。

同時に発想を変えて、術後速やかに仕事やクルマ運転復帰ができる冠動脈バイパス手術も行なっています。胸骨の再建法に工夫をしているのです。比較的ご高齢の患者さんが多いバイパス手術では傷跡の小ささといった美容面よりも、痛みや苦痛少なく、早く仕事や実生活に戻れる手術が望まれているからです。この点、10代ー30代に代表される若い患者さんが多い弁膜症や成人先天性心疾患とはニーズが違うと感じるこの頃です。→→→続きを見る

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ともあれ、これから患者さん目線で、しっかり心臓を直し、かつ仕事や運転にも早く戻れる、こうした冠動脈バイパス手術をMICS-CABGを中心に完成度を上げ、実現できればと思います。

 

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JAPAN MICS SUMMIT2015 に参加して

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発展途上にあるMICSの研究会、第二回の学術集会がこの7月4日に東京で開催されたため、参加いたしました。

この前身の会のから毎回盛況で、近いうちに学会に昇格する見込みです。私は大学病院を離れているにもかかわらず世話人にも加えていただき何か貢献したいと考えて行ってまいりました。

今回は榊原記念病院の高梨IMG_1629秀一郎先生が会長をされ、なかなか面白いプログラムでした。

参加者もざっと見て400数十名で、若い先生が多数おられ、関心の高さを実感できました。

 

まずはじめにビデオライブとして4つの発表がなされました。

 

田端実先生が右開胸MICS-TAPASD閉鎖について概説されました。ASD(心房中隔欠損症)やTAP(三尖弁輪形成術)は心臓手術の中では入門編といいますか、比較的簡単な操作になるのですが、それは正中の大きな切開での話で、MICSでは術野の広さや角度が限定されるため注意が必要です。ASDの閉じ方も通常とは少々異なる工夫がなされ、若い先生方には参考になったのではと思います。大動脈遮断せずに心室細動でやったらというご意見もあり、一理ありお気持ちはよくわかるのですが、やはり正中アプローチとは異なる手術であるという認識が必要と感じました。十分な勉強と準備ののちこの手術に取り組むことが安全上必要です。

 

ついで私、米田正始が右開胸MICS-MV Repair(僧帽弁形成術)とMazeの併用の手術をご紹介しました。MICSでメイズ手術をやっている施設はかなり少ないようですが弁膜症の治療のなかで心房細動の解決は重要です。これまでも日本胸部外科学会シンポジウムその他で発表して参りました。ふつうの正中アプローチとは違う注意点を含めて、そのノウハウをご紹介しました。私はお金がかかり効果に疑問のあるラジオ波焼灼・RFアブレーションよりも安価で確実な冷凍凝固を長年提唱して参りましたが、MICSでは冷凍凝固はさらに役立つことをお示ししました。

 

というのは冷凍凝固ではプローブつまり器械の先端が凍って心房壁にくっつくため安定度が良く、狭い視野での取り回しが楽で確実なのです。従来の正中切開アプローチの成績に遜色ないことをお示ししました。

ただし現在この冷凍凝固の器械が国内では入手できず、早く解決して欲しいという状況も再確認されました。

いろんなご質問やご意見をいただき、内容のあるディスカッションとなったこと、皆様に感謝申し上げます。

 

ついで岡本一真先生が慶応大学の長年の経験にもとづいて右小開胸僧帽弁置換術のお話をされました。弁形成と比べて地味な印象の弁置換術ですが、状況によっては、たとえば弁形成が極めて複雑で時間がかかり、かつ患者さんが長時間の手術に耐える体力が乏しいときなどには絶大な威力を発揮します。いざというときの切り札とも言えるでしょう。実際慶応大学でのMICSの死亡例の大半が僧帽弁置換術であったことをそれを物語っています。これは弁形成を頑張ったが結局仕上がらず、それから弁置換へと進んだために患者さんの体力が消耗したためと拝察いたします。つまり一歩早く方針を切り替えれば弁置換は悪くないわけです。こうしたことを皆で確認しました。

 

最後に坂口太一先生が左開胸MICS-CABGにおける視野展開の工夫についてお話されました。近年注目を集めるこの領域ですが、まだ課題がいくつもあります。それらへの対策を整理して解説されました。たとえばどの肋間を開けるのが良いか、上行大動脈に中枢吻合をつけるときに安全に部分クランプを使う工夫、狭い視野の中でオフポンプの条件で吻合部をうまく出すテクニック、左側から右ITAを採取する工夫など、盛りだくさんでした。1-2年あまり前までは、傷跡の小さいMICSのために、内容的には一昔前のバイパス手術に逆戻りするような感がありましたが、かなり解決されており、これからこの領域は大きく発展するでしょう。

 

ビデオライブのつぎには合併症とくに再膨張性肺水腫(略してRPE)のセッションがありました。

 

まず外科の立場から岡本先生が長い間の経験をもとに、実例をもとに解説をされました。体外循環が長時間になってしまったケースで起こりがちで、原因として長時間の体外循環と肺の機会的損傷を挙げられました。文献では多量のステロイドが有効とか、FFP新鮮凍結血漿の使用が関連しているとか、術前からのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や右心不全あるいは右室圧が40mmHgを超える肺高血圧の存在もリスクファクターと報告されています。その他に心不全状態から十分な時間をおかずに短期間に手術せざるを得なかったケース、メイズ手術が必要で時間がかかったケース、分離換気を徹底しすぎたケース、なども検討されました。

 

予防策としてクランプ解除前によく肺を膨らます、クランプ中にもこまめに両肺換気を行う、ステロイドを使用する、などが提案され、いったん起これば重症ではVV ECMOつまり脱血も送血も静脈をもちいる方法を考慮することなどが論じられました。

 

私たちもこの問題に取り組み、予防策やいったん起こった時の対応策などを磨いて参りましたが、参考になりました。これから実験研究なども併用してより科学的な解明と対策の確立へ持っていければと思いました。

 

ついで清水淳先生が心臓麻酔の立場から考察を加えられました。この病態はやはりARDSであり、1994年のAECCの記事にも矛盾しないとのことでした。数時間の肺虚血でもサイトカインは増加しますし、ましてそこへ2度目の体外循環使用などが加わる難手術例では起こる条件がそろっているというわけです。再膨張性肺水腫の治療にはまず疑うこと!、疑えばX線写真を撮り、RPEがあるなら分離換気で治療することを提唱されました。まったく同感でした。

 

治療はARDSとしてのそれが必要で、肺血管外水分量の計測が役立つ、そして患側肺にPEEPつまり陽圧をかけることが有用とのことでした。ステロイドや適宜エラスポールなども使って良い印象とのご意見でした。

 

麻酔科からの貴重なお話に続いて呼吸器内科から緒方嘉隆先生が解説を加えられました。

 

RPEは呼吸器内科領域ではよくある病態で、気胸とくに大きなもののあとには16%とも言われる頻度で起こること、胸水があるときや気道内圧が高いときや糖尿病患者もリスクが高いこと、おそらく肺毛細血管の透過性が上がっていることなどを示されました。心拍出量が多いときに起こりやすいというご意見は興味深いと感じました。

 

血管内容量の移動があるため、PEEPは有用で、利尿剤の使用には血管内容量不足に注意が必要とのことでした。

 

体外循環の使用の有無という背景の違いはあっても、平素多数の再膨張性肺水腫の治療をこなしておられる同先生のお話は大変参考になりました。

 

 

ひきつづいて完全内視鏡セッションがありました。

 

宮地鑑先生はこどものPDAを手術支援ロボットAESOP3000を使用して内視鏡下にクリップにて長年にわたり治療して来られました。その成果を発表されました。

 

乳幼児の手術でもさまざまな注意が必要であることは理解できましたが、新生児、未熟児の手術は高度なものと感心いたしました。こうしたご経験、ノウハウを成人の手術にも活かせればと思いながら拝聴しました。

かつてAESOPが注目を集めたころ、今から10年以上昔ですが、当時アメリカまで行ってこの器械を使って内胸動脈を採取する研修を受けたころを懐かしく思いだしました。

 

伊藤敏明先生は内視鏡による右腋窩切開AVR大動脈弁置換術を供覧されました。名古屋で一緒に勉強して来た先生ですので、実感をもって拝聴しました。私も同様のMICSでのAVR手術を行っているため大いに参考になりました。

 

MICS手術にもいろいろありますが、この手術を行う施設は少なく、今後さらに完成度を上げてより有用なものにしていきたく思いました。お昼のセッションに出てくるSutuless Valveつまり無縫合弁が日本に入ってくれば、この手術はより有効でより安全なものになるでしょう。今後の展開が楽しみになりました。

 

このセッションのトリは大塚俊哉先生で、これまで取り組んでこられた非弁膜症性心房細動に対する完全内視鏡手術を供覧されました。

 

患者さんの病気や状態に合わせて、左心耳を切除するだけにとどめるか、左心耳切除+メイズ手術を行うかを選択して来られました。一過性の心房細動AFや短期持続性のAFには極めて有効という結果でした。

 

今後展開が期待できる治療法だけに早く保険適応になることを祈りながら拝聴しました。

 

 

ここで海外招請講演があり、イタリアはボローニア大学のMarco Di Eusanio先生が、上記のSuturelss Valveについて講演されました。

 

MICSの大動脈弁置換術AVRは現在すでに成果を上げていますが、これをこの弁を用いることでより短時間により安全に手術できることが示されつつあります。

 

現在ハイリスク患者さんを中心にカテーテルで入れるTAVIが話題になっていますが、より確実に、より脳梗塞を避けやすいこの弁は外科の新たな魅力になるかも知れないと思いました。ということを先日の関西胸部外科学会のシンポジウムでもお話しましたが、その期待をさらに膨らませてくれるご講演でした。

 

せっかくの海外招請講演ですので私も一つご質問しました。TAVIで入れる生体弁の耐久性が現在議論になり始めていますが、このSutuless Valveではどうですかと。Eusanio先生のここまでの7-8年のデータでは良い印象で、ブラインドで入れるTAVIよりも良い可能性があるとのことで意を強くしました。

 

そこでお昼休みとなり、私は世話人会に少し顔を出してから大阪の別研究会の講演会場へと急ぎました。

 

MICS SUMMITとしては午後は弁のQuality評価、チューリッヒ大学のFrancesco Maisano先生の僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療への外科医の役割というご講演、コメディカルセッション、最後にイブニングセミナーとしておじさんが始めるMICSセッションと盛りだくさんでした。

 

残念ながら私はこれら午後のセッションには参加できませんでした。

しかし内容ある素晴らしい会であったことは間違いなく、会長の高梨秀一郎先生、代表の澤芳樹先生はじめ関係の先生方に厚く御礼申し上げます。

 

平成27年7月5日

 

米田正始

 

 

 

 

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執筆:米田 正始
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2015年度のAATSアメリカ胸部外科学会にて

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今年もAATSに行って参りました。珍しく西海岸のシアトルで開催されました。

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心臓血管外科領域では世界の最高峰に位置する学会で、そこには世界の顔が集まり、最新の知見と豊富な経験をもとにした議論が交わされるため、参加しました。同時にこの会は正会員が世界で600名限定で、かつ毎年参加することが義務づけられていることも理由です。

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米国の学会といっても、実質世界学会で、ここにいればおのずと世界の情報が集まり、また旧交を温め、新たな仲間を造れるため重要な業務とさえいえる学会です。もともとヨーロッパからの参加も多かったのですが、近年はさらに増え、そしてアジアの仲間の数も増加の一途で、素晴らしいことと思います。

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その分科会ともいえるMitral Conclaveつまり僧帽弁の専門的シンポジウムが直前にニューヨークで開催されたため、多くの会員はニューヨークから一緒に移動していました。

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学会本会の前日に成人心臓血管外科、同先天性、そして胸部外科つまり肺縦隔の3つに分かれて恒例の卒後教育シンポジウムが開催されました。
私はもちろん成人心臓外科に参加しました。今年はDicision Makingにとくに重点を置いた構成でした。

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まず冠動脈ではCABGがどんなときにカテーテルでのPCIより優れているか、動脈グラフトは何本使うのが良いか、質の維持をどうするか、ハイブリッド治療やロボットその他の方法とどう使い分けるか、などの観点から欧米の有名どころが最近の知見を解説してくれました。

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確かに心臓外科の占めるウェイトは減った、しかしまだまだお役に立てる領域がたくさんある、患者さんの重症度が増すにつれてそれはむしろ増えることもある、その場合にうまくハイブリッドや低侵襲治療を駆使してリスクが上がらぬようにする、そうしたことをあらためて認識しました。

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引き続いて弁膜症のセッションとなりました。大動脈弁と大動脈をどうするか、これはとくに二尖弁の場合に重要です。院内でもいつも熱いディスカッションになるのですが、ここでも最近の知見をもとにしてより長期の安全を確保する方法が論じられました。

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生体弁と機械弁の使い分け、ARに対する弁形成がどこまで使えるか、弁サイズの問題いわゆるPPM(患者と人工弁のサイズミスマッチ)、外科的AVRとTAVIと薬の比較、そしてステントグラフトまでが論じられました。TAVIの発展が患者さんに益する治療に結びつくよう、ハートチーム全体でしっかりと取り組まねばならないと再認識しました。

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ランチョンセミIMG_1412ナーはLegend(伝説)セッションで、心臓外科の中で伝説の名人にその半生を語って頂くという企画でした。今年は我が恩師Tirone E. David先生が話をされました(写真右)。Adams先生の司会で、弟子を代表して畏友Michael Boger先生が想い出を語りました。あのころを想い出し、思わず熱くなってしまいました。若い先生方にこうした忘れ得ぬ経験を積んで頂きたいとも思いました。その前後にこれらの先生方ともゆっくり話ができて楽しいひと時でした。

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午後にはMVRと心房細動の治療(心房細動は放置しないように)、僧帽弁と三尖弁の同時手術、僧帽弁形成術のときにSAMを防ぐこと、僧帽弁形成術の長期成績、虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対して弁形成するか弁置換するか、カテーテルによるMクリップをどんな患者に対して行うか、心房細動に対する外科アブレーションでどの方法を使うべきか、機能性三尖弁閉鎖不全症をどんなときに治すべきか、などなど、現代的課題がつぎつぎと論じられました。

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虚血性MRに対する僧帽弁形成術や心房細動の手術などでは我々のほうが進んでいるところもあり、あとでディスカッションすることになりました。もう少し症例数があれば講演でより多くの方々のお役に立てるのですが、そこはまず日々の努力からということでしょうか。

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最後のセッションでは救急での対応、カテ室での事故があったときの迅速な対応、術後の高度な心不全、大動脈解離、心筋梗塞後の心室中隔穿孔VSP、外傷による大動脈破裂、などが論じられました。ここでも我々のVSP治療の成果その他で貢献したいところでしたが数が足りず、今後の努力と楽しみにということにしました。

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翌日からAATS本会が始まりました。テキサスのCoIMG_1421selli先生(写真右)の胸腹部大動脈瘤3000例の検討は圧巻でした。これぞ心臓血管外科、これこそAATSという、かつての感動を新たにしながら拝聴しました。毎回、毎年、そして10年ごとにデータを解析し改良を加えていると聞き、うれしくなりました。

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Adams先生らの僧帽弁手術の際の三尖弁形成術の有用性という発表には激しい討論があり、これまた長期の膨大なデータで科学的にものを論ずる欧米ならではの良さを感じました。要するに将来三尖弁閉鎖不全症が発症する患者さんをきちんと見極め、それらの方々に予防的三尖弁形成術を行えばと思っています。そうした方々にはより短時間でできる、簡便な方法で侵襲を増やさずにできる、これも今後有益になるのではと思います。

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優れた発表が続いたあとで、新メンバーの紹介がありました。この会のメンバーになるということは一流の、少なくとも一人前の心臓血管外科医として認められることであり、皆嬉しそうでした。その中にはアメリカの友人も数名おられ、あとでお祝いを述べ、楽しいひと時でした。畏友Chris Malaisrie もその一人でした。おめでとう。

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会長講演はボストンこども病院のDel Nido先生(写真右)のIMG_1422「科学技術の進歩と心臓胸部外科」というテーマでこつこつと謙虚に貢献を続けてこられた同先生ならではの内容だったと思います。講演前から聴衆が総立ちで拍手したところに同先生の人徳がうかがわれました。

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そのあともTAVIや僧帽弁形成術、僧帽弁膜症にともなう肺高血圧症、AFに対するCox-Maze手術、などの優秀演題が続き、参考になりました。

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夕方にはレセプションがありましたが、今回は総じて日本からの参加が少な目で、Mitral Conclaveがニューヨークであったことも手伝ってか、あまり長期間あちこち行けない状況があったのではと感じました。

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本会二日目は朝7時から、実験研究や先端技術・デバイス、そして手術ビデオのセッションがあり、全部に出たいのですが一つしか選べないため今回は手術ビデオにしました。

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工夫された面白い手術が多数供覧され大変参考になりました。これまでの手術にさらに改良を加えて完成度を上げた、そうしたタイプのものが多く、概念を変えるほどのものはありませんでしたが、良いセッションだったと思います。
かんさいハートセンターがスタートして1年半がたち、そろそろこうした会で発表できそうな、他施設でもお役に立てそうな手術が増えて来たため、来年は演題を出そうと思いました。

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そこからまた本セッションが始まりました。大動脈基部再建の方法4つを比較した、クリーブランドクリニックからの優れた発表に、熱いディスカッションがあったのが印象的でした。機械弁ベントール手術は確かに安定性に優れた方法で、しかしTAVIとくにValve in valveを念頭に生体弁ベントールが急増しており、その中で確実に弁を治せるならDavid手術は素晴らしい、そうしたことを再確認できました。さまざまな状況下でそれに応じたきめ細かい対応がこれから重要になっていくとも思いました。

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それやこれやで充実した数日間でしたが、あまり仕事に穴をあけるわけにも行かず、あと一日あまりを残して残念の帰国となりました。

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留守を守って下さった高の原中央病院と同かんさいハートセンターの皆様方に深謝申し上げます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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