腹部大動脈瘤へのEVAR――ホントに良いの?

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EVARforAAA腹部大動脈瘤に対するEVAR(右図)は

従来のお腹を切る手術治療と比べて患者さんに優しいという特長があります。

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しかしEVAR(ステントグラフト)は万能ではなく、

従来の手術のほうが優れている場合もあります。

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そこでEVARの特長を活かすためには、

一般論ではなく、

その患者さんにとってベストの選択をすることが大切となります。

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◆内外の学会のガイドラインは、

個々の患者さんの年齢やリスクファクターや大動脈などの形や状態、

さらに執刀医の力量などを勘案してその患者さんにベストの選択をするよう勧めています。

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従来型の外科手術は、治療法としては瘤をより完璧に治せるため、

若い患者さんに向いています。

AoDissect2また同じ腹部大動脈瘤でも、石灰化が顕著なタイプとか、

慢性大動脈解離(大動脈の壁が内外に裂ける病気です)など

EVARが適しないかたちの腹部大動脈瘤にも外科手術を勧めます。

一方、EVARは外科手術のリスクが高い患者さんで、

かつEVARを入れやすい形や状態の大動脈に向いているのです。

高齢者の方にはなるべくお勧めするようにしています。

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◆こうした患者さんではステントグラフトで治療直後の生存率は高くなるのですが、

そのメリットは1-4年で消えます。

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つまりその時点で外科手術と同程度のメリットとなるのです。

これは2年間の追跡をしたDREAM試験や4年間の調査をしたEVAR1試験などで示されています。

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EVARが患者さんにやさしい治療であることと、

従来型の外科手術が安定した長期成績をもつことの両方を物語る結果です。

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これらを勘案してその患者さんにぴったりの治療法を選ぶことが大切なわけです。

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◆DREAM試験では345人の腹部大動脈瘤の患者さんを調べました。

皆、直径5cmかそれ以上の瘤サイズのある患者さんでした。

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その結果、治療直後の死亡率はEVARでは1.2%、

外科手術では4.6%とEVARが優れていました。

それが2年経つとどうでしょうか。

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生存率はEVAR 89.7%、外科手術89.6%と差はありません。

大動脈瘤がらみのトラブルを回避する率でもEVAR 83.1%、

外科手術80.6%とすでに有意差はありません。

一方、再治療を要する率は治療後9か月の時点でEVAR 11%、

外科手術4%と外科手術のほうが優れています。

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総合的にはEVARの外科手術に対する優位性は1年で消えるともいえるわけです。

DREAM試験だけでなく、同様の2つの研究でも同じ結果が得られています。

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Illust1447b◆1252名の患者さんでEVARと外科手術を比較したEVAR-1試験でも

同様の結果が示されています。

治療後30日での死亡率はEVAR 1.8%に対して

外科手術では4.3%と、EVARが優れています。

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しかし治療5年後ではどうでしょうか。

両者の間に差はありません。

しかもEVARでは長期間の合併症や再治療率は12.6%と、

外科手術の2.5%より劣っています。

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そのため費用の点でも長期的には外科手術のほうが優れているつまり安いという結果となりました。

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◆米国のMedicareデータベースで2万2830名の患者さんのデータを見てみましょう。

2001年から2004年の間にEVARか外科手術を受けた患者さんです。

治療直後の死亡率ではやはりEVARが優れており1.2%で、

外科手術の4.8%より良好です。

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しかし3-4年後の死亡率では両群にもはや差は見られませんでした。

さらに、合併症や瘤の再治療の率はEVAR 9.0%、

外科手術1.7%とEVARが劣っていました。

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ただし外科手術では開腹つまりお腹を開けることによる合併症(たとえば腸閉塞など)は9.7%と、

EVARの4.1%より劣っていました。

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◆このようにEVAR(ステントグラフト)外科手術と比較すると、

患者さんに優しい治療ですが、まだ不完全治療という一面が否定できません。

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年齢や状況によって手術・治療の方法が異なることがあります
そこで外科手術が安全に行える患者さんで、

とくに将来が長い若い方の場合は外科手術のほうが有利なことが多々あるわけです。

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こうしたことを実際のデータを患者さん・ご家族と一緒に検討しながら、

そしてもちろん医療チームの側では多角的に検討しながら、

一番ぴったりとした治療法を選ぶことが、誰よりも患者さんのためになるわけです。

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なお今後の治療法の進歩により、このデータは年々変化して行くことも考えられます。

そこでつねに最新のデータを加味して勘案することも大切です。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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