第三回NPO法人日本ローカーボ食研究会にて

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この1月27日に名古屋市にて第三回NPO法人・日本ローカーボ食研究会が開催されました。

心臓外科医の私が積極的に参加しているのを少し奇異に感じられる方もあるかも知れません。

私としては心臓手術の患者さんをお助けするために大いに役立つため、そして全人医療を自らもっと学びたいこともあって、前向きに勉強させて戴くというスタンスで参加しています。

今回は一般演題というよりはどちらかといえば勉強になるような教育講演、シンポジウム的な構成でした。安井廣迪先生の司会で進められました。

ローカーボ研究会 IMG_1584はじめに名古屋大学名誉教授の加藤潔先生が生命の進化における炭水化物の意義というテーマで特別講義されました。

灼熱マグマの地球の誕生からCO2の大気で包まれて保温されながら徐々に炭水化物ができ、それが生命の発生にいたり、そこから酸素が増えて高度な動物の発生にいたるなかで、炭水化物はCO2や太陽熱・光のエネルギーから由来して私たちそのものに進化していった様子が実感できました。

このように重要な炭水化物ですから、うまく活かすことが大切とあらためて一同感じ入りました。

それから村坂克之先生の恒例・好評のアルコール負荷試験シリーズ、今回は日本酒・地酒のさまざまなものを調査検討されました。中には血糖値をかなり上げるものもあり、ひとつひとつ検証が必要と納得しました。それにしても日本酒にもいろいろあると、そのバラエティーの豊富さには感心しました。

Ilm15_ai02004-s中村了先生は実に多くの文献を読破し、診療経験も含めてローカーボと高脂血症の講演をされました。LDLが必ずしも下がらない、しかしHDLの改善がしっかりしているため大丈夫というところまでわかってほっとしました。

それから不肖私、米田正始がPNASという有名ジャーナルの話題の論文、ローカーボ食で血管障害や動脈硬化が起こるという研究をご紹介しました。

そもそも血管内皮細胞が体の中でどう大切か、そしてそれを造るEPC血管内皮前駆細胞の役割を概説し、それからローカーボ+高たんぱく Ilm19_ca06088-s食のマウスでは動脈硬化がひどく進みEPCの数も機能も落ちていることを示しました。

マウスとヒトの違いはあると思いますし、中性脂肪などが低下しないあたりはそれを物語っているように感じます。しかしローカーボをきちんと評価しながら進める必要があることを学びました。

ちょっと我田引水して、血管内皮細胞が大切なので、重症の虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス手術はカテーテルによるPCI治療より有利であることもお話ししてしまいました。まあそれぞれの特長を十分踏まえて使いこなすことが大切と思いますが。

Ilm09_cc02001-sそして畏友、新井圭輔先生が糖尿病性腎症はインスリンによる薬害であったという、衝撃的なお話しをされました。新井先生は私のクラスメートで、放射線医師の立場から糖分を食べて育つがんを抑え込むこと、老化の原因のひとつがインスリンであることからアンチエイジングとしてもローカーボを推進して来られました。血糖値と腎機能に全然相関がないというデータを示され、これは面白い、ぜひ科学的検証を進めようと思いました。今日の常識は明日の非常識というのは医学ではよくあることです。インスリンもそうなるのでしょうか。ローカーボ食を活用することで何名かの患者さんのインスリン卒業のお手伝いをしてきた私にはうれしい内容でした。

ローカーボ食のパンや飲み物、アイスクリームなどを戴いて休憩したあと、理事長・灰本元先生の特別講義2、HbA1Cレベルに応じた炭水化物制限の層別化のお話しがありました。

安全なローカーボ、大規模研究EBMにもとづくローカーボを追及するなかで確立してきたゆるやかローカーボの意義がかなりご理解いただけたものと思います。

これからきめ細かいローカーボ食へと進化していくような気がしました。

 

Ilm19_cb01025-sパネルディスカッションとして、やせる症例とやせない症例を小早川裕之先生と篠壁多恵先生が2例ずつ供覧されました。

酒飲みはローカーボ食が効きにくいこと、あるいはどうしてもローカーボが効かない体質の方はおられます。これを今後どうするか議論は尽きないものがありました。

食の問題はこれまで医療の盲点であったような印象を強くもっています。そのため、ローカーボ食を患者さんを助けるための有効な武器としてもっと進化させることで、これまでできなかった治療ができるのではないか、あるいは病気を予防して世の中を良くすることも夢ではないと思っています。

そうした夢が実現できる方向性をかんじさせてくれた研究会でした。

灰本先生はじめ関係の皆様、サポート下さった方々(大塚食品、マンナンライフ、クラシエ製薬、浅田飴、グリコ、楽園フーズなど)、遠方からお越し下さった新井先生、寒い中を参加くださったみなさま、ありがとうございました。

2013年1月27日

米田正始 拝

 

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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