最終更新日 2025年9月13日
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◆要約
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弁そのものは壊れていないのに逆流(MR)が起きるタイプの一つが「心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症」。
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長期の心房細動(AF)で左心房が拡大し、弁輪が広がる/後尖が外側へ引かれることで弁が閉じ切れなくなります。
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検査は心電図・胸部X線・心エコーが基本。
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治療はAFの管理+僧帽弁形成術(リング)が軸。三尖弁逆流の合併や巨大心房には三尖弁形成+心房縮小メイズを同時に行うと再発抑制に有利です。
- カテーテルによるMクリップは長期的な成績に懸念があります
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私たちは**低侵襲(MICS)**の実績も多く、回復と社会復帰を後押しします。
◆心房性機能性僧帽弁閉鎖不全症とは?
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僧帽弁閉鎖不全症(MR)のうち、弁尖や腱索など弁自体に構造的破綻がないのに逆流が生じるものを機能性MRと呼びます。
その一つが心房性機能性MRで、次の機序で起こります。
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長期の心房細動 → 左心房拡大 → 僧帽弁輪拡大
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後尖が左室外側へ偏位(後尖が足りなく見える)
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補おうとして前尖がまっすぐになり、それでも届かず逆流が発生
※文献で「ハムストリング現象」と表現されることがありますが、要するに左房拡大に伴う弁装置の引き伸ばしです。
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◆症状
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動悸(パタパタ・ドキドキ)
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息切れ・疲れやすさ(逆流増悪で悪化)
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夜間の起座呼吸(横になると苦しい:危険サイン)
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むくみ、体重増加(心不全の進行時)
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◆診断(どうやって見つける?)
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心電図:心房細動の有無
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胸部X線:心拡大、うっ血の確認
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心エコー:逆流量、弁輪径、弁尖の動き、三尖弁の評価、肺動脈圧 など
※ 特に心房性機能性MRは見逃されやすいので、循環器専門外来での評価がおすすめです。
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◆治療
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1) 内科的治療
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心房細動の管理(リズム/レートコントロール、抗凝固療法)
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うっ血のある時は利尿薬等で症状緩和
- カテーテルを用いたMクリップ
2) 外科的治療(逆流が強い/心不全が進む場合)
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僧帽弁形成術(リングで弁輪を適正化)
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多くの症例でリング単独で逆流が軽減
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後尖の二次的変化(短縮・拘縮)があれば後尖延長や人工腱索を追加
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三尖弁形成術
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心房性機能性MRは三尖弁逆流を合併しやすいため同時手術が再発抑制に有利
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心房縮小メイズ手術(AF外科治療+心房縮小)
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巨大化した左・右心房を縮小し、AFの回路遮断を併施
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血液の淀みを減らし血栓・脳梗塞リスク低減にも寄与
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低侵襲(MICS)
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医学的適応があれば胸骨を切らない小切開での手術に対応
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◆私たちのアプローチ
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巨大心房を放置しない総合再建を重視(弁だけ直しても再発しやすいため)。短時間で施行し体への負担を減らす。
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適応に応じてMICS(ミックス)で痛みと回復期間の軽減をめざします。MICSが適応でない場合でも痛みの少ない特殊正中アプローチを使います。
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◆受診の目安(こんな時はご相談を)
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心房細動があり、最近息切れが増えた/むくみが出た
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検診や他院で**「僧帽弁逆流」**と言われた
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夜、横になると苦しい(起座呼吸)
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三尖弁逆流もあると言われた/心房が大きいと言われた
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◆よくある質問(Q&A)
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Q1. リングを入れるだけで良くなるの?
A. 多くの心房性機能性MRではリングで弁輪を適正化するだけで大きく改善します。後尖の縮みが強ければ後尖延長や人工腱索を追加します。
Q2. 三尖弁は同時に治すべき?
A. 推奨します。三尖弁逆流は心房性機能性MRに合併しやすく、同時形成が長期成績の安定につながります。
Q3. 心房縮小メイズは本当に必要?
A. 巨大心房が根本要因のため、弁+心房をセットで整えるほうが再発を抑え、脳梗塞リスク対策にも有利です。
Q4. 傷跡は目立ちますか?
A. 適応があればMICSで小切開手術が可能です(全例で適応になるわけではありません)。
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まとめ
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心房性機能性MRは、AFに伴う左房拡大が原因の“弁以外”の問題。
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リングによる僧帽弁形成+三尖弁形成+心房縮小メイズの総合再建で、再発を抑え予後改善が期待できます。
- Mクリップよりも完全な修復と長期の安定性を図る
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**低侵襲(MICS)**も選択可能。諦めずご相談ください。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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