天理よろづ相談所病院のレジデント同窓会

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天理よろづ相談所病院のレジデント(前期研修医や後期研修医にあたります)の同窓会が久しぶりに開催されました。

レジデントの第一期生で大先輩である上田裕一先生が院長に、また第二代総合診療部長の郡義明先生が白川分院の院長に、それぞれ就任されたお祝いをかねての同窓会でした。

300名近いレジデントのOB、OG、現役生はじめお世話になった看護師やコメディカルの方々も参加され、なつかしく楽しいひと時になりました。

大宇宙から生命の尊厳へ、そして患者さんへの献身的貢献へ初めに、病院長の上田先生がレジデントの心意気と題して、同先生が生命への畏敬の念を抱き、医師とは何かを考えて医師への道を決意し、天理のレジデントから現在に至るまでの、哲学、信念ともいえる部分をお話しされました。

医師にとって何が求められ、何が喜ばれ、何が素晴らしいか、若い先生方も道筋が見えたのではないかと感じました。

同時に医師が差別ない平等社会においてもなお特段の位置にある、誇り高い、天職であること、それは患者さんを始めとした社会から(立派な献身的貢献に対して)与えられたものである(つまり医師だから偉いのではなく、患者さんに喜ばれるから立派にあつかって頂ける)ことも理解して戴いたのではないでしょうか。

そうした中で、理不尽ともいえるほどの厳しい研修環境が若い時代に一度は経験しておくべきとのお考えには賛同された方々が多かったのではないかと思います。

私は昔から現在まで、一貫して「要するに患者さんのためにいつも全力で努力するのが良い、余計な理論も理屈もいらない、ずっとフルスロットルだ」と思って仕事をしてまいりましたが、上田先生が多くの先達、心臓手術など医学関係のみならず、哲学、芸術、科学、その他幅広い方面からの含蓄ある言葉を引用しながら、そのお考えをまとめ、提示して下さり、自らの勉強不足を恥じた次第です。

それに引き続いてシンポジウム「天理レジデント制度の過去・現在・未来」が行われました。

総合診療教育部副部長の石丸裕康先生の司会のもと、はじめに初代部長の恩師・今中孝信先生がそのご経験とメッセージをお話しされました。30年前と寸分変わらぬ、熱い、心に響く内容でした。医師という職業にかける想い、夢をあらためて聴かせていただきました。

ついで第二代部長の郡先生が、レジデント制度をいかにして発展させられたか、そのご苦労の跡を紹介されました。さらに大先輩である山崎正博先生が発足当時のレジデントの努力などを紹介され、現チーフレジデントの江原淳先生がアンケート結果をもとにしてレジデント制度がどのような貢献をなしてきたか、現在どういう努力をしているかなどを説明されました。

そして現部長の八田和大先生がこれまでの経験・実績と将来への道を話され、最後に恩師・小泉俊三先生が総合医のこれからの進むべき姿をお示しになりました。いずれも熱い、力のこもったお話の連続で予定時間をはるかにオーバーしてシンポジウムは終わりました。

懇親会の一コマです。右端は現役レジデントによるコスプレ余興です。最近の諸君は何をやっても優秀ですが、ちょっと定型的すぎるというご意見もありました

懇親会は終始和やかに進みましたが、今中先生のご挨拶は圧巻でした。

医師というよりひととしての生きる心構え、さらに言えば自らを律して、他者を益しながら自らも楽しく生きる姿勢を説かれたのです。

この10年あまりの間に人間としての今中先生のレベルに少しは追いついたのではないかとひそかに自負していた私ですが、ますます距離をあけられたことを知ってしまいました。

すでにあらゆる煩悩から脱却されたような今中先生のお言葉にはただ納得して拝聴するだけでした。

八田先生が私に発言の機会を振って下さったため、上田先生のお話しを若いレジデントの先生方に役立つ一助にと、具体的な努力の方法をひとつだけお示ししました。当直の夜、看護師さんからの連絡の電話にはベルが3回鳴るまでに受話器を取る、できれば1回目のベルで取る、これがどれだけ患者さんやチームのために役立つかをお話しさせていただきました。このとき実は同級の日村先生と漫才のような発言機会だったのですが、それぞれ循環器の内科と外科のチームワークというのりで話ができて良かったと思います。これも日村先生の温厚で優しい人がらのおかげと感謝しました。

上記の方々のみならず、かつてお世話になったレジデントの先輩、同輩、後輩の皆さんや、看護師さんらと久しぶりに歓談でき、心は30年前にタイムスリップしてエネルギーを頂いたように思います。

このような素晴らしい会を開いて下さった関係の皆様、いつも力を与えて下さるレジデント関係の皆様、ありがとうございました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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天理よろづ相談所病院 ――医師の基盤を与えて戴いた

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天理よろづ相談所病院(以下、天理病院)は奈良県天理市にある基幹総合病院である。

詳しくはそのHPをご参照戴きたいがここではそこで6年あまり研修・修練させていただいた者としての観点および一人の奈良県民の視点から述べてみたい。

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天理病院は奈良県民にとってはいわば憧れの病院であり、奈良県生まれの著者も医学生になる前から将来は天理病院で勉強してみたいと思っていた。

診療所の時代まで含めれば長い歴史のある病院だが、現在の基幹病院としての態勢と規模は1960年代に出来上がった。

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当時としては循環器内科や呼吸器内科をはじめ臓器別内科を持つ高度な病院で、奈良県民の間では東洋一天理病院の本体部分。ユニークな形をしていますという誇らしい評判をよく聞いた。

心臓血管外科もまた同様で、ヘリで重症患者さんを遠方から搬送し手術するという、当時としては離れ業をやって世間の評価は一段と上がった。

当時から天理病院から全国の大学の教授になっていく方は多く、それも病院の信頼を一層高めていたと言われる。

同時に天理病院は「憩いの家」の愛称が示すように、宗教の良さを活かした全人医療が行われていたのも先進的であった。

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当時著者が感心したのは病院内の空気が他宗教に対して極めて寛大で、それどころか他宗教の患者さんがさみしい思いをしないように気遣ってさえいたことである。

患者中心というのは多くの公的病院でもお題目のように語られるキーワードだが、実際には勤労者中心つまり患者は二の次というのが実態である病院が少なくない。

天理病院はその点でも看板に偽りなしであった。

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天理病院がさらなる飛躍を遂げたのは1970年代にレジデント制度(研修医制度)が誕生してからと思われる。

卒後1-2年のジュニアレジデント研修(初期研修)では、今中孝信先生という熱い指導者のもとで甲子園球児のような心構えで毎日朝から(翌)朝まで努力していたような印象がある。

これが現在の我が国の初期研修の魁となったと言われる。

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天理病院のレジデント研修では情熱と自分の足腰を駆使して様々な部門を走りまわればどんな複雑な疾患や問題を持つ患者でも最良の方策が見出せるという、患者を軸に据えた問題解決の経験を積めたことが大きな収穫だった。

その一方、それほど悪くなくとも怒られるという我慢教育は少々辛かったが、今思えば重要なことを教えて頂いたと納得できる。

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褒めるだけでは若い先生方への参考にならないと思われるため、自分の視点から天理病院の研修制度の弱点をあえて記載すれば、それは初期研修の2年間は技術習得がやや遅いということであろうか。

ただ初期研修は目先のテクニックを学ぶことよりも医師としての基本姿勢を学ぶことの方がはるかに重要であるし、技術習得環境もその後改善されているのかもしれない。

また個人の努力でかなりカバーできるところは当時からあった。

要は心構えと努力の継続、そしてそれを容易ならしめる人間関係(広義の問題解決能力)ということかもしれない。

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当時、大変お世話になった院長の柏原貞夫先生は、いつも叱咤激励をして下さり、感謝に絶えなかった。ある日、酒の席でこう言われて私は倒れそうになった。「天理には飲む場所がない、飲む時間もない、そもそも飲む必要がない」。若い間はこれぐらい本気で修練するのが良いのだと感心した。

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シニアレジデント研修(後期研修)では心臓血管外科専門のコースを進み、多くを学ばせて頂いた。

ジュニア・シニアレジデント時代を通じてもっとも感心したのは、そこにいる先輩・同輩・後輩とも、誰にも頼らず自分の腕で立派に生きているプロ根性にあふれた臨床医の集まりであったことである。

後年、結果的に大勢の人たちが時代の要請に応える形で大学教授に栄転して行ったのが自然なことのように感じられる。

制度の良さもさることながら、そこでの出会いがその後の人生に大きな意味を持ったと思われる。

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現在の天理よろづ相談所病院も活発と聞くが、その内部の空気を著者は知らない。

当時の熱さが息づいていれば幸いである。

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福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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