最終更新日 2025年9月12日
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⬛️ デュアル形成とは?
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**デュアル形成術(Dual Reconstruction Surgery)**とは、私たちが開発した
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乳頭筋最適化術(PHO:Papillary Head Optimization)
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心尖部凍結型左室形成術(Frozen-Apex SVR)
を同時に行う新しい外科手術です。
従来、左室拡大が高度(直径 65mmを大きく超える)症例では弁形成が困難とされ、人工弁置換が選択されることが多くありました。しかし、デュアル形成術では左室直径80〜90mmを超える重症例でも弁形成が可能となり、多くの患者さんが人工弁を使わず心機能を温存しています。
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⬛️ なぜ心臓が良くなるのか?
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デュアル形成術は「弁」だけでなく「左室本体」を同時に整える点に特徴があります。
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僧帽弁逆流の改善
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左室の歪みにより弁が引っ張られて生じる「機能性僧帽弁閉鎖不全」を根本から改善。
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心機能の回復(弁―心室連関の改善)
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乳頭筋を前方へ吊り上げることで左室収縮力が強化。
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心尖部形成により弁―左室―心尖部の連携が回復。
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肺うっ血の軽減・運動耐容能の改善
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左室拡張末期圧が下がり、息切れが軽くなります。
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致死性不整脈の減少
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手術前に不整脈が多発していた患者さんの約8割で術後消失。
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左室圧負荷の軽減と筋肉状態の改善が背景と考えられます。
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⬛️ Mクリップ(カテーテル治療)との違い
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MitraClip(Mクリップ)は弁尖をクリップで寄せる治療で、弁逆流を軽減しますが左室の形や機能を直接改善するものではありません。
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大規模試験(MITRA-FRなど)でも、左室拡大が強い症例では効果が限定的と報告されています。
- 僧帽弁後尖がゆがんでいるケース(テザリング角度が45度以上)では効果が出にくい
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一方、デュアル形成術は弁と左室の両方を再建できるため、大きな左室や重症心不全や後尖テザリング高度なケースでも改善が期待できます。
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⬛️ 従来の手術との違い
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手術時間の短縮:従来のドール手術やセーブ手術に比べ、心停止時間が短く患者負担が軽減。
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乳頭筋と左室のより自然な位置関係を回復できる。
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左室のねじれ運動が再び生じやすく、心機能が効率的に働く。
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⬛️ どんな時に効果が大きい?
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高度の機能性僧帽弁閉鎖不全症
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拡張型心筋症(特に虚血性)
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心尖部に梗塞瘤や拡張を伴う症例
これらでは、術後の改善度が大きく、「看取り」とされていた方が社会復帰する例も少なくありません。
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⬛️ 限界と注意点
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後尖が硬化・短縮している場合は、後尖拡大術を併用する必要があります。
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**左室が極度に拡大(拡張末期径85mm以上)**している場合は改善度に限界があります。
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ただし、それでも「補助循環(VAD)までの時間を延ばす(bridge to VAD)」効果は期待できます。
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⬛️ 今後の展開
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Mクリップで十分な改善が得られなかった患者さんへの救済治療として有効性が期待されています。
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若年者や活動性の高い高齢者においても、人工弁を避けつつ心機能を維持できる治療として応用が広がっています。
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これまで「不治」とされていた患者さんの社会復帰例が増えており、今後さらに治療選択肢として普及が進むと考えられます。→→心移植を検討中の方々へ
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⬛️ まとめ
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デュアル形成術は PHO(乳頭筋最適化術)+Frozen-Apex SVR(心尖部凍結型左室形成術) の組み合わせ。
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重症機能性僧帽弁閉鎖不全症・拡張型心筋症でも弁形成を可能にする革新的手術です。
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弁と左室を同時に再建することで、心機能回復・不整脈抑制・社会復帰につながります。
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「看取り」や「移植待機」と言われた方でも新たな可能性があります。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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