MICS冠動脈バイパス術(MICS-CABG)

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心臓外科領域では最近このMICS-CABGが話題です。要するに胸骨を切らず、小さい傷跡でできる冠動脈バイパス術です。

これは弁膜症とくに僧帽弁閉鎖不全症などに対するMICS手術がある程度の広がりを見せていることに触発されての流れのようです。

人間だれしも傷跡が小さい方がうれしいというのはごく自然なことです。

 

このMICS-CABGのさきがけはMIDCAB手術でした。

1996年ごろ、日本にも紹介され、一時関心を集めたものです。

ただこのMIDCAB手術は通常、左内胸動脈LITAを左前下降枝LADに付ける、一本バイパスであるため、あまり普及しませんでした。

 

その後バイパスが必要な冠動脈でまずまずのサイズと性状のものならどれにでも付けられる正中大切開でのオフポンプバイパス手術・OPCABが隆盛となり現在に至ります。

このためMIDCABは中途半端な手術という印象をもたれ、すたれてしまったようです。

しかしその良さは一部専門家の間では一貫して評価されていました。

 

たとえばカテーテルによる冠動脈形成術PCIとハイブリッドで使えば外科と内科の良い面を併せた治療になるなどの形で生き残って来ました。

 

これが近年オタワのRuel先生やカナダ・ロンドンのKiaii先生らの発表に触発されて多枝バイパスできる左小開胸の冠動脈バイパス手術として展開を始めたのです。リバイバルというよりリノベーションでしょうか。

その背景には内視鏡手術の進歩に支えられたより便利な手術器械の出現や、冠動脈バイパスへの慣れ、そして必要ならPCIの追加などもできて安全面が確保されやすいなどの状況がありました。

ただしMICS-CABGをやるにあたって大切なことがいくつかあると思います

 

1.バイパス手術としての質を落としてはならない。つまり良好な長期成績とくにグラフト開存率を維持しなければならない。このためなるべく動脈グラフトとくに内胸動脈を多用したい。

2.全身の動脈硬化が進んだ患者さんが多いため、脳梗塞を合併させないようにする必要がある。

3.患者さんの苦痛の軽減、早いICU退室や退院、そして早い仕事復帰ができてこそ価値がある

4.もちろん手術死亡率を上げてはならない

 

こうした条件を満たすのであれば体外循環の使用は大きな問題ではないとする考え方もあり、うまく使えば過渡期としては良い方策かもしれません。しかし脳梗塞その他の合併症を減らすという観点からできればオフポンプが望ましいとは言えましょう。ただ安全のためには熟練度の高さが求められ、たとえばOPCABを何とかこなせると言った程度の実力ではMICS-CABGは難しいでしょう。

 

海外のこれまでの報告では右内胸動脈が使いづらいため上行大動脈を部分遮断して静脈グラフトを付けるケースも多いようですが、これは1.や2.から見てやや不利という印象です。術前にしっかり状態を評価して脳梗塞を起こさないという確信のもとにやるというのは許容されるように思えます。

 

右内胸動脈が使えればこうした問題はかなり解決へ向かうということで、海外ではまずダビンチロボットをもちいて左小開胸から右胸にまでロボットのアームを伸ばして内胸動脈を剥離するという解決策が示されました。しかし誰もが比較的安価に医療を受けられるという日本の医療事情を考えると、ロボットに高額のお金を支払わねばならないという医療はなじみにくいものがあります。

 

そこで従来のMICSの器械や方法を駆使して右内胸動脈を採る方法がいくつかの施設で研究されています。

 

私たちも以前から必要のある患者さんにはこのMICSバイパスに準じた左開胸アプローチでの手術を行って来ました。たとえばエホバの証人の信者さんでしかも出血しやすい再手術例ですね、こちらをご覧ください。患者さんはすっかりお元気になられました。

 

あるいは前回のバイパス手MICS-CABG後術での動脈グラフトが2本とも開存しており、うち一本が胃大網動脈GEAで、目的血管は回旋枝であるという状況で左開胸のMICS-CABGに準じた方法で虚血を解消しました。術後のCTを右図に示します。

このようにして実績を積み上げています。

 

私たちは僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、心房細動に対するメイズ手術、心臓腫瘍、さらに収縮性心膜炎まで小さい開胸のMICSで手術している数少ないチームですので、バイパス手術にも自然と力が入ります。

 

ともあれ、これから小さい傷跡で苦痛も少なく、早い仕事復帰を果せて、それでいてクオリティはこれまでのものと同じというMICS-CABGがより完成度を上げ、実現できればと思います。

 

Heart_dRR

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