最終更新日 2022年2月4日
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◾️まずミックスの目的は
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ミックスつまり傷跡の小さい、骨も切らない心臓手術が増えつつあります。
ミックスの目的はいくつかあります。
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(1)何と言っても傷跡が見えにくい、目立たない、つまり美容効果が目的の一つです。これは若い患者さんでは特に顕著です。
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実際、夏にビーチやTシャツなどを気兼ねなく楽しめるというのは大きな事です。若者でなくても、傷跡が目立たなければ、例えばゴルフの後やグループ旅行などで一緒にお風呂を楽しむ時に、あれこれ聞かれずにすむ、などの利点は意外に大きいのです。
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(2)美容と同じぐらい大きな目的は、早い社会復帰、仕事復帰、学生さんなら学校復帰です。特に責任ある仕事を任されている場合などは少しでも早く復帰して仲間の負担を減らしたいと考えるのは当然です。ミックスで多くの場合骨(胸骨)を切らないことが、この社会復帰を促進します。
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(3)社会復帰に近いほど重要なのはクルマの運転復帰です。仕事でクルマを使う方の場合、その必要性は言うまでもありませんが、仕事以外でも、例えば地方在住の方では生活のためにクルマが必須ということはよくあります。
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通常、胸骨を切開すると治るのに3-6ヶ月かかり、その間、運転は制限されます。ミックスはこのクルマ運転復帰でも患者さんに大変喜ばれています。
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◾️ミックスができない時でも、切り札あり
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しかし病気や手術内容によっては、安全上の理由でミックスができないことがあります。たとえば大動脈の硬化が強いとか、大動脈瘤があり血栓があるなどの場合です。あるいは複雑な手術とか、肺に病気があるとか、ミックスが不利なことが少なからずあります。私たちのように、複雑な僧帽弁形成術でも大動脈弁形成術でも積極的にミックスで行なっているチームといえども、安全のためミックスを避けて胸骨正中切開での手術を行うことはあります。(右図の赤い線で囲ったところが胸骨です)
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そうした胸骨正中切開の場合でも早い社会復帰、仕事復帰、そしてクルマ復帰をと努力して参りました。
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この5年間、胸骨の安定度を高める特別な閉鎖法で胸を閉じて来ました。これは巷にある胸骨ピンやプレートなどの方法とは一味も二味も違う、力学的に優れた方法です。
胸骨の安定度が良くなると、少し運動や力を入れたぐらいでは胸骨は揺らがず、痛みも感じないのです。治りも早くなります。
その結果、手術の翌日から両腕を高く上げるバンザイ運動ができ、手術直後から上半身の運動もでき、うっとうしい胸帯が不要で、退院後まもなく、社会復帰やクルマ運転を実現できている方がほとんどなのです。
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◾️加えて、もう一工夫
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強固でかつ安定度の良い胸骨閉鎖に加えて、私は特別な皮膚の切開法を用いています。アメリカで開発された方法ですが、電気メスをほとんど使わないのです。出血点をピンポイントで電気メス止血します。それによって傷は火傷を負わず、組織は生き生きとして良く治ります。私はこの方法を20年間、一貫して使って来ましたが、縦隔炎などの感染合併症はほとんどありません。前任地・医誠会病院での4年でも胸の傷の感染は一例もありませんでした。
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これら2つの方法を併せ用いるため、早期の社会復帰、クルマ復帰ができているものと思います。ミックスとは一味違う、しかしミックスを支援する方法になると考えています。今後さらに工夫と改良を加えて行きたく思います。
医学的理由でミックスができないと言われた方や、正中切開が必要と言われた方でも、少ない痛みや、早い仕事復帰や早いクルマ復帰が可能なのです。諦めずにご相談ください。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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